TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
ドシャリ、と銀色の人型がその場に崩れ落ちる。
銃口から煙を上げるハンドガンを構えたまま、私はその様を呆然と見守っていた。煙に紛れて、バチ、と荷電粒子の光が弾ける。
「……はっ、相棒! 無事か!?」
ややあって我に帰った私は相棒の元へ駆け寄った。物陰からおずおずと顔を見せるパピヨンテに飛びつくように抱き着き、その躰を弄って傷を確かめる。
「大丈夫か!? どこか痛い所は?!」
『ム、ムフゥ……』
「……どこにも、傷がない?」
銃創どころか、傷一つない相棒の姿を確認して安堵すると同時に困惑する。私は相棒を抱きかかえたまま立ち上がると、倒れたまま動かないアリスに目を向けた。
……まさか。
「アリス……」
ゆっくりと彼女にあゆみよるが、銀色の人形はピクリとも動かない。
そっと傍らに膝をつくと私は相棒を床に置き、アリスの上半身を抱え起こす。
その胸部には、一発の風穴。私の放ったハンドビームガンの一撃が、彼女の制御中枢を確かに撃ちぬいていた。
「……どうして」
『ザ……ザザ……当然の、こ……。私の、使命……神獣……駆逐……。そし、て……ザッ、善良なる生命体の……守護……。フレン、ド……善良なる生命体……直接加害……禁則事項……』
「だったらなんで……なんでどうして、こんな事を……!」
アリスの、明らかに矛盾した行動原理を糾弾する。
最後の最後で引き金を思いとどまるようなら、どうしてこんな事をしでかしたのか。
どうして。
どうして……!
『……私の、存在意義……エンケティアの外敵……排除……神獣兵の、駆除……ザザッ、戦友の遺言……奴らを、滅ぼせ……。エンケティアの……理念……。融和と、繁栄……。フレ、ンド……それを体現する、存在……。敵……保護対象……敵……保護対象……ザ、ザザ……』
「アリス……ッ」
私は、ようやく、全てが手遅れになってからようやく理解した。
コンフリクト。
機械である彼女は、自らの存在意義に逆らう事は出来ない。そして戦闘兵器である彼女の存在意義とは、外敵……すなわち神獣兵の排除。だが同時に、彼女には軍人として守るべき模範もある。
敵を倒し、善良なる者を守護せよ。
それは清く正しい理念だ。だが、その敵と守護対象が、全く同じ存在であったら?
倒すべき敵である神獣兵。
護るべき善良な存在であるフレンド。
それら二つが本質的に同じである時、使命に従うべき存在である彼女はどうすればいい?
その矛盾を、知性体ではない彼女は克服できなかった。ただ、その二つに優先度の違いがあっただけ。
トラウマや後悔は、その行動理由を補強する為の後付けに過ぎない。機械である彼女は、感情よりもプロトコルが優先される。
それだけの事だった。
『私……私は、壊れた兵器、だっ……ザッ、ザ……倒すべきを過ち……エンケティアの名に、消えない傷を……ザッ、ガ……私、私は……』
「違う……そんな事はない……っ! 君は、最後の最後で間違えなかった……! ひいてはいけない引き金を、自分の意思で止めたじゃないか……!」
そうだ。
彼女は最後の最後に、パピヨンテに向けた銃の引き金を引かなかった。
矛盾したプロトコルの強制に、彼女は自分の意思で抗った。エンケティアの名誉を、最後の最後で守り抜いた。壊れた機械なんかじゃない。
「君は……最後のエンケティアとして、成すべき事を成したんだ……!」
表情の無い、アリスの銀色の相貌。その眼窩を思わせるくぼみに、ぽた、ぽた、と雫が落ちていく。それは溜まって溢れると、つぅ、と彼女の頬に一筋の線を描いた。
『……泣いて……ザッ、いるのか……私の、ために……?』
「く……ぅ……ううううう……!」
『ムヒゥ……』
歯を食いしばる私の横に、相棒が身を寄せてくる。彼は悲しそうに鳴きながら、ぺたぺた、とアリスの体を優しく吸盤で弄った。
それに撫で返す銀色の手が、ぎこちない動きで持ち上げられる。細い指先が、私の頬に優しく触れた。
『……学……者……ザッ、名前を、聞いて、なかった……な。良かったら……ガガッ、教えて、欲しい……』
「……ハインケル。ハインケル・R・グラウスマン」
『……良い、名だ。……ハインケル、どうか、君の踏みしめる大地に……硬き石が敷き詰められん事を……遥か大地の底から、願う……』
その言葉を最後に。
パタリ、とアリスの手が落ちた。
「アリス? ……アリス、どうした?」
『……………………』
分かっている。
彼女は、もう何も答えない。
見た目では何も違わないのに。ずっと彼女の体はそこにあるのに。冷たい感触はずっと変わらないのに。
彼女はもう二度と、動く事はない。
物は物のまま。だけど永遠に、それは失われた。
「う……うう……っ。ううう……!」
『ムヒィ、ムフゥ……ムルル……』
アリスを抱きかかえたまま咽び泣く私に、相棒が寄り添い、その涙を拭ってくれる。その優しさが、今は無償に辛かった。
『……艦内スタッフに通達します。中央システム、通常状態に復帰。異常ステータス解除の為、全航行システムがリセットされます。スタッフは所定の位置について作業を行ってください。繰り返します、中央システム、通常状態に復帰……』
アリスの“亡骸”は月面に存在する戦没者墓地に埋められる事に決まった。
侵略宇宙人との闘いで命を散らした知性体やフレンドが眠る冷たい墓所。永年にわたって地球を宇宙からの脅威から守ってきた月の傘の下で、全ての懊悩から解放された残され人は眠っている。
「……私は、どうすればよかったんでしょうか……」
その墓に花を捧げながら、私は傍らに立つ防疫班長に語り掛けた。彼もまた、マジックハンドに抱えた花を、そっと墓前に供える。
「もっと、彼女の事を私が理解できていれば……こんな末路には……」
『そうかもしれないね。だけどそれは私達にも言える事だ。むしろ、彼女達と接触した時間でいえば、私の方が多い。誰かの責任にしていては、キリがないよ。……これは、私達、フレンドと共に生きる全ての命が、考えていかなければならない事だ。かつてビッグママが持ち去り、引き延ばしてくれた命題。私達に、それと向き合う時が来た、そういう事なのだろう』
「……ビッグママなら……あの人ならば、アリスを救ってやる事ができたんでしょうか……?」
傍らの相棒を抱きしめ、私は目を伏せる。
ビッグママは、かつてディスペアだった存在を許し受け入れ、フレンドを齎した。そんな彼女であれば、アリスの迷いに救いを与える事が出来たのではないか?
そんな私の逃げとも迷いともいえる言葉を、しかし防疫班長は切り捨てた。
『そうであったかもしれないし、そうはならなかったかもしれない。いいかい、ハインケル君。ビッグママは私達にとって神そのものだが、しかし決して神ではない。彼女を、私達にとって都合のいいだけの神様にしてはいけないよ』
「……はい。申し訳ありません」
優しくも妥協の無い言葉で窘められて、私は唇を噛む。
やはり私は未熟者だ。
それでも……生きていかなければならない。アリスの願いに応えるためにも、苦悩と苦しみを抱えて、全てを救う都合のいい答えなど見つからないとしても、それでも。
それが、命なのだから。
『さ、そろそろ行こうか』
「はい」
『ムルルゥ』
四人連れそって、墓場を後にする。その前に、私は一度だけ、彼女の墓に振り向いた。
「次に来るときは、きっと何か……答えの一つでも見つけてくるよ。それまで、さようなら」
白い石の墓碑は何も言わない。
ただ、墓に備えられた二輪の花が、ドーム内の小さな風にそよそよと揺れていた。
縋る者無き時代を、私達はそれでも生きていく。
これもきっといつか、一つの想い出になるのだろう。
母無き時代の、回顧録として。
FIN
オマケ
『そんでもって彼女が全部台無しにする』
「そうか……そんな事があったのか……」
「……はい。情けない話申し訳ありません」
「いやいや、そんな事は……」
月面にあるという、集団墓地を訪れた私。
私はそこで、お墓参りしていた青年から、彼の身に起きた出来事を聞かせてもらっていた。
白くくすんだ墓に目を向けると、件の自動人形の名が刻まれている。
「それにしても。グラウスマン氏の子孫でいらっしゃったとは。どこかで見た顔だと思いました」
「……その……そんなに似ていますか? 結構、血縁は遠いのですが……」
「似てる似てる、生き写し。びっくりしたもん」
そうでなきゃ、不躾にも墓参りに来ている人に声をかけたりしないって。いやマジで吃驚したんだよ、死人が蘇ったのかと思ったぐらい。
いやー、それにしてもあの人の血筋が残ってたなんてなあ。……正直、あの人には悪い事をしたよ。本人は、私に銃を向けたのをずっと後悔してたらしいけど、あれはあくまで侵略宇宙人どものせいで思考がゆがめられていたせいだし、あまつさえ私はそれを利用しただけだからさあ。
なのにずっとそれを引きずって、最後にはマザーツリーを護って死んじゃうなんてさ……死んじゃったら全部終わりじゃんかよ。せっかくディスペア災害からも生き残ったのに……お馬鹿……。
そのグラウスマン氏の子孫が、またしてもマザーツリーを護った。何だか不思議な因縁を感じる、といったらおかしいだろうか?
そんな事を考えていたら、横からアースが顔を突っ込んできた。なんだか不機嫌そうである。
『ピルルル』
「ああ……うん。お前がいたね、今度は」
どうやらそのころには自分が居たからどの道マザーツリーには傷一つつけさせなかった、と言いたいらしい。まあそれはわかるけどもうちょっと情緒というものを理解してほしいかな、お母さん的には。
いや、まあ、でもまだこの子にはちょっと早いか……。
「せっかくだから、私にも手を合わさせてくれ」
「ありがとうございます。きっと彼女も喜ぶでしょう」
ハインケル氏が場所を開けてくれたので、私も墓前にしゃがみ込んで手を合わせる。
どうか穏やかに……って、うん?
これは……むむ?
『どうかなさいましたか、お母様』
「ピカリン、ちょっとまって。えーっと、パピヨンテちゃん、っていったよね。少しこっちきて」
『ムフッ』
ハインケル氏のフレンドを抱きかかえて、そのおでことおでこをくっつけて情報交換。ふむふむ、これは……あっ、なるほど。ふむふむ?
「? ビッグママ、一体何を……」
「ああいやなんていうか、うーん、あっ、いけそう。ちょちょいの……せーの」
『アッ、ちょ、お母様、少しタンマ……』
手探りで感覚を掴んでー、繋いで―、そしたら……。
「どっせい!!」
『ホワアアアア!?』
掴んだそれをぐっと引き寄せる。途端に、墓石を下から突き破って、銀色のアンドロイドが生えてきた。
よっし! 上手くいった!
「ええええ!? アリス!?」
『ああ……やっぱりこうなりましたか……』
『な、なっ、なんだ!? 何がどうなって、私は機能停止したはずでは!?』
おっ、どうやら記憶は連続しているらしいな。予想以上に上手くいった。
きょろきょろ周囲を見渡して狼狽えているアンドロイドちゃんに、腕を組んで私も満足。いやあ、いい仕事をしたあ。
あっ、でも説明しないと不味いよね。うん。
「あ、あの、ビッグママ、これは一体……」
「いや、あのね。君のフレンドが機能停止寸前のアリスちゃんの中枢回路の素子の動きを覚えていたから、それをちょっと見せてもらって私の方で回路を再現してみた。見た感じ破損したといっても、記憶回路とか電算回路の損傷は一部で、それをバイパスする回路の破損が中心みたいだったから、今は私の演算能力の一部を繋いで動かしてる。通じる?」
「あ、え、その、意味は理解できますが訳がわかりません。えっうちのパピヨンテがそんな事してたんです??」
してたんだよな。
どうにも君、パピヨンテちゃんの能力を怪力だと思ってたみたいだけど、あの程度の怪力ならチルドレンは標準装備だったよ。パピヨンテちゃんの能力は、素粒子レベルで識別可能な嗅覚の方だよ。犬の何億倍、というか科学的に痕跡があればそれを追跡できるだけの分析能力がこの子の能力で、なのでアリスちゃんが機能停止する時、その電子回路の活動を匂いという形で覚えててくれたんだよね。それを参考に、私のネットワークに繋いで機能を再現してるのです。
ふはははは、アシミレイターの生産プラントのロックを解除した時に比べればこの程度お茶の子さいさい、朝飯前どころか寝ていてもできるわ! フハハハハハ!!
いやあ知性体でも生き物でもないってのが、こんな所で利点になるとはね! 流石の私も死人をよみがえらせる事は出来ないけど、ロボットの再起動ぐらいならまあなんとか出来ない事もないからさ!
『??????? は、ハインケル、何がどうなって今はいつだ? このやたらと偉そうな少女はなんだ? 今何か理解できるが理解できない事を言っていた気がするんだが』
「…………ゴメン、説明はちょっとあとで。私も今噛み砕くので必死で……」
『もはや考えるより感じた方が早いと言えましょう。とりあえず、宇宙連合本部に連絡しておきます……うっ、胃が……』
? なんで皆そんなに雰囲気暗いのさ? ピカリンどしたの、お腹痛いの? 銀ドンブリ食べる?
とにかくさあ、せっかくアリスちゃんが蘇ったんだよ? もっと皆で喜ぼうよ! ね!
『ピルルルル』
『ムフッ、ムハッ、ムヒヒィン』
あっこらアース、いくら興味があったからってパピヨンテちゃんのお口に顔をつっこむのはやめなさい! こまってるでしょ!! こら!!
なお後で美鶴さんに滅茶苦茶怒られました。
ひぃん。
「……ビッグママ? 何かやらかすときは一言ピカリンを通して連絡する。そう約束しましたよね?」
「あっいや、その、事態は一秒を争うというか……パピヨンテちゃんの記憶が薄れるまえにやらないといけなかったというか……えっとその……」
「五年たって覚えてたんですから30秒ぐらい誤差ですよね? こっちの判断を待て、というんじゃないです、一言断りを入れてください、と言っているんです。おわかり?」
「はひ…………(涙」
《母無き世界の回顧録 こんどこそ終わり》
あとがき
はい、作者のSISです。
そういう訳で、唐突に始まったTSエイリアン外伝『母無き世界の回顧録』、これにて完結でございます。本作はまあ、ママが居ないと作品の世界観って基本的に救いのないハードSFだよね、っていうか、ちょっと思いついたネタをやってみたかったというか。本編では神獣兵のあれこれはビッグママが全部もっていってしまって人間達は美味しいとこだけ受け継いだので、きちんとフレンドと歩んでいく上でちゃんとそこを見つめ直す必要があるな、と。
勿論、神獣兵達が全部悪いのではなく、彼らはあくまで後継者に強いられて殺戮を行ったのでその罪の全部がある訳ではありません。それでも、彼らは単なる道具……殺人に使われたナイフのような物ではなかった訳ですから、完全に無罪というのも言い難いというのが作者の思う所です。
さらに言えば、本編における亡霊たちの言い分は、正しい訳ではありませんが間違っている訳ではなく……結局ビッグママ一人で抱えていってしまったこの問題についても、人類たちで共有し、向き合う必要はあると思いました。
そういった、少しばかり残ってしまったしこりを乗り越えて、フレンド達と人類が真に未来を目指す為には必要な禊として、この話を執筆した次第であります。
そういう訳で、ちょっと重々しい話になってしまったかもしれません。……ので、最後には我らがビッグママにぱあっと明るくしてもらいました。あはは、あれは流星かな? でも光り方がちょっと違うかな……?
こういう話をちゃんと乗り越えたのであれば、人類も厄災三兄弟を受け入れ……受け……いや受け入れられるかなあ単純に暴が過ぎるし……。
まあでもどっかで多分手綱を握る必要はあるんですよね……ははは……。
とりあえずむつかしい事はピカリンに任せておきましょう、ええ。きっとうまくやってくれる。
あとは、そうですねえ。知っちゃうと台無しな本編のあれこれについて、少し。
主人公こと学者君ことハインケル君については、じつは最終話書くまで名無しでした。マジで。かいてる途中で、「おっ、そういえばこの子がグラウスマン氏の関係者だったらいい感じにならない?」みたいに思いついて急遽設定しました。
なんかこー、先祖の事が彼女の中でしこりになっていて、過去の争いについて知るべく学者になった、みたいな。なので一人でいるときも鬱々と悪い方向にばかり考えていた訳です。そんな相棒をフレンドもまた放っておけなかった訳ですが。
グラウスマン氏については、自分の事を罪人だと思っているのは当人ぐらいのもので、人類の間では普通に偉人です。ビッグママも「核弾頭一発ぐらいなら耐えたのに……」と彼の献身を悲しんでいます。惜しい人を亡くした……。
まあアースからすれば一発だけでもとんでもねーよ!! って事であんなオーバースペックな体を用意したんですが。
今後については、またネタが思いついてかつ余裕があって、なおかつ新作が上手くいかなかった時にまた書こうかなと思ってます。やっぱりね、本作を書くのは楽しい。世界観が完成されていて、キーボードを叩いているだけでどんどん話が膨らんでいきます。
今回は辛気臭い話だったので、次は完全にギャグ方向に振り切ってみるのもありかもですね。全宇宙で人気の特撮番組“宇宙戦隊スペースファイブ”の撮影現場にビッグママがやってくるとか(もれなく関係者全員の胃が死ぬ。特にビッグママ役の俳優)。ビッグフレンドが合体して誕生する合体フレンドロボに夢中なママを前にアースが嫉妬のあまり歯ぎしりするとか(ビッグフレンドに変身する役のフレンド達の胃が死ぬ)。楽しそう。
夢はふくらみんぐ……。
それでは、今回はこのあたりで。
お付き合いいただき、ありがとうございました~。
思い付きのオマケ
『宇宙戦隊スペースファイブ 予告』
ビッグママの力により、救われた地球……。
だが悪魔たちは諦めていなかった! 数百年の時を経て、再び襲い掛かるスペースデビルの大攻勢。
地球の危機に、マザーツリーの祝福を受けた五人の若者が立ち上がる!
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『『『『『五人そろって! 宇宙戦隊、スペースファイブ!!』』』』』
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