TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
「おかげで助かりました」
「何。ちょっとした偶然だよ。奇妙な反応を惑星付近で観測して、予定を何日か前倒しにしたんだ。まさかこんな事になっているとはね」
ドロップシップが上昇していく。遠ざかる廃墟を眼下に眺めながら、私は救助隊の長に頭を下げた。
恰幅の良い中年の隊長は、私一人の為に部隊を動かした事にさしたる不満もなさそうに、ほがらかな笑みを浮かべてこちらの無事を喜んでくれた。
「しかし本当に無事でよかった。君のような若者を失う事はいまの人類にとっては痛手そのものだ。それを思えば、大した手間ではない。こちらの被害はほぼゼロだったからね」
「ほぼ……という事は誰か怪我を?」
「そこの体の大きな子供が、ちょっと心に傷をな」
そういって隊長が指さす先では、船の中で窮屈そうに体を縮めたフレンドが小さく体育座りをしていた。
あの、絶体絶命のピンチで私達を助けてくれたフレンドだ。そして同時に、助けたはずの相手に殺されかけた可哀そうな子でもある。
その足元にはパピヨンテが寄り添って、ぺたぺた吸盤で触れながら何事かを話しかけている。
『ムフ。ムハッ、ムルル』
『ギュルル……』
『ムフゥ。ムルルゥ、フゥ……』
涙目でぼそぼそ呟くフレンドに、鼻息を鳴らしながら何事か宥めているパピヨンテ。
さっきからずっとあんな感じである。
基本的にフレンドは穏やかで優しい気質で、見様によっては臆病な所がある。
侵略宇宙人を相手にしているときは血に飢えた獣のような狂暴性を露わにするが、それ以外……特に本来庇護対象である存在から敵意を向けられると、どう処理していいのかわからなくなってああやって落ち込んでしまう。図体が大きくても、純粋な子供のようなものなのである。
とりあえず、ショックを受けてしまったフレンドのカウンセリングは相棒に任せるとして、私はもう一人のカウンセリング対象に視線を向けた。
アリス。
あの後救助された彼女は、非常に心苦しい事だが拘束した状態で船に乗せられている。万が一にでも暴れ出すと大変だからである。
最初は狂乱に等しい暴れっぷりを見せていた彼女だが、バチバチと光を放つ拘束具に戒められ、座席に縛り付けられてからはずっとおとなしい。表情の無いその視線は、じっとフレンド二人を見つめているように見えた。
「さて。あとは軌道上の宇宙船まで、短いフライトと行こうか。あとはこちらに任せて、彼女の相手を頼むよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「何。まさか、生き残り……とはちょっと違うようだが、この惑星の文明を知る者が残されていたとは。我々としても実に望ましい事だよ」
隊長さんはにこやかに笑うと、ドアを潜って操縦席に向かった。ドロップシップの客室には、これでフレンド二人と私だけが残された。
「さて、と」
どうやら、お客さんはこちらで何とかしろ、という隊長からのご依頼、という事らしい。
私は静かにアリスの隣に歩み寄ると、よっこらせ、と腰を下ろした。
「落ち着いたかい、アリス」
『……ああ』
「拘束を解こうか?」
『不要だ。お前たちの信頼をこれ以上損なわない為にも、この拘束具はつけたままの方がいいだろう』
どうやら、落ち着きを完全に取り戻したらしい。いや、それなりに時間があった事で考えの整理がついたのだろうか。
「……あの子達が神獣兵ではない、という事は納得してくれたかい?」
『あのやりとりを見せられれば、嫌でもな。私の知る限り、神獣兵は互いに意思疎通もまともにしなければ、あのように喜怒哀楽を示す事もなかった』
全く形も大きさも違う二人のフレンドが、仲良さそうに触れ合う姿を二人して眺める。
それは、見た目がいかに凶悪でも、それが邪悪な存在ではない事を確信するには十分な、実に微笑ましい光景だった。
『ギュ、ギュギュ……?』
『ムルル、ムフッ』
『ギュー……』
こちらの視線に気が付いたのか、チラッチラッ、とティラノ型フレンド……サロンちゃん、というらしい……が視線をよこす。その視線は、完全に怖い人の機嫌を伺っている感じで、隣に座っているアリスが居心地悪そうに佇まいを直した。
『……そんな目で見るな。ええい、やりづらい……』
神獣兵がどういうものだったかを私は直接は知らないが、想像はできる。
おそらく、ディスペアと同じような存在だったのだろう。
地球防衛戦の終盤、宇宙人の制御下から暴走し地球全土を襲撃した、最強最悪の生物兵器ディスペア。その記録はかなりの量が鮮明に残っており、当然私も目を通したことがある。
フレンドと起源を同じくする存在でありながら、敵意と憎悪以外の感情を見いだせない超攻撃的生物。同胞、という概念すらもあるかどうか怪しく、味方でさえも平然と食らい生物資源に変えてしまうばかりか、必要とあれば自らを爆弾にする事すら厭わない狂気に満ちた殺戮の洪水。
記録映像越しにでも背筋が凍り付くようなあの無慈悲な殺戮の津波に抗ってみせた当時の人類軍兵士達は、一兵卒に至るまで勇者の如き者たちだったと言わざるを得ない。
しかしそれでもディスペアを押しとどめる事は叶わず、最終的にはビッグママが自らを人柱として世界樹を生み出し、全てのディスペアはその元に還った……そう伝えられている。
そして、世界樹から産み落とされた卵から生まれてきたのが、そう、愛すべき我らが友、フレンド達。
神獣兵、ディスペア、フレンド。おそらくはこれらは全て、全く同一の生命体である事は恐らく間違いないのである……。
『先ほどは取り乱した。……すまない』
「いや。我々にとっては数十万年前の事でも、君にとってはつい先日の事だ。仕方ない事さ」
それからしばし、沈黙が流れる。見れば、相棒たちはすっかり仲良くなったようで、体を丸めて鏡餅のように重なってお眠である。絨毯のように体を丸くしたサロンちゃんの上に、これまた体を丸くしたパピヨンテが乗っかっている。すぅすぅ、と寝息に合わせて上下するそれらを微笑ましく見ながら、私はさて、どう話を切り出そうかと頭を悩ませた。
「それで、だ。その、船についたら、アリスはどうしたい?」
『どうしたい、とは……』
「できる限り、私達は君の意思を尊重する。それが他の知性体に害をなすような考えでなければね。望むなら、侵略宇宙人との戦線に参加したっていい。ただ、私個人としては、エンケティアの人たちについて色々教えてほしいかな、と思っているけど……」
彼女はアンドロイドであり、エンケティア人そのものではないけど。
今ではほとんど失われてしまった、その文化を知る者でもある。
知る者がいる限り、その文明は消えない……なんて言うつもりはないけれど、それでも滅びてしまったかつての故郷が、記録としてでも残るのは慰めになるのではないかと思ったのだ。
ただ、それを彼女が望むかどうかは別の話。
自分の胸にだけ秘めておきたい、そういう事もあるだろう。
ちらり、と視線を向けると、表情のない銀色の相貌がじっとこちらを見つめていた。
『お前たちは……後継者どもとは、ずいぶんと違うのだな。お前たちだから、あの獣達はああもおとなしいのだろうか……』
「フレンドね。フレンド。あと彼らはあくまでビッグママが私達に遣わした天使であって、私達はむしろ彼らに助けられているからこそ穏やかでいられるんだ」
『さっきから思っていたんだが、お前らもしかして宗教国家なのか? 宇宙にまで出て?』
ちょっと呆れたようなアリスの声。
あれ、これもしかしてずっと勘違いされてる?
「もしかしてビッグママが架空の存在だと思ってる……?」
『もしかしても何も神とは、宗教とはそういうものだろう?』
さらにどうやら、深刻な認識の違いがあるようである。アリスの言い分は、熱心な母樹信奉者相手だと決闘騒ぎに発展するに十分な失言だ。
あとついでに、宇宙に出ていながら宗教国家やってる残念な例は存在する。侵略宇宙人がまさにその典型例である。
つまり……今の彼女の発言は侵略宇宙人と宇宙連合を同一視したも同然で……ここにいるのが私で良かったと言わざるを得ない。場合によっては大変な事になっていた。
「はあ……わかった。まず、私達……宇宙連合の一角である、地球出身の人類について君に説明しよう。まずはそこからだ」
『?? あ、ああ。よろしく頼む』
「よし。じゃあちょっと待ってくれ、本を取ってくる」
私の個人的に持つ本はホームと一緒に吹っ飛んでしまったが、この船が人類の船であるならばビッグママについての調査書の十や二十、ロッカーの片隅にでも詰め込んであるはずだ。それをちょっと借りよう。できるだけ詩的な言い回しの奴は避けて、事実ベースの奴が欲しいな。誰か持ってるだろうか。
そんなこんなで、兵士の皆さんから資料を借りてアリスに説明したのだが、彼女に納得させるにはずいぶんな時間がかかる事になった。
『いやだからそんな訳わからん人物がいるはずないだろう??』
「いたからこうなってるんだよ!」
『しかしだな……自分の腹を食い破って生まれてきた生物を子供として愛して? それを何十匹も育て続けて? サイキック能力に目覚めて青い炎を操り? しまいには神獣兵のコントロールを奪って母星に超巨大生体プラントを作り上げた? おまけに元男の女?? もうちょっと作り話にしてもリアリティをだな……』
「ふんぎー!!! だ・か・ら、全部事実なの!! し・じ・つ! ビッグママは実在するの!」
ほんとにたいへんだった。
ほんとに。
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