TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『知らない間に人気者になってるぅ!?』

 

 

 児童用アニメは胎教になるのだろうか。

 

 お腹を撫でながらそんな事を考えている内に、どうやら車輛は基地に到達したようだ。停止した車輛のハッチが開かれ、私は外に出る。

 

 途端に無数の銃口が突き付けられる……という事はなく。私を取り囲むように集まった兵士は皆、銃を肩に背負い、周囲からの視線を遮るように壁になってくれている。

 

 その中から一人の兵士が前にでてきて、ハキハキした声であいさつしてくる。

 

「私は人類軍極東方面軍、第8機械化歩兵旅団所属、茨城良助軍曹と申します。ようこそ人類軍前線基地へ、葛葉さん。我々は貴方を歓迎します」

 

「あ、これはどうもご丁寧にありがとうございます、お兄さん」

 

 初めて見る相手に、私も余所行きモードであいさつを返す。

 

「本日は私がご案内を務めさせていただきますので、何かあれば遠慮なくお申し付けください」

 

 私の倍近い背丈を誇る男性が、しゃがみ込むようにして握手を求めてくる。おずおずと握り返すと、鍛えた男の人のごつごつとした感触がした。

 

 ……。

 

 わ、私だってな、男だったころは掌が大きかったんだぞ! クラスで一番手が大きくてな、逆立ちとか超得意だったんだぞ。

 

 今はその、紅葉の葉っぱみたいなかわゆい掌だが……すん……。

 

「しょぼん……」

 

「? とりあえず、基地へどうぞ。まあ基地といっても、組み立て式の掘立小屋ですが……」

 

 こちらに、と手で案内されて、茨城さんの後をついて歩く。動き出した私を取り囲むように、他の兵士がぞろぞろと壁になってついてくる。

 

 その隙間から、私は前線基地を観察した。

 

 どうやら、元はデパートかスーパーだかの駐車場だった場所を簡易前線基地にしているらしい。流石に航空機の類は見当たらないが、装甲車輛や戦闘ヘリが無数に配備されているようだ。なるほど、ヘリなら広い地上があれば離着陸出来る訳だからな。宇宙人相手にどれだけ役に立つかはわからんが、こうして多数配備しているという事はなんか使い道があるんだろう。

 

 向かう先の基地は、茨城さんの言う通り、組み立て式のコンテナハウスみたいなのが並んでいる。ちょっと暴風雨が来たら壊滅しそうな掘立小屋だが、まあ兵士が休息とったり会議できればそれでいいぐらいの割り切りを感じる。少なくともテントよりはマシではないかね。

 

 廃墟暮らしから言わせてもらうと、隙間風があると無いでは全然違うからね、休める度合い。

 

 まあしかし、見た所随分と活気にあふれている基地だ。

 

 私の知っている人類軍基地はもっとこう陰鬱というか、後ろ向きな気合に満ちた場所だったんだが。こう、どうせ死ぬんだから連中も道連れにしてやるとか、俺明日死ぬのかなあ、とか、あるいは現実逃避に何も考えていない虚無の顔した兵士が往来しているとか……。

 

 それがここはどうだ。

 

 行き来する兵士の顔には笑顔がある。走り込みしている連中は元気よく掛け声を合わせているし、車輛整備している整備スタッフもきびきび動いている。

 

 なんていうか、ここには希望がある。

 

 ここ最近の戦況の変化が原因だろう。人類軍の内情を垂れ流しにして、さらに裏切り者を続発させていた敵中枢の精神妨害工作は白日の下にさらされ、当然人類軍はその対策をしただろう。それにより組織が健常化し、本来の力を取り戻した人類軍は宇宙人どもへの反抗を開始している。ここ大阪でも、プテラが荒らしまくった敵陣地を、次々と人類軍が切り取っているのを目撃した。

 

 やればできるのだ、彼らも。

 

 と、そこに新しく輸送ヘリが着陸してきた。バタバタ、と音を立ててゆっくり着地してくる胴長のヘリ。その胴体に、なんか妙なイラストが描かれているのに気が付いて、私は眉をひそめた。

 

「……ん?」

 

 なんだあれは。

 

 ……幼女? デフォルメされた女の子のイラストが、モスグリーンの武骨な輸送ヘリのどてっぱらに描かれている。その横には……なんだあれ、映画のエイリアンか? 可愛い女の子とは到底釣り合わないヌルヌルテカテカ髑髏顔のクリーチャーが、何故かセットで描かれている。

 

 あれと思って基地を見渡すと、あるわあるわ、そこら中の機体に同じようなイラストが描かれまくっている。

 

 戦車の砲塔横に、指でばーんしてる幼女のイラスト。攻撃ヘリの機首には四つん這いで威嚇する怪物の隣で、同じようなポーズをとってる幼女。

 

 幼女。怪物。幼女。怪物。幼女、怪物……。

 

 なんなんだこれ?

 

「??? ……あ、あの」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「やたらと女の子のイラストが車やヘリに描いてあるんですが……なんでしょうか、あれ?」

 

 正直に質問すると、振り返った茨城さんの笑顔が引きつった。

 

「あ、いや。その……申し上げにくいのですが……今、極東方面の人類軍には、空前の葛葉さんブームが来ていまして……」

 

「え゛」

 

「岩国基地を生き残った連中が、熱心に貴方の話を広めた結果、“幼女を怪物とセットでペイントすれば生還率が上がる”、なんて話がいつのまにか……」

 

 何やってんの人類軍?!

 

 何やってんの人類軍?!

 

「あ、いや、そんな事したら余計に目立って危ないのでは……?」

 

「それがですねえ……統計的に見る限り、本当にペイントした機体の生還率が他に比べて間違いなく上がっていまして……」

 

「え゛」

 

 何やってんの侵略者ども?!

 

 何やってんの侵略者ども?!

 

「どうも、侵略者どもにはあのペイント、とてつもなく恐ろしい物に見えるらしくて……。威嚇効果があるらしいというかなんというか……」

 

「あ、ああー……」

 

 言われてみりゃそりゃそうだ。私と我が子で、今まで何千、いや何万人の宇宙人どもを殺してきたか数えられたもんではない。こないだなんかドロップシップも撃墜したし、宇宙人からすれば私の存在は凶報の具現、死の前触れに他ならない。

 

 そのイラストが描かれまくった人類軍の兵器は、宇宙人からするとスズメバチの黄色と黒とかそういうヤバ気な警告色に見えているのか。

 

 いやまあ、恐れられるのは本望ではあるけど。それにしたってもうちょっと、さあ……。

 

「実際に御利益があるとなって、めちゃくちゃ広まってしまいまして……その、不愉快でしたらやめさせますが……?」

 

「い、いえ、そういう事でしたらかまわないです……あははは……」

 

 実際に成果出てるもんやめさせられる訳ないだろ!? 死人が増えたらどうするんだ。

 

 まあそれはそれとして恥ずかしい。あれ全部私なのかぁ……(死んだ目)。

 

「ところで、あくまで極東方面軍だけの流行りですよね? 海外はそんな事ないんですよね?」

 

「(目そらし)」

 

「何とかいってくださいよぉ!?」

 

 冗談だよね? 海を越えて海外でも広がってるのこのイラスト?!

 

 そりゃあ萌え文化はジャパン発祥だけどさあ!?

 

 ていうか直接被害出てない海外の方でも効果あんのこれ?!

 

「そ、その……効果があるならイラスト使うのは構わないんですが、それはそれとして肖像権の侵害では……?」

 

「す、すいません……。おちついたらちゃんと著作権等整理しますので……」

 

 引き攣った笑顔を浮かべる茨城さんの頬を、一筋の脂汗が伝うのが見えた。まあ怖いもんね……著作権とか……。

 

 ていうかさ、もしかしてさっきから兵士が壁になってるの、私の身の安全とかそういうのじゃなくて、話題になってるイラストの当人が居る事が発覚して大騒ぎにならないためだったりしない? いや多分そうだよな……なんかちらちら訝し気にこっちを見てる兵士がすげーたくさんいるもん……「どっかで見たような子供がいるんだけど」みたいなひそひそ話も聞こえてくるし……。

 

「をほん、と、とにかく、基地司令がお待ちです。こちらにどうぞ!」

 

 何やら不穏な気配をこちらも感じているのか、ちょっと早足で掘立小屋に向かう茨城さん。私もこれ以上話は引っ張らずに、その後を大人しくついていく事にした。

 

 

 

「初めまして。私がこの前線基地を預かっている、極東人類軍司令部所属、柏木慎之介少将だ。葛葉さん、こうしてお話できる事を光栄に思います」

 

「は、はい……葛葉零士と申します……しがない一般人です……はい……」

 

 案内された応接室で私を待ち受けていたのは、車椅子に座った中年の男性とその介護と思わしき一人の少女。

 

 男性は右足にギプスをまき、左腕を吊った満身創痍という出で立ちだったが、その顔つきは聊かも負傷を気にする事のない強い眼光だった。

 

 しかし責任者というから偉い人かと思っていたが、まさか少将とは。とんでもない偉い人ではないか。

 

 小市民としては、縮こまって大人しくするしかない。

 

「ははは、そんなに畏まらないでくれ。君は人類軍所属ではないのだから」

 

「え、ええと……助かります……。それで、そちらの少女は……」

 

 その背後で、車いすを押している少女にはちょっと覚えがある。以前、葵ちゃんと初めて遭遇した時に死にかけていた女の子だ。無事に助かったんだな、よかった。しかし、軍服を着ておらず、普通の洋服を着ているという事は軍属ではないのか? 命が助かってもあれだと何か障害が残っただろうから、これまで通りにはいかなかったのか。

 

「私は佐藤幸奈と申します。私はその、覚えてないんですけど、以前助けていただいたと、葵ちゃんから……」

 

「はい、覚えていますよ。強化スーツを装備していた人ですよね。助かってよかった!」

 

「は、はい! その節はどうも!」

 

 私が覚えていた事に、ぱあ、と顔を明るくする幸奈ちゃん。……あの時、プルートゥが死んでるからいいよね? と言わんばかりに食べようとした事については触れないでおこう。多分、葵ちゃんも言ってないだろうし……。

 

「さて、さっそくだが本題に入りたい。……佐藤君、君は退室してくれたまえ。ここから先は軍規に触れるのでな」

 

「はい、わかりました。お話が終わりましたら、またお呼びください」

 

 ぺこり、と頭を下げて退室していく幸奈ちゃん。ドアがぱたり、と閉じてから、私は少将に視線を向けた。

 

「あの、彼女はやはり……?」

 

「うむ。心肺機能に問題が残ってな。兵士としてはやっていけないという事になって除隊したのだが、本人の強い希望で人類軍周りの仕事をしてもらっている。今は、私の専属介護人のようなものだな。なんせ、このありさまだ」

 

 言って、笑って脚のギプスを叩く柏木少将。

 

「岩国基地攻防戦で、不覚にも瓦礫に押しつぶされてな。全く情けない限りだ、おかげで後始末を全部大佐に押し付けてしまった」

 

「え、ええと……」

 

「ああ、気にしないでくれたまえ。基地が崩壊したのはあくまで侵略者の攻撃だ、君に一切の責はない。あの一件については全ては人類軍の自己責任だ、むしろ葛葉さんは恩人だとも」

 

 そう言って貰えるとホント助かる。荒療治だったのは事実だったしね……。それはそれとして申し訳ない気持ちは消せない。目の前にその怪我人が居る訳で。

 

 しかしだとしたら、どうしてわざわざ危険を冒してまで私を呼び出したのだろう。話したい事とは何だ?

 

「さて。葛葉さんも気になっているようだし、手短に本題に入ろう」

 

 そんな私の心境をくみ取ったかのように、ぎし、と車いすの背もたれに身を預けて、柏木少将は本命の話に切り込んだ。

 

 

 

 

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