TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『子供の成長は早いというけど、ほんとだね』

 

 

 寄生生物の卵が孵ってからは、しばらく穏やかな時間が続いた。

 

 得体の知れない注射もない。

 

 雑に放り込まれてきたタオルをおくるみにして赤子を包み、抱きかかえたままガラスケースの中で過ごす。

 

 ちなみに流した大量の血は、その場を離れると水が流れてきて綺麗になった。血って乾いたら落ちないはずなんだが、さすが宇宙人の科学力。

 

『ミィ、ミィ。ミミィー』

 

「おー、どうした。急にぐずりだして」

 

 不意に抱きかかえていた赤子が手足をばたつかせてぐずりだした。何か不満があるらしいが……。

 

 ふむぅ。

 

 ご飯かな。

 

 とはいえ、食べさせるようなものは……。

 

「おっ?」

 

 不意にロボットアームが近くに伸びてくる。また痛い注射かと身構えるが、よくみればその注射器には針がない。さらに、ロボットアームはその場にコロン、と注射器を放り投げて引っ込んでいった。

 

 なんとなく流れが読めてきた私は注射器を拾い上げると、中にはこういかにも「離乳食です」といった感じの液状の物質が詰め込まれていた。

 

 ちょっとだけ出してぺろりと舐めてみる。

 

「……不味くはないがおいしくもないな……」

 

 正直微妙。

 

 でもカロリーはありそうな感じがする。

 

「よしよし。ほら、あーんして。あーん」

 

『みみぃ?』

 

 針の無い注射器を、赤子の口の中に突っ込んでゆっくりと中身を押し込む。

 

 最初は目を丸くしていた赤子も、口の中に入ってくる流動食に気が付いておとなしくなる。

 

 そのまま大人しくご飯を流し込まれるがままの赤子に苦笑しつつ、私は最後の一滴までしっかりと流し込んだ。

 

「よしよし。ちゃんと食べたねー」

 

『みみぃ』

 

 軽く赤子を抱きかかえて背中を撫でさする。たしかこんな風にげっぷをさせてやる必要がある、と聞いたことがあるような無いような。

 

 ゴムみたいな甲殻で覆われた背中を撫でさすっていると、げぇぷ、と赤子が小さなげっぷをした。

 

 これでよし。多分。

 

「はーい、ご飯食べたらあとはお眠しましょうね。寝る子が育つよー」

 

『みぃ……みぃ……』

 

 ゆっくりとおくるみをゆすると、ふわぁ、と赤子があくびをしてむにゃむにゃと口をうごめかせた。そのまますやすやと寝入る小さな命を抱きしめながら、私も目を閉じる。

 

「おやすみ、赤ちゃん……」

 

 考えてみれば、さっき大量出血したばかりだ。私も流石に疲れた。

 

 いや、疲れたで済むのか? 普通だったら出血多量で死んでいる気もする。

 

 なんだか大事な事を考えてる気がしたが、眠気には勝てず、私はそのまますやすやと幸せな夢の世界に旅立って行った。

 

 

 

 

 

 子供の成長は早い、とはいうが。

 

 いくらなんでも早すぎる、というつっこみをするだけの常識はまだ私にもあった。

 

 孵化から数日。

 

 最初は手のひらサイズだった子供は、気が付けば大型犬ぐらいのサイズにまで成長していた。

 

 手足も立派に大きくなり、尻尾も太くたくましい。こうなった今の子供は、薄紫の肌を持つ毛のない犬と、アルマジロのような黒い殻を併せ持ったような奇怪な怪生物へと成長を果たしていた。

 

「いやいやいや……」

 

『きゅぅん、きゅぅ?』

 

 流石に成長速度が異常すぎるでしょ。骨とかどうなってんの?

 

 子供の手を取って確かめてみるが、なんかこういかにもエイリアンです! といった感じの指からはしっかりとした質量と強度が感じられた。多分、この爪の一振りで私なんか惨殺できるんだろうなあ。え、おかしくない? これまでに食べさせた餌の総質量より大きくない?

 

 困惑をあらわに顔を見合わせてみるが、子供はなんだか嬉しそうに「?」と首を傾けながら、尻尾を左右にゆらゆらと振っているだけだ。

 

 なんか見た目がぐろいだけの犬のようにしか見えない。

 

 まあいい、私になついていて、その事を成長と共に忘れないのならそれでいい。

 

 あとは……なんだろうな。

 

 さっきから、ガラスケースごしに視線をやたらと感じる。流し目で盗み見ると、普段は関心も薄そうに遠巻きにこちらを見ている宇宙人の研究者が、何人も集まって私のいるガラスケースを監視している。その熱量すら感じる様子に、なんだか不安が募ってくる。

 

 これから何をするつもりなんだ……?

 

「ん……?」

 

『ミ? ……グルルルゥ』

 

 不意に、ごとん、と床を振動が伝わった。私に無邪気に甘えていた子供が、牙をむいて何かに唸り始める。

 

 周囲を見渡すと、私のいるガラスケースの横に、何か新しいケースが運ばれてきていた。その中はこちらと同じように照明が照らされていて、中身が明るく照らされている。

 

 だが。

 

 その中にいるのは、おそらく人間ではなかった。

 

「なんだ……あれ……」

 

 一言でいえば、幼稚園児が人形のつもりでこねくり回した粘土。

 

 手足もちぐはぐ、胴体はねじれていて、首らしきものは変な角度で体から生えている。手足や首をでたらめに生やした肉塊といった方が正しいか。

 

 そんなおぞましいクリーチャーとしか呼びようがない生命体が、不規則に蠢きながらガラスケースの中を這いまわっている。

 

 怪物の入ったガラスケースが、どんどんこっちに寄せられてくる。

 

 まさか……と思った次の瞬間、ぴったりとケースの壁と壁がくっついて。

 

 ぱっ、と。

 

 分厚いガラスの壁は、最初からなかったように消滅した。

 

「な……?!」

 

 このガラスケースの壁は、叩いても蹴っても割れないぐらい頑丈だったはず。それが霞みのように消えてしまって、私は目を見張った。

 

 だが、困惑している余裕はない。

 

 流石に、これは、やばい……!

 

『ガルルルゥウ!!』

 

「あ、ま、まて……!」

 

 子供が飛び出す。

 

 私の指をすり抜けて、クリーチャーにとびかかっていく我が子。私は慌てて立ち上がろうとして、貧血でその場に倒れた。

 

「ああくそう、こんな時に……!」

 

 そういえば、最近注射を打たれていなかった。食事を口にしていない以上、あれが私の生命線で……それを打ってない、という事は、そういう事だ。

 

 床に這いつくばりながら、私は顔を上げて子供とクリーチャーの戦いを見守るほかはなかった。

 

 戦いは一方的なものだった。

 

 そう、一方的な……。

 

 

 

 子供の、圧勝だった。

 

 

 

『ガルルルゥウウウ!!』

 

 獰猛な唸り声をあげて、残像すら残さない目にも留まらないスピードで襲い掛かる子供。迎撃の触手やら腕やらを潜り抜けて本体にとびかかると、そのまま肉を引きちぎって離脱する。緑色の血を噴き出してのたうつ怪物から距離を取ると、はぐはぐ、とちぎり取った肉を丸呑みにする。

 

 途端、目に見えて子供の手足の筋肉がパンプアップする。甲殻が歪むほどに筋肉を肥大化させた我が子は、全身から蒸気を噴出しながらクリーチャーにつかみかかった。

 

 あとはもう、戦いですらない。ただの解体作業だ。

 

 手足が枝のようにへし折られて引きちぎられ、蠢く肉塊が食いちぎられる。ガラスケースの中を緑色に染めて、ずたずたに引き裂かれた肉塊は息絶えたようにその活動を停止した。

 

 その亡骸の上で、勝利を喜ぶように遠吠えを上げる我が子。黄色に輝く瞳が、虐殺の喜びに煌めいている。

 

『ガルルルゥオーーーー……』

 

「お前……」

 

 ひとしきり勝利の余韻に浸った我が子は、がつがつと肉の塊をむさぼり始めた。

 

 底なしの食欲で、瞬く間に肉を平らげていく。やがて山のようにあった肉は、そのほとんどが大型犬程度の腹に収まってしまった。どうなってんだこれ。胃袋異次元か。

 

 それとも、あるいは。

 

 大きいのは見た目だけで、風船のようにぶくぶく広がっていただけ、とか。

 

 もとのサイズは……そう、人間の大人、ひとりぐらい、みたいな。

 

「…………」

 

 食事が終わって顔の血をぬぐっている我が子に目を向ける。

 

 その黄色い瞳が、私に振り返って目を合わせた。そこにはもう、先までの穏やかな感情の波はどこにもない。激しい憤怒と闘争本能、そして飢えによって、育まれていたはずの柔らかく暖かい情動は、どこかにいってしまったように見える。

 

 聞いたことがある。

 

 どれだけ野生動物を子供から育てて、どれだけなついていたとしても、ちょっとしたきっかけ一つ、肉の味一つで、元の猛獣にたちまち戻ってしまうのだと。

 

 野生動物にとって、親の愛情はやがて切り捨てるもの。失われる事が前提の鎖で、それをいつまでもつなぎとめておく事はできない。

 

 あれはもう、きっと。

 

 私の子供では、無くなってしまった。

 

 

 

 とたとた、と足音を立てて、血まみれの獣が近づいてくる。

 

 その爪と牙は、緑色の血でべったりと染め上げられている。

 

 

 

「……まあ、いいか」

 

 この後に起きる出来事を予想しつつも、私は抵抗したり逃げようという気力はわかなかった。

 

 ここから逃げ出せない以上、どのみち私はこの先もずっと、宇宙人のおもちゃとして体をいじくりまわされる日々が続くだけ。

 

 わずかといえど血を分けた子供に殺されるのも、まあそう悪い終わり方ではないだろう。

 

「おいで、坊や」

 

 にじり寄ってくる我が子に、微笑みながら両手を広げて迎え入れる。

 

 血まみれの我が子は、そのままの勢いで私に飛びついてきて、首筋に頭を寄せ。

 

 そして。

 

 ぺろり、と長い舌が首筋を撫でた。

 

『キュルルルルゥ』

 

「あら」

 

 甘えるような声を上げて身を摺り寄せてくる我が子。先ほどまでよりも重くがっしりしているような気がするその体を抱きしめ返して、私は目をぱちくりさせた。

 

「んー。お前、変わらないのね」

 

『キュグル?』

 

 顔を正面からのぞき込んでみるが、さっきまでの冷血な捕食者の顔はどこへやら。今や目をきらきらさせた生きたぬいぐるみみたいな顔で、私を無垢に見つめ返している。

 

 あー、こういうの。

 

 どういう風に受け入れればいいんだろうな……。

 

「まあ、いっか……。よしよし。私を守ってくれたんだな。いい子だ……」

 

『キュゥウウ~』

 

 深く考えるだけ損か。

 

 この子がなついている間だけは、親をやらせてもらおう。

 

 とりあえずは、それがしばらくの間、私が生きている理由になった。

 

 

 

 

 

 

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