TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『名付けて人食いバスタオル、なんちゃって』

 

 

 安全なハズの人類集落、そこに向かう途中に宇宙人の部隊がいる。

 

 それも、戦闘専門のセンチネル・オーダーの連中と来た。

 

 明らかにキナ臭い気配を感じ取り、私は瓦礫の影で顔をしかめた。

 

「どういう事だ……? なんで人間の勢力圏内に連中が……?」

 

 たまたま、という事はありえない。

 

 そもそもこのあたりは、人類軍の最前線の内側だ。確認した限り、前哨基地は健在。複数の強化スーツを装備した兵士が、24時間体制で警戒している。確かに制空権は敵に取られて久しいが、かといって素通りさせるほど防空体制も緩くない。というか緩かったらとっくに基地は消滅させられている。

 

 その監視網を潜り抜けてきたというなら、明確な目的の存在する作戦行動のはずだ。

 

 何より。

 

 興味半分としか思えない殺戮に興じるテクノカルティストどもや、信仰の名のもとに殺戮を正当化するオカルティストどもと違い、センチネル・オーダーの連中は鉄の規律に従って行動する軍事部門。

 

 こいつらが出てくる場合、ほとんどの場合ろくな事にならない。

 

「ち……っ」

 

 どうする?

 

 逡巡は一瞬。

 

 私はこいつらを排除する事にした。考えようによってはチャンスでもある。

 

 本来、数個小隊での活動を基本とするセンチネルの兵士が、5人前後という最小単位で行動している。こちらの被害を最小限に、危険な連中を排除するよいチャンスだ。

 

「よし……キティ。頼む」

 

『ふみゅ』

 

 私が合図を出すと、するすると我が子が私から離れていく。見た目通り、布程度の厚さと重さしか持たない子は、音もなく瓦礫の中に入り込むと姿を消した。

 

 こうなってしまうと熱源探知にも動体センサーにも引っかからない。

 

 というか私にもどこに行ったのかわからない。まあ素直な子なので、合図一つで戻ってくるのだが。

 

「うむ」

 

 数秒まって、私は大胆に瓦礫の陰から歩み出た。

 

 どうどうと通りに身を晒す。目前には、こちらに背を向けたセンチネルの兵士達。

 

 なんだ、まだ私に気が付いていないのか。

 

 たるんでいるぞ。

 

 私はにひひひ、と頬をゆがめて、悪戯っ気たっぷりにその無防備な背中に声をかけた。

 

「やあ、こんにちは」

 

『!?』

 

 流石に反応は早かった。

 

 はじかれたように振り返るヘルメットの兵士。ほぼ同時に抱えていたレーザーガンを構えて私に照準を向ける。

 

 直後、確認も躊躇もなく放たれるレーザーを、私は再び物陰に飛び込む事で回避した。

 

「ひゅう、問答無用か」

 

 軽口をたたいていると、カラン、コロンと私の潜む物陰に投げ込まれてきたものがあった。

 

 球状の、真鍮色の物体。人類軍の使うそれとはずいぶんとサイズが違い小型だが、いわゆる、フラググレネードというやつだ。安全ピンを引っこ抜いて投擲し、数秒後に爆発して破片で殺傷するおなじみの奴。

 

 予想通りの攻撃に、私はそれを全力で蹴り飛ばした。物陰から放り出されたグレネードは向かいの壁に激突して反射し、空中で弾けた。

 

 その爆音で、センチネルのレーザー攻撃が一時停止する。今頃奴らも地に身を伏せて退避しているのだろう。

 

 それが、奴らの命取りだ。

 

「なんだろうな。超テクノロジー使ってるくせに人間とそう変わらないものを使うってのは、なんだ? ローテク主義か?」

 

 そりゃあ質量だの爆薬だのは歴史に裏打ちされてきた背景があるが。宇宙人もそうなのかね。

 

 ぼやきながら、無防備に通りに身を晒す。あちこちにレーザーの弾痕が残り、ぶすぶすと煙を上げているが追撃はない。

 

 代わりに、センチネル兵の立っていた場所に、妙なものが広がっていた。

 

 ピンク色の、大きな絨毯というか。少しだけ盛り上がっていた中央部が、私の見ている前でみるみる萎んでいく。

 

 やがて完全にぺったんこになってしまった桃色毛布に、私は声をかけた。

 

「お疲れ様、キティ。ナイス不意打ち」

 

『みゅふー♪』

 

 鳴き声を上げながら、もこもこと毛布が縮んでいく。元のサイズに戻った我が子が、風に吹かれるハンカチのようにひらりと私の元に戻ってきて、体を素早く這い上がって肩に巻き付いた。

 

 その毛並みを、私は優しく撫でまわした。

 

「いつもながら鮮やかな手口、ほれぼれしちゃうね」

 

 視線を向けると、兵士達が立っていた場所には何の痕跡もない。ちょっと地面が汚れているかな? といった程度だ。

 

 これがキティの戦術だ。

 

 この子には、鋭い爪も牙もなく、大地を駆ける足も、対象を粉砕する超振動波もない。

 

 代わりにあるのは、あらゆる物質を瞬く間に融解させてしまう溶解液と、それによって溶かした物質を一瞬で吸収する消化能力。

 

 厚みがなくやわらかな体で、常識では考えられない隙間にするすると潜り込み、敵の不意をついて奇襲し抵抗も反応も許さずに消化・吸収する。それがこの子の得意技、という訳である。

 

 逆に言うと、もしこの子が悪意をもって人間の集落に潜り込んだら、その集落の人間は一夜とたたず、自分達でも気が付かないうちにこの子のお腹に収まってしまうだろう。

 

 事前に、一週間の接触禁止という無茶苦茶に厳しい罰則を課したのも仕方がない話なのである。

 

「それより、集落の様子が気になるな。こんなところにセンチネルの兵がいるって事は、まさか……」

 

 嫌な予感を覚え、私は足早に集落を目指した。

 

 

 

「良かった、無事だ」

 

 集落が見える場所までたどり着いた私は、知っているのと変わらない集落の様子に胸を撫でおろした。

 

 かつての集合住宅、マンモス団地の成れの果て。その近隣に形成された、避難民のコロニー、それがこの集落だ。

 

 本来とっくに耐久年数を超えている建物なのだが、なんていうか、この手の古い鉄筋コンクリートの建物は手抜き工事でなければなかなか頑丈なのである。建築技術にまだ未熟な点があって、強度計算などを過剰に見積もったのが原因なんて聞いたことがあるが、まあ大事なのはこのご時世に、多数の人間が雨風をしのげる建物が残されているという事だ。

 

 周辺の建物が戦闘の余波などで大きく破損している中、かつてと変わらず聳え立つ大型アパートは、安息の地を求めてさまよう避難民の目によくついたのだろう。

 

 今やその周辺にバラック小屋が立ち並び、老若男女を問わず人々が細々と生き延びる生活圏が誕生した訳である。

 

「まあ人類軍としてはさっさとこんな所から移動してほしいんだろうけどなー……」

 

 いくら最前線ではないとはいえ、基地の近くである。

 

 まあいろいろ事情があるのだろう。

 

「しかし……何か襲撃を受けた、という感じもないな。住人はいつも通りだ。……単にセンチネル兵が襲撃する前に遭遇した、という事か?」

 

 ここからも、多数の人がうろうろしているのが見て取れる。そこにあるのは、貧しいながらもそれなりにたくましくやっている生活の光景そのものだ。

 

 何か異常があったようには見えない。私の取り越し苦労というか、不幸の芽を事前に取り除くことができた事を喜ぼう。

 

「よし……。キティ、頼むぞ」

 

『ふんみゅ!』

 

 ほんとに頼むぞ。バレたら人間たちの間で指名手配とかされかねないからな。

 

 そんな私の頼みに、我が子はふんす、と気合を入れて返事をすると、いそいそと目を閉じて完全にショールに偽装した。ぴくりとも動かない様子から、我が子の本気が伝わってくる。

 

「よし……」

 

 私は覚悟を決めて、できるだけ覚束ない足取りで、それこそ遠くからずっと歩いてきて疲れ果てた子供……そんな演出と共に、集落の門へ向かって歩み寄った。

 

 集落の門は、コンクリートでできた分厚い壁で覆われている。唯一の出入り口は開かれているが、その左右に武装した男性が油断なく周囲を警戒していた。

 

 そのうちの一人が、さっそく近づいてきた私に気が付く。

 

「……っ! お、おい、子供が……」

 

「子供ぉ? お前、何をいって……」

 

 目を見開く男性と目が合ったので、私は片手を胸元まで上げて、左右にゆらゆらと揺らす。傍目には疲れ果てて声もでない子供が、精いっぱい存在をアピールする仕草に……見えると、いいなあ。

 

 いや実際の所、まだまだ全然元気なんだけど。

 

 かといって、人類軍と宇宙人がどんぱちやってて死の荒野からやってきた子供が元気しゃんしゃん、というのもまあおかしい話だろう?

 

「ここは……人が……いるんですか……?」

 

「あ、ああ! もう大丈夫だぞ……!」

 

「おい、医療班! ボロボロの子供が一人、正門に来ている! 担架をもってきてくれ!」

 

 門番の一人が銃を置いて私に走ってくる傍らで、もう一人は通信機に救援を叫んでいる。

 

 おいおい。私が宇宙人の用意した人間爆弾とかだったらどうするんだ? 平和ボケしてんなあ……。

 

 あきれながらも、私は弱弱しい子供を装ったまま、駆け寄った男性におとなしく抱き上げられた。

 

 さあて。

 

 上手い事いくかな……?

 

 

 

 

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