TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『私に貴方を救わせて』

 

 

 状況を確認しよう。

 

 ここは宇宙人どもの本拠地。今現在、人類軍が猛攻を仕掛けており、宇宙人どももその対応で手いっぱい。多分。

 

 そして目の前には、少女とその怪物、確か5号といったか。

 

 それに対し、私は一人。頼れる我が子は、相手のチルドレン二匹と交戦中。パワーシールドで隔離されているのもあって、すぐには戻ってこれないだろう。

 

 ここが敵陣のど真ん中である以上、敵増援の見込みはあっても救援の見込みはない。

 

 つまり、私一人で、少女とチルドレンを制圧しなければならない訳だ。

 

 ……難易度ベリーハードすぎない?

 

「二人きりとか言ってた気がするが気のせいだったかな?」

 

「間違っては無いわよ、二人きりになった所で5号を呼んだだけだもの」

 

 さよか。

 

 しかし見事に分断されてしまった。相手に地の利があるというのは実に厄介である。

 

 こちらが絶対的劣勢である事を理解してか、少女には余裕がある。だが微塵も油断していない。確実に、ここで私を仕留める、という気概が見えている。

 

 もうちょっと油断しておくれよ。

 

「さて、おしゃべりはここらにしておきましょうか。……じゃあ、死んでちょうだい、クイーン」

 

『ガルルゥアッ!!』

 

 重たい音を立てながら、銀色の狼が駆け出す。床を削りながら、硬質の甲殻が滑らかに疾駆する。

 

 即座に最高速に達した銀色の砲弾を、私はかろうじて回避した。が、紙一重でかすめた甲殻に、ざりっ、と右肩がえぐり飛ばされる。

 

 全身が鑢のようになっている!?

 

「ぐぅ……!」

 

 突進を回避されたと見るや否や、三角飛びで壁を跳躍し、方向転換して再び襲ってくる狼。四方八方、全周囲から襲い掛かってくる死の砲撃を、なんとかギリギリで回避する。

 

 だがそのたびに、私の体が削られていく。

 

 特殊警棒など、数秒しか持たなかった。一撃受けて半分になったそれを投げ捨てて、すこしでも身軽になる。

 

「……っ、頑張るわねっ!」

 

 その私の粘りに、少女が顔色を変える。

 

 状況は確かに詰んでいる。だが、ここさえ凌げば勝機はある。

 

 二体がかりといえど、彼女のチルドレンとブレイドでは、圧倒的にブレイドの方が強い。数分あれば、私の言いつけ通り殺さずにあの子達を無力化して戻ってくるだろう。生死を厭わなければもっと早い。今ひと時追い詰められているここをしのげば、再び私に有利な状況にもってこれる。

 

 そしてそれをわかっているが故に、少女の顔色も青くなる。

 

「っ、だったら……5号!」

 

『ガルゥアッ!』

 

 少女の合図で、一転獣が高く飛び上がる。上空からの強襲を、私は余裕をもって回避する。地面に空ぶった爪が叩きつけられ……衝撃に、無数の破片が周囲に飛び散った。

 

 銃弾のように飛ぶそれら一つ一つが私にとっては十分な脅威。咄嗟に姿勢を低くしてやりすごす私の視界の影で、金属の輝きがぎらりと光った。

 

「な……ぐあっ!?」

 

「捕まえた!」

 

 クローが私の首筋を捉えて地面に引き倒す。

 

 少女。飛び散る破片の中、自らも血を流す事を厭わずに突進してきた少女が、私を床に抑え込んでいる。

 

「何もできないって見くびってた? 私だってこのぐらいやればできるのよ、どうせ死ぬ身よ! 何が何でも道連れにしてやる!!」

 

「が、ぐぅ……!」

 

 しまった。少女が死兵であるという事を、私はわかっていなかった。救うつもりの私と違って、彼女はもう死んだつもりでいるのだ。

 

 私を道連れにしてでも殺そうという気概。

 

 少女に使命感などあるはずがない。それでも憎い宇宙人の命令に従って、私を殺そうとするのは。

 

 それは。

 

「あんたを超えるためにこんな体にされて! それで最後まで、あんたの足元に及ばなかったら……私の苦痛は! 絶望は! 何の意味もないじゃない!!」

 

「……っ!」

 

「だったらせめて……私と死んでよ!! クイーン!!」

 

 少女が私の体を抑え込む反対側、銀の狼が走ってくる。

 

 ……私を、叩き潰すつもりだ。母親もろとも。

 

 それが、本意であるはずがない。狼の深紅の瞳からは、透明な雫が頬を濡らしている。不本意であっても、残り命のわずかな母の本願を果たすために、心を鬼にしているのだ。

 

 ああ。

 

 お前たちは、何て優しい。何て愛おしい。何ていじらしい、小さな命達。

 

 だからこそ……ここで、終わらせるわけにはいかない。

 

「……ブレイドッ!!! いまだ!!」

 

「なっ?!」

 

 私の叫びに応えて、床を突き破って急上昇してきた姿が、狼を捉えた。

 

 三本の刀を持つ獣と……あれは、背中に翼もつ戦乙女。葵ちゃん。

 

 少女の翼で推進力を得たブレイドが、刃の峰で狼を挟み込む。そのまま急上昇して天井に激しく叩きつけられた狼が、びくん、と手足を痙攣させて、そのままだらりと舌を垂らした。

 

 我が子が倒されるのを目の当たりにした少女が悲痛な声を上げる。

 

「5号!?」

 

「こっちも……だ!」

 

 私は少女のクローを両手で抑え込む。

 

 つかまったのは想定外だが……彼女に密着できたのは僥倖だ。このチャンスを、私も狙っていた。

 

 精神を集中させて、脳波動を収束する。視界が青白く輝き、私を見下ろす少女の顔を青く照らした。

 

「脳波動……はっ、いいわよ。べつに。拷問装置といっしょに生命維持装置も停止するけど、私を救うってのは大言壮語だった訳ね、この偽善者! せいぜい、最後まで苦しめばいいわ!」

 

「……それは、どうかな?」

 

 私は薄く脳波動の範囲を広げて、少女の体を包み込んだ。その影響で彼女の生命維持装置の働きが鈍るが、停止するまでとはいかない。俄に弱くなった彼女の握力から加減を調整しつつ、脳波動を音波のように使って彼女の内臓を探る。

 

 ……ひどい有様だ。内臓がほとんど残っていない。宇宙人どもが埋め込んだ機械が臓器として彼女の肉体を維持しているのがよくわかる。だがそのおかげで、何がどういう働きなのかもおぼろげにわかる。

 

 その中に、一つ。明らかに、生命維持に関係ないとしか思えない代物があった。

 

 まるで機械仕掛けの芋虫のような、やたらとトゲトゲしたそれ。肉体のあちらこちらに線を伸ばすそれは、あきらかに生命維持以外の何かの目的のために存在する臓器だった。

 

「見つけた……!!」

 

 やり方はラウラが教えてくれた。脳波動を収束し、レンズのように一転に集中させる。

 

 ばじばじばじ、と電気がはじけ、機械臓器が断末魔のようにのたうつ。おとなしく死んでおけ……そう念じて、一気に私はその中枢を焼き切った。

 

 それを確認して、脳波動の放出を停止する。くたり、と私にもたれかかってきた少女の体を、私は優しく受け止めた。

 

「う……」

 

「しっかりしろ、大丈夫か? 意識はあるか?」

 

「え? あれ、なんで……私……?」

 

 ぼんやりとした様子の少女。見た所、生命維持には異常がないようだ。

 

 傍らに、スラスターをふかして葵ちゃんが下りてくる。彼女の腕には、大型犬のようにブレイドが抱えられ、そのブレイドは狼型のチルドレンを抱きかかえていた。……よくあれで飛べるな。

 

「葵ちゃん……」

 

「…………まあ、その。必ず来ると思ってたから」

 

 互いに、なんとなく気まずくなって顔をそらす。まあ、うん。見られたしな……。

 

「……その。今度、ちゃんと話す。今は、気にしないでくれないか……」

 

「ええ。戦場だもの、わかってるわ。思うところはいっぱいあるけど」

 

「ははは……。それと、助けてくれて、ありがとう。ブレイドも」

 

 私が礼を言うと、彼女は顔をそらし、ブレイドは嬉しそうに『ザンッ!』と鳴く。

 

「ほれ、君もいつまでもぼうっとしていないで。少しは喜んだらどうだ?」

 

「え、え……? で、でも……本当に?」

 

「ああ。なんなら、ここで宇宙人への悪口を全力で叫んだらどうだ?」

 

 私の言葉に少女はすこしためらって、すう、と息を吸い込んだ。

 

「……宇宙人どもの、くそったれ!!! ヘタレ! 根性なし!! ……すっとこどっこい!!」

 

 ひとしきり叫んでも、少女が痛がる様子はなかった。彼女は信じられない、と胸元を押さえて、目を輝かせた。

 

「本当だ……痛くない! 何も痛くない!! 私、私……自由だ!!」

 

 少女が破顔する。私もまた、彼女の初めてみる笑顔に頬を緩めた。子供はやっぱり、笑っているほうがいい。

 

「ああ。これで君は自由だ。どこにだって行ける。何にだってなれるさ」

 

 ああ、よかった。やっぱり、子供は笑顔でいないといけない。

 

 

 

「……うん、ありがとう! クイー」

 

 

 

 バンッ、という小さな弾ける音が、少女の言葉を遮った。

 

 びちゃり、と私の頬を、生暖かい何かが濡らす。

 

 それが何か、私は最初わからなかった。ううん。それが何かを、理解することを拒絶したのだ。

 

 だけど、現実は1秒だって待ってくれない。

 

 笑顔を浮かべたまま胸を血に染めた少女が、私の腕の中に倒れこんだ。

 

 

 

「あ……ああ……? あ、あああ……あああああああああああっっ!?」

 

 

 

 

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