TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
中央システムを背後ににらみ合う私とアリス。
この期に及んで、今更勘違いはあり得まい。
だがそれでも、私は納得がいかなかった。
「何故だ。どうして。ここまでする必要がどこにある?」
『あるさ。少なくとも私には』
「フレンドの事がそんなに憎いのか?!」
私の叫びに、足元でパピヨンテがびくっ、と体を小さくする。私は唇を噛み、離れているように相棒に命じた。
「フレンドは神獣兵とは違う……君だってわかってくれただろう!」
『だが、フレンドと神獣兵が同一の存在であると認めているのは君達だろう』
「それは……」
確かに、生物学的にはフレンドと神獣兵は同じかもしれない。だがその間には大きな隔たりがあるのも事実だ。
フレンド達は愛を知った。だからこそ、彼らはその愛に報いるために今を生きている。
決して、神獣兵と同じではない!
『それでもフレンドと神獣兵は違うと? いいや、そんな事はない。同じ事さ』
「何を……」
『そうとも。お前たちがそう望めば! 奴らは悪魔にでも喜んでなるだろう! 己よりも大切な、お前たちのためならば!』
アリスの糾弾に。
私は、返す言葉もなくただ凍り付いた。
『私でもわかる! フレンドは、お前たちの事を愛している! 心から……お前たちの幸せを望んでいる。そう、お前たちの幸せのみをだ! そのお前達が、相容れぬ者達の排除を望めば彼らは進んでその牙を血で濡らすだろう! 喜びのまま、使命のままに! それは……ただ機械的に殺戮を繰り返していた神獣兵よりももっと悍ましい存在だ。私は、エンケティア最後の生き残りとして、それを阻止しなければならない使命と宿命がある!』
「そんなことは……そんな事はない! 私達は、決して後継者のような過ちなど……!」
『どうしていえる! どうして断言できる! 自らの生きていない遠い未来の事を、どうしてお前が断言できる!!』
アリスの言葉は、かつて私の抱いた不安の鏡写しのようで。
糾弾する銀色の人形は、現知性体の抱える恐怖の裏返しであった。
『お前達の歴史も見た。侵略宇宙人戦争以前の、血と死に塗れた殺戮の歴史を。同じ星に生きる、同じ種の知性体で何千年と殺し合い続けたその過去を! 過去の過ちから学ぶ? 同じ過ちは繰り返さない? それができるのは賢者だけだ! 生きる多くの命は、賢者でも愚者でもない唯の人……悪にでも善にでも容易く転がる。そんなお前達が、どうして未来に災禍を齎さないと断言できる?』
「だから……だからマザーツリーを破壊するのか。そこに眠る、ビッグママを殺そうというのか」
『そうだ。全てのフレンドは、マザーツリー本体によって統括制御されている。それさえ破壊すれば、少なくともフレンドが一つの意思で統括されて動く事は避けられる。神獣兵の再来は阻止できる。その為なら、私はなんだってする。なんだってできる!』
アリスの言葉に揺らぎはない。彼女の決意と覚悟は確固たる信念に裏打ちされたものだ。
対して、私の心はすでにぐらぐらに揺れていた。
自らが心の奥に潜めていた不安を、赤裸々に暴かれたような気分だった。だがそんなもの、アリスからすればお見通しどころか、当然の事だったのかもしれない。
「それでも……それでも、そんな事は成功しない! マザーツリーだぞ?! どれだけの防衛体制がしかれていると思っている、こんな巡洋艦が一隻突っ込んだところで……!」
『いいや。お前達が懇切丁寧に押してくれただろう。計算する限りでは、ワープゲート通過後最大船速で突っ込んでいく巡洋艦を止める事は出来ない。これだけの質量を、跡形もなく蒸発させるような兵器はマザーツリー近隣には配備されていない』
「君も死ぬんだぞ!」
アリスを止めようとなんとか言葉を尽くそうも、私の口から出てきたのはまるで三流の悪党の命乞いのような、陳腐でつまらない言葉だった。
自分で自分に愕然とする。
『構わないとも。私はその為につくられた……なあ、学者の君。地球の最盛期の人口は、何人だった?』
「? ……侵略宇宙人戦争が起きる前は、81億人はいたといわれている。戦後は、一億人しか生き残らなかった」
『200億人だ』
「……? !」
言葉の意味を理解して、私は息を呑んだ。
そうだ。エンケティアは、母星だけでなく、複数の植民惑星を持った星間国家だった。そこに住んでいた命は、地球のそれよりも……否、宇宙連合に所属する、あらゆる知性体のそれより多かったのは間違いない。その数が、200億人。
『そうだ……200億人! 数万年の歴史! 互いに手を取りあい発展してきたエンケティア人! その全てが……あの悪夢のような戦いの中で、神獣兵の……忌まわしき悪魔の腹に消えたのだ! 私は今でもはっきりと覚えている! 前線で共に戦い、連中に殺された戦友の断末魔を! 貪られる避難民の悲鳴を! 母星から撤収する際、脱出船のハッチから私は見た……脱出できなかった難民の群れに襲い掛かる、地を埋め尽くす殺戮の津波を。助けられなかった、私は見ているだけだった! 数多の命が、何の意味もなく失われている様を、私はただ見ていただけだった!! 見ていただけだったんだ!!』
「それは……でも、それはもう、終わってしまった事で……」
『終わってなどいない!!!』
それは絶叫だった。
過去からの。そして、どうしてか今になって蘇ってしまった、一人の戦士の、砕ける魂が発する断末魔だった。
『お前達にとっては数百年前の! この宇宙にとっては数十万前の! だが私にとっては地続きの今なのだ! 私の戦いは、終わってなどいない、終わらせる事などできない。ただ一つ、神獣兵の殲滅をもってしか、私の戦争は終わらない!』
「その為に……その為に今を生きる命を巻き込むのか、犠牲にするのか?! それが正しい事なんかじゃないって、君ならわかるだろう!」
『正しければ、間違っていれば許されるのか。であれば、私達エンケティアがどんな過ちをしたというんだ? 教えてくれ。200億の命が生きたまま食い殺されるのに、どんな罪が、過ちがあったというんだ! そんなものがあるなら、教えてくれ。頼むから……私に誰か、教えてくれ……ああああああああああああ……!』
銀色の美しい人型が、顔を押さえて咽び泣く。だがその瞳からは、一滴の涙も零れはしない。
それを見て私は、下がりそうになる銃口を必死に持ち上げるので精いっぱいだった。
私の言葉は全て希望的観測でしかない。戦争を知らない、平和の中に生きてきた者の言葉でしかない。
アリスの言葉は全て客観的な事実に基づく言葉だ。戦争の為に生まれ、戦争しか残されていない者の言葉だ。
両者の間にはどこまでいっても交わらない線が引かれていて。お互いにそれを踏み越える事が出来ないでいる。
……ああ。
偉大なるビッグママ。教えてくれ。
貴方はこの線を、どうやって踏み越えたんだ?
地球人類の80億人を殺され、自らもきっと親しい者を、愛しい者を奪われ続けた人生の果てに、どうしてそれでも誰かの為に愛を選べたのですか。
どうして全てを捨てて、見知らぬ未来を信じる事が出来たのですか。
「それでも……それでも!」
答えを知らない私にできるのは、ただ厚顔無恥にふるまう事だけだった。
「それでもマザーツリーは破壊させない! 今を生きる私達の為に、それだけはさせない……!」
『そうだ……それでいい……。所詮エゴの話だ、お互いを理解する必要はない! だが、それが貴方にできるかな!?』
顔から手を降ろしたアリスが、右手を銃に変形させる。紫電を放つ虚ろな穴が、正面から私を覗き込む。
背筋を震わせながらも、私もまたハンドガンを彼女に向ける。ギリ、と奥歯がきしむ音がした。
「できる……出来るとも! 君こそ、私を撃てるのか? ……いいや、撃てない! 君は、善良な者を守る為に作られた。君に、今の私は撃てない。だからこそ、君はこんな凶行を起こした! 自分だって本当はわかっているんだろう!? こんなのただの逆恨みだ! 君が復讐するべきは神獣兵ではなく後継者であり、その後継者はとっくに滅びた! 君が戦うべきは、私達でもフレンドでもない! 後継者を引き継いだ神と、その配下たる侵略宇宙人だ! 私達同士に争う理由なんて、ない!」
『ああ、そうだな。……そうだとも! 私のやっているのは逆恨みだ、だとしても! 私は神獣兵を滅ぼすために作り出されたのだ!』
どこまでいっても平行線。
撃つしかないのか。
本当に、それしか手段はないのか?
私達と彼女が手を取り合う未来が、まだどこかにあるんじゃないかという希望を、私は捨てられないでいた。
「く……う……っ!」
『そして、君も一つ勘違いをしている。ああ、認めよう。確かに私に君を撃つ事はできない。だが……神獣兵の生まれ変わりを撃つ事に、何の躊躇いはない』
チャキ、とアリスが狙いを変える。
その向かう先は、距離を取らせた私の相棒。
物陰に隠れて私達を見守っていたパピヨンテに、彼女の煌めく銃口が向けられている。
それを理解した瞬間、私の頭は真っ白になった。
「な……っ」
『死ね、神獣兵!!』
『ムハッ!?』
銃口に光が宿る。
静かなコンピュータールームに、一発の銃声が響き渡った。
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