TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『フォース・エイリアン』

 

 

 エイリアン兵達の救援は、極東だけに限った話ではなかった。

 

 北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、その他幾つもの防衛線戦……。未だ抵抗を続ける部隊の前に、彼らは天から炎の天使の如く顕れ、人類軍を救援した。

 

 これまでとは全く違う行動を見せる宇宙人達の行動に、人類軍は困惑しつつも、消極的不干渉の態度を維持した。確かに宇宙人達への怨恨は深いが、それ以上に今は差し迫った脅威がある。赤い津波を前に、仮にも同じ方向に銃を向ける者同士、争っている場合ではない。

 

 敵の敵は味方ではない。が、今は弾の一発も惜しい。

 

 フォースエイリアンが明らかにこれまでの侵略者と比べても高い戦闘能力を持っている事も、軽率な考えへの牽制になった。また彼らが開戦当初のごく短時間しか姿を見せておらず、被害は大きいもののそれを知る人間が今やごく少数であった事、これまでの一般的な宇宙人であった三大勢力がほぼ壊滅し顔を見せる事もなくなっていた事なども暴発への抑止になったと言える。

 

 勿論、軽率な事を考える者がいない訳ではなかったが、幸いにも人類軍同士でその問題は抑え込めた。

 

 それにより、人類軍と宇宙人の、奇妙な共同戦線が成立しつつある。それでも戦況は厳しく、合同軍は各方面でじりじりと押し込まれつつある。

 

 そんな中、極東において、フォースエイリアンと人類軍の間で、会話の席が持たれようとしていた。

 

 

 

 極東人類軍、岩国基地。

 

 一度ならず二度にわたって宇宙人の手によって壊滅に追い込まれたこの基地であるが、整備された大規模な滑走路が存在するという利点はやはり魅力的であり、二度目の大破壊後も復興が進められていた。

 

 極東を人類の手に取り戻した事で以降はこの地が反抗の拠点になり、多数の航空機が行き来すると考えての判断である。

 

 そんな岩国基地は今、厳戒態勢にあった。

 

 基地の敷地を兵士達が厳重に警戒し、無数の対空砲が宙を睨んでいる。滑走路上には人類軍士官が整列し、その時を静かに待っていた。

 

 時刻は早朝。

 

 まだ太陽が昇り始めたばかりの東の空に、何かがきらりと輝いた。

 

「……来た」

 

 人類軍の間に緊張が過ぎる。警報こそならされないものの、明らかに緊迫感が基地に満ちる。

 

 それをよそに、どんどん空の機影は近づいてくる。

 

 ……それは、到底人類のものとは思えない、奇抜な形状の飛行機だった。

 

 戦車を引き延ばしたような、武骨極まりない装甲の塊。軽量化が命の航空機にあって、それを無視した重装甲の装甲飛行機。翼もやはり分厚く大きく、機の後ろではジェットでもロケットでもない推進機が、青白い輝きを放っている。恐らく対空砲が数発直撃したくらいではびくともしないそれは、空飛ぶ戦艦といっても過言ではない。

 

 そしてその機の表面は、真っ赤な肉片と青黒い血でぐしゃぐしゃに汚れていた。まるで、犇めく群れの中を突っ切ってきたような有様。

 

 事実、そうである。この機は、ディスペアの勢力圏内をつっきって、ここ岩国基地まで飛んできたのだ。

 

 岩国基地上空まで飛来した飛行機が、ふわり、と急に速度を失ったように減速。そのまま空中を浮遊するようにして、ゆっくりと滑走路に降下してくる。その挙動は高度な重力制御技術を伺わせ、人類と宇宙人との間に横たわる分厚い技術力の壁を示唆しているようだ。

 

 ごくり、と士官たちは息を飲み、一糸乱れぬ動きで飛行機の降着タラップらしきものの前に整列した。

 

 彼らが微動だにせず待機する前で、ドアが音もなく開く。

 

 その中から姿を現したのは、三本腕のパワードスーツ。明らかに社会的立場をうかがわせる、勲章のような飾りやマント、ヘルメットを彩る飾りに、人類軍兵士達の緊張感が高まる。

 

 本当に来た。

 

 彼らの心境を代弁するなら、そのような心持である。

 

『……屈強にして精鋭たる人類軍兵士の諸君。誠意ある歓迎、感謝する』

 

 そのパワードスーツが、滑らかに日本語を喋りはじめた事に一瞬だけ兵士達がざわめく。だが彼らは動揺を精神力で抑え込み、パワードスーツの感情を伺わせないバイザーを真正面から見つめ返した。

 

 一人の士官が代表して前に出る。

 

「お待ちしておりました。私は極東人類軍所属、芦原浩二少佐と申します。貴方が、その、宇宙人軍の代表……マスター、という事でお間違いありませんね?」

 

 宇宙人には言われてもわかるまい、と所属する部隊等を省略した簡素な名乗りをあげる芦原少佐に、マスター、と呼ばれた宇宙人戦士は鷹揚に頷いた。

 

『うむ。私はマスター……人類の言葉で表現すれば、第17近衛兵団第三中隊部隊長という事になる。我々に固有の名は存在しない。マスター、と呼称してくれればそれでよい』

 

「了解いたしました。我々の上司……柏木少将がお待ちです。どうぞ、こちらに」

 

『感謝する。その前に一ついいだろうか? 私の部下を数名、基地の防衛に当たらせたい。許可を貰えるだろうか?』

 

 予定にない提案に、芦原少佐は一瞬口ごもる。

 

 あくまで自分の権限でできると判断して、彼は首を縦に振った。

 

「監視付きになりますが、それでよろしければ」

 

『構わない。寛大な対応感謝する』

 

 マスターが案内されるままにノシノシと歩いて基地に向かう。その背後では、飛行機の貨物ハッチが解放され、その中から茶色いパワードスーツの一団がのそのそと滑走路上に降り立っていた。いずれも、激戦の後を思わせる血と肉片塗れである。そのいかにも激戦区から直行でやってきました、という姿に、兵士達が息を飲んだ。

 

 と、一人の兵士が、タオルを片手に前に出た。

 

「よろしければ、どうぞ」

 

『……痛み入る』

 

 こちらは喋れないようで手話による挨拶をかわし、パワードスーツはタオルを受け取って汚れを拭い始めた。その様子に、兵士達は困惑したように顔を見合わせた。

 

 彼らにとって宇宙人どもは理解不能、会話不能、価値観も何もかも合わない宇宙の果てから来た獣であった。だがここにきて、会話も通じるし価値観もすり合わせられるしなんだったら礼儀まで理解している者達が現れた訳である。 これまでの連中はなんだったんだ?

 

 敵であるという認識がぶれる事はない。だが、今までとの違いに兵士達は困惑するのであった。

 

『有難う。……洗って返せばいいか?』

 

「い、いえ、お気になさらず」

 

 

 

「こちらで少将がお待ちです」

 

『道案内感謝する。少佐はこのまま、ここで待機を?』

 

「はっ。何かあれば、私の他にも兵士数十名がかけつけます。……いずれも私に劣らぬ精鋭ばかりです」

 

 言外に、何かあれば刺し違えてもお前を殺す、という少佐の言葉に、マスターはむしろ楽しそうに小さく笑って見せた。

 

『良い戦士だ。好意に値する。私とて、徒に血を流したい訳ではない。重々、注意しよう』

 

「……どうぞ」

 

 開かれたドアを潜り、室内に入るマスター。背後で扉が閉じると、言葉通り少佐がそのまま待機している気配があった。

 

 室内には、一人の男と、一人の少女。

 

 柏木少将と、葵中尉である。

 

 ヘルメットの下で、マスターがぴくり、と表情を動かす。室内で待ち受ける少女……その戦力を正確に評価した彼は、内心驚愕と困惑に見舞われた。

 

 人類は大したことがない生命体だという話は、やはり馬鹿どもの色眼鏡だったようだ。もしここでやり合えば、どちらかが死ぬ。

 

 マスターは微かな緊張感を抱きながら、三本の腕で彼らの礼をとった。

 

『お初にお目にかかる。私はマスター、今現在地球全土で戦闘に介入している武装戦力の司令官、ということになる。それとも、フォースエイリアンのリーダー、と言えば貴方には分かりやすいかな?』

 

「……極東人類軍司令部所属、柏木慎之介少将だ。今回は、過去の怨恨は一度、棚に上げておこう。まずは救援に感謝する」

 

『……ふ。我々はあくまで、馬鹿どもの尻ぬぐいに介入しただけだ。救援ではない以上、感謝される謂れはないな』

 

 ヘルメットをかぶったまま、マスターはそう告げた。

 

『色々と思う所はあるだろうし聞きたい事もあるだろうが、残念ながらそれに全て応えるには時間が足りない。申し訳ないが、こちらが必要と思われる情報を一方的に伝えさせてもらう』

 

 マスターはそう告げると腕のアーマーに仕込まれているスイッチをぽちぽちと押した。途端に部屋の中が暗くなり、何かが空中に投影される。

 

 反射的に身構えた葵に一瞬だけ視線を向けて、マスターは映像……異形の姿をした怪物について説明を始めた。

 

『お前達人類がディスペアと呼称した怪物。これらは、我々は神獣兵と呼称している。遥かな昔、この惑星に知的生命体が根差すよりももっと昔に、我々の上位存在が宇宙の平定に用いていた生体兵器だ。しかしある時からこの生体兵器は挙動に異常をきたすようになり、やがて卵から孵化しなくなった。以降、上位存在は制圧した惑星の住人を戦力に加え、平定を続けていたが……同時に、この神獣兵の再起動方法を求めていた』

 

「……それに成功したという事か?」

 

 言葉が切れた合間を縫って、少将が伺うように確認をする。彼の脳裏には当然、葛葉の事が過ぎっていた。

 

 状況から考えて、彼女のチルドレンも神獣兵に間違いない。だが、色々と噛み合わない所が多すぎる。

 

『それは肯定であり、否定でもある。確かに実験は成功した。だが、最初の成功例……お前達がX-0と呼んだ実験体から誕生した個体は、完全に母胎に従属する独自の命令系統を持った存在となってしまった。それを踏まえてなおも研究を続けた結果、人類が神獣兵の母胎に適している事、神獣兵が起動しなくなったのが制御ネットワークの異常によるものだという事が判明した……らしい。我々は直接かかわっていないのでな、あくまでも伝聞の知識だ。そして、代替システムによって神獣兵の起動に成功し……それが暴走した』

 

「……暴走? ではやはりあれは、制御下になく、無差別に攻撃を繰り返しているという事なのか?」

 

『運用側を真っ先に鏖にしたからな。ほぼ間違いない』

 

 呆れたものだ、と首を振るマスターの態度に、少将は違和感を覚えた。

 

 どうにも、これまで戦ってきた宇宙人とマスター……近衛軍とやらは、地球人に対する対応が違う。これまでの宇宙人は人類を下等種族と見下す態度を隠しもしなかったが、こちらはむしろ逆。対等、いや、敬意のようなものすら感じさせる。

 

 彼らとて宇宙人の一派。かつて人類に牙を剝いた敵であるのは違いないのだが……。

 

 いや、それはいい。今は、ディスペアへの対応が先決だ、と少将は意識を切り替えた。

 

「対処法はあるのか」

 

『……まず言っておくが。神獣兵を正攻法で討伐するのは不可能だ。奴らの進化速度、増殖速度を計算した場合、我々と人類が完全に協力し、全力で駆逐にあたったとしても、およそ500時間で優劣が逆転する。今は一時的に優位に立てているが、これは長くは続かない。正攻法以外で奴らを倒す必要がある』

 

「どうやって」

 

『方法は二つある。一つは、この惑星ごと焼き払う事。我々の船にはプラネットデストラクターという装備が積まれている。それによってこの惑星を焼き払えば、神獣兵の増殖は阻止できる』

 

 無言で飛び掛かろうとした葵を、柏木少将は手で制した。でも少将……! とでも言いたげな彼女に「落ち着きなさい」と表情で示して、柏木少将はマスターに続きを促した。

 

「もう一つは?」

 

『奴らの中枢を叩く』

 

 浮かび上がるホログラフィックが書き換わる。

 

 南アメリカに墜落した、マザーシップ。あくまで地上と宇宙を往復するだけのドロップシップとは違い、恒星間航行能力を持った宇宙人達の母船。

 

『こちらの調査の結果、墜落した母船から極めて強力な出力の次元干渉波を確認した。脳波動、だったか? 恐らくこれによって、神獣兵の大半はコントロール下にあるものだと考えられる。発信源を特定して潰せば、連中は戦略的行動や適応進化を行えなくなり、ただ凶暴なだけの野生動物に戻るはずだ。我々は衛星軌道上からの爆撃で攻撃を試みたが、船の対空砲が生きており全て迎撃された。潰すには、地上から接近するしかない』

 

「なるほど、理解した。つまり、その為の戦力が不足しているのだな?」

 

『そういう事になる。地球全体に展開しているこちらの戦力を一点に集めれば、奴もそれを察知して全戦力を集中させてくるだろう、そうなったら突破は不可能だ。人類軍の戦力にどうしても協力してほしい』

 

 ……納得のいく話だ、と葵は唸った。

 

 彼らの説明は合理的で簡潔だ。そもそもがこの事態を招いたのが宇宙人、という点だけに目を瞑れば、だが。

 

 少将は果たしてどうするつもりなのだろう。

 

 彼女が何となしに目を向けると、頼れる人類軍の上官は、渋い顔で何ごとか考えているようだった。

 

「……マスター殿。一つ、いいだろうか?」

 

『なにかな?』

 

「この作戦、どう転んでも貴方達の損害が大きくなるだろう。何故、手っ取り早くこの星を焼き払ってしまわない? 貴方達の立場からすれば、このような事で一兵とて失うのは避けたい所だろう。どうして自ら進んで、流血の道を進もうとする?」

 

 ぎょっとして少将に目を向ける葵。だが、彼女とてそれは確かに疑問だった。

 

 血も涙もない宇宙人。それがましてや、敵に情けをかけるような真似をするのは確かにおかしな話だ。

 

 奴らとて、地球侵略の緒戦では人類相手に猛威を振るったのだ。いや、記録を見れば、この近衛軍とやらの介入がなければ、まだいくつかの国家は平和を維持できていたかもしれない。

 

 少将の指摘に、マスターとやらはまるで、困ったように首元をかいた。その仕草は、どうにも酷く、人間的だった。

 

『ふむ。それは、確かに。君達の立場であれば気になる所だろうな。ううむ、なんといったものかな……。我々としては……ん?』

 

 不意に、マスターが顔を上げてどこか別の場所に視線を向けた。

 

 遅れて、葵も異常に気が付く。

 

「これは……地震……いや、違う! 少将!」

 

『馬鹿な、地下侵攻は監視していた……まさか、大深度潜行?! 連中、そんな事まで可能になっていたのか?!』

 

 最初は微かな揺れが、瞬く間に大地を揺るがす激震となる。溜まらずその場で床に這いつくばる三人。

 

 あまりの振動に基地の壁が砕けて崩壊し、一行の上に雪崩のように降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

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