TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『憎悪の炎は尽き果てる事はなく されど魂に安らぎあれ』

 

 

 腕の中に倒れた少女の流す血が、どんどん私の腕を染めていく。

 

 どうして。なんで。

 

 なんで、どうして。

 

 混乱に停止した私の意識を正気に戻したのは、葵ちゃんの鋭い声だった。

 

「何をぼうっとしてるの!? 早く手当てを!」

 

「あっ」

 

 私からひったくるように少女の体を奪い、床に寝かせる葵ちゃん。彼女は注射器を取り出すと彼女に打ちながら、傷を確認する。

 

 が、すぐに唇をかみしめて顔を横に振った。

 

「……だめ。手の施しようがない……」

 

 それは、そうだろう。私は回らない頭の片隅で考える。

 

 傍らに座り込み、傷を確かめる。……彼女の胸の真ん中に、大穴が開いていた。おそらくは、あの拷問装置に仕込まれていた爆弾。

 

 あれは、完全に停止させたはず。それともそれは、私の思い上がりだったのか?

 

 いや……。おそらく、は……。

 

「あいつら、貴方がこの子を助けようとするって見越して、手を打っていたのよ! 埋め込んだ装置を停止させられたら、自動的に自爆するようにっ。何てやつらなの、くそっ」

 

「…………そう、だな」

 

 葵ちゃんが憤慨するが、私の心は麻痺したようの揺れ動かなかった。

 

 けほ、と少女がせき込む。その頭を膝枕で抱いて、私は、震える手で彼女の頭を撫でた。

 

「どうして……うまく、いったのに。なんで……」

 

「…………ねえ、くいー、ん。いや、違う、か……」

 

「しゃべるな。傷口が開く……」

 

 言いながら、私はそんな事しか言えない自分に絶望した。

 

 彼女はもう、傷口が開くとか、出血がどうとか、そういうレベルの状態ではない。普通であれば即死……皮肉なことに、宇宙人どもが彼女の内臓の大半を機械のそれに置き換えていたからこそ、彼女はかろうじてまだ生きている。だがそれも時間の問題だ。もって、あと数十秒。

 

 その残されたわずかな時間を使って、彼女はたどたどしく言葉を紡いだ。

 

「お……が、い……。名前……おし、え……て」

 

「葛葉。葛葉零士」

 

「葛葉……そう……いい名前ね。私は……み、ほ。みやた、みほ……げほっ」

 

 ごふり、と真っ黒な血を、みほちゃんは口から吐いた。

 

 私は、その頭を何度も何度も撫でてやる。彼女の額に、ぽたぽたと雫が落ちた。視界がにじむのを、何度も拭って振り払う。

 

「みほ、みほちゃんか。いい名前だな。ご両親はネーミングセンスが良かったんだな」

 

「ねえ……パパとママ……怒ってると、思う?」

 

「そんなわけあるか。君は、必死に生きようとしただけだ。その過程で人を殺めたとしても、それは全部宇宙人のせいだ。君には何の責もない。だから、お母さんもお父さんも、天国でまってる。必ずだ! 迷わずに、まっすぐ……きっと……」

 

 そこで、私は言葉にならなくなって嗚咽した。滲む視界の中で、みほちゃんが光のない瞳で薄く微笑むのが見えた。

 

 ああ。笑顔が、こんなに似合う子なのに。

 

 どうして。

 

 涙を流す私の頬を、彼女の左手が確かめるように撫でた。

 

「ああ……暖かい……。ぱぱ、まま、そこにいるの……? 私、よく見えない……」

 

「…………ああ。ここにいるよ。よく頑張ったね、みほ」

 

「ああ……ぱぱ、まま。ずっと、そこにいてくれたのね。きがつかな………か…………」

 

 その言葉を最後に。

 

 ぱたり、と彼女の左手が地に落ちた。

 

 色を失った瞳は、見開かれたまま、もう動く事はない。私はその瞼を優しく閉ざしてあげて、そして、歯を食いしばって吠えた。

 

「う……うううううううううううっ! あああああああああああああああっ!! あ゛あ゛あ゛ぁあああーーーーっ!!!」

 

 天に向かって獣のように吠え叫ぶ。傍らで、葵ちゃんが顔を背けて顔をぬぐっていた。ブレイドは、眉をしかめて、小さく唸っている。

 

 そして。

 

 あの子の子供たちは。

 

『きゅぅーーん………』

 

『ふしゅる……』

 

『がが……』

 

 気が付けば、狼型の子のほかに、銃の子、蜘蛛の子もまた、傍らにたたずんで母親の顔を覗き込んでいた。穏やかに眠る母の顔を見下ろす子供たち。

 

 私は涙をぬぐって、彼らに顔を向けた。

 

「……言い訳はしない。彼女の命を奪ったのは私だ。……仇討ちをするか?」

 

「ちょ、葛葉ちゃん!?」

 

 慌てる葵ちゃんを、手で制止する。悪いが、これだけは譲れない。

 

 復讐を望むものが、誰かの復讐から逃げてはいけない。そんな事をすれば、すべてが茶番になってしまう。

 

 だが、残された孤児達は、小さく首を横に振った。

 

『きゅうん』

 

 そして、三体とも、座り込むように母親のそばに寄り添う。私が立ち退き場所を譲ると、三体は母を取り囲むようにして身を寄せて、目を閉じた。

 

「そうか……母と一緒に、いたいか」

 

『ザァン……』

 

 わかるよ、とでもいうように、我が子が小さく頷いた。その頭を、私は左手で優しく撫でた。

 

 

 

 遠くで、何かの爆発音がした。

 

 

 

 俄に、建物が揺れ始める。顔を上げると、ぱらぱらと天井の欠片が降ってくる。

 

「……別行動をとっていた部下達が、中枢の破壊に成功したわ」

 

「そうか」

 

「すぐに、ここも崩壊する。脱出しましょう」

 

 葵ちゃんは私を促し、そして、寄り集まったまま眠る孤児たちに目を向けた。

 

 彼らに、動くつもりはない。外の喧騒も、振動も、知らぬとばかりに母親のそばにいる。葵ちゃんは首を振り、私の手を取った。

 

「……つかまって、一気に飛んで出る」

 

「わかった。……ブレイドは?」

 

『ザァン』

 

 私は大丈夫、とうなずく我が子に、私は葵ちゃんの体に腕を回した。彼女はスラスターをふかし、ブーストダッシュで部屋の出口に向かう。

 

 建物の崩壊が加速する。天井から人ほどもある瓦礫が降ってきて、葵ちゃんは巧にそれを回避し、ブレイドは切り払いながらそのあとに続く。

 

 最後に、私はちらり、と遠ざかる子供たちに目を向けた。

 

 彼らは、そこでずっと、眠っていた。まるでそこが、この世界に残されたただ一つの楽園であるかのように。

 

 それも、すぐに瓦礫の向こうに見えなくなる。

 

 私は未練を振り切るように前をみた。砕けた壁の向こうに、明るい陽射しが見えている。そこに広がっているのは、決して穏やかで暖かな世界ではない。まだ世界は、地獄の業火につつまれたままだ。

 

 その地獄へと舞い戻りつつ、私はただ、あの楽園が永遠に続く事だけを、願った。

 

「出るわ、つかまって!」

 

「ブレイド!」

 

『ザァン!』

 

 神殿から飛び出す。直後、間一髪で跳躍したブレイドが、葵ちゃんの足に器用につかまった。中指がブレードになっているので、人間でいう人差し指と親指、小指でしっかりと装甲をつかむ。スラスターは急に増えた重量に小動ぎもせず、風に舞う羽毛のように飛び上がった。青空の下に、私と葵ちゃん、ブレイドだけで舞い上がる。

 

 背後で、がらがらと神殿そのものが崩壊していく。瞬く間に平たく瓦礫になっていく神殿……反対側の空に、四つの空飛ぶシルエットを確認して、葵ちゃんが安心したように息を吐いた。

 

「あっちも無事ね」

 

「だな。……そして人類軍も優勢か」

 

 すでに、空を覆う爆発の雨はすっかりやんでいた。代わりに、地上を人類軍の車両や兵士が席巻している。まだ宇宙人の戦力は抵抗しているようだが、すでに包囲され四方八方から滅多打ちにされている。完全勝利も時間の問題だ。

 

「今回、特に私は何もしていない。人類軍の底力という訳か」

 

「ああー……いや。自覚ないみたいだけど、葛葉ちゃんのおかげよ。貴方が壁にあけた穴から私達がはいって、他の歩兵部隊も突入したのよ」

 

「なぬ」

 

 なるほど。それで妙に駆けつけるのが早かったのか。いや、あのタイミングで、なんかブレイドから下は制圧したよ、みたいな脳波動が飛んできたからおかしいとは思ったのだが。

 

「葛葉さんならこの機に乗じるでしょうってね」

 

「そうか……」

 

 私は頷き、瓦礫の山に再び目を向けた。

 

 ……あの有様では、三体とも助かるまい。だが、それでいいのかもしれない。あの三体の望みは、あそこで母とともに眠る事だった。

 

 私の視線を察した葵ちゃんが、小声でつぶやいた。

 

「あそこは、あとで理由をつけて焼き払っておくわ。……あの子の亡骸を、研究資料とかには絶対にさせない。約束するわ」

 

「…………いい、のか?」

 

「借りを返す良い機会だもの。気にしないで」

 

 まあ、なんて気っ風の良い。私は感嘆しつつ、彼女の腕の中に身を預けた。

 

 と、ぎゅ、と明らかに彼女は私の体をしっかりと抱きしめてくる。

 

「できれば。お腹の件について、人類軍基地にこのまま連れ去ってしっかり話を聞きたいのだけど……」

 

「う゛」

 

「まあ、今回はやめておくわ。貴方の意に反する事をしたら、この足にぶらさがってるこわーいマザコン怪獣が何するかわかんないし」

 

 葵ちゃんが見下ろす先、足先にぶら下がるブレイドが『ズラァアン』と小さく唸る。まあ、確かに。

 

 単分子ブレードを三本も備えた怪物を足先にぶら下げといて私の連行はできんな。この高さでも、ブレイドはなんともないだろうし。

 

「まあなので、お話はまたの機会に……何?」

 

「なんだ? 基地の一部が」

 

 人類軍がまだ制圧していない基地の一角が、突如爆発、崩壊する。中枢崩壊の影響か、と見守る私達の目の前で、大きな火柱と煙が上がる。

 

 空を覆うような黒い煙が絶え間なく吹き上がる。だが、その煙を突き破るようにして、さらに巨大な、黒光りする何かが浮かび上がってくる。

 

「な……」

 

「UFO?!」

 

 それは、一言でいえば巨大な円盤状の飛行船だった。ドロップシップとは違うが、かなり大きい。これまで、宇宙人が見せたことのない戦力だ。

 

 つるりとした外壁には、一切のつなぎ目がない。明らかにきわめて高度なテクノロジーの産物……そこまで考えて、私の頭にある事がひらめいた。

 

 ここは、宇宙人からしても要所である。重要人物の一人や二人、滞在していてもおかしくはない。そして基地の陥落を前に、その人物を脱出させようと船を出す、それもまたおかしくはない。

 

 つまり、いるのだ。

 

 あの船に。

 

 私の仇の、誰かが!!

 

「……葵ちゃん。私を、あの船に降ろしてくれ」

 

「まって、少将に増援を……」

 

「人類軍は無理だ。見ろ、この基地の攻略だけで疲弊しきっていて、あの船の相手をする余裕なんてない。君達も、武装を使い切ってるじゃないか。深追いすれば取り返しのつかない事になる。行くのは、私だけでいい。知っているだろう、私達はもともと一人と一体でやっていた」

 

 私の言葉に、葵ちゃんの視線が素早く自分の装備に向けられる。……翼には、大量のミサイルをマウントしていた痕跡のラッチがたくさんあるが、今は一発もない。そもそも彼女は今、銃の類を一つも持ち合わせていない。おそらく私を助けるために相当無理して強行突破して、あの場にたどり着いてくれたのだろう。その努力を無為にするようで悪いが、今は千載一遇の好機に間違いない。

 

 今を抜かせば、私の復讐は遠のくばかりだ。

 

「頼む」

 

「……ああもう、わかったわ! でもあとでちゃんと釈明してよ! 少将に怒られるのは私なんだから!」

 

「それは本当にごめん」

 

 葵ちゃんがコースを変えてUFOに接近する。浮上中のUFOは、まだ私達より高度が低い。ギリギリのところで滑り込んだ葵ちゃんが、私達をその上に投下した。

 

「ブレイド!」

 

『ザアァン!』

 

 ブレイドが刃を外壁に突き立ててしがみつき、伸びてきたしっぽが私の胴を抱え込んで支えてくれる。しっぽにしがみつく私を見送って、葵ちゃんが通り過ぎていく。

 

 その姿が、すぐに視界の下へと消えていく。

 

 UFOが急速に高度を上げていく。葵ちゃん達の最高飛行高度よりも高くへ舞い上がった飛行船は、そのまま私達を乗せたまま、北へ向かって移動を開始した。

 

「……ふん。まあ、どこに行こうと知ったことではない。やるぞ、ブレイド」

 

 我が子が外壁を切り裂き、突入口をつくる。私はその中に飛び込んだ。

 

 内部は、意外と普通のビルの通路のようだった。ブレイドも飛び込んできて、周囲を警戒する。

 

「む……」

 

 びゅうびゅうと鳴っていた外の音が急に途絶える。見上げると、ブレイドが明けた穴が、まるで素材が細胞分裂するようにしてふさがれていた。わずか数秒で開口部がふさがれ、外とのつながりが断たれる。

 

 これは……ふん。なるほど。

 

 誘われたか。

 

「どうでもいいことだ。やる事はかわらん」

 

『ザァン』

 

 ここにいるのが、メタル芋虫か、ラジコン星人か、マッチョ蜻蛉かは知らない。だが誰であってもかまうものか。

 

 

 

 楽に死ねると思うなよ。

 

 

 

 私は憎悪を胸に滾らせながら、船内の探索を開始した。

 

 

 

 

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