TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
相棒と二人きりで惑星探索をしている最中、強襲してきた侵略宇宙人。
船を破壊された私達は隠れる場所を求めて、廃墟の街へと入り込んだ。
その先で見つけたのは、ビルに残された地下室への入口だった。
「こいつは……シェルターか? 誰も使わなかったから、神獣兵にも破壊されなかったのか……」
相棒がもぎ取った扉と、ぽっかり空いた入口とを見比べて嘆息する。
扉には、この星の言葉で『避難シェルター』と書いてある。
……相棒にもぎ取れる程度の強度の扉で、神獣兵をやり過ごせるはずがない。彼らは一説には、生体エネルギーそのものを視認しているという。分厚いコンクリートの壁に隠れてもそれを正確に認識して襲ってくる彼らには、隠れるという手段は成立しえない。
実際、地球でのディスペア災害においても、地下に隠れた者の生存率はほぼゼロだった。生き延びたのは戦った者か、逃げた者だけだ。まあそれなりに例外はあったようだけど……。
「とにかく有難い。地下に隠れれば衛星軌道上からのスキャンぐらいはしのげるはずだ」
『ムルルゥ』
二人で急いで階段を降り、中から扉を閉ざす。鍵は相棒の力で壊れてしまっているが、まあどの道この程度では気休めにもならない。誤差だ誤差。
扉を閉ざすと、今度は完全に真っ暗闇だ。宇宙服のライトをつけて、螺旋階段を降りていく。
封鎖されていたおかげか、何十万年もたっているのに階段は綺麗なものだ。これだけの年月が経過しても劣化していないあたり、やはりエンケティア人の材料工学はすさまじいものがある。自己修復する素材だったりするのだろうか。
「気をつけろよ、相棒。今の所大丈夫だが、突然階段が崩落するかもしれない」
『ムフ』
先を行く相棒に注意を促しながら、螺旋階段を降りていく。
地下シェルターだけあって、階段は随分長い。計器を見るに、すでに100m近く地下まで降りている。
流石にそろそろ、終点が見えてきてもいいころだと思うのだが……。
『ムフゥ』
「……と、噂をすれば、か。ここが終点か……」
階段が突如途切れ、踊り場のような場所に出る。ライトで周囲を見渡すと、壁に円形の気密ドアのようなものが見て取れた。
横には制御装置らしきもの。
とりあえずドアと開閉装置、両方を触ってみるが、ちんぷんかんぷんだ。
「流石に電源は通ってないか……どうしたもんかな、って、相棒?」
『ムフゥ』
気密ドアをペタペタ吸盤で触る相棒。
ははは、いくらお前でもそんな分厚い扉はこじ開けられない、って、え……。
『ムルルゥ』
ギシギシ、という金属が軋む音。天井からぱらぱらと埃が降ってきて、円形ドアがギチ、と歪む。
数秒後には、メギメギメギ、という音を立てて壁が変形し、内部で何かが攪拌されているような隆起と共に、円形ドアがゆっくりと回り始める。数秒たって、蝶番から捩じ切られた円形ドアを、ドスン、と相棒が壁に立てかけるように置いた。
その拍子に、ズズン、と床が揺れる。一体何トンあるのか想像もつかない。
「…………(パクパクパク)」
『ムフゥ』
驚愕に言葉を失う私に対し、相棒はさも「すごいでしょ?」とでもいうように振り返って目をキラキラさせている。
茫然としていた私ははっと我に返ると、ヨシヨシ、と相棒の頭を撫でさすった。
「す、すごいぞお前。こんなに力持ちだったんだな」
『ムフゥ~』
「ちょっとびっくりしたけど、凄いから吃驚したんだからな。うりうり」
両手で撫でさすると、満足そうに鼻息を噴き出してうっとりするパピヨンテ。
刹那でも恐れを感じた自分を強く恥じる。これまで、さんざん吸盤でぺたぺたされたのに何ごともおきなかったではないか。この子は自分の力を完全に制御できている。恐れる必要はどこにもない。
いや、しかし。吸引とか脚のトゲじゃなくて、シンプルに超絶馬鹿力だったか……。
フレンドというのは奥が深い。
ひたすら撫でまわしていると、そのまま体をくねらせてヘソ天になるパピヨンテ。そのお腹をなでまわしながら、私は相棒を抱きかかえて扉の奥へ向かった。
扉の断面を見ると、子供が段ボールの扉を捩じ切ったみたいなむちゃくちゃな事になってる。エンケティア人の施設は人類のそれよりも数倍堅牢なはずだが……これをこうするのにどれぐらいの力がいるとか、考えると夜眠れなくなりそうだ。
いや、きっと数万年の時間経過で劣化していたのだろう、うん。そうに違いない。
内部に進むと、驚くべき事に自動的に光が灯った。電源がまだ生きている? どういう仕組みだ??
きょろきょろしながらシェルター内部を確認すると、ちょうどアパートの4LDKぐらいの広さがあるようだった。恐らく多人数の収納は想定していないのだろう。一家に一台、地下シェルターぐらいのノリだったと思われる。
当然、内部に使用された形跡はない。手つかずのままの物資が、部屋の片隅で完全に朽ちて埃の山になっていた。壁にはディスプレイがあるが、ノイズが入っていて何も見えない。
そして、その反対側の壁には、何か医療用ポッドらしきものがあった。
横倒しになった、円筒形の金属筒。上部には覗き窓のようなものがあって……その向こうに、何か人影らしきものがちらりと見える。
「……お、おいおい……」
まさか、中に人が入ったままなのか?
いくらエンケティア人の技術が時間経過に強いからって、流石に数十万年前の病人なんか保存できる訳がない。よくて木乃伊とご対面だ。どっちにしろ、素人が弄っていいものではない。
とはいえ、万が一にでもまだ生存可能な状態だった大変だ。さっき相棒が無理に部屋の扉を捩じ切ってしまったから、悪影響が出ているかもしれない。
いや、しかし。流石に……いくらなんでも……。
そんなこんなでまごついていると、腕の中で相棒が動き出した。
「あっ」
『ムシュ……』
腕の中から飛び降りた相棒が、カツカツ、と医療用ポッドに鼻を伸ばす。その触手が、ぺたぺたと表面を撫でまわして、って……。
「こ、こら相棒、よくわからないまま触っちゃ駄目だって!」
『ムフゥ? ……ムッ!?』
注意するが、時すでに遅し。
相棒の吸盤がスイッチに触れると、プシュウゥ、と空気の漏れる音。続けて、ゆっくりと医療用ポッドのハッチが開き始める。
吃驚してこっちに駆け戻ってきた相棒が、私の後ろに隠れる。私はというとその場を動く事も出来ず、ただ成り行きを見守っているだけだ。
「う、うわああああ……あ、あれ?」
ゾンビかミイラとご対面、と両手で顔を隠しつつ指の間から対象を観察した私は、しかしポッドから出てきたものが予想と違っていて困惑の声を漏らした。
完全に開ききったポッドの中、寝台に寝かされているのは、しかしどう見ても生物ではなかった。
銀色に輝く、人型の物体。マネキン人形のようなそれが、照明の下で冷たい光を放っている。
「……なんだこれ?」
『ムルゥ?』
相棒と二人、顔を見合わせて首を傾げる。
「人型ロボット……?」
どうやら医療用ポッドだと思っていたのはこれの収納庫だったらしい。
しかしなぜ、地下にこんなものが……あれ、今。これ、動かなかったか?
『ギギギギ……』
「き、気のせいじゃないっ!」
『ムフゥッ!!』
寝台の上で、ゆっくりとぎこちない動きで起き上がる人型の人形。私は相棒と一緒に距離を取る。
見ている前でヒトガタはベッドから足を降ろし、起き上がると能面のような顔でこちらを見た。どこにあるのかもわからないスピーカーが、僅かに空電を発する。
『ザ……ザザ……これは……どういう、事ですか? 貴方は……どなた?』
「?」
『私は、一体……。今は、いつ……』
何やら様子がおかしい。
現地語でぶつぶついいながら、ヒトガタはその場でたじろぎ、頭を抱えるように左手を額に当てている。見た所攻撃的な様子はないが……。
「君は、一体……」
『ムフルゥ?』
慎重に様子を伺っていると、相棒が足の間からそろそろと顔を出した。その黒い瞳が、銀ピカのヒトガタを興味深そうに見つめている。
その途端、ヒトガタの反応が激変した。
『……神獣兵!』
『ムルッ!?』
相棒の姿を見とがめたヒトガタが、鋭い声を上げて頭を上げた。右手の指が溶け合うように変形し、明らかに銃器と思わしき形状に変形する。バチバチとプラズマの光をスパークさせるそれの切っ先が相棒に向いているのを見て取って、私は反射的にその間に体を差し入れた。
「ま、まて、撃たないでくれ! 相棒は神獣兵じゃない!」
『な、なにを……いいからどきなさい! その生き物は危険です! 星を食らう悪魔だ!!』
「いいから、相棒はそんなんじゃない! 頼むから、やめてくれ……!」
相棒を胸に抱き、背中を相手に向けたまま必死に呼びかける。
幸い、相手は理性的な存在のようで、銃を向けつつも困惑した様子で引き金をなかなかひかないでいてくれた。
『いや、しかし、その機会な見た目、どう見ても……』
『ム、ムヒヒフゥ……(ガタガタブルブル)』
『……ですが……悪魔にしては臆病すぎるような……』
わかりやすくブルブル震えて涙目になっている相棒に、ヒトガタも躊躇いを見せている。その視線が、確かに私と相棒の間をいったりきたりしているのが感じられた。
やがて、長い沈黙の末にその銃口が床を向き、私はほっと安堵の息を吐いた。
「わかってくれたか……ありがとう……」
『納得はしていません。ですが、その生き物が無害である事は疑いないようですから』
『ムヒフゥ……』
「ああ、よかった。怖かったな、パピヨンテ。もう大丈夫だからな……」
腕の中で縮こまる相棒の背中を何度も何度も撫でさする。私は赤ちゃんのように相棒を抱きかかえたまま、銀色のヒトガタへと向き直った。
「のっけからビックリさせて悪かった。私はこの惑星を調査しにきていた科学者だ。こちらはフレンドのパピヨンテ」
『……私は、エンケティア実験小隊所属、思考支援ユニットB-231。部隊の仲間からは、アリス、と呼ばれていました』
銀色のロボット……アリスは、そのつるりとした鏡のような顔から放つ言葉にありありと困惑の色を乗せて、私に問いかけた。
『一体、何が起きているのです? 地上は、エンケティア人達はどうなったのです? 防衛線は守られたのですか、もしかして増援が?』
「君は、何もしらないのか?」
『ええ。私はここに撤退してくる前の戦闘で大破し、修理ポッドに収容されました。たまたま避難船に容積が余っていたので積み込んでもらい、そのまま後退したのですが、それ以降の情報は入力されていません』
それは、つまり。
彼女は、自分を創った者達がどうなったかを知らないという事だ。
私の胸の奥底が、ぐっ、と痛む感じがした。
「……わかった。今の状況を説明しよう。気を確かにして聞いてくれ」
そして私は言葉を選びながら、エンケティア人の絶滅と、そこから数十万年がたっているという残酷な事実を、時間をかけて彼女に説明したのだった。