TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
突如艦内に鳴り響く警報。
それを耳にして通路に飛び出した私達を待ち受けているのは、さらなる異常だった。
「何が起きてる!?」
「危ない、皆部屋に戻れ!」
先に通路に出ていたスタッフから警告が飛ぶ。見れば、艦内通路のシャッターというシャッターが、次々に問答無用で閉鎖されていく。ドミノ倒しのように有無を言わせず迫りくるシャッターは、まるでギロチンの刃のようだ。あれに挟まれたらタダでは済まない。
「う、うわああ!?」
『ムフフッ!』
頭上にシャッターの隙間を目視した私は、慌ててその場を引き返そうとする。だがただでさえ苦手な無重力遊泳、おまけに慌てているせいでちっとも前に進まない。そうこうする内に、シャッターの閉鎖がどんどん近づいてきて、ついに私から数枚先までやってきてしまった。
だ、駄目だ、このままだと挟まれる! せめて相棒だけでも……っ!
安全地帯にパピヨンテを投げつけようと抱え上げるが、それを察したのか意地でも離れぬと吸盤で吸い付かれてしまう。お馬鹿、このままだと二人纏めてぺっしゃんこだぞ!?
『こっちです、こっち! 早く!』
「え? ……わっ!?」
と、そんなこんなでパニックになっている私の肩を誰かが掴んだ。次の瞬間、ぐいっと引っ張られた私の目の前でシャッターが閉じていく。
危機一髪、命を拾ったまま、私は個室へと引きずり込まれた。見ている前で、部屋の扉がやはり自動的に閉まり、ロックされる。
「ふへえ、助かった……」
『ムフゥ』
『危ない所でしたね』
相棒と二人、安堵している所で背後から聞きなれた電子音声が聞こえてくる。振り返ると、そこにはぷかぷか浮かぶ水入りのカプセル。中に漂う本体はピクリとも動かないが、代わりに感情を示すマジックハンドは手話のように慌ただしく動いている。
「班長! 助かりました、ありがとうございます」
『いえいえ、困った時はお互い様です』
『ピキュ』
ミストルティンの防疫班長、そしてそのフレンド。
二人のおかげで危ない所を脱する事ができた私は、ぺこぺこと頭を下げた。
「しかし……これは一体何が……」
『どうやら艦のシステムがハッキングされたようです。邪魔されないように、艦内の通路を封鎖したのでしょう』
「じゃ、じゃあさっきのアナウンスって……」
確か、目的地が地球に書き換えられた、なんて言ってた気がする。
まさか、本当に?!
「た、大変だ……ど、どうしましょう……!」
『ムフッ』
艦のシステムがハッキングされた、それだけでも大ごとだが、目的地が地球というのが特に不味い。というのも、地球はこれまで、侵略宇宙人からの再度の直接侵攻を受けた事がない聖域なのだ。理由はハッキリしていないが、とにかく連中が地球の座標情報を喪失している、というのがこれまでの調査から出された結論だ。故に、地球が再び攻撃を受けないよう、宇宙連合艦のデータベースにおける地球の座標情報は最高機密であり、迂闊にアクセスすれば自己破壊を行う様になっている。
と、そこまで考えて、私は違和感を覚えて首を傾げた。
「い、いや、まてよ? どうやって地球の座標を……? 船のデータベースにアクセスできるのは、ごく一部のフレンドだけのはず。彼らの生態認証無しに情報を引き出すのは絶対不可能……」
『フレンドが裏切った……なんて事は絶対にありえませんしな。パートナーを人質にとればあるいは、ですが……』
『ピキュキュ!』
班長の言葉に、相方が若干怒ったように訂正する。『そんな事するぐらいならその場で自決する!!』との事らしい。班長は困ったように魚みたいなフレンドの額をアームで小突いた。
『こらこら。私を置いて一人先に行くんじゃありません、全く。まあそういう訳だから、その可能性もありませんねえ』
「となると……どうやって。いや、さっきの警報、座標が書き換えられた、とはいっていたけど、データベースへのハッキングはいってなかったな……」
確か、艦の制御コアと地球の情報が載ったデータベースは別だったはず。となると……。
「何らかの方法で、地球の座標を別情報で特定した……?」
『まあ、宇宙連合の者ならそう難しくはないでしょうね。関心を持てば、太陽系の場所を絞り込めるだけの情報は皆持っています。とはいえ、誰がこんな事をするんでしょうね。何の意味が?』
「……とにかく、我々はおとなしく待機していましょう。保安部の人がなんとかしてくれるはず……」
こういう時、ヒーロー気取りで動くのはよろしくない。役に立つどころか、脚を引っ張ってしまうだろう。この道のプロがいるのだから、彼らに任せるべきだ。
しかし、私の判断に班長は首を横に振った。
『いいえ。状況はかなり不味いです。保安部にいる仲間と脳波動で連絡を取ったのですが、あちらはもっと徹底的に閉じ込められている模様。何ともなりませんね』
「じゃあ、外部からの救助を……」
『それも時間が無さそうです。機関部の仲間から連絡、エンジンがオーバードライブを開始したそうです。どうやら犯人は、地球近隣に船を転移させた後、そのまま地球に突っ込むつもりみたいですね』
「は……はぁ?!」
しれっととんでもない事を言い出す班長に絶句。
地球に……突っ込む? このサイズの船が? そんなの、やっと回復してきた地球環境が再び滅茶苦茶になってしまうではないか。大気圏内でエンジンが誘爆でもしたら取り返しのつかない事に……いや、もし、マザーツリー本体に突撃でもされたら……。
そこまで考えて、私は最悪の勘違いに気が付いた。
犯人の狙いは、地球じゃない。正確には、そこに生えるマザーツリー……いや。
そこで眠り続けるビッグママだ。
「……っ! ど、どうにかしないと……っ。でもどうしたら……っ」
『ムフゥ……』
だがそれが分かった所でどうしようもない。この身は貧弱な、ただの学者。この閉鎖された隔壁を突破して中央システムに辿り着くような能力は持ち合わせていない。いや、戦闘型フレンドでも、侵略宇宙人との艦内戦闘を想定して作られた隔壁を破壊する事は容易ではない……!
『ふむ。どうやらこの状況、のっぴきならない模様。うだうだ行ってないで、個々人が己の出来る事をするべき展開のようですな』
「班長……しかし、私に出来る事なんて……」
『時に。実は私の頭の中にこの艦の設計図が入っている、っていったらどうします?』
「え?」
突然妙な事を言い出した班長をきょとんと見返す。
そんな私に、班長はマジックハンドを伸ばして、天井の隅っこにある通風ダクトを指さした。そう、ちょうど人間一人ならギリギリ潜れそうな広さのそれを。
「大丈夫か、相棒~」
『ムフッハフッ』
ずりずり。ずりずり。
通風ダクトの中を這いつくばって進んでいく。ダクトの中は真っ暗だったが、予想に反して埃はたまっていなかった。定期的にお掃除ロボが掃除をしているのだろう。
その私の顔の前を、チクチク歩いているのは相棒である。彼は吸盤でぺたぺた床を探りながら、迷う事なく複雑な分岐を進んでいく。
「本当に道分かってるんだよな? いくら脳波動が使える者同士といっても、フレンドとミストルティンの間じゃ大分勝手が違うって聞いたけど」
『ムフゥ。フフフルゥ』
不安になって問いかけるが、返ってくるのは相棒の自信に満ちた鼻息だけ。結局それで安心できるという事もなく、私は不安を抱えたまま、とにかく相棒の後ろについていく。
と、その進む先がふさがれているのが見えた。
ダクト内部にまで警備システムはないが、効率よく換気を行う為に適宜ルートが変更される仕組みがある。それが艦のハッキングによって止まっているままのようだ。
このままでは先に進む事ができないが……。
「相棒、頼む」
『ムフルルゥ』
合点承知、とダクトを閉ざすシャッターに近づいた相棒が、吸盤でがっちりとそれを掴む。そして、ぐわ、と力むとシャッターがゆっくりと持ち上がる。あるていど持ち上げて押し込むと、そのままシャッターは開いたまま停止した。
「手を離すなよー」
『ムルル』
そして相棒が持ち上げている間に、シャッターを通過する。私が通り過ぎるのを確認して、再び相棒が前に。
他の誰かではなく、私と相棒がダクトに潜り込んでいるのはこれが理由だ。班長達もサイズ的にはここに入れるのだが、同じようにダクトに潜り込めて、なおかつ途中で道を塞いでいる障害物を押しのけられるだけのパワーを持っているのは相棒だけだったのだ。
フレンドとパートナーを別々に運用するのはあり得ないので、こうして私も一緒にダクトに潜り込み、狭い中を這いずっているのである。
「ひー。どっかでひっかかりませんよーに。無事に出られますよーに」
『ムフゥ』
「笑いごとじゃないぞ! こんな所じゃバックもできないし、進めなくなったらここから出られなくなるんだぞ、一生!」
そうなったらここに閉じ込められたままお陀仏である。冗談じゃない。
ひぃひぃ言いながら這いずる事20分。長いようで短い探索に、やがて終わりの時がやってきた。
『ムヒ』
「ここがゴールか……!」
相棒がぺたぺた吸盤を張り付けるダクトの出口に全力で這いよる。なんとか這い出した私は、直後に人工重力に引っ張られる形でずるりとそこから滑り落ちた。
「お、わっ!? ……た、助かった、ありがとう」
『ムルル』
床に叩きつけられる寸前で、相棒が吸盤で私をキャッチ。脚を踏ん張ってゆっくり卸してくれるパピョンテに例をいうと、ぴょーんとダクトから飛び降りてくるのでそれをキャッチ。
抱き留めた相棒を、床に降ろすと周囲を見渡す。
「……よし。間違いなく中枢コンピュータールームだ」
寒いぐらいのひんやりとした空気に、薄暗い室内。部屋の中央には球状の多角形結晶体がいくつもの金属支柱に支えられて鎮座している。その無数の面にはひっきりなしに無数のコードが映し出されているが、いくつかの面は真っ赤に染まってエラーを発していた。
その、中央制御システムの前に一人の人影。
銀色の。
『来たか』
「…………やっぱり、君だったんだな」
半ば予想していたとはいえ、ショックではある。私はそれを飲み込んで、ホルスターから銃を抜いた。
「投降しろ、アリス。何でこんな事をしたのかは分からないが、ここまでだ!」
『……いいや。これからだ』
抵抗すれば、撃つ。その覚悟を込めて向けた銃口に、ゆっくりとアリスが振り返る。
その銀色の相貌からは、相変わらずその感情は伺い知れなかった。
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