TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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岩国基地大決戦
『桜の下には死体が埋まっているっていうだろう?』


 

 

 対空砲基地攻略作戦は人類の勝利に終わった。

 

 公式では二度目になる宇宙人の重要拠点の制圧成功に人類軍の兵士は沸き立っている。

 

 そんな中、輸送機で岩国基地に戻ってきた葵達は、当然のように降りるなり喝采に見舞われた。

 

 まだ機から降りてないのに、停止した輸送機を無数の人影が取り囲んでいる。それらの多くは事務員や整備スタッフだが、銃を肩に担いだ保安要員や予備役までが、今日の英雄を一目見ようと集まってきているようだ。

 

「英雄殿の凱旋だ!」

 

「主力部隊に先行して宇宙人をばったばったなぎ倒したんだって!」

 

「おおい、顔を見せてくれよ!」

 

 明るい歓声が響く。

 

 が、当のセラフィムチームの五人は、骨の髄までくたびれ切ってぐったりとしていた。機の壁に身を預けて、げんなりとしている。

 

「疲れてるのにぃ……」

 

「静かにしてよぉ……頭に響く……」

 

 さしもの四人も、疲労困憊でいつもの元気はかけらもない。

 

 まあ、それも仕方ないかと葵は補給水を飲み干しながら頷いた。高度機械化空挺兵団はまだ実験段階の部隊だ、兵団を名乗りながら実働要員はわずか5人。そもそも、人間サイズでイオンスラスターを噴射して高速で空を飛翔するなんていう戦術は、人間が本来適合できるものではない。

 

 ましてや本隊に先行して敵部隊に切り込むという任務、少将の指揮下でなければ鉄砲玉の捨て駒部隊だと思われても仕方がない過酷な任務だ。肉体的にも精神的にも、彼女らが限界を超えているのは明白だった。

 

 が、葵はあくまで隊長としてのある種の冷徹さを失わず、へばっている部下たちに冷酷な声をかけた。

 

「ほら、しゃっきりする。こういうところでアピールするのも、私たちの仕事よ。予算をふんだくってくれた少将に少しでも恩を返す機会よ」

 

「はーい……隊長がいうなら仕方ないですね……」

 

「んだべ……」

 

 少女達は葵の言葉に反論することなく、顔をタオルでぬぐい、戦闘薬の使い過ぎで目の下に濃く浮いた隈をヘルメットのバイザーで隠す。葵もさっと化粧品で目下の隈だけ消して、ごんごんごんと音を立てて解放されるハッチに向き直る。

 

 開ききったハッチをランウェイに見立てて、かつかつと鋼鉄のハイヒールで降りていく。色褪せたアスファルトの大地にかつん、とつま先を振り下ろすと、わっと歓声があがった。

 

 周囲を取り囲む兵士たちの声をすました顔で受け流し、四人の部下を引き連れて堂々とその前を横切る。

 

 広報のスタッフがカメラを向けているのに気が付いて、彼女は傷つきひび割れた翼を見せつけるようにポーズをとった。ぱしゃり、と写真を撮ったのを確認して、かつかつと道を行く。その威圧的な雰囲気に気おされて、取り囲んでいた兵士たちも自然と道を開く。

 

 いつしか、勝利に浮かれるバカ騒ぎは、息をのんで戦女神達の凱旋を迎え入れる儀式のような雰囲気へ変化していた。

 

 それを主導していた葵はその自覚もなく、静かになった周囲にこれでよい、と小さくうなずく。

 

 この戦いはあくまで緒戦に過ぎない。対空砲をつぶしたことで、これから人類軍の本格的な反撃が始まるだろう。今の段階で浮かれてもらっては困る。

 

 滑走路に目を向ければ、フル装備のF-15Eが次々と飛び立っていく様子が見える。敵の防空網に穴をあけたことで、これまで基地に押し込められていた狂暴な大鷲達が待ちかねたチャンスを前に羽ばたいていく。彼らが懐に蓄えた火矢が、今度は宇宙人たちの頭の上にぶちまけられることになる。これまでのうっぷんを晴らすように機首を高くあげて飛び立っていく機影を見送った葵は、しかしその向こうから陽炎の中をゆっくりと戻ってくる見慣れない機体に目を細めた。

 

「何……?」

 

 沈む寸前の夕焼けが作り出す赤い空。その中を切り裂くように飛ぶそれは、数刻後の空を先取りしたような濡れ羽色。扁平で鋭角的なそのシルエットは、明らかにステルス性を意識したものだ。

 

 しかし、地球人類の技術力は宇宙人のそれには通じない。地球人からすれば高いステルス性能を持っていたF-35も、宇宙人の対空砲の前では篝火を燃やす火船のようなものだった。ゆえに、今回の作戦でもステルス機は導入されていない。にもかかわらず、だ。見覚えのないステルス機が帰還する様子に、葵は強い違和感と危機感を覚えた。

 

 そもそも、セラフィムチームの五人は、本作戦の重要戦力であり、もっとも機密に近い存在である。その彼女が知らないというのは、軍として捨て置くことはできない。

 

「あれ、隊長?」

 

「あのステルス機が気になる。問いただしてくる、お前たちは戻っていてもかまわないわ」

 

 ゆっくりと停止するステルス機の方に歩みを進める葵に、部下の四人は顔を見合わせるも、戻ることなく隊長のあとに続いた。

 

 攻撃的なシルエットの機に葵が近づく。

 

 と、そこに割り込む者がいた。

 

『そこまでだ。止まれ』

 

「何よあんたら」

 

『立花葵中尉だな。お前にこの機にかかわる権限はない。下がれ』

 

 姿を現したのは、真っ黒な艶消しのパワードスーツの兵士、5人ほどの部隊だ。通常、戦力として配備されているスーツはモスグリーンだ。そうではないということは、このスーツとその着用者が特殊な権限の下にあることを示す。内偵だとか、軍警とか、あるいは隠密部隊とか。噂だが、都合の悪い者を消す暗殺部隊なんていうのも聞いたことはある。

 

「私が誰か知っているなら話は早いわ。私はセラフィムリーダーとして、本作戦の実行部隊における最大の権限を与えられている。その私が知らない機が作戦に参加していた? ふざけないで、ただちに所属と目的を吐きなさい。なんならこの場で少将に問い合わせるわよ」

 

『それをお前に説明する必要性はない』

 

「……話聞いてた? それを決めるのはあんたじゃないわ」

 

 がっ、と葵の足先がアスファルトを削った。猛禽が蹴爪で地面をひっかくような、威嚇の仕草。

 

 たちまち両者の間に剣呑な空気が流れ、その背後で四人の少女がすくみ上った。

 

「ヒョエエエ……」

 

「た、隊長、やめときましょうよ……」

 

 部下からの嘆願にも耳を貸さず、警備部隊とにらみ合う葵。

 

 と、彼女はそこで、停止したステルス機から何かが運び出されているのに気が付いた。

 

「……護送カプセル?」

 

 運び出されているのは、銀色に輝く大きなカプセルのような容器だ。重要な宇宙人のサンプルとか、捕虜とか、そういったものを輸送するための拘束具。内部の生命体の生命維持を行いつつ、指一つ動かせないように、考え一つ回さないように、投薬を行いながら運ぶ銀色の飼育箱。その中央、透明なガラスで覆われた囚人の姿が、夕暮れの光にちらりと見えた。

 

 黒髪の、少女。

 

「……!!!」

 

 見えたのは一瞬。だが間違えるはずもない。

 

 護衛を押しのけて走り寄ろうとする葵に反応して、がしゃり、と護衛部隊が肩を寄せて彼女の視界から護送カプセルを隠す。

 

「どきなさい」

 

『ここから先に進むことは許可できない』

 

「……押しとおるといったら?」

 

 明らかな敵意に目を細める葵に、護衛達は一瞬ためらったのちに銃を構えた。うつろな銃口が向けられるのに葵は一切ひるんだ様子も見せず、逆に相手をバカにしたように顎を上げた。

 

「人類軍の基地の敷地内で、同胞に銃を向ける? その意味、本当にわかってる?」

 

『……っ』

 

「だんまりか。別にいいけど。……いわないとわからない? 横紙破りしてるのはあんたらよ」

 

 小さく葵が足を引く。それが、彼女が近接戦を仕掛けるときの癖だと知っている部下たちがそろって息をのんだ。取り巻きの兵士達も、突然始まった修羅場にあわあわするだけで制止に入る様子はない。

 

 まさに一触即発。

 

 蒼き猛禽が、黒の障害に躍りかかろうとする、その瞬間。

 

 一通のメッセージが、彼女の耳に届いた。

 

「……少将? ええ、はい。今それで……総合本部から? どういうことです? ……ええ、はい。わかりました。やむをえませんか」

 

 それは、彼女が敬愛し忠誠を誓う少将からの緊急通信だった。それにひとしきりうなずいた彼女は、ちっ、と舌打ちを鳴らすと、人切り包丁のような視線で護衛部隊を一瞥し、あっさりと踵を返した。

 

 その突然の切り替えに呆然とする四人の部下の前までやってくると、彼女は端的に指示を下した。

 

「総員、今すぐハンガーに戻って整備と休憩。万が一に備えて待機して。おって指示を出す。私は少将のもとへ」

 

「はへ……?」

 

「い、いいんですか、あれ……?」

 

 部下の一人が示す先では、護衛部隊の背後を銀色のカプセルがごろごろと運ばれていくのが見えた。そのままカプセルが運び込まれる先は、彼女の管轄ではない、アメリカからの出張組の兵舎のようだ。あそこは治外法権で、運び込まれてしまえば葵ではどうにもならない。

 

「……どうやら、私がかちこんで済む話でもないみたい。ここは一旦引く。なあに、強くぶん殴るために腕を引くのはよくあることよ」

 

「ひぇえ……」

 

「めさめさお怒りでやんす……」

 

 蒼い顔を見合わせる部下たちに怪訝な顔をしながら葵はそれきりわき目も降らず、一刻も早く少将のもとに向かわねば、とハンガーに向かう。

 

「……?」

 

 その途中、彼女は違和感に足を止めてステルス機へと振り返った。

 

 視線の先ではランディングギアを回転させて、ゆっくりと格納庫に入ろうとしている。その鋭角的なシルエットに、葵はしかし、眉をひそめた。

 

 今。

 

 何か。

 

「ねえ。あのステルス機の影で、何かへんなの動かなかった?」

 

「え? いや、そんなことはないですけど……」

 

「映像にもそんなのは……」

 

 ヘルメットに手を当てて記録映像を再生しているらしい部下に、そう、と葵は小さくうなずいた。

 

 映像記録が残っているなら、間違いはない。気のせいだろう。

 

「……ちょっと神経がささくれ立ってるからかしら。少将に会う前にクールダウンしていかないと血管が切れちゃうわね」

 

「じゃ、じゃあ、ジュース冷やしてありますし、どうでしょうか?」

 

「いいわね。ご相伴に与りましょう」

 

 そう軽口にこたえる葵の横顔は、落ち着きを取り戻した柔らかなもので、部下たちはほっと、胸をなでおろしたのだった。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 葵の目は、間違えていなかった。

 

『ぷくぷく……』

 

 ステルス機の影。その腹にくっついて侵入を果たしたそれは、スタッフの目を盗んで見た目よりも軽やかな動きで物陰に逃げ込んだ。

 

 背後で、ステルス機のランディングギアのチェックなどを始める整備員をしり目に、いそいそと基地の中に潜り込んでいく。

 

 機密を取り扱う関係で、往来する人はほとんどいない。それでも警戒して天井に上がったそれは、そのままダクトの中に入り込むとそこで安心したように動きを止めた。

 

『……ぷっくぷく』

 

 しばらく休むと、口にあたる器官をもごもごさせ、やがてぺっ、と白い蛆のような物体を吐き出す。ダクトの中に吐き散らかされたそれらは、やがてうぞうぞと動き出すと、本体の意思に従って基地全体へと潜伏を始める。

 

 それを見送って、それは自らも動き始める。

 

 すべては母と、兄の計画通り。ここまでが彼女らの仕事。ここからは、彼の仕事だ。

 

 自らに託された使命の大きさに、それは小さく鳴いて気合を新たにした。

 

 

 

『ぷっく!』

 

 

 

 さあ。

 

 本当の反撃は、これからだ。

 

 

 

 

 

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