TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『空と海を染める赤』

 

 

 太陽系第三惑星地球。

 

 生命に恵まれたこの青い星。その地表に広がる、死と飢えの津波。

 

 その赤黒い汚染が広がっていく様を、宇宙から監視している一隻の船があった。

 

 宇宙人達と全く同じ形状の母船。全長12kmの巨大船のブリッジで、一人の異星人が正面モニタに投影される映像に目を向けている。

 

 その姿は、人類の知るどの宇宙人とも違う。全高2mほどの体躯に、全身を頑強なパワードスーツに包み込み、肌の露出は一切ない。腕は三本……人類と同じ二本の腕に、背中から伸びた三本目。それ以外では、尻尾があるとかの特徴はなく、ある意味では人類に近い姿かたちをしているともいえる。

 

 頭部もヘルメットで覆われているが、バイザーの奥には、確かに瞳が存在し、映し出される情報に目を配っていた。

 

『サージェント。状況はどうだ』

 

 と、彼に呼びかける声があった。反応して振り向くと、似たような姿の異星人が三人、足音を響かせながら歩いてくる。その先頭に立つ者は、他と装いが多少違った。マントを靡かせ、勲章のようなものを飾り、他よりも飾りが多い頭部は、彼が一角の立場である事をうかがわせる。

 

『状況は極めて深刻です、マスター。分類としてはクラスC、星系レベルの汚染事象の初期段階です』

 

『……対処は可能だと思うか?』

 

『無理でしょう。まだ原住民の方が災害に適切に対応できている。この際、彼らは見捨てるべきかと』

 

 冷酷な言葉に、マスターは小さく肯定の意を示した。どすんどすんと歩み出て、隣から映像を覗き込む。

 

『閣下の要望でもあったから口を挟まなかったが、こんな結果に終わるとはな。まさか神獣兵が暴走する事になるとは』

 

『一体、何をやらかしたのか。こちらの推測では、あと240時間後には原住民の抵抗も失われ、この星のバイオマスは全て神獣兵の手に落ちます。そして彼らがこれで止まるという保証はない。むしろかつてのように自ら宇宙に進出し、他の星系に渡り同じ事を繰り返すでしょう。いや、もっと悪い。もはや彼らを制御する術はなく、そして彼らは母星の座標を知っている。マスター、もはや残された方法は二つのみです』

 

『ふむ……この惑星を焼き払い、全てを無かった事にするか。あるいは、我々自らが手を貸し、神獣兵の暴走を阻止する、か』

 

 マスターは小さく唸り、映像を切り替えた。その映像のなかでは、彼らが原住民とよぶ生命体……人類が、果敢に未知の怪物と交戦している様子が映されていた。その多くは一方的な蹂躙であり、火力制圧を突破されて肉薄戦闘になった時点で勝ち目はない。無限の如く押し寄せる爪と牙に引き裂かれ咀嚼されるだけだ。

 

 その中にあって、彼らは諦めない。最後まで銃を手にし、果敢な英雄的献身で一秒でも後方への進出を押しとどめようとしている。

 

 誇り高き英雄がまた一人誕生するのを見届け、マスターは部下に問いかけた。

 

『諸君。我々はなんだ?』

 

『閣下の刃であり、翼であります。故に、我らは誇り高い戦士でなければならない。それが欺瞞だとしてもです』

 

『うむ。……であるならば、肩を並べるのは、それにふさわしい英雄でなければならない、そうは思わないかね?』

 

 マスターが振り返り、意味深な視線を向ける。それに、三人の部下はそろって敬礼を返した。

 

『馬鹿どもが全滅するまでの猶予は?』

 

『あと100時間ほどかと思われます。……すでに救援目的での出撃準備は整っております、マスター。御命令さえあれば、すぐにでも衛星軌道上に待機している部隊が、オービタルアサルトを開始するでしょう』

 

『よろしい。閣下に対する言い訳も必要だ、一人ぐらいは連れ帰ってやれ。即座に行動を開始せよ』

 

 マスターの指示に、部下達が踵を打ち鳴らして敬礼する。すぐに作戦のために散っていく部下達を見送り、再びマスターは映像に視線を戻した。

 

『やれやれ、閣下の悪趣味にも困ったものだ。して、例のクイーンとやらは、今、どこで何をしているのやら……』

 

 

 

 

 

 2036年12月12日。

 

 現地時間10時32分。

 

 屋久島、種子島上空。

 

 そこに、五人のヴァルキリーが翼を広げ、空から大海を見下ろしていた。

 

「…………」

 

 一見、大海原に異変はない。黒々とした海に、いつ尽きるともしれない波が押し寄せるばかり。空は不気味な曇天であり、太陽の光が届かぬ様が、これからの事を示唆しているように葵には思えた。

 

 組んでいた腕をほどく。がっ、と何もない空を、葵の踵がイライラと蹴った。

 

「来たよ」

 

「……通達!! 敵戦力の接近を確認! 各員、第一種戦闘配置!!」

 

「レーダーに何も映ってない?! あほか、だから私達が見張ってるんでしょうが!!! さっさと備えて!!」

 

 敬愛する隊長の指示を、即座に部下達が通達する。それを聞きながら、葵は自らの装備を見下ろした。

 

 両手に多連装ガトリングガン、翼にはありったけの空対空ミサイル。背中には奥の手のブレードまで背負っている。

 

 たった一人で宇宙人の基地でも落とそうかという重武装。しかし、これだけあっても、足りるかどうか。

 

 きっ、と視線を水平線に向ける。天と地が接する境界線、そこに赤黒い線が引かれ、じわじわと滲みだすように空と海を染めていくのが見えた。

 

 来た。

 

 災厄。

 

 もはや、地上に残った宇宙人の勢力はほとんどすべてアレに食われた。そして次は人類の番だ。宇宙人達ですら抗えなかったあの死の津波に、果たして自分たちは抗えるのか?

 

 彼女は……クイーンは、もう居ない。あの船の墜落以降、ひと月以上もの間、その活躍は観測されていないのだ。

 

 クイーンとチルドレン抜きで、この破滅に抗う事ができるのだろうか?

 

 弱気を葵は、しかし嚙み砕いて武器を構えた。

 

 自分達は生かされた。あの、悲しい小さな女の子に。

 

 ならば。

 

 生きなければならない。例え、その先に待ち受けるのがどれだけの絶望であっても!

 

「来たぞ! いいか、これは前哨戦に過ぎない! 誰一人として、ここで死ぬ事は許さん! 死に噛みついてでも、生き延びて見せろ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 部下の士気は高い。

 

 それを頼もしく思いながら、葵は敵へと目を向けた。

 

 ……それは、空を埋め尽くすほどの怪生物の群れだった。

 

 一言でいえば、甲殻をもった蝙蝠。黒い殻と、赤い翼をもった翼竜にも似たシルエットが、何百何千という数で広がり、空を埋め尽くすように広がっていく。

 

 人類軍が暫定的に“ディスペア”と呼称したそれは、今や地球の三分の一を支配下におく謎の敵対勢力だ。はっきりしているのは、それは一切の区別をつけずに、すべての生命体を殺戮する事。

 

 人類も野生動物も、宇宙人ですらその区別はない。ただひたすら殺し、食らい、そして増える。

 

 中東やアフリカ大陸はすでに落ちた。もともと大した戦力を置いていなかった東南アジア領域はほとんどバイキング会場のような有様だ。オーストラリア大陸はほぼ完全に包囲され、全方向から攻撃を受けているという。そして、そこから飛来するディスペアの一団が、こうして日本を目指している。ここを突破されれば、本州が奴らの餌食となる。

 

 沖縄の市民は、もともと残っていない。宇宙人の暴虐のせいで、防衛線の構築が楽だったのは、ひどい皮肉だ。

 

「オープンコンバット! ここから先に、一匹も通すな!!」

 

 この防衛線の事実上の最高指揮官である葵の指示に従い、一斉に迎撃の矢が放たれた。

 

 彼女たちの下に漂う、無数の防空艦隊。その中には先の大阪拠点で活躍した、改最上級の姿もある。対空機関砲が、対空砲弾が、矢のように放たれる。

 

 さらには彼女らのはるか後方を飛翔する攻撃機部隊から、おびただしい量の空対空ミサイルが放たれる。

 

 その猛烈な砲火によって、空の彼方が花火のように炎で彩られた。

 

 空を覆いつくす数万匹の獣が、鋼鉄の暴風雨によって引き裂かれ、千々にちぎれて海に落ちていく。しかし、多大な被害を出しながらも、その勢いは衰える事はない。むしろ逆にその被害を上回るほどの数の個体が一斉に飛翔し、同胞の死骸を乗り越えて先に進んでくる。

 

「……制圧は無理か! 予定通り、フェイズ2に移行。防空艦隊はこのまま射撃を慣行、私達は敵集団を別宙域に牽引する!」

 

『了解。健闘を祈る!!』

 

 ヴァルキリー達が持ち場を離れ、東に向かって移動する。ある程度艦隊から距離をとると、彼女らは敵集団に向けて一斉にミサイルを撃ち放った。

 

 何十発というミサイルが敵を撃墜し、数を減らす。全体としては微々たる被害……しかし、それに敵集団は敏感に反応した。

 

 砲火によって前進を食い止められている集団から、一部が分離。ヴァルキリー達の方に飛翔してくる。前進が困難とみて、手近な獲物に食いついたのだ。

 

 その戦略性もない即物的な対応に、葵はにやりと不敵にほほ笑んだ。

 

「いいわよ、こっちについてこい!」

 

 そのまま、太平洋上沖合に誘導。およそ敵の三分の一ほどが、彼女達の誘導に牽引されて本州への飛行コースから離れた。

 

 その代償として、彼女達は少数で多数の敵を相手にする事になる。

 

「隊長、敵の飛翔速度が想定よりはるかに速い! このままだと追いつかれます!」

 

「生物なのに亜音速出してるってどういう生き物だべ!?」

 

「地球全土の空を覆いつくそうっていうんだから、それぐらい序の口よ! 反転、迎撃行動! へまするんじゃないわよ!!」

 

 空中で反転し、向かってくる赤い羽虫の群れに突撃する。

 

 ガトリングガンが唸りを上げ、翼に背負った対空ミサイルの残りをすべて打ち尽くす。そのまま、勢いを減じた群れの中に突入し、葵は縦横無尽に暴れまわった。

 

 視界全部が敵のようなもの。瞬間瞬間、優先順位を設定してかたっぱしから撃ち落とす。背負った弾倉の中身よりも、敵の数の方が多い。一発たりとて無駄にはできない。

 

「く、くそっ! 数が多すぎる!」

 

「油断するな! ツーマンセルで仲間の背を常に守れ!!」

 

 いう傍ら、葵は部下の一人が背中に取りつかれそうになっているのを見て即座に撃ち落とした。その隙をついて、彼女の背後にも怪物が迫る。

 

 牙をむいて躍りかかる怪物。それを振り返らぬまま葵は空中で一回転、ガトリングの砲身を投げ捨てながらブレードを手に取る。とびかかってきた相手の背を逆にとった彼女は、一刀のもとにその怪物を切り捨てた。青黒い返り血を振り払う間もなく、刃を上に投げ捨ててガトリングをキャッチ、周囲の怪物を掃討する。その背中に、落ちてきたブレードが申し合わせたようにかちりと収まった。

 

 一連の妙技を目の当たりにした部下の一人が、引き金を引きながらもぽかんと口を開いた。

 

「びゅ、びゅーてぃほー」

 

「私をほめている暇があったら手を動かせ!! くそ、無駄に体力を使わされた!!」

 

 足元に飛びついてきた敵を蹴りで砕きながら、葵が愚痴る。消耗戦ではペース配分が命だ。それを見誤れば、もれなく自分達も奴らの餌である。

 

「防空艦隊の状況は!?」

 

「弾薬の30%を消費! 護衛艦“あさぎり”、“ゆうぎり”、敵飛翔生物に取りつかれて行動不能! “ゆうだち”ブリッジに損傷、連絡が付かず!」

 

「無理やりひっぱりだしてきた退役艦じゃそんなものか……!」

 

 今回、とにかく数が必要という事で宇宙人戦争にも持ち出されなかった退役艦もフル投入である。もともとは大阪拠点攻略戦の際に囮として引き出される予定であったが、クイーンの大暴れで出番が無くなって持て余していたのがここで役にたった。とはいえ、あくまで動けばいい、といった程度の改装と補修では、やはり不足していたようだ。

 

 それでも、ある意味本来の役目は果たせている。

 

 連中は、即物的だが目ざとい。対空能力の低い対象を的確に識別して攻撃している。決してバカではないのだ。

 

 それを示すように、葵達を取り囲む赤い蚊柱が、少しずつ減じていく。

 

 葵達を手ごわい相手と認め、被害を抑えるために撤収しているのだ。散開した群れは、再び本隊に合流し、本州への襲撃コースに戻る。

 

 それを許してはいけない。

 

「追撃! びびりどもを吹き散らせ!!」

 

「了解!」

 

 ガトリングガンを投げ捨てて身軽になった葵は再びブレードを引き抜き、次々と怪生物を切り捨てていく。最後の一発まで使い切ったガトリングガンが海上に落ちるまでの間に、葵は100匹以上を切り捨てた。

 

 それでも全体からしたら雀の涙だ。

 

 防衛線に目を向けると、空に昇る火線がかなり減じているのが確認できた。代わりに、海面上に赤い靄が密集している。

 

 どうやら、与しやすい相手と見た損傷した護衛艦に群がっているらしい。拡大すると、護衛艦の表面が見えないほどびっしりと、赤い化け物が群がっているのが見て取れた。

 

 予定通りだ。

 

「……艦隊は?」

 

「予定通り、第二防衛ラインまで後退しました」

 

「よし。起爆許可を出せ」

 

 葵が指示した直後、海の彼方で火柱が上がった。

 

 あえて囮になった護衛艦数隻。それが内部に仕込まれた特殊爆弾ともに四散したのだ。宇宙人の倉庫から拝領してきたそれらの爆弾は、人類の知りうる限り最大の破壊力を持つ核弾頭に匹敵する破壊力を持つ上に、範囲が極めて限定的という実に理想的な兵器だった。かつて人類もさんざんに打ちのめされたそれを、利用しない手はない。

 

 計算された配置で爆発した爆弾の炎の壁が、殺到する怪物軍を包み込むように焼き尽くす。

 

 その炎が消え去った後、あれだけ存在していた赤い積乱雲は、もはや微かにも存在していなかった。

 

「……状況完了。帰投する」

 

「はあ……なんとかなっただべさ」

 

「これはまだ第一陣に過ぎないわ。次はもっと厄介な連中がくる」

 

 そう。

 

 これはまだ緒戦に過ぎない。

 

 怪物達の侵攻は、速度に優れる飛行生物から行われる。そしてそれが敵防衛線を圧迫したころ、本命の部隊が来る。

 

 連中には海中戦力も存在する。そちらは別動隊が今頃攻撃をしかけているはずだが、そのうち空と海、同時に相手しなくてはいけなくなるだろう。

 

 ほぼ無人のユーラシア大陸の状況も気になる。とんでもない量の殺人ドローンが徘徊している地域だから、怪生物群もたやすく突破はできないだろうが、日本海側の警戒も必要だ。

 

 時機に、極東も全方向からの攻撃を受ける事になる。

 

 そうなっては、どれだけの弾薬と兵力があっても到底持たない。

 

「……一体、どうすればいいの……」

 

 葵が先行きの不透明さに不安を抱えていると、まるでそれを見透かしたように凶報がもたらされた。

 

「隊長! 本部から通達……四国沖合に、敵集団が接近しているそうです!」

 

「!!」

 

「人類軍も迎撃態勢を整えていますが、上陸される可能性、大との事! すぐにでも防衛部隊に合流してほしいと……!」

 

 切羽詰まった部下の通達に、舌打ちをしながら葵は補給艦への進路をとった。

 

「武装を補給後、すぐに急行する! お前たちは……」

 

「やれます!」

 

「この程度で音は上げてられないべさ!!」

 

 頼もしい部下達の声に頷き、葵は一路、味方部隊との合流を目指した。

 

 

 

 彼女達が飛び去った後の海。

 

 海上はおびただしい量の残骸が浮かび、海を真っ赤に染めていた。

 

 その中に浮かぶ、頭を割られた怪物の頭。

 

 その瞳がぎょろり、と動き。飛び去って行った葵達を見つめている。

 

 やがて波の間に、それは飲み込まれて沈んでいく。その間も、それはずっと、彼女達を見つめていた。

 

 ずっと。

 

 

 

 

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