TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
LEDライトの灯を頼りに、壁の下で夜を過ごす。
相棒は傍らで丸まって夢の中。その背中を撫でさすりながら、私は回収した記録媒体の映像を閲覧していた。
この惑星に存在した文明はかなり高い材料工学をもっていたのはビル街を見ればわかる。その技術の高さは記録媒体にも駆使されていたようで、彼らの残した高耐久の樹脂を用いたキューブ状のメモリーブロックは、数十万年を経ても稼働するという恐るべき性能を誇っていた。
『……の、映像を聞くも……我……最後を託す……』
とはいえ、限度というものがある。
霞んだ色彩、不明瞭な声。おぼろげな映像の中に映し出されるのは、最後を前にしたとある知性体の、必死で、切羽詰まった生の声。
私達を忘れないでほしいという、切なる願い。
端末を操作し、映像と音声に補正をかける。とたんに、鮮やかな映像と滑らかな声が、私の五感に訴えかけてきた。
『この映像を聞く者が居る事を願う。貴方達に、我々の最後を託す事を、どうか許してほしい』
映像の中で語り掛けてくるのは、細身のヒューマノイド型宇宙人。どことなく地球人類のそれに似ている気もする。
金髪の、恐らく男性である彼は、血塗れで手に銃を持ったまま、必死に自分達の存在をこの宇宙に焼き付けようとしていた。
『我々はエンケティア人。母星であるエンケティアを中心に、三つの植民惑星を持ち、平穏な暮らしを営んできた。この星、ウィンストリアもその一つ。誓って言う、我々は他の知的生命体を脅かしたり、害するような事は決してしてこなかった。平和と安寧を願い、静かに営みを重ねてきた知性体だった。それをどうか信じて欲しい』
映像の背景で、タタタタ、と銃声のような音がする。エンケティア人はびくり、と肩を震わせて振り返り、しばらくしてまだ猶予はあると判断したのだろう、再び映像に語り掛け始めた。
『だ、だが、そんな私達を“後継者”と名乗る者達が一方的に攻撃してきた。我々は抵抗したが、奴らの操る生物兵器“神獣兵”の力はあまりにも圧倒的で、既に我々は敗北し、ごくわずかな市民と兵士がこの星に逃げ延びたばかりだ。それも、今まさに最後の時を迎えようとしている。神獣兵の軍勢が、最後の守護者を打ち倒し、我々のすぐ前に迫っている!! 市民も武器を持ち抵抗しているが、それはほんの僅かな時間を稼ぐだけだろう。我々は滅び去る!! あの悪魔の顎に呑まれて、エンケティアの歴史は終わりを迎えるのだ!! ああ!!』
嘆くように叫び、頭をかきむしるエンケティア人。私は悲しみに目を細めた。
『それでも聞いてくれ、兵士達は勇敢に戦った! 彼らこそ、未来永劫称えられるべき勇者達だ! この記録を誰かが目にしたなら、それをどうかこの宇宙に刻み込んでくれ! 我らは滅びる! 邪悪なる存在によって、その命脈は断たれる! ああ、だが我らが亡びたとしても、その行いは永遠に残る! 侵略者どもは許されざる邪悪として永遠にこの宇宙にその所業を刻まれるだろう!! 我々はそれに抵抗した、勇気ある者として語られるのだ! ざまあみろ、邪悪なる後継者どもめ! お前達に名誉はない、栄光はない! 未来永劫呪われるがいい、悪魔の顎どもめ!! エンケティア、万歳!! うわあああ!!』
背後の銃声が唸りを上げる。それが急速に減っていき、ついには窓を突き破って映像の中に黒い影が乱入してくる。語り掛けていたエンケティア人が絶叫と共に銃を構えて、襲い掛かってくる影にフルオートで連射する。
血がしぶき、黒い影が倒れる。
『や、やった、やったぞ! 俺にだって、悪魔を……』
直後。
画面の端から押し寄せた黒い波濤に、男が呑み込まれた。映像が滅茶苦茶に乱れてノイズ塗れになって、何もみえない。しばらくして落ち着いた画面が写したのは、傾き罅割れた床であった。その床に、ゆっくりと血が広がっていくと同時に、画面の向こうからクチャクチャ、ペチャペチャという生々しい咀嚼音が聞こえてくる。
最後に、血にまみれた三本爪の足が写り込んで……そこで映像は途切れた。
「…………」
私は小さく息を吐き、端末からメモリーブロックを取り外した。
半透明のくすんだサイコロのようなそれをしばし眺めた後、懐に戻す。
「……相棒にはとても見せられんな」
念のため、パピヨンテが寝入ってから閲覧してよかった。
今日の探索で発見したメモリーブロック。まだ閲覧可能な状態である事に喜んだのはいいが、何か嫌な予感がして確認を後回しにしたのは正解だった。まさか、神獣兵に滅ぼされる住民の最後の記録が残っていたとは。
神獣兵。
かつて後継者たる存在が運用した生物兵器であり、そして同時に、フレンド達の元となったフレンドシップの成れ果て。
本来、知的生命体の活動補助ユニットであったフレンドシップを一体どういう訳か兵器転用して生まれたのが神獣兵だ。元となったエルダーの技術があまりにも高度であった為に、使用外の使い方であったにもかかわらずその性能は圧倒的で、比喩でもなんでもなく星の数ほどの文明を滅ぼしてきたのだという。
だが最終的に、神獣兵は自ら起動を拒否するようになり、卵から孵らなくなった。それと前後関係はハッキリしていないが、運用していた後継者も、何等かの理由でやがて滅びた。最もその後釜には、“神”と呼ばれる存在が居座る事になり、宇宙に平和が訪れる事はなかったのだが……。
私は神妙な気持ちで、相棒のお腹を撫でまわす。
『ムッフ、ムフゥ……』
ぷにぷにしたお腹を撫でられると、夢の中にいる相棒は心地よさそうな声を上げて体をくねらせる。そのまま足を開いて、へそ天(卵生のフレンドにへそはないが)の態勢を取った相棒のお腹を、両手でわしゃわしゃー、と撫でまわす。びくんびくんと震えながら、もぞもぞ体をくねらせて喜悦に浸るパピヨンテ。
「ここか、ここがいいのか?」
『ムフゥ、ムフハッ、ムゥ~~ル……ムッ!?』
びくんびくんとのたうつ体が、突然静止する。
どうやらちょっとやりすぎて、相棒を起こしてしまったらしい。目をぱちくりさせながら起き上がってきた相棒が、困惑したように周囲をきょろきょろする。
『ムゥ?』
「あー……起こしちゃったか。ごめんな」
『ムフゥ』
頭を優しく撫でると、相棒はぺたぺた、吸盤で私の宇宙服に吸い付いてくる。
それで落ち着いたのか、再び相棒は地面に丸くなるが、黒いお目目はぱっちりしていて眠気はすでに飛んでしまったようだ。
時計を見ると、朝にはまだほど遠いが、深夜はとうに回っている。
ここから相棒を寝かしつけて自分も寝るとなるとちょっと大変そうだ。余計な事をしてしまった。
「うーん。すまんな、気持ちいい夢を見てるところを」
『ムフゥ』
LEDを消して、相棒を抱きかかえる。大人しく腕の中に納まった相棒が口を伸ばし、ぺたん、ぺたんと吸盤でヘルメットに吸い付いてくる。ガラス面の裏からは吸盤の裏がよく見える。意外と表面はでこぼこしていて、中央には穴が三つある。鼻の孔と口……かつて地球に居た象という動物は長いのは鼻だけで口は普通だったらしいが、相棒は全部長いのだな。私からするとこっちの方が便利そうに見える。鼻だけ長くてもしょうがないのでは?
しかしこう、ぴくぴくする鼻の孔を見てるとくすぐりたくなってくる。昔子供だった頃にそれをやって、相棒にめちゃくちゃ大量の鼻水をぶっかけられたっけ。
なんだか懐かしいな。
『ハフッ』
一しきりヘルメットをぺたぺたすると相棒は満足したらしく、私の腕の中で丸くなった。棘のような足を上手に交差させて小さく丸くなる様子は、全幅の信頼を私に預けてくれている事が分かる。それを見ていると私も色々細かい事を考えているのがアホらしくなって、相棒を抱えたまま地面の上に横になった。
頭上には満天の星空。太陽系では考えられないほど大量の星が、強い輝きを放っている。あの輝きのいくつかは、かつての栄光、滅びる前の星々の営みをその光に乗せて運んできているのだろうか? それを考えると、宇宙の壮大さに眩暈がしてくるようだった。
とはいえさしもの宇宙連合の技術でも、単なる光学観測には限界がある。これほど遠い星の輝きは、そう細かく見えるものではない。それは悲しい事なのか、あるいは救いなのか、私にはわからなかった。
そんな事を考えながら夜空を眺めていた時だ。
「……ん?」
不意に、空の星のいくつかが動いたような気がした。
いや、気のせいではない。確かに星の光に紛れて、何かが……。
ぞっと背筋に寒気が走った。宇宙連合の艦との合流予定日まではまだ遠い。となると……。
「相棒、不味い。侵略宇宙人だ」
身を起こした直後、夜闇をつんざく火柱が地平線の向こうであがった。遅れて地響きと爆音が押し寄せて、咄嗟に壁の下に相棒を抱きかかえたまま蹲る。
「く……」
『ムルルル……?!』
衝撃波をやり過ごし、壁の後ろから顔を出す。
地平線の向こうで、何かが松明のように燃えている。あっちは確か、私達の宇宙船が停泊していた方向だ。
「……通信が繋がらない。くそっ、ホームをやられた……っ!」
『ムルルルッ』
「大丈夫だ、船をやられても私達の居場所はまだ見つかっていないはず。だが……」
惑星全土に生体スキャンとかされたらすぐに見つかってしまう。とにかく、せめて地下かどこかに隠れなければ……。
だが一体どこに? この辺りには、朽ちた建物しかない。身を隠すには到底……。
『ムルフッ』
「相棒? ……何か考えがあるんだな。わかった、頼む」
腕の中でじたばたしはじめた相棒に、少し考えて床に降ろす。解放された相棒は、ぺたぺた、と地面を吸盤で探ると、一目散に街の方へと走り始めた。
私もホルスターから銃を抜いてその後を追う。
『ムフッ、ムフフッ。ムフフ……』
「どこにいくんだ……?」
崩壊した街の中を、吸盤で地面を探りながら進んでいく相棒の後ろに続いていく。今にも崩壊しそうでおっかないが、相棒がこっちに来い、というからにはいかない訳にはいかない。
やがて相棒は、とあるビルの崩壊した壁から内部に侵入すると、砂の積もった一角をぺたぺたと吸盤で何度も弄った。
『ムフゥ』
「ここか? ちょっとまってろ……」
相棒と入れ替わり、手で積もった砂を払いのける。
赤茶色の砂をどけると、青白い床面が見えてくる。砂に埋まっていたのが結果的に保護になっていたのか、出てきた床面の劣化具合は外に比べてかなり薄い。
その床面に、四角い扉のようなものが浮かび上がっている。
「……地下室への、扉?」
露になった扉に、相棒がぴたっと吸盤をくっつける。ベキベキベキ、と凄い音を立てて無理やりに扉がこじ開けられると、その向こうにはぽっかりと空いた暗闇が覗いていた。
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