TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『恩讐の光、ここに放て』

 

 

 尻尾を叩きつけながら、その巨躯をもって立ちふさがる巨獣。

 

 こいつを倒さねば、ヴィシガーナーには届かない。それは明らかだった。

 

 それに、引く訳にはいかない。ここでコイツを仕留めなければ、連中は今度はこれを人類軍に向けて解き放つだろう。それでどれほどの被害が出るのか、想像に容易い。

 

 そして奴らがこれを先ほど解き放たなかったのは余裕と傲慢故、だけではない。恐らく、私達を確実に倒す為に、万全の状態で戦わせたかったのだ。

 

 つまり、窮地であると同時に、これは好機でもある。

 

 ……奴らも、私達の戦力を図りかねている。そこが勝機だ。

 

『ザァン!!』

 

 先に仕掛けたのはブレイドだった。

 

 体格では巨獣に大きく劣り、故にスピードもパワーも下回る。だが、その攻撃力は特筆すべきもの。どれだけ体格差があろうと、ブレイドの刃を受ければ巨獣とてただでは済まない。

 

 攪乱するように左右にステップを刻みながら、巨獣に近づくブレイド。その動きに触発されたのか、巨獣が早速右の爪を振りかざした。それを回避し、側面に回り込む我が子。

 

 上手い! そして拙い。

 

 恐らくはヴィシガーナーのコントロールにあるが故だろう。巧みにフェイントで誘った我が子のそれに、まんまと巨獣はひっかかった。

 

 がら空きの胴体に我が子が潜り込む。すでに刃の間合い、一刀両断とはいかずとも腕の一つは貰った……。

 

 が。

 

 残されていた巨獣の右側、残り二本の腕。それが大きく指を開くと、突如としてその掌を貫くように白い何かが伸びた。

 

 骨芯。

 

 それは一瞬で風船のように膨らむと、たちまちの内に剣の形を取った。そしてその表面が、青白いオーラを纏う。私と同じ、脳波動の。

 

 交差するように重ねられる剣。

 

 そしてオーラを纏った剣が、振りかざされるブレイドの両手の刃を正面から受け止めた。

 

『ザァン!?』

 

 万物を切り裂くはずの単分子の刃を受け止められて、驚愕の声を上げるブレイド。であるならば相手も同じ単分子の刃を持っているのかと思えば、恐らくそうではない。

 

 理由は、刀身を包み込む青いオーラ。物理的干渉力を持つほどのその力場が、刀身に接触する前にブレイドの刃を押し留めているのだ。

 

 そう……単分子の刃は全ての形ある物を切り裂くが、形の無い物は切れない。

 

 磁力、電力、そして超常的な力。

 

 奴にブレイドの刃は通じない。

 

『ヴォァア……』

 

 右の腕でブレイドの一撃を受け止め、奴の左腕はフリーだ。大きく振りかぶられた三振りの刃が、立て続けにブレイドに襲い掛かった。

 

『ザ、ザァンッ!?』

 

 それを、頭頂部と両腕の刃を巧みに使い、防ぐブレイド。刃物としての性質はこちらの方が上だからか、数でもサイズでも圧倒しているにも関わらず、奴はブレイドを攻め切れない。だがブレイドも、手数の差に開きがありすぎて、反撃に転ずる隙がない。

 

「くっ!」

 

『ザ、ザザンっ!?』

 

 見かねて前にでる。視線だけで振り返ったブレイドが制止するような声を上げるが、黙って子供が切り倒されるのを見守る親がどこに居るものか!

 

「これでも……食らえ!」

 

 脳波動を高めて照射する。

 

 ラウラのように物理的に干渉するほどの強い力はないが、同じ脳波動相手なら話は違う。それにあれを制御しているのが宇宙人のテクノロジーなら、私の脳波動で調子が狂うかもしれない。

 

 そう思っての行動だったが、しかし、それは甘い考えだった。

 

 あくまで攻撃はブレイドに集中させたまま。奴の頭部が、青紫に発光した。

 

 途端、ドーム状に広がる圧倒的なプレッシャー。私の放ったちっぽけな波動はそれに忽ち押しつぶされ、私の目の前にオーラが迫る。

 

 そうだ。

 

 脳波動には、脳波動で干渉できる。逆もまた、然るべきで。

 

「え……」

 

 回避する暇もなく、奴のオーラに体が包み込まれた。

 

 途端、凄まじい頭痛と倦怠感が私の全身を襲った。頭の中で、ばちばちと火花が弾けているよう。視界が明滅し、文字通り目から火花を出しながら私はその場に倒れ込んだ。

 

「ぐがあああ?!」

 

『ザァン!?』

 

 私の悲鳴に振り返るブレイド。

 

 その隙をついて、その場で体を捻った巨獣の尾が、ハンマーのように叩きつけられる。咄嗟にそれを防御するも、我が子は衝撃を受け流しきれずに壁へと吹き飛ばされた。

 

 磔のように壁に張り付いた体が、力なくずり落ちる。衝撃でブレイドの左のブレードが折れて、その破片が私の前まで転がってきた。

 

「ぶ、ぶれい、ど……ぶれいど……」

 

『…………』

 

 返事はない。生きてはいるが、失神してしまったようだ。

 

「が。ぐ……」

 

 ブレードの破片を握りしめて、ふらつく体をなんとか立ち上がらせる。

 

 定まらない視界で顔を上げると、目の前に黒い巨体があった。

 

「あ……がぅ!?」

 

 状況を理解するよりも早く、その大きな腕の一つが私の首を掴んだ。そのまま首根っこを押さえたまま宙に括られる。

 

 く、苦しい、息ができない……。

 

 霞む視界で巨獣を睨みつけるが、赤く眼光を光らせるその双眸には、およそ感情も、生き物らしさの欠片もない。まるで、肉と骨で出来たロボットのようで……その頭の向こうに、ヴィシガーナーが窓からこちらを観戦している様子が見えた。

 

 奴は片手に結晶体を持ったまま、まるでワイングラス片手にスポーツの試合をみているような、そんなリラックスした仕草でこちらを見下ろしている。

 

 感情を反映した奴の精巧な擬態は、その顔に張り付いたような笑みさえ浮かべている。

 

「……ふ……」

 

 奴は、この状況を楽しんでいる。見世物か何かだとしか考えていない。

 

 自分の操る巨獣が負けるなどと考えていない、だけではない。

 

 そもそも奴には、自分が害される、負ける、という発想が無い。

 

 生まれながらにしての絶対的な支配者、加害者。他の知的生命体を、同じ生き物だとみなしていない。

 

 だから踏みにじれる。だから心は痛まない。奴らにとって、私達地球の命は、いいや、他の全ての命は、ただ刈り取るだけの稲穂に過ぎないのだ。

 

「……ふ、ざけ……」

 

 そうだ。

 

 失われた多くの命。

 

 抗いながらも蹂躙された兵士。逃げまどいながら、訳も分からず死んでいった無辜の人々。現実を認識できずに踏みつぶされていった、内輪もめに明け暮れる愚かな人間達。人それぞれ、善き人も悪しき人もいただろう。だけどその行い、生き様に関係なく、皆死んでいった。殺されていった。

 

 産み落とされた我が子達。短い命を、愛の為に、私の為に使い潰して死んでいった可愛い子供たち。確かに彼らと出会ったのは宇宙人の行いが切っ掛けで、それがなければ生まれる事もなかった子供たち。そうだ、例え彼らが私と出会った事で救われたのだとしても、こんな地獄のような世界に、あんな戦って死ぬだけの人生の為に、あの子達は生まれてくるべきではなかった。

 

 そして。お前たちに、何もかも蹂躙されて死んでいったみほちゃん。

 

 彼女は子供だった。子供でしかなかった。母になれず、子供たちを受け入れる事もできず。ただ苦しみと悲しみの中で死んでいったあの子。

 

 あの子を母と慕った子供たち。例え報われなくても、自分達の愛に殉じた小さな命たち。道具として兵器として生み出されたのだとしても、あの子達には命があった。

 

 そうだ。

 

 命には、権利がある。尊厳がある。どんな形でも、生きようとする権利が、幸せになろうとする権利が。

 

 それを。

 

 お前達は、全て全て踏みにじった!!

 

 まるで玩具のように弄び! 最後には踏みつけにして! 全ての命を舐め腐った!

 

 その罪……世界が許しても、私が許さない!

 

「ふざけるな……ふざける、なぁ!!」

 

 流し込まれた相手の波動を、私自身の脳波動で押し流す。全身から異物を押し流し、体の制御を取り戻す。眼窩から、青い光が噴き出して視界を青に染める。

 

 それを見て、巨獣が再び波動を放つ。青紫の、桁違いの出力を誇る脳波動。単純に私よりも脳細胞の数が圧倒的に多い巨獣が放つそれは、単純出力では私を上回っているだろう。

 

 だからどうした?

 

 そんな、自我もない、物も言わぬ操り人形の念と。

 

 私の憎しみ、怒り、悲しみが……。

 

「釣り合うだなどと、思うなぁあああああ!!!」

 

 青に染まった視界に、私がこれまで見てきたあらゆる悲劇を垣間見る。死んでいった我が子達の最後の姿を見る。眠るみほちゃんと、三体の子供たちを見る。

 

 憎い。

 

 憎い憎い。

 

 奴らの全てを、私は心から憎む!

 

 この憎悪、形にするならば……なんとする!!

 

「があああああ!!!」

 

 脳髄を押しつぶそうとする巨獣の波動に、憎悪を叫ぶ。頭の奥から、あらゆる負の感情を絞り出す。

 

 恩讐を。

 

 悪因には悪果を。邪悪には天罰を。

 

 奴らに、その行いに相応しき報いを!

 

 そうだ……人を裁くのが神だというならば! 私は、お前達が生み出した応報! 恩讐の光である事こそが、私の存在意義に他ならない!

 

 

 

 ぷつん、と。

 

 頭の奥で、何かの扉が開いた。

 

 

 

 光が揺らぐ。

 

 激しい閃光だったそれが、揺らめいて、重なる。

 

 憎悪という燃料に、火がともった。忽ち燃え上がり、轟々と吹きすさぶ。

 

 それは、もはや脳波動などという曖昧なものではなかった。

 

 燃え盛る、青黒い憎しみの炎。現実の物理法則を蝕んで燃える炎が、私の全身を薪にして膨れ上がった。

 

 不思議と、熱くなどなかった。その熱は、常に私を芯から焼き焦がしていたのと、同じものだったから。

 

『VoooOOOO!?』

 

 掴んだ腕から炎が燃え移り、驚愕の声を上げる巨獣。その拍子に、拘束する爪の力が緩んだ。

 

 今だ。

 

 私はその隙を逃さず腕の上に這い上がり、そのまま奴の頭部へと飛び移る。振り落そうと頭部が振り回されるのを、二本の角にしがみついて堪える。

 

 赤く光る眼光が私を見上げる。その光の向こうに、こちらを嘲弄するヴィシガーナーの意識を、私は確かにみた。

 

「これで……!」

 

 しがみついたまま右腕を振り上げる。手の中には、折れたブレイドの刃の先端。それに憎しみの炎を纏わせて、私は奴の額目掛けて振り下ろした。狙うは、巨獣ではない。それを向こうからいいように操る、怨敵の意識!

 

 切っ先が、甲殻を貫いて脳に達し。

 

 噴き出す青紫の光と、燃え上がる青黒の炎が絡み合って、真っ白な閃光を放った。

 

 視界が、白く染まっていく……。

 

 

 

 

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