TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
『……エンケティアが、数十万年前に滅亡している、だと……?』
私達の説明を受けたアンドロイド……アリスは、ひどくショックを受けたようにたじろぎ、顔を押さえた。
『何を、言っている……数十万年、だと? そんなバカな……』
「申し訳ありませんが、事実です」
『…………』
アンドロイドは動揺を隠せないまま、ちらり、と自らが眠っていたポッドに目を向ける。
問題の装置は、彼女を放出した後完全に動作を停止している。電源が落ちてしまったようだ。
『だが……理論上永久に電力を供給するというエーテライトリウムが半減期を迎えている……少なくとも、ずいぶんと長い時間が経過したのは事実のようだ……』
「納得いただけましたか」
『納得などしていない! だが、しかし……』
アリスは首を振ると、私達が侵入してきた扉に目を向けた。破壊された扉を目にして、彼女は首をひねる。
『この扉は、神獣兵が破壊したのか? 奴ら、私が有機物ではないと見逃したのか……オノレ……屈辱だ』
「あはははは……」
『ムフゥ』
何か勘違いしているが、まさか相棒が壊したと告げる訳にはいかない。曖昧に苦笑いして誤魔化す私の足元で、相棒が不思議そうに首を傾げている。
その相棒を、アリスの無機質な視線が捕らえた。
『……その生き物はなんだ? 神獣兵でないなら一体なんだというんだ。フレンドといっていたが……』
「フレンドだ。偉大なるビッグママが我々人類にもたらした親愛たる隣人。世界樹から産み落とされし天使でもある」
『宗教の話はしてないんだが』
こちらの説明にアリスは首を振り、階段に向かって歩き出した。
『もういい、訳の分からん宗教家と押し問答する気はない。自分の目で確かめる』
「だ、ダメだ、今地上は危険だ!」
『はあ?』
こちらの警告には一応耳を傾けてくれたのか、脚を止めるアリス。私はここぞとばかりに彼女を引き留めた。
「今、地上には侵略宇宙人の連中が来ている! 神獣兵の代わりに神の先兵としてほかの知性体を虐殺して回るのが奴らの仕事だ、今上に出れば貴方も危険だ!」
『なんだと……? そんな奴らが……』
「私達がここに来たのも奴らから逃げてきたんだ」
腕を広げるようにして彼女の説得を試みる。アリスがどれだけの性能かはわからないが、侵略宇宙人の軍勢を相手にするのは無理がある。
せめて数日、ここで時間を潰せば回収に来る船が奴らを撃退してくれるはずだ。
基本、侵略宇宙人は三大勢力の乗る艦と、その監視役の天使兵の艦、二隻で行動する。だが既知の勢力範囲では天使兵はついてこない為、奴らは単艦だ。
宇宙連合の戦闘艦であれば十二分に排除できる……!
『だがしかし……む?』
「爆撃が始まったか……!」
『ムルフゥッ』
地響きと共に天井が揺れ、埃が降ってくる。どうやら地表の都市跡に対する爆撃が始まったらしい。
「大丈夫、ここに居れば無事だ。仲間たちの救援を待てば……」
『まて、地上の都市はどうなる!? エンケティア人達の存在した痕跡は!?』
「それは……あきらめるしか……」
非常に残念だが、今、ここで活動しているアリスという存在と、彼らの痕跡である廃墟は比較できるものではない。
私としては、エンケティア人達の残した言葉を伝えるためにも、アリスにはこのままおとなしくしていてほしいのだが……。
『冗談ではない! 数十万年がたっているかどうかを信じるのは別として、神獣兵と似たような存在がこの星を破壊しようとしているなら私は戦う! その為に私は作られたのだ!』
「よ、よせ、無茶だ! 一人でどうにかなる相手ではない! く……頼む、パピヨンテ!」
『ムフゥ』
駆け出そうとするアリスの脚に、しゅるりと伸びたパピヨンテの口が絡みつく。
途端、万力で挟まれたようにアリスの動きがギチリ、と封じられた。
『な……このバカ力……やはり貴様、神獣兵だったか!?』
「まってくれ、落ち着いてくれ! 君も軍人なら、彼我の戦力差は見極めるべきだろう!?」
再び、ズシン、と天井が揺れる。遅れて階段の上から大量の土砂が降ってきて、私達は顔を押さえた。
「げほっ、ごほっ。……とにかく、ここでやりすごすしかないんだ、いいから話を聞いてくれ」
『ぐ……っ、だ、だが、このままむざむざと……』
『ムフル…………ムフッ!? ムルルルフゥ!?』
なんとかアリスを宥めようと言葉を尽くす。その最中、突如相棒が声を上げて、ガタブルと震え出した。明らかに尋常ではない様子に、私も目を見張る。
「パピヨンテ、どうした? 一体何が……おわっ」
『ムルフゥ!』
ついにはアリスの拘束も投げ出して、私の腕の中に飛び込んでくる。涙目でブルブル震えるその様子に、アリスさえも逃げるのを忘れて戸惑っている。
「一体、何が……」
『ゴルゥウアアア…………!!』
地上から、腹の底に響くような雄たけびが聞こえてきたのはその時の事だ。
これまでの爆撃とは質の違う、天地が激しく上下するような衝撃。臓腑を圧迫されて、私は思わず膝をついた。
「な……なんだ……?」
『こ、これは……この咆哮は一体……?』
『ムルルルルル(ガクガクブルブル)』
激しく震える相棒からは、相当な恐怖が伝わってくる。ただそれは敵とかそういうのではなく、ただとにかく圧倒的に強大な存在に対しての畏怖であった。
こちらの脳裏に伝わってくるのは漠然としたイメージ。
宇宙空間に輝く、黄金、白色、そして渦巻くブラックホール。それらを照らす、恒星を遥かにしのぐ銀色の輝き……。
なんだ?
相棒は、何を伝えようとしている?
『ええい、ここでこうしてはいられん。私は地上に出る!』
「あっ! ま、待つんだ!!」
機械であるからか衝撃からいち早く立ち直ったアリスが階段を駆け上っていく。一瞬戸惑ってから、私は相棒を抱えたままその後ろを追った。
ここまで温存していた宇宙服のパワーアシストを最大にして、階段を駆け上っていく。
アリスに遅れる事数秒、地上に顔を出した私は押し寄せる風に顔を庇った。
「うわっ、こいつは……酷い……!」
地上の廃墟は、空爆によって大きく損傷していた。地下室の入口があったビルも、完全に横倒しになり、一階が外に吹き曝しになっている。もはやまっすぐ立っている建物は一つもなく、爆撃の衝撃によってなぎ倒され傾き、立ち上る黒い煙は炎々と空を覆いつくしている。
その黒い柱のような煙を突き破って、巨大な何かが姿を見せた。頭上を炎を吹きながら通り過ぎていくその銀色の物体に、私達は覚えがあった。
「侵略宇宙人のドロップポッド……?! 撃墜されてる……何に!?」
『ムフゥ……』
「……!? アリス、よかった、無事だ」
相棒にくいくいと引っ張られて振り返った先、ビルのふもとで立ち尽くしている彼女のシルエットを見つけた。どうやら、地上の有様を見て思いとどまってくれたらしい。
私はほっとしながらも彼女に駆け寄ると、その肩に手を置いた。
「アリス、わかっただろう! 地上は危険だ、地下に……」
『お……おい、アレ……アレはなんだ……?』
「アレ?」
要領を得ない彼女の言葉に首を傾げながらも、私も彼女の視線を追ってみる。
その先には、崩壊したビル街と……その向こうに黒々とした、山が……山?
あんなもの、あそこにあったか……?
『ム、ムルヒフフゥ……』
腕の中で相棒が激しく震える。毛が逆立って、体表がブツブツになっている。それに応じるように、ゆっくりとその“山”が動き始めた。
『ゴルルルゥ……』
「あ……ああ……」
それは山などではなかった。そもそも、黒ですらない。まるで光すら吸い込むようなブラックエフェクトそのものが、現実世界を切りぬいたようにして動いている。おかげでそのサイズははっきりとはわからないが、感覚でいえば数キロを越えているような巨体に見えた。いや、信じがたいが、周辺地形と照らし合わせると最低でもそれぐらい大きくないと計算が合わないのだ。
真っ黒な暗黒は身じろぎすると、巨大な腕のようなものを広げた。そこからまるでジェット噴射のように炎が噴き出すと、その巨体がふわりと空中に浮かび上がる。まるで鳥のように軽々と大空に舞い上がったそれは、はるか上空でソニックブームを生み出し、はるか宇宙へと飛び上がっていく。
その向かう空で、流星が一筋、重力に逆らって斜めに伸びていくのが見えた。あれは、侵略宇宙人の母船、か? 逃げるそれを追うように、暗黒の星が舞い上がっていく。
呆然と見守る私達の視線の先で、二つの星は空の彼方へ飛んで行って、そして姿を消した。
あとには、燃え上がる炎と立ち上る黒い煙、破壊された古代の街だけが残された。
『…………い、いまのが、お前のいう侵略宇宙人、か……』
「ち、違うんじゃ、ない、かな……」
『ムルフフ……』
三人で、呆然とただ空を見上げる。
この時遭遇した巨大な怪物……黒い災厄こと、デルタブラックについて私達が詳しい事を知るのは、もっとずっと後の事である。