TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

62 / 145
『生誕』

 

 

「くっ! このっ!!」

 

『フシャアッ!』

 

 迫る爪を前に、葵は必死にナイフを両手で押し返した。

 

 右腕が砲撃仕様になっている怪物。だからといって、接近戦が弱いという訳でもない。人知を超えた怪力で押し込んでくるだけでも十二分に脅威だ。

 

 だがそれ以上に、彼女の心は別の事に奪われていた。

 

 怪物の背後、葵が押し込まれているのをいいことに護衛対象である葛葉を襲う謎の少女。彼女の振り回す刃に追われ、小さな女の子が人間離れした跳躍力で建物の屋根に逃げていく。だがそれを追う少女も、同じように人外の跳躍力で一気に屋根へと飛び上がる。彼女が手にした刃から真っ赤な血が滴るのを見て、葵はぎり、と歯を鳴らした。

 

「邪魔……しないで!」

 

『フシャア!』

 

 がちん、とかみ合わされる牙をよけてしゃがみこむと、葵はそのまま怪物の腹の中に潜り込み、そのまま巴投げの要領で怪物の体を投げ飛ばした。

 

 驚愕の声を上げて背後に転がされる怪物。

 

『シャファッ!?』

 

 普通に考えれば怪物の体重は数百キロ。いくら葵が訓練を受けていたとしてもできる芸当ではない。

 

 その理由は彼女の体を覆うインナーだ。伊達や酔狂で、こんな体のシルエットが浮かぶようなぴちぴちスーツを着ているわけではない。

 

 これは人工筋肉の役目も果たす特殊な繊維でできている。肉体を、骨を骨格をしっかり保持し、被弾時のダメージを軽減し、激しく動いても傷が広がらないように抑え込み、関節や筋肉への過剰な負担を軽減する、一体化した筋肉の薄膜。これを装備している間、彼女らは重機にも匹敵するパワーを発揮する。

 

 とっさに起き上がった怪物が、牽制のつもりか生体砲を向ける。だがそれが発射されるよりも早く、葵が投擲したナイフがその左肩に突き刺さった。痛みと衝撃にのけぞる怪物の狙いがそれ、頭上の壁に穴が開く。

 

 さらに葵は腰裏のポーチから小さなボトルを取り出すと投擲した。ボトルは空中で弾けると灰色のガスを噴出し、それは一瞬で空中で固まり始める。

 

 クロノス・オーダーの時間加速への対策に開発されたボンド・グレネード。固定剤を浴びた怪生物は身動きを封じられた。

 

『フシュルゥッ!?』

 

「よしっ」

 

 もがく怪物を後に、葵は葛葉達の後を追った。壁をあまり巻き込めなかったので長時間の拘束にはならないだろうが、数十秒は稼げるはず。

 

 葵は壁を蹴って駆け上がる。3棟ほど離れた先の屋根で、座り込んでいる葛葉と、刃を手にした少女の姿が見えた。

 

 どういう訳か、少女は葛葉にとどめを刺そうとはしておらず、何かにおののくように後ずさっている。

 

 理由はわからないが、チャンスだ。

 

「葛葉ちゃん! 無事…………っ!?」

 

 跳躍で同じ棟の上にたどり着き、少女に駆け寄ろうとする葵。声をかけた葵を、葛葉が横目で振り返る。その瞳は、何故か、妙に悲しそうだった。

 

 そして。

 

 目の前で、それは起きた。

 

 

 

「あ……あが、があ……あっ!」

 

 

 

 少女の腹が、異様に膨らむ。まるで薄いゴム膜を、指で強く押し広げているような光景。

 

 固まる葵。何かまずい事が起きている、とわかっていても、そこから目を離せない。

 

 見ている前で、服が赤く染まる。その意味を理解するよりも早く、鋭い爪が彼女の服を貫き、切り裂いた。

 

 毛のない、鋭い爪を生やした四本の指。

 

「……ひっ!?」

 

 ひきつったような悲鳴が、葵の喉から絞り出される。

 

 続けて伸びてくる細い腕。それは屋根に爪を立てると、引きずり出すように腕を引っ張り出した。

 

 小さな女の子のお腹から伸びる、大きな太い腕。それに続けて姿を現す、黒い甲殻に覆われた爬虫類のような体。

 

 あきらかに少女の体積よりも大きなそれは、赤い血と紫色の粘液で体を濡らしながら、こほぉ……と湯気の立つような息を吐いた。

 

 びくびくと痙攣する少女の腹から糸を引いて、この世に産み落とされる一匹の怪物。

 

 あまりにも悍ましい光景。だが同時に、官能的で美しさすらある。それは誕生の光景だった。

 

 口元を押さえて絶句する葵の目尻に、涙が浮かぶ。それは何の水滴だったのか、自分でもわからなかった。

 

 見ている前で、赤い血の糸を引いて怪物が歩み出す。一歩踏み占める度に、その体が急激に成長していく。

 

 あまりの急成長に自らの体すら破壊しながら変異していく怪物。10歩も歩いた時には、その体は2m以上の体格を持つ、鋭利な刃をもった戦闘獣の姿へとなり果てていた。

 

「助けて3号、何所に居るのっ!? 3号っ!!」

 

 刃を持つ少女が混乱と恐怖に悲鳴をあげ、それにこたえるように怪物が戻ってくる。飛び込んできた怪物は、葛葉の怪物めがけて生体砲を撃ち放った。

 

 それを、刃が空中で叩き落す。

 

 間髪入れず刃の怪物が雄たけびを上げて、銃の怪物に襲い掛かった。

 

 一閃する刃が生体砲を切り落とし、返す刃がその胸元を切り裂いて、サイボーグ部分から火花を散らせた。

 

『フシャアッ!』

 

 だが怪物はそれにひるまず、胸元に開いた穴から無数のニードルを射出した。横殴りの雨のように降り注ぐ、細く鋭い金属の針。刃の怪物は、両手の刃を交差させてそれを防ぐ。

 

 反応速度からして、回避できない攻撃ではなかったはず、と頭の片隅で考えた葵は、その背後に葛葉が倒れている事を理解して思考が凍った。

 

 あの怪物は。

 

 彼女の腹を突き破って生まれてきた化け物は。

 

 ……彼女を守ろうとしている?

 

 その『意味』を理解するよりも早く、事態は進展する。

 

 ニードル投射で稼いだ一瞬の隙を逃さず、銃の怪物は少女を抱え上げると、大きな跳躍を見せて背後へと後退した。一気に建物の端まで下がる怪物の背後に、地響きを立てて巨大な怪物が姿を現す。

 

 広場で暴れていた蜘蛛型の怪物だ。だが、その甲殻は大きく砕け、真っ青な血で染まっている。明らかに痛打を受けた気配……葵は、いつの間にか空にいくつかの機影が存在する事に気が付いた。救援要請を受けて飛んできた航空隊の攻撃で、怪物は大きくダメージを受けていたのだ。

 

『フシャアアア!』

 

『ギッギッギッ』

 

 人間にはわからない人外同士のコンタクトの後、銃の怪物が蜘蛛の怪物の上に、少女を抱きかかえたまま飛び移る。一人と一匹が自分に移った事を確認すると、怪物はその場で足で地面を掘るような動きを見せて、大量の土煙を巻き上げた。思わず葵が顔を庇う間にも土煙は大量に吹き上がり、視界がブラックアウト……やがて、視界が晴れた時には、巨大な怪物の姿はどこにも見当たらなかった。

 

 どうやら、地中を掘って逃亡したらしい。地下から伝わる振動が、少しずつ離れていくのが感じ取れた。

 

 危機は去った。

 

 だが、葵はいまだに動けずにいた。

 

『ザァン……』

 

 小さな鳴き声に振り返ると、葛葉の体に覆いかぶさるようにして土煙から庇っていた怪物が、その身を起こすところだった。彼に庇われていた葛葉の腹部には大穴が開き、今も大量の血を流している。

 

 そんな彼女を、優しく……まるでシャボン玉に触れるように、優しく抱きかかえる刃の怪物。体に負担をかけないように、ゆっくりと静かにその腕に抱く。

 

 その動作には、確かに愛があった。

 

「ま……まって……」

 

 震える舌をなんとか動かして声を発するも、怪物は葵の事など気にもしていない。最初から、彼女の存在など眼中にないかのように。

 

 その腕に抱かれる葛葉の顔色は死人のように青い。それでも、微かに開かれた瞳が、ちらり、と一瞬だけ葵を見た。

 

 

 

 ごめんね

 

 

 

 そして刃の怪物もまた、その場を跳躍して姿を消す。荒れ果てた廃墟に姿をくらます一人と一匹に反射的に手を伸ばすも、葵にできたのはそれまでだった。

 

「お、追わなきゃ……う゛っ」

 

 気を取り直し、立ち上がろうとする葵はしかし、急に襲ってきた吐き気に口を押えた。屋根の上で体を折り、内容物の伴わない胃液を吐き散らす。

 

 垣間見た、異星の生物の誕生の光景は、まだ10代の少女にはあまりにもショッキングな出来事だったのだ。

 

「う、おぇ……っ! がぁ……っ! ……ひぐっ、あぁあ゛……く、くそぅ、くそ……」

 

 涙と胃液で汚れた顔をぬぐって立ち上がる。しばし迷ってから彼女は、葛葉の追跡をあきらめ、仲間たちの下に戻ろうとおぼつかない足取りで歩きだした。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。