TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『必死に生きてる子供達を、これ以上踏みにじらせない!』

 

 

 集落の衣類を一手に引き受ける洗濯所。

 

 コインランドリーをそのまま運び込んだそこでは、今も洗濯機がフル稼働している。体調不良者が続出した事で、汚れた衣類の洗濯が急務となっているのだ。

 

 今も、一人の青年が回る洗濯機の前で衣類を新たに放り込んでいる。

 

 彼は洗濯機の中を見下ろしながら、傍らの空き箱に手を伸ばした。

 

 洗剤、と書いてあるそれの中身をスプーンですくい、衣類の上に振りかけようと……。

 

 

 

「そこまでだよ」

 

 

 

 青年の指がぴたりと止まる。

 

 彼が振り返った先には、一人の少女。

 

 ボロボロのワンピースに身を包んだ、黒髪の貧相な少女。

 

 最近集落に来たばかりの、どこか浮世離れした幼子が、青年を氷のような、ガラス玉のような瞳で見つめている。

 

「あなたね。薬を衣類に混入させているの。……よくもまあ考えたもんだわ。具合が悪くなった人が出れば必ず食料品や水を疑うけど、衣類までは気が回らない。それに、寝たきりの人間はどうしても汚れるから、衣類を頻繁に交換する。悪辣だけど合理的ね」

 

「な、なんだい、君は? 何の事をいっているんだ、私はただ」

 

「あら、案外馬鹿なのね、貴方」

 

 少女が小首をこてん、とかしげる。その瞳の奥で、ばちっ、と青い紫電が瞬いたように見えた。

 

「私が来たのは交渉でも告発でもないわ。排除しに来たのよ」

 

 その瞳が、青白く内側から光り輝く。脳そのものが青く光り、薄い頭蓋骨と頭皮が透けてぼんやりと輝き、黒いはずの髪が青白く煌めく。

 

 脳波動。

 

 それを青年が理解した時には、非物質的な輝きの波動が、彼の全身を包み込んでいた。

 

「がっ!?」

 

 その姿が一瞬電撃に包まれたかと思うと、バチン、という音と共に服の下から何かの機材が転がり落ちる。手のひらほどの円筒形のその物体は、ぶすぶすと黒い煙を吹いている。

 

 同時に、青年の姿が激しいノイズに包み込まれた。見る間にその姿が書き換わっていき、一瞬後にはそこに立っていたのはどこにでもいそうな没個性の男ではなく、奇怪な姿をした人型となっていた。

 

 体を守るプロテクターに、人間に似た形状の、しかし複眼で頭皮を覆われた昆虫人間の姿。

 

 センチネル・オーダーの兵士。

 

「なるほど、時折お前らが人間に紛れ込んでいたのは知っていたけど、そういうやり方だったのね」

 

「◆●っ!」

 

 正体を見破った相手を、まじまじと興味深そうに観察する少女の姿をした“怪物”。兵士は舌打ちのように異星の言葉を口にして、懐から引き抜いたレーザーピストルを彼女に突きつけた。

 

 ためらわずに引き金を引ききる。

 

 その直前、ふわりと頭上から忍び寄った“死”そのものが、彼に影を落とした。

 

 複眼がその姿を捉え反応するよりも早く、柔らかい布のようなものが優しく、しかし有無を言わさず彼を包み込む。

 

 それで終わりだ。

 

「◆………」

 

 発しかけた言葉も、一瞬にして溶解液で分解される。人間と違う肉体構造をしているとしても、頭部から順に物理的に消えてしまえば、言葉を発する事もできない。くるりと巻き付いた布のような生体の内部で、兵士の肉体は泡立つ有機物のスープに解体され、一瞬にして飲み干された。

 

 ごとり、と脛から先の足先が転がる。

 

 キティ、と呼ばれる生物兵器が獲物を食べ残す事はない。これは証拠としてわざと残したものだ。

 

「お疲れ、キティ」

 

『みゅっふ!』

 

 たったいま、一つの命をこの世界から消し去ったばかりと思えないような和やかな雰囲気で子を褒めたたえる少女。その少女に応えて、やわらかな布のような生き物はその足元に寄り添い、しかしその肩には戻らず丸い瞳を部屋の入口に向けた。

 

『ふみゅみゅ……』

 

「それで。そこで見ている奴。一度だけ警告しておこう。今すぐ出てこなければ、貴様も敵とみなす」

 

 首だけで背後に振り返り、少女が冷徹に警告する。その瞳は、氷のような青い光を未だ湛えている。

 

 従わなければ、即座に有言実行するという凄味がそこにはあった。

 

「ま、まったまった! 勘弁してくれ!」

 

 効果は覿面だった。

 

 慌てて、物陰から飛び出してきたのは、髭面のやせこけた中年男性だった。彼は両手を頭の横にかかげる降参のポーズで少女の前に出てくると、困ったように笑った。

 

「降参、降伏! 無条件降伏しますので命だけはどうか!」

 

「ふぅん? お前は……人間のようだな?」

 

『みゅふみゅふ』

 

 目を青白く光らせて少女がしげしげと男を品定めするように見回す。その足元に寄り添う布っぽい生き物が、隙あらば覆いかぶさろうと身構えているのを見て、男の顔に脂汗がつたった。

 

 ここはすでに男にとって死地だ。

 

 目の前の怪物の機嫌を損ねたが最後、骨も残さず溶かされるのは目に見えている。

 

「は、はい、私は人類軍の内偵でして! 各地の集落におかしな動きがないか調査するのが仕事です! それで今回、集落で変な病気が蔓延しているようなので原因を調査しておりました!」

 

「ほう。それで? 見たところ原因を突き止めていたようだな? 動かなかったのは何故だ? まさか、同じ人類を実験台として経過観察でもしていたか?」

 

「とんっでもない!!」

 

 少女の語尾が冷たく凍え始めたのを感じ取り、男は必死で舌を回した。

 

 思ったより沸点が低いぞこの子?! と内心で震え上がりながら、弁解を続ける。

 

「この集落に潜んでいるセンチネルのスパイは一人とは限らなかったので! 一人を消したらこちらが気が付いている事を悟られ、より手の付けられなくなる事態に発展する恐れがあったので監視にとどめておりました! 決して集落の人間を見捨てていた訳ではありません!」

 

「つまり、応援を待っていたという事か。……それは正しかったようだ」

 

 すん、と少女の放っていた殺気と青い光がたちまち収まる。怪生物も男への警戒をやめて、その肩へともしょもしょ這い上った。

 

 急激な態度の変化に、へ? と男があっけにとられていると、少女は突然妙な事を言い出した。

 

「集落のあちこちで連中が偽装を解除した気配がある。見破られたのを察して、ひと暴れして集落を混乱させ、その隙に離脱するつもりらしい」

 

「え……」

 

「一人ではない、とわかっていたなら候補の当てはあったんだろう? 奴らがどこの部署に潜んでいたか教えてくれ」

 

 問われて、男は言われるがままに自分の調べていた情報を提供する。それを聞くと少女は一言頷いて、洗濯所から出ていく。

 

 すれ違いざまに、一言残して。

 

「あとでまた話をしよう」

 

「えっ」

 

 男があっけにとられて振り返ると、そこにはもう少女の姿はない。

 

 ただはるか上空を、蝙蝠のように羽ばたいて滑空する小さなシルエットがちらりと見えた。

 

「……ふぅうーーー………」

 

 男は額の汗をぬぐうと、へなへなと床に座り込む。一瞬の事で数年は老け込んだ気分だった。

 

「あれが……探索目標X-0? 誰だよあれをただの小娘だなんていったやつ……人間大に圧縮された怪獣じゃねえか……」

 

 事態が終息したらあれとまた話すの? 男はさっそく憂鬱だった。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 早まった。

 

 早まった、早まった、早まった!!

 

 空を滑空する私の心境は焦燥に満たされていた。

 

 怒りと焦りにまかせて実行犯を抹殺したのは早計に過ぎた。いくら通信や救援の隙を与えず消し去ったとしても、同じ手口で基地を何度もつぶしてきたのだ、相手もそれなりに対策をしているはずだ。絶命したかどうか、通信が途絶えたかどうかで何かが起きたのを感知する事なんて簡単にできる!

 

 何より、その異常な殺し方で、私が来たという事が判別できる。

 

 連中の目的が何だったかわからないが、奴らは自分達の作戦がここまでだと見切りをつけて、証拠隠滅と逃亡の為にここで騒乱を起こしにかかっている。

 

 そして、一番簡単な騒乱を起こす方法は何か?

 

 武器の乱射と、怪我人の量産だ。たちまち悲鳴と恐怖が伝染し、集落は混乱に包まれる! その機に乗じて逃げるつもりだ。

 

「させない……!!」

 

 私のせいで、この集落の人々が危険にさらされる。

 

 それだけは、決して。決して、許さない!!

 

 あの子供達を、傷つけなど、させない!!

 

「キティ! 全力だ!!」

 

『みゅぅ!!』

 

 風に被膜をなびかせる我が子を体に纏って、普段は抑えている身体能力を全開にしてアパートの間を滑空する。

 

 スパイが潜んでいるとされている場所は、三か所。その全てを、30秒以内に制圧する!!

 

「まず一人!!」

 

 私は壁を蹴って方向転換すると、我が子の翼を折りたたんでそのまま弾丸の急降下。眼下、食糧を運んでいる最中で正体を現したと思われるスパイの元へ急降下する。

 

 驚いて距離を取ろうとする住人に銃を向けているスパイの複眼が、上空から急接近する私を捉えた。とっさに振り仰ぎ突きつけてくる銃身とクロスカウンターする形で蹴りを叩き込む。同時に我が子が巻き付いて、数秒のうちにその肉体を消し去った。

 

 残された銃を拾い上げて、遠方に狙いを定める。

 

 見開いた視界の中で、遠くアパートの階段が拡大される。そこでは正体を現したスパイが、ベランダから眼下の住人達を射殺しようとしている。

 

「二つ!!」

 

 レーザーのヘッドショットでその首を吹き飛ばし、私は手近なアパートの壁を駆けあがった。後から追いついてきた我が子を抱きかかえながら一息に最上階に上り切り、そこに並ぶ部屋の一つへドアを蹴破って飛び込む。

 

 この集落のリーダー達が普段執務作業をしている部屋。そこに最後のスパイがいる、中枢に潜り込んでいればやりたい放題だ。

 

「みっつ! ……居ない!?」

 

 しかし、ドアを蹴り飛ばした先にスパイの姿はなかった。

 

 リーダー含め、正真正銘の人間達が三人、突然突入してきた私にびっくりしている。が、その視線は私の手に侵略者の銃が握られているのを見て、恐怖と混乱に彩られた。

 

 だがかかずらっている場合ではない。

 

「奴は! 太田と名乗っていた男はどこにいった!」

 

「え? えと、太田さんなら、ガキどもの様子を見に行くって……ちょ、君?! なんで宇宙人の武器を……」

 

「ちぃっ!!」

 

 入れ違いになったか!

 

 私はすぐさま引き返し、ベランダから跳躍した。

 

 しかし、それもよりによって子供達の所だと?

 

「間に合え……!」

 

 

 

 

 

 

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