TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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それは血の盟約
『いつもと立場が逆になったね』


 

 

 あの親子を助ける。

 

 そう決意したものの、しかし、残念ながらすぐには動けない。

 

 まずは、傷の治療が必要だ。

 

 普通の人間であれば死んでいないとおかしい量の出血と深さの傷。これをまず治さないと、この隠れ家から動けない。

 

 已むをえまい、と私はとっておきの食料に手をつける事にした。

 

 これまで少しずつ、一般人の集落からちょろまかしてきた、まだ賞味期限の切れていない食料。我が子の食育の為に用意していたのだが、背に腹は代えられない。これを食べる事にする。

 

 しかしながらここでも問題。私があまりに弱りすぎて、自力では調理はおろか食事もできない。一応、腸が裂けたり千切れたりはしていないのだが、単純に出産の時に気力を持っていかれたというか、不可思議なほどに力が入らない。こう、あまり科学的な例えではないが、生命エネルギーとか、魂をごっそりもっていかれたような感じだ。

 

 仕方ないので、我が子に介抱してもらう事にする。幸いというかなんというか、ブレイドはむしろ喜んで私の世話をしてくれた。

 

 毛布に丸まったままの私の口元に、人肌に温めたレトルトのおじやをスプーンで運んできてくれる我が子。優しく口の中に差し入れられたスプーンをはむ、と咥え、あむあむと味わう。

 

 じんわりと卵のやわらかな滋養が口の中に広がっていく。なんか、傷がむにむにっと治っていきそうな味だ……身体にいい……。ほんのり塩気も効いている。

 

「美味しい……」

 

『ザァン』

 

 もう一口と運ばれてきたおじやを、小鳥のヒナのようにぱくつく。これではどっちが保護者かわかったものではない。介護される親ってこういう気分なんだろうか、気恥ずかしいし申し訳ないが、なんだか幸せ……。

 

 そうこうしている内に、レトルトが一袋空になる。健常であったならばこの程度の量でお腹いっぱいにはならないのだが、今の私にはそれを消化するのが精いっぱいだ。

 

「げえっぷ。うん、もういいよ。ありがとう」

 

『ザァン?』

 

 もういいの? と首を傾げながらも、スプーンを片付ける我が子。

 

 空になったレトルトの袋と一緒にそれを持って隠れ家を出ていく、どこか遠くに捨てに行ったのだろう。

 

 ごそごそと尻尾を揺らして天井の穴から這い出していくブレイドを見送り、私はちょっと目を閉じた。満腹になったら眠くなってきた。

 

 寝る子は育つというし、傷の回復の為にも眠った方がいいだろう。

 

 しかし、ブレイド。

 

 生まれた直後から急成長して大人の姿に無理やりなった割には、精神が安定しているように見える。生まれた直後の我が子達は、基本的に幼子そのもので手をやかされていたのだが……。

 

 それともそう見えるだけで、やはり無理をしているのだろうか。

 

 少し、気を付けてあげるべきなのだろうか。

 

「とはいっても、私はこのありさまじゃなあ……」

 

 とにかく、今は一刻も早く傷を治すべきだ。

 

 心の中で念仏のように呟く。幸い、睡魔は直ぐにやってきた。

 

 

 

 それから数日。

 

 添い寝するブレイドが身じろぎするのを感じて、私はぱちりと目を覚ました。身を起こして、ううーんと背伸びする。

 

「んんーー、ふぅ。大分よくなったかな」

 

 服の下、腹部の傷を弄るようにして確認する。見た目だと、接着剤でくっつけた傷口がぼこぼこしている感じはあるが、概ね傷は塞がり始めている。中身の方はよくわからないが、内臓が破れたりしているようなまずい痛み方はしない。まあもともと人間のそれとは思えないあり様の中身だったし、多少ぐちゃってもそれはそれで許容範囲……だったり、しないかなあ。

 

 やっぱちゃんとした医者にかかりたいところだが、そんな事したらそのまま研究室に閉じ込められそうだしねえ……。治療だけしてもらって、我が子に救助してもらうという手も考えたが……そうなると確実に葵ちゃんと顔を合わせる事になる。

 

 気まずいってもんじゃない。

 

 あの年頃の子に、生出産シーンはいくらなんでもショッキングだろう。そりゃあ戦場で悲惨な光景はいくらでも見ているだろうし精神的に大人びているだろうけど、それとはベクトルが違いすぎる。

 

 なんせ顔見知りの幼女の異星種出産、スプラッタシーンだ。私でも絶対トラウマになる。

 

 そういう訳だから、あとは自然治癒に任せるしかない。なぁに、全身の刺し傷、切り傷だって綺麗に治ったのだ。ここまで傷が塞がればあとはなんとかなるなる。

 

 それより問題は、これからどう動くか、だ。

 

 宇宙人の動きも気になるが、人類軍の挙動も気になる。

 

 今の所、大阪拠点は大半が奪還され、あとは宇宙人どもの本丸を残すのみ。ただ流石に本丸という事もあって戦力が充実しており、人類軍は一気攻勢の為に戦力を集中させているはずだ。

 

 そしてそれは宇宙人どもも同じ。どうにも連中は、効率的に人類を滅ぼすつもりはないようだが、ここで大阪拠点を失うと一気に極東での影響力を失う。それなりに本腰を入れて人類軍を迎撃するべく戦力を集めているのはこちらも同じはずだ。そして恐らく、その中に間違いなくあの少女とそのチルドレンも入っている。単体戦闘力は私のチルドレンよりも大幅に低いようだが、機械化改造等によって寿命や戦闘力の上乗せが出来るのはこちらにはないメリットだ。数をある程度揃えて運用すれば、人類軍にとって大きな脅威になりかねない。

 

 だから、介入するべきは人類軍の攻撃作戦が始まる、その瞬間だ。そこで第三勢力として基地に侵入し、本格的な交戦が始まる前にあの子とそのチルドレンを制圧する。

 

 タイミングはシビアだし、下手をすれば人類軍から攻撃を受ける危険性があるが、それよりあの子がこれ以上手を血に染める前になんとか助けてあげたい。

 

「どうしようかな……おお?」

 

 起き上がった私の体を押さえつけるように、太い尻尾が絡みついてくる。先端に鋭い刃をはやした尻尾の根元を辿ると、だらしなく口を半開きにして爆睡している我が子の寝顔に辿り着いた。

 

 涎を垂らして幸せそうに眠っている姿にくすり、と笑みがこぼれる。どうやら無意識レベルで私の事を心配するあまり、尻尾が動いてしまったという事らしい。

 

「ふふ。わかったわかった、もう少し大人しく寝ているよ」

 

 ぐいぐい押してくる尻尾に根負けして、私も大人しく毛布をかぶる。途端に、尻尾は安心したようにへんにゃりと脱力した。

 

 我が子に随分と心配をかけてしまっている事は心苦しいが、ここまで思われるとなんだか胸がぽかぽかする。抱き枕代わりに我が子の尻尾を抱きしめて、私は二度寝を決め込むのだった。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 一方その頃。

 

 宇宙人達の母船。その最奥にパラタイン、ヴィシガーナーの姿があった。

 

 彼女の傍らには、護衛の衛士達の姿がある。彼らはみな一様に緊張したような佇まいで、ヴィシガーナーの背後に控えている。対して、ヴィシガーナーの感情を反映したその躯体には、うっすらと笑みが浮かんでいた。

 

 彼女らが対面するのは、アイドール・オーダーと人類が呼ぶ勢力に与えられた区画の中でも最奥部。

 

 彼女らにとって最も神聖で、恐れ多い遺物の数々が収められている宝物庫のような区画だ。その中でも、特に危険な遺物を納められた区画。

 

 倉の中は真っ暗だ。灯もなく、それでいて途方もなく広い、ドーム状の部屋。その最奥に、壁に彫像のように埋め込まれているモノ。

 

 それは、何かの生物、そのミイラだった。干乾び乾き果てているそれは、一目で生命活動が停止していると見て取れる。だがその状態でもなお、得体の知れない威圧感を放っている。一歩近づく度に増大するプレッシャーに、衛士達の足が知らずガクガクと震えた。

 

「ふふ……」

 

 そんな部下達とは違い、ヴィシガーナーは薄く微笑みすら浮かべて、軽やかに怪物の前へと歩み寄った。彼女の接近に反応して自動的に床がせり上がり、怪物の顔へと近づくためのスロープが作られる。その上をしずしずと歩き、ヴィシガーナーは怪物の額を覗き込んだ。

 

 間近で見る怪物は、強固な外骨格を纏った爬虫類のような顔をしていた。干乾びた口元はうっすらと開かれ、内部に無数の鋭い牙が並んでいる。眼窩は落ちくぼんで影になっているが、額全体は頑強な甲殻に覆われ、眉間からはVの字に鋭い角が生えている。

 

 もし、葛葉がこの場に居れば、この怪物を見てこう言うだろう。「うちの子に似ている」と……。

 

「例のものを」

 

「はっ」

 

 ヴィシガーナーが命じると、衛士の一人が、布に包まれた細長い物体を恭しくさしだす。それを受け取り、布をめくると中から現れたのは一振りの古刀。

 

 そう、前線基地で葛葉を貫いた、少女の手にしていたサーベルである。

 

 そしてこのサーベルには、ある細工がしてあった。細い刀身には溝が彫ってあり、それを通じて相手の血液が、ナックルガードにある器に溜まるようになっている。器の中でちゃぷちゃぷと揺れる深紅の血液を確認し、満足そうにヴィシガーナーは頷いた。

 

「ふふ……」

 

 そしてそれを、怪物の額に一筋垂らす。黒い甲殻に赤い血が広がり、罅割れに染み込んで、乾ききった肉体に赤い血が広がっていく。

 

 

 

 どくん

 

 

 

 一つ。微かだが確かに、はっきりと巨大な心臓が脈打った。

 

 どくん、どくん。ゆっくりと、完全に生命活動を停止していたはずの怪物が脈を打つ。

 

 ぱきぱき、と音を立てて、乾き固まりきっているはずの怪物の指が痙攣するように動く。古い瘡蓋を剥がすように、その全身から小さな欠片を振り落としながら、脈動が四肢に広がっていく。

 

 それは、化石に血が通い、動き出すかのような光景であった。

 

「素晴らしい……っ!」

 

 その様子を、ヴィシガーナーは恍惚とした笑顔を投影しながら見下ろしている。

 

 数万年の時を経たにも関わらず、目の前の怪物は……大いなる神獣兵の最後の一匹は、今まさに蘇生しようとしていた。あの実験体……今や、深刻な脅威へと成長を遂げた漆黒の女王、その精髄は、その領域にまで届いたのだ。

 

 笑うヴィシガーナー。その護衛達は、目の前で起きている人知を超えた奇跡に、跪き両手を掲げて祈りを捧げる。

 

 

 

 神よ。

 

 大いなる神よ!

 

 貴方の武器を、今我らが持ち帰りましたぞ!

 

 

 

 狂喜の祈願を、落ちくぼんだ眼窩の奥から深紅の瞳が見つめている……。

 

 

 

◆◆ 

 

 

 

 

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