TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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特別編:三大厄災

 フレンドとの共存による、大きく繁栄する宇宙連合。

 

 しかし、すべての知性体がフレンドとの、マザーツリーとの共存を受け入れたわけではない。

 

 古くは地球に存在した反共生主義のように。

 

 己が意見を絶対とし他者を武力で押さえつけようとしたその思想は、最終的に多大な反感を買った事で今現在はほぼ滅びたに等しい状態ではあるが、逆に言えば消極的な不信、疑惑、疑念。そういった考えは消える事なく存在し、また宇宙連合も敢えてそれを押さえつけようとはしなかった。

 

 選択はあくまでも個人の自由。

 

 その自由の名において、個人の責任を背負い生きる者達が、この宇宙にいる。

 

 彼らを人は、ヴォイドレイダーと呼んでいた。

 

 

 

「ビッグママが帰還したあ?」

 

 海賊船“ブラッドコルセア”のブリッジで、実働部隊の頭目たるレッドは訝し気な声を上げた。片目を眼帯型のバイザーで覆い、首からじゃらじゃらと戦利品を繋げたネックレスをぶら下げた彼は、ざんばら頭をくしくしと指ですきながら背後の艦長席に振り返った。

 

「なんだ、宇宙連合の連中、とうとうフレンド成分にラリっちまったか?」

 

「それがどうも、本気の話らしい。超空間通信はその話題でいっぱいだ」

 

「おいおいおい、多数派が薬中になっちまったら俺達マイノリティはどうすればいいんだよ」

 

 禿げ頭で肉体の大半を機械化した戦闘用サイボーグのような見た目をした艦長の言葉に、レッドは呆れてものも言えない、といった様子で肩を竦める。

 

「いやさ、俺だってビッグママが存在しない、とまでは言わねーが、何百年も前の人物だぜ。帰還も何も、とっくに自我の有効期限は過ぎてんだろ」

 

「だが、映像もあるし、宇宙連合はそのつもりで動いているようだが」

 

「んなもん合成でいくらでも何ともできる、プロパガンダの一種だろ」

 

 レッドは艦長の言葉にまともに取り合わず、ブリッジの自分の席に戻るとどっかとコンソールに足を投げ出して座り込んだ。

 

「いくらなんでも出来すぎだろ、宇宙連合30周年の式典で復活とか。だいたい、マザーツリーやフレンドを生み出したとはいっても、元々はトチ狂った人体実験の被害者だろ? 記録を見るにもともと頭がおかしくなってたみたいだし、そんな狂人を崇め奉ってどうすんだよ」

 

「そうか? 人類の恩人ではあると思うが」

 

「一人殺したら殺人で、100人殺したら英雄だ。だったら、数億殺してのければ神にだってなれるだろうよ」

 

 レッドはあくまでも、ビッグママに対して懐疑的なようだ。艦長も、そんなレッドの言動を窘めようとは思っていないらしい。他のブリッジ要員も同じだ。

 

 この船に、フレンドはいない。ここにいる人間は皆、マザーツリーの恩恵から逸れてしまった者達だ。

 

 地球であれば、そこから飛び立った船であれば、それらと繋がりが途切れる事はない。

 

 しかし、例外がない訳ではない。何かしらの理由でその恩恵から距離を置く者達はいる。例えば、やむを得ない何かしらの理由で、フレンドと共に出奔したもの。事故で母船とマザーツリーから切り離され、長期にわたって宇宙を漂流した遭難者。侵略宇宙人の攻撃によって母船を失い、母樹無き流浪の旅を強いられた難民達。

 

 彼らの多くは、基本的には元の宇宙連合の社会に復帰する。だがマザーツリーと接触できずに生まれた次世代は当然フレンドと生まれながらに生活する事はなく、その中にはフレンドという“異形の生物”との共存に違和感を覚える者も出てくる。そういった、元の集団に戻れなくなったアウトサイダーが集まり、独自のコミュニティを形成する。それもまた、人権を保障された世界においてはあり得る事であり、許される事であった。

 

 ただ、勘違いしてはいけない事は、あくまでフレンドとの共存社会に馴染めない、というだけであり、彼らは犯罪者ではない。彼らもまた人類同胞であり、また侵略宇宙人を心の底から憎む者である。

 

 どのような立場であっても、尋常の知性体と侵略宇宙人が取引をする事はない。善も悪もない、宇宙におけるただの害悪、災害にすぎないというのが、彼ら自身を除く宇宙知性体の侵略宇宙人への最終結論である。

 

 戦う以外に道はない。

 

 よって彼らの多くは宇宙連合から距離を取り、独自に侵略宇宙人と戦う私掠船……すなわち宇宙海賊として、独自に戦いを繰り広げているのだ。

 

「それより、クソバカどもの輸送船を確認したって話は本当か?」

 

「ああ。連中の有機物運搬船を確認した。少々小さい船のようだが……我々からすればうってつけだ。護衛も大したことはない」

 

「うっし。これでまた半年は食いつないでいけるな。おい、お前ら! 仕事の時間だ、準備に取り掛かれ!」

 

 

 

◆◆

 

 ヴォイドレイダーの一行が獲物として狙いを定めたのは、侵略宇宙人の輸送船だ。

 

 周囲に護衛の姿は無い、船も自動で航行している。

 

 無防備だが、連中の場合よくある事だ。制圧した惑星を繋ぐ、侵略宇宙人の流通経路。その広さは宇宙連合のそれとはくらべものにならないほど広く、いくら連中でもオートメーション化しなければ成り立たない。逆に言えば、その一つや二つ、襲撃された所で損害は軽く気にする事もない、という事なのだろう。

 

 巨大な帝国故の傲慢さだが、残念ながらそれは今の所、つけいる隙にはなっていない。仮に宇宙連合が本気になって流通網の遮断作戦を行っても、侵略宇宙人の勢力には大きな影響を与えられず先に自分達が息切れしてしまうはずだ。それだけ、彼我には大きな国力の差とでもいうべきものがある。

 

 が、小規模な勢力から見れば、手ごろな獲物である事には間違いない。

 

「こちらで露払いを行う」

 

「了解しました」

 

「ご武運を!」

 

 個人用の宙間戦闘機に乗り込むレッドに、顔見知りの仲間達が声援を送る。それに指を振ってこたえながら、レッドは速やかに愛機を出撃した。遠ざかる母艦から、同じように飛び立つ無数の機影を確認し、レッドは一番槍は譲らない、と加速した。

 

 向かう先には、暗黒の宇宙空間をゆっくりと侵攻するクジラのような巨艦の姿。レッド達の接近を感知したのか、そのシルエットからいくつもの戦闘用ドローンが飛び立つ光が見え、さらには対空砲が周囲に向けて撒き散らされる。

 

 対空砲の光をかいくぐるように機を巡らせて接近したレッドは、ロックオンサイトにドローンの姿を捕らえると操縦桿のスイッチを押した。対空レーザーが照射され、敵のドローンを撃墜する。

 

 たちまちのうちに3つのドローンを撃墜したレッドはそのまま、対空砲を黙らせにかかる。敵艦の装甲ギリギリを飛翔し、ほぼ真横から対空砲にミサイルを撃ち込み、破壊する。

 

 自己保存プロトコルにより無人制御は自爆する角度では攻撃できない。ここまで近づけば反撃の心配はないが同時に、これだけ接近して接触事故を起こさない、という事がレッドの実力を物語っている。

 

「対空砲は潰した! ハゲ山から乗り込め!」

 

「さっすがあ! 今行くぜ!」

 

 突入口周辺の対空砲を潰して安全を確保したレッドが機首を上げて離脱するのと入れ替わるように、略奪部隊の乗った輸送船が敵艦に近づく。

 

 無事、部隊が船に乗り込んでいったのを確認すると、レッドは残った対空砲とドローンの破壊に回った。周辺では、仲間達が敵機相手にドッグファイトに興じている。

 

『こちら突入部隊、メインシステムを押さえた。すぐに停止させる』

 

「早い所頼むぜ、へたっぴが落とされちまう前にな!」

 

『ははは、わかってるって。少し待ってくれ……ん? なんだ?』

 

 訝し気な声を上げる通信先。その直後、ブツリと通信そのものが途切れてしまう。

 

「? おい、どうした?」

 

 呼びかけながら、敵艦に目を向ける。直後。敵艦はレッドの目の前で、あちこちから爆炎を吹き出しながら、へし折れるようにして爆発した。

 

「なっ!?」

 

 咄嗟に機を翻し、飛来する残骸と炎を避けるように離脱する。真後ろを敵艦の爆発に向け、最大速度で最短距離を飛翔する。それでも、高速の瓦礫が機を掠めるようにレッドを追い抜いて行って、彼の心胆を凍らせた。

 

 もしほんの僅かでも対応が遅れていたら、あの爆発に巻き込まれていた。

 

 そこまで考えて、彼ははっとして仲間達に通信を送った。

 

「イゴール! ジョシュア! トッド! 返事をしろ!」

 

 どれだけ呼びかけても返事はない。レッド以外の戦闘機部隊は、爆発に巻き込まれて全滅だった。

 

「くそっ!!」

 

 がっ、とコンソールを叩いて憤怒を露にしつつも、はっとレッドは顔を上げた。

 

 輸送船に爆弾をしかけて、それで終わりの筈がない。もし敵が、レッド達を確実に仕留めようというなら、もう一段階ある。

 

 その彼の推測が正しい事を示すように、急ぎ帰還する母艦の背後で、ぐにゃり、と星々の光が歪み、波紋のように空間が捻じれる。その向こうから、忌まわしい敵艦がその不気味なシルエットを露にする。

 

 侵略宇宙人の艦隊。それも戦艦が、3隻。

 

 とてもではないが、ヴォイドレイダー程度の戦力で適う相手ではない。

 

 レッド達は、罠に嵌められたのだ。

 

「くそ……っ!!」

 

 それがわかっていて、レッドは機を加速させ、敵艦にまっすぐ突っ込んでいく。例え数秒後には撃墜されるとしても、少しでも敵の攻撃を引き寄せて、母艦の離脱する時間を稼がねば。

 

 地球時代から引き継がれたファイティングスピリット。それを無意識に発露しながら、レッドは勇気を振り絞って敵艦へと突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピルル』

 

 

 

 それを。

 

 宇宙の“向こう側”から、真っ黒い何かが見つめているという事に、気が付かないまま。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 状況は絶望的。

 

 こちらは母艦と、生き残った攻撃機が数機。

 

 それに対し敵艦は三隻。戦力差は歴然としている。

 

 正面からやりあって勝てる戦いではない。

 

 故に、ここでレッドがやるべきは敵艦の撃沈ではなく、一分一秒でも長く敵の注意を引き付ける事だ。そうすれば、もしかすると母艦だけは逃げ切れるかもしれない。

 

「おら、こっちを見やがれ!」

 

 早速母艦に向けて攻撃を繰り出す敵艦の下に潜り込み、敵砲塔にミサイルを撃ち込む。蚊を払う拳のように繰り出される対空機銃をかいくぐって、見せつけるように敵艦の装甲すれすれを飛翔する。

 

 レッドの挑発に乗ったのか、敵砲のいくつかが旋回し、照準を母艦から彼の乗る攻撃機に向けた。

 

 それでいい、とレッドは操縦席で笑う。

 

 もとよりこのような生き方を選んだ以上、ベッドの上で眠れる、などと思ってはいない。

 

 仲間の為に死ぬなら本望。

 

 ただ、敢えて後悔や思い残しがあるとするならば、それは。

 

「……フレンドの居る生き方ってのも、悪くなかったのかもしれんな」

 

 自嘲するように呟く彼の視界の中で、ぴたりと見据える敵の砲塔に光が充填されていく。

 

 そして、光速の粒子ビームが、レッドの乗る機体を原子の塵に分解する……その直前。

 

 突如として、“闇”が敵戦艦を横殴りに吹き飛ばした。

 

「な? ? え?」

 

 反射的に機を翻してその場を離脱しつつも、困惑に何度も振り返るレッド。

 

 彼の見る前で、巨大な戦艦が同じぐらいに巨大な何かに何度も殴打され、その形状を変形させていく。だが、その何かが見えない。透明な何か、宇宙の闇と同化しているとしか言いようがない何かが、侵略軍の宇宙船を破壊している。

 

 エネルギーが暴発した砲塔が燃え上がり、宇宙にプラズマの炎を噴き上げる。その炎を浴びて、真空の闇に色がついたようにみえた。まるで炎を吸い上げるように、凍り付いた体に血が通うように、虚無に熱が流れ込み、なにかの貌を描き始める。

 

 それに対し、他の二隻が照準を変えて砲撃を開始した。至近距離からの艦砲射撃。荷電粒子砲、高出力レーザー、中性子ビーム、あらゆる破滅的な破壊力が降り注ぐも、その全ては奈落に注がれる砂のよう。破壊の光を水のように飲み干し、それのエネルギーを得た非実体の存在がその姿を明瞭にする。

 

 それは、巨大な一匹の生命体だった。

 

 二本の足、二本の腕、一つの頭と尻尾を持つ、脊椎動物に酷似した外見。両腕は巨大な三角錐の形状で、途方もなく巨大なロケットエンジンのようにも、巨大な破城槌のようにも見える。先端にちょこちょこと生えているのは爪だろうか。胸部にはYの字に輝く巨大な水晶体があり、内部から虹色の輝きが零れている。頭部は爬虫類のそれに似ているがもっと狂暴で、牙を剥き出しにし眼窩には金色の瞳が爛々と輝く。頭頂部から後頭部、背中、そして尾の先端に至るまで、水晶の棘が規則正しくびっしりと並び、破壊の業火を受けてテラテラと輝いていた。

 

「…………カイジュウ……?」

 

 茫然とレッドは呟く。その生命体は、幼いころ記録媒体で見た、特撮映像に出てくる架空の生命体を思わせたのだ。

 

 真空の宇宙に“宇宙怪獣”が咆哮する。

 

 その大きく開かれた咥内に、黒い光……矛盾するがそうとしか言いようがない……が満ちた次の瞬間、放たれたレーザーのような閃光が、侵略宇宙人の戦艦を艦首から艦尾まで一薙ぎにしていた。

 

 遅れて、爆発四散する戦艦。その炎すらも吸い上げて、ますます怪物はその輝きを煌めかせる。

 

 残された戦艦が撃沈されるまで、それからものの数秒とかからなかった。

 

 

 

 

 

 ヴォイドレイダーの間で、伝わる宇宙の伝説がある。

 

 炎を食らう、漆黒の生きた闇。

 

 真空すらも凍てつかせる、徘徊する白亜の霧。

 

 あらゆる光を奪いつくす、黄金に輝ける稲妻。

 

 深宇宙を渡り歩き、遭遇した侵略宇宙人の艦隊やその拠点惑星を滅ぼしてまわり時に銀河すら飲み込む生きた災害を、ヴォイドレイダー達は“三大厄災(トリニティ・ディザスター)”と呼び、恐れ敬った。

 

 

 

 それらが一体何だったのか、その正体を彼らが知るのはまた随分と先の事である。

 

 






●デルタブラック

形態:恒星間生体戦艦

特殊能力:ヴォイド・シャッター

詳細:アースがこっそり生み出し侵略宇宙人の勢力下に送り込んだ、上級ディスペアが一体、その末弟。実は後日談の50年以上前、宇宙の果てに漂着したマザーツリーの枝から誕生しており、そこから長い時間をかけて全長およそ1500メートルという巨体に成長した。巨大なロケットエンジンのように発達した両腕が外見上の特徴であり、その内部にはそれぞれ生体縮退炉を保有、ほぼ無限のエネルギーを得て星々の間を飛び回る、およそ生物、有機構造体が持ち得る最大級にして最上級の存在である。

 だがそれ以上に恐るべきはその特殊能力である。ヴォイド・シャッターと呼ばれるそれはあらゆるエネルギーを吸収し、次元境界に蓄積する。このマイナス境界により普段のデルタブラックは目視不可能だが、蓄積エネルギーの上昇と共に実体が観測できるようになる。この許容量には限界があり、飽和する事でエネルギー吸収は停止するが、すると今度は蓄積したエネルギーの放出が始まり、次元境界が裏返り恒星もかくやという超高エネルギーに覆われる事になる。ヴォイド・シャッターが機能している間のデルタブラックは超新星爆発やブラックホールすら無効化する為、この反転状態に攻撃しなければダメージを与える事は不可能だが、それでも理論上恒星並みのエネルギー防壁を越えるだけの火力が必要なため、実際にはほぼ不可能。すなわち、その詳細が判明した所で攻略不可能な絶対無敵の存在である。

 唯一の例外は、最上位ディスペアであるアース。空間座標そのものを崩壊させるかの銀竜の力の前では、キロ単位の巨体もヴォイド・シャッターも無力である。

 性格は極めて攻撃的、かつ狂暴。侵略宇宙人に対する無限の殺意と敵意を隠しもしない。かつて愛に絶望し愛を否定したディスペアとしての有り様こそ落ち着いているが、基本的に他の生命体と慣れあうような精神構造をしていない。

 他にホワイトオメガ、アルファゴールドという兄弟がいる。侵略宇宙人が宇宙連合の本格的な殲滅に取り掛かれないのは、かつてその為に集めた一万隻をこえる大艦隊をこの3兄弟に襲撃され殲滅されたからである。



 尚。3兄弟では最弱。困った時は兄に泣きつく。





関係者のコメント

ヨーグ:「なんていうか、その……もうちょっと、こう、手加減をだな?」

侵略宇宙人:「宇宙の悪魔」

神:「素晴らしい。なんと純粋で美しい生き物だ」

ヴォイドレイダー:「破壊神その1」

アース:「頑張りました!」

フレンド:(失神)

ピカリン:(白目)

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