TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
惑星ウィンストリア。
これまでの調査の結果、この惑星が滅ぼされたのは少なくとも数十万年前だと考えられている。当初は侵略宇宙人による攻撃を受けたと考えられていたが、調べていくうちに深刻な汚染物質が検出されず、惑星の有機物が根こそぎ失われていた事から、攻撃したのは神獣兵ではないかとの推測が出ていた。
しかし調査はそこで終了。
何せ、侵略宇宙人の勢力圏内である。そもそもこの惑星が調査されたのも、ここに墜落したヴォイドレイダーの救難信号を宇宙連合艦が察知した事による偶発的なものであり、それ以上の調査をする時間的猶予も安全性も担保されていなかった。調べる事によって得られる物よりも、侵略宇宙人に察知される事によって失われる人的被害の方が重視されるのは当然の事だ。
忘れてはいけないのが、宇宙連合は今だ、勢力規模においては侵略宇宙人の足元にも及んでいないという事である。生存者の救助ならともかく、すでに滅び去った惑星に割けるリソースは殆どない。
しかし、私はその惑星の事を知った時に、いてもたってもいられず自ら調査に赴く事を志願した。上には不可思議な顔をされたし、一部の知人には必死に止められたが、それでも私はこの惑星に無理にでも赴いた。
それは何故か。
知らなければならないと思ったのだ。
私達の親愛なる隣人の、過去とその罪を。
『ムフゥ……』
「よしよし……」
一時間ほど歩いたところで、ようやく見えてきた廃墟の残骸。
かつての都市だったと思われるその場所の一角で、私は相棒と共に小休止を挟んだ。
外気温マイナス10℃。酸素濃度ほぼゼロ。重力以外はとても人間の生きていけない環境だが、かつては水と緑豊かな惑星だったのだろう。神獣兵によってバイオマスを収奪された後であっても、地層などにその片鱗が残されている。
技術力もそれなりに高かったと見受けられる。目の前に広がる、朽ちた都市部がその証明だ。しかし、全高100mを越えるビル群は完全に破壊されており、長い年月によって朽ち切っている。迂闊に近づくのは非常に危険だ。私はビル街を避けて、周辺の探索を開始した。
ここに来てから数週間。これまでは西側を調査していたが、大きな発見はなかった。今日からは東側を回ろう。年月の経過で、赤い砂と一体化してしまったハイウェイの丘を踏み越えて、都市の周辺を探索して回る。
「とはいえ、完全に風化しきってしまっていないあたり、建築物の構造や素材は人類のそれを上回っているな……フェルクリオン、だったか。この惑星から算出されるコンクリートのようだが、随分と品質がよかったのだな」
『ムフ。ムフゥ』
風化が進んだ建物の外壁に手で触れると、しっかりとした手応えが返ってくる。相棒がぺたぺた吸盤で外壁に触れては、目をぱちぱちさせていた。何か興味があるのだろうか?
観察をすすめていた私は、しかし壁にある物を見つけて顔を顰めた。足元で相棒が、そっと身を寄せてくる気配。
「これは……」
それは、大きな爪痕のようなものだった。野生動物が縄張りを主張するようなそれ。だが、大きさがあまりにも桁違いだ。全高10mを越える超巨大グリズリーがビルをひっかいたような爪痕。それも、数十万年もの時間経過に辛うじて耐えるほどの頑丈な建造物を、紙のように容易く切り裂いたそれは、今もなお鋭利な断面を見せている。
それが何なのか、もはやいうまでもない。
恐らく神獣兵の大型戦闘個体の爪痕。宇宙戦艦の外壁すらも切り裂くという彼らの爪牙ならば、これぐらいの事は簡単にやってのけるだろう。
見れば、その周囲の崩壊具合が特別に酷い。恐らく、この都市部へはここから侵入したのだろう。
圧倒的な暴力の行列が、障害物を蹴散らして進んでいた形跡が色濃く残されている。
「……進行は……こちらからか」
破壊の痕跡からさらに東へ。都市の外壁の名残のようなものを乗り越えて、丘の向こうへ。
その先は一段凹んだ盆地のようになっていて、平地が広がっていた。
そしてそこにはあったのは。
「……戦闘兵器の残骸か……」
『ムフルルル……』
そこには、無数の鉄くずが列をなして、赤錆の中に朽ちていた。長い年月によって風化し、崩壊し、原形をとどめていないが、恐らく戦車か何かだったと思われる。丘から降りて近づいて、解析装置を当てる。
「やっぱり。鉄の反応がある……。都市を防衛する部隊の残骸か……」
『ムルルゥ……』
「パピヨンテ?」
朽ちた残骸を覗き込んでいると、足元の相棒が付いてこない。不思議に思って見下ろすと、相棒は残骸を前に、小さく震えて縮こまっていた。
私ははっとして、相棒を抱きかかえてしっかりと抱擁した。
「すまん。気が利かなかった」
『ムルル……』
抱きしめる私のヘルメットに、相棒の吸盤がぺたぺたと吸い付いてくる。その黒い瞳はしっとりと潤んでいた。
……フレンドには、かつての神獣兵としての記憶はない。これは間違いない。
だが、それでも、神獣兵とフレンドにはかつて同じ存在だったという繋がりがある。遥か過去の自分達が、一体何をしでかしたのか。それを理解できない程、フレンド達は幼稚でも無邪気でもない。
もう少し相棒の気持ちに配慮するべきであった。
この戦場は、彼らにとって忘れがたき罪の刻印なのだ。
だがしかし、だからこそ、私達人間はそれを知らねばならぬと私は思う。
「ごめん。すこし向こうで休んでいるかい?」
『……ムルル』
「相棒?」
私の言葉に、しかしパピヨンテは首を振ると、もぞもぞと腕の中から這い出した。地面に降りると、朽ちた残骸をぺたぺた、吸盤で突きまわす。
これは、つまり。
「……調査を続行しようという事かい?」
『ムフゥ』
コクコク、と首を縦に振るパピヨンテ。
相棒がいいなら、それはそれで構わないのだが……。
「無理はするなよ? 気分が悪くなったらすぐに言うんだ」
『ムフゥ』
返事は足に巻き付いてくる口。空元気でも気力を見せる相棒に、私は調査を続行した。
……盆地に展開していた機甲戦力は、見た所30を超える。それなりの数だが……しかし、都市を護る最終防衛線にしては随分と数が少ない。
恐らく、既に雌雄が決した後の最後の抵抗。避難した一般市民を守るために、生き残った軍人が結集しての防衛線だったのだ。そして、それは虚しく食い破られた。
そのまま、全ては貪り尽くされたのだろう。
人類からすれば、その有様を想像する事は実にたやすい。何故ならば、本来人類も、それと全く同じ末路を辿るはずだったのだ。ディスペアという、復活した神獣兵の群れによって。
しかしそれはギリギリ、本当に寸前の所で阻まれた。
ビッグママ。あるいはノワールクイーン。
一人の、そう、たった一人の人間が齎した慈愛によって、手遅れだったはずの地球と人類は救われたのだ。
そういう意味では、この星の有様は地球の辿るべきだった運命そのものと言える。
「…………っ」
残骸を漁っていた私は、一つの車輛の内部に、衣服の痕跡らしきものを見つけて息を飲んだ。
この惑星の住人は、私達人間に近い姿をしたヒューマノイドであったらしい。座席と思わしき場所に残された服のようなもの。それに触れると、さらさらと砂のように朽ちていった。
……調査装置を当てるが、遺伝子の欠片も回収できない。長い年月のうちに、やはり完全に崩壊してしまったようだ。
「どうか安らかに……」
祈りを捧げるが、そんな訳がない。守るべき市民を守れず、暴虐の前に屈して死んでいった軍人の魂が、安らげるはずがない。化けてでて当然で……しかし、数万年という時間の流れはあまりにも残酷だ。
今更、化けてでる事すらできはしない。ここにあるのは、ただの物質、その名残だ。
ああ。偉大なりしビッグママ。我らを救い導いた女神よ。
貴女は私達にフレンドを齎したもうた。永遠の友人であり、伴侶であり、分かちがたき半身を。
そのフレンドに刻まれた烙印を、罪を、ともに背負いたいというのは傲慢なのでしょうか?
私は、ただ与えられるままに享受するのではなく、本当の意味で彼らを理解したいと思った。ただ、貴女の愛に甘えるのではなく、その苦しみや悲しみを一緒に背負いたいと思った。
だけど、知れば知るほどに、私はその罪の深さに慄くばかりです。何故、彼らがここまでの罪を背負わねばならなかったのですか。これほどの行いを、貴女はどうして許せたのですか。
一体、どうして……“彼ら”はこれほどまでに罪深き所業に手を染めたのですか。知性とは、極めればここまで無慈悲に邪悪になれるものなのですか。
であるならば。
人もまた、感謝と慈愛を忘れた時には、また、同じように……フレンド達に、またこのような罪を……。
『ムフルゥ』
「は……っ、あ、いや。大丈夫。なんでもないよ、パピヨンテ……」
懊悩に震えていた私は、ぺたぺた吸い付いてくる吸盤の感触に我に返った。
宇宙服の上から、しきりに私の胴体に吸い付いてくる相棒の吸盤。そっと抱き上げて抱きしめると、暖かさは伝わらないもののふわふわとした感触が分厚い生地越しにも感じられた。数十年の付き合いの感触に、荒れていた気持ちが落ち着いていく。
駄目だな、私は。辛いことがあってもいつもこうして、相棒に救われてしまう。
「……ちょっと気分が悪くなってしまってね。今日の調査はこの辺りで終わりにしようか」
『ムルル』
パピヨンテを抱きしめたまま、戦場に背を向ける。
丘の上まで上がってから、一度だけ振り返る。
眼下に広がる、朽ちた兵士達の墓標。それは無言のうちに、かつてあった事実は消えないという事を、私達に訴えかけてきているようにも見えた。