TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『死の通達者』

 

 

◆◆

 

 

 

 愛はこの宇宙にあるのだろう。

 

 だけどもそれが、私達に向けられる事はない。

 

 どれだけ冀っても、それに手が届くことはない。

 

 ならば。

 

 それならば。

 

 であるならば。

 

 

 

 全ての愛(いのち)など、この宇宙から消えてしまえ。

 

 

 

 ハートレスゼロ。

 

 廃絶の王が、奈落の底で嘆きを叫ぶ。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 崩壊した岩国基地の建造物。

 

 地震の多い日本の建築基準でつくられたとはいえ、限度というものがある。赤子が手に掴んだ玩具を振り回すような凄まじい振動に耐えられるものではない。鉄筋コンクリートの壁は哀れ崩壊し、今や完全に瓦礫の山と化している。

 

 その瓦礫の一角が、不意にがらがらと崩れる。その下から、茶色いパワードスーツが、灰色の埃に塗れながら身を起こした。

 

『ふぅ。大丈夫か?』

 

「ええ……ありがとう」

 

「すまない、助かった」

 

 身を起こすのはマスターだ。その彼に庇われるようにして、その下から葵と柏木少将が顔を出す。

 

「一体何が……」

 

『直ぐにわかるさ。見ろ』

 

 マスターは埃を払う事もなく、まっすぐに滑走路を指さした。

 

 滑走路では、駐機されていた戦闘機やヘリが皆、振動でひっくり返って無残な姿をさらしている。ほぼ無力化された、ひび割れた滑走路。その地面を突き破って、無数の巨体が柱のように突き出した。

 

『ヒィイイイン……!』

 

「あれは……!」

 

「葛葉君のモンスターに似ているな。確か、ガルドといったか」

 

 頭部を変形させ、地面をシールドドリルのように掘削する怪物には葵も柏木も覚えがある。直接対面した事はないが、葛葉のチルドレンに似た姿の怪物が確認されていた。

 

 正確には、その原型、とでもいうべきなのかもしれないが。

 

 見ている前で怪物達がその巨体をのたうたせ、戦闘機やヘリを破壊していく。フォース達の装甲飛行機ですら例外ではない、巨体が鉄槌のようにふりおろされ、戦車のような機体が中央で潰されてへし曲がり……爆発。

 

 吹きあがる炎をものともせずに、地底獣達が咆哮する。

 

 と、周囲の安全を確保したと思ったのか、彼らは地面に身を横たえ、大きく口を開いた。その内部で、ぎらり、と無数の小さな目が光る。

 

 吐き出されるように出てくる無数の陸戦個体。

 

 たちまち基地の敷地内は赤い魔獣で溢れかえった。

 

 さらにそれだけではない。

 

 最後に、一匹の地底獣が追加で出現する。それは地面に横たわらず、その場で柱のように屹立。ぶっくらと膨らんだその腹が、内側から何かによって引き裂かれる。苦悶の悲鳴を上げて、青黒い血を撒き散らしながら崩れ落ちるその獣の腹の中から、一匹の大型の怪物が姿を現した。

 

 全身を鎧のように覆う外骨格。二足歩行する獣脚。腕は四本、下の一対は普通の腕のようだが、上の一対は右腕が異様に肥大化した鎌のような形状、左手は手の甲が大きく広がって盾のような形になっていた。その頭部は大きく膨らみ、甲殻の隙間からはち切れんばかりの巨大な脳みそが覗いている。大きな頭部に反して目は小さく、その白い点のような瞳がぎょろり、と基地を睥睨し、そしてマスターと葵、柏木少将の姿を捉える。

 

 にやり、とその口元に笑みが浮かぶ。

 

 背後で倒れた地底獣、それに食らいついて次々に破裂して増殖する雑兵には目もくれず、じゃり、と怪物が歩みを進める。

 

 その威容を目の当たりにした葵が困惑の声を漏らした。

 

「な、何あれ……!」

 

『メッセンジャーだ』

 

「メッセ……何?」

 

 何か知っているらしいマスターに問いかける。パワードスーツの宇宙人は、表情の見えないヘルメット越しに、それでもはっきりと焦燥が見て取れる仕草で頷いた。

 

『古の時代、神獣兵が特別抵抗の強い文明に遭遇した時に生み出す、暗殺個体の総称だ。敵文明の防衛部隊、それを指揮する優秀な指揮個体を直接抹殺する為に生み出す決戦兵器! やはり、ただの暴走ではない、明確な意図をもってこの大殺戮は行われている!』

 

「……弱点とか、ある?」

 

『そんなものがあったら神獣兵なんて呼ばれていない』

 

 身も蓋もない事を言われて、ですよねー、と葵は肩を落とした。

 

 と、そこで進行するメッセンジャーを、上空からの射撃が襲った。

 

 宙で待機していた葵達の部下と、異常を感知して戻ってきたヘリによる攻撃である。機関砲が唸りを上げ、対地ミサイルが煙を引いて放たれる。

 

 しかし機関砲弾は容易く外殻に弾かれ、遅れて飛来したミサイルは素早い身のこなしで回避される。余裕をもって避けられたミサイルが標的を見失い、滑走路に着弾して爆発、煙を噴き上げる。

 

 立ち昇る煙が、怪物の姿を包んで隠す……と、それを突き破って、無数の飛翔体が宙に舞い上がった。

 

 増殖していた陸戦個体が、空戦個体に切り替わったのだ。蚊柱のように立ち昇るそれらが攻撃ヘリに襲い掛かり、葵達の部下はそれを助けようとメッセンジャーへの攻撃を打ち切らざるを得ない。

 

 再び悠々と歩みを開始するメッセンジャー。それを基地の人員も迎撃しようとするが、大量にあふれ出した陸戦個体が彼らに襲い掛かり、基地内は忽ち乱戦の体を見せ始める。

 

 そこかしこで繰り広げられる血生臭い血戦。それを気にもかけずに、ゆっくりと、しかし確実にメッセンジャーは葵達の方に向かってくる。

 

『逃げるぞ!』

 

 マスターの決断は早かった。

 

 彼はすぐさま柏木と葵を抱え上げると、聊かも躊躇わずに背を向けて走り出した。

 

『とにかく今はここから離れる! 奴の狙いは柏木少将と葵中尉、そして私だ!』

 

「な、なんで私まで!?」

 

『沖縄防衛戦は見事だった。油断ならざる司令個体の一つとして認識されたのだろう! メッセンジャーは……あれは我々でも無理だ! 止められん!』

 

 その言葉を証明するかのような光景が、背後で繰り広げられる。

 

 逃げ出したマスターを認識したメッセンジャーが、姿勢を低くして疾走する。その前に立ちはだかるのは、フォースエイリアン……近衛軍の兵士達だ。彼らは長方形の銃口を持つ高出力の熱線銃でメッセンジャーを攻撃するが、生物に対して特攻であるはずのそれをメッセンジャーはものともせず、すれ違いざまに両腕で彼らを薙ぎ払った。1トンを超える重量のパワードスーツが風船のように宙を舞い、瓦礫の山に叩きつけられる。

 

 一人で数百体のディスペア陸戦個体を足止めできる近衛兵がまるで赤子扱いである。

 

 マスターも全力で走るが、しかしながら巨体であるメッセンジャーの方が圧倒的に速い。周囲からの援護の銃撃がどれだけ叩き込まれても、その足を僅かなりとて緩ませることができず、ついに真後ろにメッセンジャーが追いつく。

 

 その右腕の鎌が大きく開かれ、頭上に振り上げられる。

 

 あれが振り下ろされれば、生身の柏木と葵は勿論、マスターも一溜まりもない。全員仲良く三枚おろしだ。

 

『ぐ……っ! おのれ、せめて武器があれば……っ』

 

「そんな……」

 

「南無三……っ!」

 

 三者三様、最後の言葉を口にする。

 

 そんな彼らに、無慈悲にも大鎌は振り下ろされ、その命が刈り取られんとする。

 

 その、瞬間。

 

 

 

 

 

「やれやれ、世話の焼ける」

 

 

 

 

 

 ヒュィイン! と細い鞭のようなものが伸びてきて、ぎゅん! と大鎌に絡みついた。

 

 細いロープのようなもの……到底、メッセンジャーの進撃を止められるとは思えないような頼りないそれが、しかし、振り下ろされる大鎌を止めた。

 

『ギ、ギィ!?』

 

 びくともしない己の腕に、メッセンジャーが驚愕したような声を上げる。ぐいぐいと拘束された腕を振り下ろそうと力を籠めるが、びくともしない……それどころか、凄まじい力に引き寄せられ、ついには背後に引きずり倒されるように転倒した。

 

『ギギィ!?』

 

 悲鳴を上げて引きずられるメッセンジャーを呆然と見送る三人。自然、その目は引き寄せる蔦の根元を探す。

 

 メッセンジャーが引きずられていく先、滑走路の中央に悠然と佇む巨影があった。

 

 二足歩行する、竜人のような怪物。鎧のように全身に外骨格を纏った異形の姿はメッセンジャーと雰囲気が似ている。だが左右非対称で歪な印象を受けるメッセンジャーと違い、佇む姿は左右のバランスが取れた整った姿をしており、受ける印象が大分違う。

 

 カラーリングもかなり違う。ディスペアは基本的に黒い甲殻、赤い肌だが、この個体は頭部の殻だけが赤く、他は紫混じりの黒。肌は黄色く、ところどころで透けて見える内臓は青い。日本人であるならば、大ムカデに似ている、と思ったかもしれない。

 

 頭部も凶悪な怪物のそれだが、爬虫類と昆虫が混ざったようなその顔は、鋭い牙を備えた口元を鋏角がまるでマスクのように覆っており、瞳には明確な知性と理性の輝きがあった。

 

 他にも大きな違いは腕が二本であり、それぞれトゲトゲした籠手のような形に腕が大きく変化している。その右腕から伸びる鞭が、メッセンジャーを絡めとって引きずっているものの正体だ。大鎌からしゅるり、と離れた鞭が、しゅるるるると腕に引き戻されていく。

 

 そして、その左肩。

 

 鎧のように張り出した外骨格に腰かける、小さな人影があった。

 

 彼女は、ボロボロのマントを風になびかせながら、引きずり出されるメッセンジャーを睥睨している。

 

 そんな怪物を忽ち無数の陸戦個体が取り囲む。全長で言えば数分の一にも満たない陸戦個体たちだが、自分達より遥かに大きな相手に恐れを知らぬように取り囲み吠えたてている。

 

 それに対し、肩に座る少女の髪が青く光った。

 

 青空の下、晴天よりもなお青く輝く超常の光が、波紋のように広がっていく。それを浴びた陸戦個体は、忽ち眠るように脱力してその場に崩れ落ちた。一瞬で数百体の小型個体が無力化され……それらが一斉に燃え上がる。

 

 青黒い炎が燃え盛る燎原に、鎧姿の竜人が佇んでいる。

 

 柏木がその光景に目を見開き、マスターが感じ入ったように小さく唸る。

 

「あれは……」

 

『まさか、あれが……』

 

 

 

「……葛葉ちゃん!!」

 

 

 

 葵が感極まったように声を上げる。その喜色が混じった叫びに気が付いたのか、小さな少女はそちらをむいて、にっこり笑って腕を振った。

 

 

 

 

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