TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
呆然と空に消えていく巨大な影を見送る私達。
ややあって先に我に返ったのは私の方だった。
「……はっ! アリス、無事か?!」
『あ、ああ……はっ。な、なんだ、なんなんだ今のは! あれもフレンドなのか!?』
「違う、あんな巨大怪獣みたいなのは聞いたことがない」
いくらなんでもフレンドが多種多様といっても限度がある。あのような超巨大な生物、一緒に暮らす事もできない。明らかにフレンドとは別口だ。
出現の直前にパピヨンテが妙な反応を見せたのが気にはなるが……。
「パピヨンテ、お前は何かしってるのか? ……パピヨンテ?」
『ムフルゥ……』
腕の中にいるパピヨンテに問いかけるが、肝心の相棒はだらんと口を垂らし、白目をむいてぴくぴく痙攣していた。
静かだと思ったら、失神してるぅーー!?
「あ、おい、しっかりしろ! おい!?」
『……ムハッ!? ムルルゥ……』
ゆさゆさ揺さぶると、ぐるんぐるん眼球が揺れてはっと正気を取り戻すパピヨンテ。フレンドが失神するなんて何があったんだ?
『ムルフフフ……』
「おー、よしよし。怖かったんだな……よしよし。無理して聞いたりしないから安心しろ」
口を巻き付けて全身でしがみついてくる相棒をよしよしする。これほどコイツが怯えるなんて、あの巨大生物はよっぽどの脅威だったに違いない。
こちらに関心がなくて助かった。
宇宙は広い、侵略宇宙人の他にあんな脅威もあるなんてな……。
相棒を宥めて一息つくと、私はアリスに声をかけようと視線を上げた。
「アリ……」
『…………』
「……あ」
銀色のアンドロイドは、破壊されつくしたビル街を前に呆然と立ちすくんでいた。
彼女の目の前に広がるのは、崩壊した灰色のビル街。辛うじてとどめていた原型も、先ほどの空爆で破壊しつくされ、もはや文明の欠片しか見当たらない。
僅かに残っていた歩道も、生活の残り香も、全て赤茶色の砂の中に攪拌されてしまった。
いかなる歴史学者であっても、この惨状には首を横に振るだろう。
『これが……私達の、街……エンケティアの……あ、ああ……嘘だ、嘘、だ……』
「アリス……」
『夢だ……悪い、夢に決まっている……』
立ちすくんだまま、かすれたような声をこぼすアリス。彼女が人間であれば、涙を流し地に這いつくばり、喉が裂けんばかりに嘆き悲しんでいただろう。
だが、アンドロイドである彼女にその自由はない。
道具に、涙を流す機能はない。
エンケティア人達が、彼女を道具として作ったかどうかとは別の話として、だ。
『私は……私は、なぜここにいる? 何故、このビルと同じように朽ちていない? なぜ……私だけが……』
「……アリス、ここを離れよう。侵略宇宙人の母船は逃げ去ったようだが、地上に展開した部隊がいるはずだ。彼らが襲ってくる前に、安全地帯を探そう」
『私に触れるな!』
彼女を動かそうと肩に手を置いた途端、強い力で払われる。手を押さえて後ずさる私に、アリスは右手を変形させた銃を突きつけた。
『なんだ、なんなんだお前たちは! 私をどうしたいのだ! どうして私を起こした、こんな現実を目の当たりにするなら、あのまま眠ったまま朽ちていればよかったのに!』
「落ち着け。落ち着くんだ。今の君は冷静ではない」
『私は冷静だ! 戦闘用兵器である私が、取り乱す事などない!! 人に代わって死ぬべき存在である私が、恐怖する事など……!!』
どうやらエンケティア人の技術は想像以上に高いものだったらしい。取り乱して狂乱するアンドロイドなんて初めて見た。
とにかく彼女を刺激しないように、ゆっくりと間合いを詰める。武器を持っていない事を示すために、両手を掲げてホールドアップの構え。
「いいから落ち着くんだ。わかった、君は冷静だ。だが優先順番を間違えている。今、君が最優先にするべき事はなんだ?」
『優先順位……私がやるべき事……それは、エンケティアの守護……だが、それは……私は……』
根気よく呼びかけ続ける。
少しずつ、表情の見えない彼女の銀色の相貌の裏で、渦巻く激情が落ち着いていくのが分かる。
これなら話が通じそうだ。
そう考えて安堵した私の視界の中で、ゆらり、と人影のようなものが物陰で揺らめくのが見えた。
……アリスは、こちらに気をとられて気が付いていない!
「アリス!!」
『なっ!?』
とっさにとびかかって押し倒す。こちらに向けられたままの銃となった腕が反射的にひきつるのが見えたが、すんでの所で発砲は思いとどまってくれたらしい。その腕を抱えるようにして、彼女を物陰に引きずりこむ。
直後、無数の青い閃光がビルの廃墟を穿ち、鼻を突くイオン臭が立ち込めた。
『ムルフフゥ!』
「くっそ、クロノスオーダーの兵か!」
『な、なん、なんだ!?』
流石に敵襲だと理解してくれたらしい。抵抗せずにおとなしくしてくれたアリスを体の下に庇ったまま、私は懐からハンドガンを引き抜いた。
「さっきから言ってる侵略宇宙人の歩兵だ! クロノスオーダーの機械化兵、征服した惑星の原住民の脳みそを利用した人型サイボーグだ! 主武装はガイガーライフル、食らうと生物無生物問わず一巻の終わりだ、注意してくれ!」
『わ、わかった……』
「それと連中は時間操作技術を持つ。警戒してくれ……こんな風にな!」
脳裏に響くピリッとした直観に従って、私は明後日へと銃を突きつけた。その銃口の先に、コマ落としのように赤黒く汚れたフード姿のサイボーグ兵が姿を現す。そいつらが発砲する前に、私はハンドガンの連射で撃ち倒した。
これでも単独行動を許可されているんだ、こいつらの一人や二人、どうという事はない。
『な、なんだ今の動きは!?』
「だから言っただろう、連中は時間流を操る! ただ、そこまで自由じゃないから、よく動きを見て時間操作後を狙えば……」
『そうじゃない、私が言ってるのはお前だ! どうしてあんな高速移動に対応できる!?』
「経験と訓練と勘!」
まあ実際にはちゃんと理由があるのだが。
私達戦後世代の人間は、フレンドとの交流により脳内のメガレセプターと呼ばれる脳波動にかかわる器官が発達している。それによって微弱ながら脳波動を使える私達は、それに反する侵略宇宙人のテクノロジーに対して違和感を感じる事がある。その感覚を頼りにすれば、時間流を移動中のクロノスオーダーの兵を補足する事も可能である。
とはいえ、あくまで違和感を覚える程度だ。
ビッグママのように、青い光によって連中を焼却するような真似は文字通り女神の御業である。そんな事ができたら、とっくの昔に宇宙連合は侵略宇宙人をこの大宇宙からたたき出せている。
「相棒とアリスは隠れていろ! 私が連中の相手をする!!」
『ム、ムルフゥ!』
『くっ、ふざけるな、隠れているのはお前の方だ! 腐ってもこっちは軍人だ!』
アリスが私を押しのけて立ち上がると、右手の銃を撃ち放った。白い閃光が、侵略宇宙人の先兵を撃ち貫く。
『はっ、神獣兵の足元にも及ばぬな!』
そのまま次々に敵兵を倒していく。何人かが時間流加速を使って回り込んでくるが、アリスは即座に反応して反撃、敵に先手を取らせない。
なんて性能だ。これがエンケティアの戦闘兵器。
『ふん、この程度の軽装甲であれば、私一人でも……』
「余計な事を言わない! ……デカいのが来るぞ!!」
直後、ビルの残骸を粉砕して、赤黒い歩行兵器が出現する。
連中の戦闘兵器だ。地球での戦いにおいても、あまたの人類軍戦力を殲滅したクロノスオーダーの歩行兵器。ビッグママからすればただのデカい的だが、私達のような歩兵からすれば絶望の権化そのものだ。
『く……!』
アリスが光線を連射するが、敵の重装甲を破れない。じりじりと近づいてくる歩行兵器の両腕には、巨大なディスクカッターが唸りを上げている。あれで私達をバラバラに切り刻むつもりか!
私も一緒になってハンドガンを連射するが通用しそうもない。
一体どうすればいい!?
「くそ……!」
『ムルフゥ……!』
「バカいってるんじゃない、お前の脚じゃ近づく前にバラバラにされちまう! いいから後ろに下がって居なさい!!」
『なんでお前たちは会話が成立してるんだ??』
二人して弾幕を張るが、敵はじりじり距離を詰めてくる。
くそ、一か八か、ここから飛び出して逃げるか? いや、相手はそれを待っている。スナイパーがどこかに隠れているはずだ。
何か、何か一発逆転の手段は……。
その時だ。
ヘルメットの中に、ノイズ混じりの無線が入った。
『そこを動くな』
「え?」
突然の言葉に思わず手が止まる。直後、私は慌ててアリスと相棒を物陰に引き込んだ。
『な、なにを……』
「いいから伏せて!」
二人を手で押さえつけて、私は頭上を見上げる。崩壊したビルの並ぶ廃墟……その上空を、素早く通り過ぎていく影があった。
そこから、黒い巨体が投下されてくる。
『グラァアア!!』
どずん、と歩行兵器の背後に着地する黒い巨体。
危険を察知した兵器が振り返るよりも早く、その鋭い鎌状の爪がその装甲を紙のように引き裂いた。火花を散らして崩れ落ちる兵器の背後で、うっそうと巨体がアギトをもたげる。
『フシュルルル……』
それはカマキリのような腕と外骨格を持ちながら、恐竜のような骨格を持つ、戦闘タイプのフレンド。
私を送ってくれた宇宙船の中で、姿を見た覚えがある。どうして彼がここに。
呆然と見上げている前で、ティラノ型フレンドは残った侵略宇宙人の殲滅を開始した。
尻尾が薙ぎ払われ、鎌が切り裂き、脚が踏み潰す。時間流操作で逃げようとしたものは、高出力の脳波動を浴びせられてスタンし、そこを撃破された。
恐るべきは戦闘タイプの能力である。あれほどの絶望に見えた敵が、瞬く間に蹴散らされていく。
「……ふぅ。助かった……」
『ムルフフゥ……』
一息ついて、私は額の汗をぬぐうと、足元によってきた相棒を抱き上げた。
あのフレンド一体が投下されただけなはずがない。おそらく周囲にも戦闘型のフレンドと、メタヴァルキリー隊が展開されているはずだ。彼らならば、侵略宇宙人の残党ぐらいは容易く殲滅してのけるあろう。予定より大分早いのが気になるが……まあ、助かったんだから気にすることはない。
あくまで侵略宇宙人の増援が来なければの話だが、とにかく危機は脱したといっていい。
私はリラックスしながら、アリスさんに声をかけた。
「アリス、もう安全だ。仲間が助けに来た」
『……獣兵……』
「ん?」
呼びかけるも、どうやら私の声が聞こえていないらしい。彼女はゆらり、とおぼつかない脚で踏み出すと、腹の底から響くような憎悪の声を張り上げた。
『神獣兵……よくも、よくも私達の星を! エンケティアの文明を!!! 許さない!!』
「ちょ、アリス!?」
『殺してやる、殺してやるぅ!!』
突如発狂したように取り乱して、ティラノ型フレンドに向かっていくアリス。
一方のティラノ型フレンドは突然憎悪をぶつけられて、びっくりしたように目を丸くして縮こまっている。腕を小さく胸に寄せて、完全に腰が引けているその様子は無防備極まりない。
不味い、このままだとあの子が危ない!
「相棒!」
『ムフッ!』
私の合図に相棒がアリスに取りつき、その体を口で締め上げて拘束する。
人型である以上、手足を拘束されてしまえば何もできないはず。だがそれでも、アリスはじたばたもがきながら、怒りと憎しみの声を上げ続けていた。
『殺してやるっ!! 殺してやるぞ神獣兵!! ああああああっ!!』
これはどうやら、すぐには落ち着きそうにない。
私は相棒と顔を見合わせ、ついで、助けたはずの相手に突然襲われたフレンドのフォローに入った。
「びっくりさせたな、ごめんな。助けてくれてありがとう。……大丈夫?」
『ギュルゥ……』
コクコク、と小さく頷くフレンドの眼は、涙がいっぱいに浮いていた。その頭をよしよし、と撫でてやると、怖かったよう、と頭をこすりつけてくる。
「……どうしよ、これ」
『ムフゥ』
傍らには、しくしく涙する大きなフレンド。足元には今も罵声を張り上げるアンドロイド。
困り果てた私達の上空を、人類側のドロップシップが低空を通り過ぎて行った。
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