TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『お前も家族にならないか?』

 

 

 訝し気に丼を覗き込むアシミレイターをよそに、私は自分の分のカツ丼をテーブルに置いた。

 

 器の蓋を取ると、中からむわあ、と白い蒸気が立ち昇る。

 

「いただきまーす」

 

 さて、カツ丼だが、実はどの状態が美味しいか、は諸説あると思われる。

 

 ダシがしっかりしみ込んだ染み染みのカツ丼、まだ衣のサクサク感が残っているザクザクのカツ丼。どちらにも違った美味しさがある。

 

 染み染みは、じゅわあ、と衣から染み出すダシのうまさが肉と絡み合って天下無双だが、いっぽうでせっかくの衣の食感が損なわれているという事実は無視できない。一方、カラッと揚がったサクサクのカツ丼は、しかしダシや卵がまだ馴染んでいない為、カツ丼ではなくカツと卵とじ丼を一緒に食べているだけ、という見方も出来てしまう。難しいところだ。

 

 なので。

 

 今回はちょっとズルをした。

 

 具体的にいうと、揚げたてサクサクの状態の衣だけ、脳波動でコーティングした。これによってダシは衣をしなしなにする事なくカツ丼全体に染み渡り、口にするとサクサクの衣でありながら奥からじゅわわっ! とダシが染み出してくるという塩梅である。

 

 古今東西、これだけ繊細な脳波動のコントロールが出来る人間は他にいまい。

 

 これこそ私だけのスペシャルカツ丼! さあて、そのお味は?

 

 ざくざくっ、じゅわわー!

 

「おいしーい!」

 

『ピピルピィー!』

 

「そうかそうか、美味しいか、アース。ほらほら、もっとお食べ~」

 

 がつがつと行儀悪く丼に顔を突っ込んで貪っているアース、普段であればちょっと窘める所だが、これだけ美味しそうに食べてくれるならそれでいっかあ、という気になってくる。

 

 ふははは美味いかそうだろうふははははは。

 

 一しきり調子にのってご機嫌に笑っていると、私はどうにもアシミレイターの箸が進んでいない様子に気が付いた。

 

「……どうした? こういうのは、好きじゃなかったか?」

 

「! あ、いえ、そんな事はありません。それでは、ありがたく……」

 

 私の問いかけに慌てて首を振ると、彼はしばし躊躇ってから仮面を外すと、恐る恐る箸でカツ丼を丁寧に食べ始めた。

 

 見た目は人体模型が夜食を食べてるみたいだ。ちょっと面白い。

 

 あと意外にも箸の使い方が上手だ。え、もしかしてこれも私を逆解析した結果? どんだけ情報ぶっこぬかれてるの?? 今度からちょっとエルダー絡みの遺産に触れるときは気を付けよう……。

 

「どうだ? 美味いか?」

 

「その……申し訳ありません。我々には味覚が無い訳ではないのですが、是非を判断するだけのデータが無く……」

 

「そうか? でも有機体である以上は普段、なんか経口摂取してるでしょ。でなきゃ、そんな歯とか必要ない訳だし。普段食べてるものと比べてどうよ? あ、でもお前さん製造されたばかりだから、何か食べた事もないんだったっけ」

 

 しまった、こいつも食育から始めないといけない口だったか。

 

 しかし私の懸念に、アシミレイターは小さく首を横に振って否定した。

 

「いえ、アシミレイターとしての基本的活動要綱については入力されていますので。ですが、我々が普段消費しているものは、無味無臭のカロリーブロックのようなものでして……。このように、香りや味があるものを食する事は無く……」

 

「なにそれ。何が楽しくてそんなもん食べてるのさ」

 

「楽しいというか……我々はあくまでツールですので。食事は、機械に対する燃料補給や油差しのようなものです。時間をかけたり、ましてやそれを行動理由にしては本末転倒といいますか」

 

 そりゃ確かにそうだけどさ。

 

 一応人格らしきものもあって、味覚もあって、それで食べるのがそんなもんってどうなのよ。

 

 普通に虐待じゃないの? エルダーの印象、ここまでよかったのにちょっと悪くなっちゃうぞ。

 

「ああ、でも、その。……悪くはないと思います」

 

「え、そう?」

 

「はい。悪くはない……いえ、そうですね。この認識を、美味しい、というのではないでしょうか。味覚に快いと思います、食べ進める事に抵抗はありません。本来消費すべきカロリーブロックに比べれば、消費意欲が30000%ほど促進されます」

 

 なんだー、ちゃんと美味しいんじゃん。それはともかく300倍ってどうなのよそれ。もしかして比較対象が無いから気にしてないだけで普段からカロリーブロックとやらを激マズだと思ってたんじゃない、それ?

 

「……そうかもしれません。少なくとも、これを食べたあとに、従来のカロリーブロックを提供された時の事を考えると、うっ、気分が……」

 

「お、おお。よしよし。落ち着け、ここに居る限り、変なもんださせないから安心しろ。な?」

 

「感謝します……」

 

 おいおい、エルダーさんよ。ちゃんと味覚のある存在に何食べさせてんだ……。

 

 流石にちょっと哀れに思えてきた。ああいや、もしかすると、これがエルダーの狙いか? このありさま見たら、アシミレイターの事をツールだなんて割り切れないだろ、心ある存在なら。普通に美味いもん食わせてやりたくなってくるはずだ。

 

 ……まああのクソッタレ侵略宇宙人どもはそうは思わないんだろうが。

 

 とりあえず、箸が止まっていたのはあくまで動揺によるもので、食べ始めるとあっという間にカツ丼の丼は空になった。丁寧に食べてんのにクソ食べるの早かったな、おもしろ。今度録画してじっくり見て見よう。

 

「はい、ごちそうさまでした。あ、これ地球由来の挨拶ね」

 

「ごちそうさまでした」

 

『ぴぃーるぴー!!』

 

 はい、アースもご馳走様でした。

 

 器を重ねてお盆に戻す。と、そこで私は、何か言いたげにアシミレイターがじっと私を見つめている事にあらためて触れる事にした。

 

「それで、さっきの話に戻ろうか。どうしてよくしてくれるのか、って?」

 

「……はい。映像を拝見して、確認しました。かつて地球を襲撃し、人類軍にフォースエイリアン、と呼ばれていた存在……あれは、強硬外交ユニットを装備した、我々アシミレイターに違いありません。アシミレイターは自らを起動させたものに逆らう事ができないように作られています。起動には極めて強い脳波動が必要であり、恐らく、侵略宇宙人の神と呼ばれる存在が我々を起動し、侵略の手先として運用していたのだと思われます」

 

 お、そうなのか。となると、ファッキンゴッド野郎も脳波動が使えるのか……道理だな。チルドレンの原型になった神獣兵がそもそも脳波動ネットワークでつながった情報生命体だったんだ、同じようにエルダーが作り出した被造物である後継者どもが脳波動を使えるのは当然か。あ、いや、でもナチュラリストの皆さんは、脳波動を知ってはいるが殆ど使えなかったような気がする。使用できても、私からすればそよ風みたいなレベルのはずだ、でなければ初対面の時にあんなことになってない。

 

 となると、想定しているレベルがかなり低いのか? でもクローン設備を起動させたときは結構出力が必要……正規の方法じゃないからかな。

 

 頭の片隅で色々考えながら頷いている間にも、アシミレイターの懺悔は続く。

 

「我々アシミレイターが、地球の、宇宙のあまたの知性体を脅かしたのは事実です。ましてや、貴方は侵略当時の生き残り……もっと直接的に被害を受けた御方のはずです。憎くはないのですか? 恨めしくはないのですか? どうして、私のような存在に、そのように気を使ってくださるのですか?」

 

「んー。私にとってはごく当たり前の考えだけど、まあ、君には理解が難しいかー。なんていうのかなー」

 

 私は首を捻り、どうやったらこの生真面目な存在を納得させられるのか、言葉を選んだ。

 

「まずな。君が、知性体ではなく、有機ロボットの類であり、責任能力がない、という前提で話をすると。確かに侵略宇宙人どもは君達というナイフで地球をめった刺しにしたが、それはあくまで侵略宇宙人の意思で行われた事であって、それに使われた道具を恨むのは筋違い、という訳だ。私が心の底から憎んで鏖にしてやりたいと思ってるのは侵略宇宙人達であって、君らじゃない」

 

「しかし。それは今、発覚した事実です。それまでは、同じようにフォースエイリアンを貴方も憎んでいたはず。その憎しみは、悲しみは、どこにいったのですか。我々は理解しています、知性体の感情は、水のようにどこかへ消えはしない。負の感情は、正の感情よりも強く、残り続けます」

 

「そりゃな。人は恩は忘れるが恨みは忘れない。……が、そればかりでもないさ。少なくとも私は、あのディスペア災害の只中で、フォースエイリアンが協力してくれたことを今も忘れていない」

 

 私の言葉に、仮面の向こうでアシミレイターが目をぱちくりさせた。

 

「……協力? 兵器として使われていた私達が? 貴方達に?」

 

「あ、そこ情報提供されてないのか? 全くもう……そうだよ。地球全土がディスペアに覆われるかどうか、って所で、フォースエイリアンの方から助力してくれた」

 

 あの時彼らは、このままでは地球を食らいつくしたディスペアが、神獣兵由来の惑星間航行能力によって宇宙に広がり、取り返しのつかない災厄になる前に滅ぼさなければならない、その為に地球人類の協力が必要だ、といった。

 

 だが、本当にそれだけならまだ他にも手はあったはずだ。

 

 後から知った侵略宇宙人の規模であれば、ディスペア災害を確認してから増援を呼び寄せてもまだ間に合ったはずだし、最悪地球ごと消し飛ばせばよかっただけの話だ。いくらディスペア中枢が時空間を操るといっても、何十隻という宇宙船から犠牲を顧みずにプラネットデストラクターを撃たれたら防ぎきれない。

 

 それをしなかったのは、彼らが人類を救いたいと考えたから、そう考えるのは夢想にすぎるだろうか。

 

 絶対服従を強いられる中、それでも本来のアシミレイターとしての役割を忘れる事が出来なかった彼らの、ほんの細やかな神への抵抗が、あの救援だったのではないのか。

 

「私は、少なくともそう考えている。であるならば、君に恨みなんて抱こうはずもない」

 

「……しかし……ですが……その……」

 

 アシミレイターは視線を彷徨わせ、重なった丼に目を向けた。

 

「私は……知性体ではありません。物です。家畜と同じ……今頂いた肉が、食べる為に育てた家畜から得たように……目的の為に培養された有機物にすぎません。いえ、それ以下です。私達は、もはや目的すら、見失われた……」

 

「そうは思わないがなー。なあ、アシミレイター。なんだったら今からでも、ウチの子にならない?」

 

『ピリルッ!?』

 

 弾かれたようにアースがこっちを向くが、私はよしよしとその頭を撫でてやった。そういう意味じゃないって。

 

「目的なら私が与えてやるよ。いやさ、どうにも宇宙連合の皆さん、私に対して気を使いすぎというか色々と気まずいみたいでさー。間に立って折衝してくれる人がいると助かるんだよ、マジで。お前達アシミレイターってそういう作業の為に生み出されたんだろ? 天職じゃん」

 

「え、あ、いや? それは、その? 確かにそうですが……」

 

「大体、お前さんが出てきたプラント、宇宙に不法投棄されてた訳だしさ。概ね、あの時連れ帰った生き残りの害悪クソ侵略宇宙人が責任逃れにフォースエイリアンを悪く言ったか、人類との共同戦線を叛逆とみなしたか。何にせよミジンコの額より小さな器しかもたね-奴らが腹いせにお前さんを捨てて、それを私が拾った。つまり君はもう、侵略宇宙人の物じゃなくて私の物な訳。知ってる? 地球だと、遺失物の所有権を主張するにも期限があるらしいよ。200年も経ってりゃ無効だ、無効」

 

 手をひらひらさせて所有権を主張する。

 

 アシミレイターはじっと仮面の向こうから私を見つめていたが、心なしか、その雰囲気が柔らかくなったように感じるのは気のせいではないだろう。

 

「貴方の……物……。我々が……それは、光栄と申しますか……」

 

「お、乗り気? じゃあそうだな、早速艦長達に掛け合ってみよう。あ、それより先に名前だ名前。識別コードなんて私がいつか舌を噛む、呼びやすい名前決めよう。それがいい、それがいい。アース、なんか腹案ある? ある意味お前の弟だぞ、気に入った名前はあるか?」

 

『ピリルゥ!?』

 

 ずっと「えー、ママ本気ぃ……?」と不満そうだったアースだが、『弟』という言葉に一転して機嫌を直す。もともとこの子はディスペア中枢でチルドレンとは別口だったのを、私がかっさらって養子縁組した訳だからな。そういう意味ではアシミレイターと似たような経緯である。多分。

 

「い、いえ、弟だなどと……私はあくまでツールですので……」

 

「いいからいいから、こういうのは雰囲気でいいんだよ。アースだって乗り気になったじゃん、細かい所は気にしない気にしなーい」

 

「は、はあ……」

 

 全く堅苦しいんだからー。まあそういう所がこいつらのいい所なんだろうな、マスターもそういう感じだったし。あ、そうだ、いつまでも人体模型に殺人鬼のコスプレさせておくわけにはいかないから、ちゃんとした装備用意してやらないと。確か、整備部の方で人類用の強化パワードスーツの試作型があったって話だな。体格は……まあ、普通の人間よりちょいとデカイが許容範囲だろう(無茶苦茶言わないでください:整備班談)。

 

『ピピ、ピリルルルゥ、ピルル』

 

「え……おちゃのこさいさい丸? どういうネーミングセンスだそれ……え、全宇宙番組のアニメの主人公? 最近のセンスはよくわからんな……もうちょっと別のにして、流石にアニメの主人公の名前はなあ」

 

『ピリルー。ピル……』

 

 うーんうーん、と頭を抱えて思い悩むアース。なんか微笑ましい。この子にとっては、侵略宇宙人の大艦隊を蹴散らすよりも、名前を考える方が難易度が高いようだ。

 

 無限に近い演算能力があってもこういうのはまた話が違うからな。この子の良い情操教育にもなりそうだ。ママというのは大変である。

 

「ま、ゆっくり考えなー」

 

 

 

 その日の夜、私は夢を見た。

 

 マザーツリーを経由して繋がった、ディノゾーアとフレンド達。

 

 彼らは現実に限りなく近い夢の中で、思い思いの一時を過ごしていた。

 

 本来ならば融合している筈の両者、だけどこの夢の中ではフレンドを肩に乗せて一緒に本を読んでいたり、レストランのメニューを相談して決めていたり、どんな布で飾ろうかをお店の前で話し合っていたり。

 

 夢は夢、ここで起きた事が現実に影響を直接及ぼす訳ではないが……少なくとも、語り合うディノゾーアとフレンドの間には笑顔があった。

 

「よしよし」

 

 その様子を、私は星の外から、オペラグラスで覗き込んでいた。

 

 勿論、イメージである。これが現実だったら私は星ぐらいのサイズがある巨大宇宙人である、それなら直接侵略宇宙人をボコりにいく。

 

 平和な一時を垣間見ながら、私は向かいで同じように星を覗き込んでいる存在に声をかけた。

 

「どうかな? ヨーグ」

 

『ええ。とても、素晴らしい光景です』

 

 そこには一匹の、大きなダニのような生き物が、目をキラキラと潤ませながら星を見つめていた。

 

 ヨーグ。

 

 本来、脳波動ネットワークには介入できない別種の知性構造を持った彼らではあるが、そこはそれ、餅は餅屋。今の私ならそう難しい話ではない。

 

 彼らはじっと、幸せそうに過ごす子供たちを見つめている。その心は、私には伺いしれない。

 

 もし、私に彼らを救う力があれば、あそこで笑い合っていたのはフレンドではなくヨーグだったかもしれない。だけど残念ながら、既に体組織を破壊されつくし、死を待つのみの彼らヨーグの実体を救う事は、私にも出来ない。

 

 出来るのは、せめて、彼らの心が最後まで穏やかであるよう、務める事だけだ。

 

 私は手にしていたオペラグラスをそっと彼らの手に握らせてやる。

 

「心行くまで見るといい。貴方達が愛した子供たちの営みを」

 

『……ありがとう、深き慈愛の主よ』

 

「よせやい、照れる」

 

 誤魔化すように笑って、私は少しだけ、その場を離れる。

 

 無限に広がる宇宙空間。ヨーグは飽きもせず、赤茶けた惑星ガロアを宝物のように抱いて、じっと星の上で営むディノゾーアとフレンドを見つめ続けている。

 

 きっと、終わりの日が来る、その時まで。

 

「どうぞごゆっくり」

 

 私はにじみ出てくる涙を拭って、ヨーグに背を向けて現実空間に戻っていった。

 

 

 

 どうか。

 

 どうか彼らの心に、安らぎのあらん事を。

 

 私はただ、それだけを願うのだった。

 

 

 

◆◆

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