TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『アステリオスのかっこいいとこみてみたい!』

 

 

 激しく揺れる船の中、ブリッジに急ぐ。アステリオスはでかすぎて通れないので回り道、人間の私達とマスターだけで階段を駆け上がる。

 

 見晴らしの良い艦橋にたどりついた私達がそこで目にしたのは、荒れ狂う海と昏く染まる空模様だった。

 

「な……さっきまで青空だったろ!?」

 

「海の空模様は変わりやすいって言うけど……」

 

 唖然とする私達を追い抜いて、前に出たお偉いさんが怒鳴りつけた。

 

 英語でまくし立てていて何を言っているか分からないが、多分、気象レーダーがどうとか、そのあたりだろうか。

 

 それに対してブリッジ要員が返事をするが、その困惑に染まりきった顔を見れば状況はつかめる。

 

 恐らく、非自然現象的といえる急激な気候変動。

 

 ずきずき痛む頭を押さえながら、私は空を見上げた。

 

 暗雲の中に、明らかに異常な雲の動きがある。空に、渦潮のような、黒く渦巻く奈落がある。迸る雷鳴は黒く、明らかに普通の天気ではない。

 

『唯の自然現象ではない』

 

 私の背後で、同じ結論に至ったのであろうマスターが呟いた。

 

 振り返って視線を合わせると、彼は小さく頷いて、耳をとんとん、と叩くような仕草を見せた。

 

『母艦と連絡が通じない。超空間の乱れ……クイーンは何か感じないか?』

 

「さっきから頭痛が凄いする。なんか、凄い出力の脳波動がどっかから放たれてる。だけど……」

 

 いや、これはほんとに脳波動なのか?

 

 出力がいくらなんでもおかしいだろ。

 

 普段私が放っているそれがキャンプファイヤーのそれだったら、これはなんだ? 核爆発? それとも太陽か何かか?

 

 こんな異常な出力の脳波動、一体何に使って……。

 

「……?!」

 

 はっとして私は空を見上げた。

 

 暗雲は今も渦巻いて、どんどん大きく成長していく。渦の真ん中には大きな穴がぽっかり開いていて、その向こうに広がるのは雲の上の青空ではなく、光すらも飲み込むような深淵の虚無。

 

 ……以前、ラウラと私の力を合わせてドロップシップを叩き潰した時の事を思い出す。あの時発揮した脳波動は、明らかに物理法則を超越した働きを見せた。というかもともと、脳波動は物理的な法則を超越する力を見せる。所謂、より高次元の力、超能力のようなもの。ぶっちゃけ使ってる私もどこまでできるかさっぱりである。

 

 それを使えば、もしかして。

 

 空間を捻じ曲げてワープさせるような事が、もしかして出来るのでは。

 

 そしてこの場合、それはつまり……。

 

「敵襲だ!! 攻撃に備えろ!!」

 

 私の警告とほぼ同時、黒く空いた天蓋の穴が、真っ赤に染まった。

 

 まるで血が噴き出すように、無数の赤い翼が宙を覆い尽くす。それらは嵐の暴風にも負けずに羽ばたき、眼下の機動空母艦隊に襲い掛かってくる。

 

 飛行型ディスペアの群れだ。

 

 忽ち対空砲火が上がり、赤い群れを追い散らす。だが、焼け石に水。全く足りていない。

 

「ちぃっ!」

 

 精神を集中させると、たちまち視界が蒼に染まる。

 

 放出した脳波動が、空を覆う赤い群れを飲み込み、隅々までいきわたる。上書きされた憎悪と怒りを剥がされた群れは活力を失い、そのまま雨粒のように海へと降り注いだ。

 

 しかしそれを最後まで見届ける事はできない。不意に目の前が暗くなり、私はその場に座り込んだ。頭がガンガンする、外の声が遠い。

 

 誰かが呼んでるような気がする。

 

「……ゃん……葛……」

 

「あ……う……」

 

「……葛葉ちゃん!?」

 

 耳元で、葵ちゃんの声。はっとすると、私は彼女に抱きかかえられていた。

 

「あ、え?」

 

 困惑に周囲を見渡すと、ぬるりとした感触が顔に。鼻を拭うと、手は真っ赤に染まっていた。

 

「え?」

 

「しっかりしなさい、葛葉ちゃん! 貴方急に倒れたのよ!?」

 

「う……?」

 

 いや、私も何が何だか。

 

 茫然と鼻を押さえていると、マスターがガシャガシャと前に出た。

 

『無理をするな。恐らく敵が脳波動で超空間ゲートをこじ開けたんだ。その影響で、君の脳波動の使用に大きな負荷がかかっている。無茶をするなら時を見た方がいい、乱用すると脳神経が壊死するぞ』

 

「は、はひ……」

 

「超空間ゲートぉ?! 理屈はまったくわからないけど、そんな事できるの脳波動って!?」

 

 葵ちゃんが疑問の声を上げるが、現実はご覧の通りだ。

 

 今も、空に空いた穴からは後続の群れが霞のように噴き出している。艦隊から対空砲弾が雨霰と打ちこまれ、叩き込まれたミサイルが大爆発を起こして焼き払うが、それで根こそぎ焼き払われても次から次に群れが現れる。

 

 きりがない。

 

『知らん。我々に脳波動の使い手はいないのでな。そもそもよくわからんので、クイーンが言い出した言葉を使っている訳であるし』

 

「はぁ?!」

 

『現実を見れば、そういう理屈になるという話だ。あの力で我々を直接叩き潰さないのは……惑星地表にあんな力を働かせればこの星がどうなるかわからないからだろう。少なくとも奴は、星を壊そうとは思っていないらしい』

 

 星はともかく、そこに生きてる生き物はみんな食べるつもりっぽいけどね。

 

 脳にダメージを受けたせいか、頭がズキズキして、感覚がフィルター一枚挟んだみたいに曖昧だ。だけどそれで鈍感になったせいか、空に渦巻く何者かの意思の力が、さっきよりも分かりやすい。鋭敏すぎると見えないものもある。

 

 だけど正直、あんまり理解したい感覚じゃないな、これは。

 

 

 

『憎い』

 

 

 

『どうして。どうして。どうして。どうして』

 

 

 

『触れるな』

 

 

 

『寂しい寂しい寂しい寂しい』

 

 

 

 拒絶と否定。その根源にある孤独、諦め。

 

 そういったものが混然一体となって空に渦巻いている。だけど、やはりその中にあって一番おおきいのは怒りだ。

 

 憤怒。

 

 この力の向こうに居るものは、ただ只管に怒り狂っている。

 

 大人しく眠っていたのに。全てを諦めて安らぎの中にあったのに。

 

 何故、自分達を無理やりこの世界に引き戻したのか、と。

 

 仏の顔も三度まで。

 

 どんなに心優しい人だって、永遠に搾取されるだけでは嫌になる。それでもその相手に報復するのではなく、全てを諦めて大人しく眠っていたところを、無遠慮に寝室に乗り込まれ、布団を引っぺがし、そら俺の役に立て、と表に引きずり出されたらどんな聖者でもバチギレするに決まっている。

 

 仔細は分からんがまじでどんな下らん事しやがったんだよ三賢人の生き残り二人! とっくに死んでるらしいけどあの世から引きずり戻してもう一回ぶち殺したいわ畜生!

 

「お、おい、何かまだ出てくるぞ……?!」

 

「大きい……?!」

 

 宙に渦巻く大穴から、赤い柱のようなものが降ってくる。それは空中で落ちながら爪を広げると、荒れる大海の中へと着水した。

 

 それによって一際大きな津波のような波が生じ、船が激しく揺れ動く。巨大空母も波にさらわれ、艦橋が一際激しく上下した。

 

 悲鳴と共に何人かのスタッフが転倒し、多くは手近な取っ手にしがみつく。私を抱きかかえる葵ちゃんも傍らのテーブルにしがみついて衝撃に耐えている。ぎゅう、と強く腕で抱きしめられて、暖かい体が押し付けられる。こんな状況なのに、私はその人肌のぬくさにどこか心があらわれるようだった。

 

 ああ。そういえば、人ってこんなに暖かいんだったな。

 

「何か落ちてきた?!」

 

「でかい怪物のように見えたが……」

 

 英語が飛び交う環境で、極東人類軍から来た二人が訝し気に言葉を交わしている。

 

 見れば、落ちてきたものはそのまま海に沈んでしまったらしい。

 

 まあ、ここは太平洋のど真ん中、浅い所でも水深数百メートルでは終わらない。どんだけデカイ大怪獣でも、そんな海原に自由落下したらそのまま沈んでいくだけだ。

 

 だが……。

 

 怪獣というのは、海に“立つ”ものだと、相場が決まっている。

 

 不意に、波とは明らかに違う形で海面が盛り上がる。

 

 逆巻く波すら押しのけて、海面が上昇する。その黒い波濤を突き破って、血よりも赤い、暴虐の化身が姿を現す。

 

『GRRRRRRRAAAAA!!』

 

「な……」

 

 ブリッジにつめる人間達が息を飲む。

 

 海面に浮上し、その威容を露にする化け物。それは、巨大な、とてつもなく巨大な、怪獣としか言いようがない化け物だった。

 

 ぱっと見ではでっかい蜥蜴のようにも見える。全体からすれば頭が極端に小さく、胴体が異様に大きい。首は長く、それ以上に尻尾が長い。

 

 だがそんな体から生えているのは、六本の細長い昆虫のような足。近い見た目は、ザトウムシだ。巨大な胴体に、不釣り合いに細長い脚の怪物が、大波がうねる海面に立っている。

 

 ……その足一つ一つが、ビルぐらいの太さがある。小さいように見えた頭も、護衛艦の艦首のようなサイズ。

 

 そんな規格外の化け物が、嵐の海に屹立している。いっそ現実を疑いたい気分だった。

 

 でかすぎんだろ。ていうか、どうやって海上に?

 

 まさか、もしかしなくても、海底まで届いてるのあの足?! あ、いや、海底まで届かなくても、あの足に何かしらの浮力が働いていれば、アメンボみたいに海面に浮ける……?

 

 い、いや、そんな事を考えている場合じゃない。

 

 我に返ったように、軍船からの対空砲火やミサイルが怪物に向けられる。だが奴は見た目からは想像もできない軽やかなステップでそれらを回避すると、背中から無数に何かを発射した。

 

 恐らくある種の生体ミサイル。それが一隻の駆逐艦に降り注ぐと、その艦上構造物を粉微塵に粉砕する。残された艦本体も、発泡する強酸の泡に包まれてぐずぐずと溶けていく。荒れる荒波の間に、崩れた鉄塊が攫われて一瞬で姿を消した。

 

「げ……」

 

 そして、怪物の視線は今度はこちらを見つめている。

 

 反撃の猛火を軽々と潜り抜け、怪物が再びミサイルを発射する。エンタープライズに、無数の死の砲弾が降り注ぐ……。

 

 刹那。

 

 艦橋の横を、巨大な影が高速で疾駆した。

 

 

 

 アステリオス。

 

 

 

『クルルルゥーーー!!』

 

 どこかの搬送路を経由してようやく甲板上に出られた我が子は、疾走しながら視線も向けずに、いましがた轟沈して沈んだ船の残骸目掛けてアンカーを放った。海中に沈んだそれをしっかりと生体ワイヤーで捉えると、片腕だけで引き上げる。凄まじい加重がかかってエンタープライズの甲板が傾くがお構いなし。

 

 そのままアステリオスは、引き上げた船の残骸をモーニングスターのように振り回して、飛来するミサイルを片っ端から空中で叩き落した。

 

 空中でいくつもの強酸が炸裂するが、風向きもあってどれも空母には届かない。横なぎの雨にさらわれて酸の爆発が掻き消えるのを確認すると、アステリオスは深く屈みこんだ。その両足が倍以上に膨らみ……跳躍。

 

 反動で再びエンタープライズが前後に大きく揺れる。艦橋にいるこっちはしっちゃかめっちゃかである。

 

「NOOOOOO」

 

「HELP!!」

 

「うぉおおお!?」

 

 三者三様の悲鳴が上がる中、私は葵ちゃんに抱きかかえられたまま安泰である。そういえば彼女、ずっとスーツのインナー着たまんまだ。パワーアシストとか働いてるのかな?

 

 ちらりと見たら、彼女の掴んでいる転倒防止のガードバーか何かが、指の形にひしゃげていた。

 

 うぉ、こわ。

 

「葛葉ちゃん、大丈夫?!」

 

「う、うん。アステリオスは……?」

 

「……つくづく、貴方の子供が敵じゃなくてよかったと思うわ」

 

 苦笑いする葵ちゃんの視線の先。

 

 そこでは、アステリオスはその名にたがわぬ大暴れを見せていた。

 

『クルルルゥーーー!!』

 

 跳躍したアステリオス、彼は空中で背中からイカのような触手を展開するとその間に皮膜を張り、翼竜のように大嵐の中を飛行していた。

 

 そう。あの図体でアステリオスは空を飛べるのである。私が朝鮮半島から短期間で戻ってこれたのもこれのおかげだ。

 

 飛翔するアステリオスを迎撃しようと生体ミサイルが無数に放たれるが、その一発とてアステリオスには掠りもしない。ある程度接近するとアステリオスは飛翔形態を解除し、アンカーを打ちこんで巨大怪物に取り付いた。

 

 怪物は振り落とそうと体を捩るが、一度取り付いたアステリオスがその程度でどうにかなるはずがない。

 

 ひょいひょい、と頭までたどり着いたアステリオスは、両足の指で怪物にしがみついたまま、その両手を大きく振り上げると左右の籠手を合体させた。それと同時に、側面に大きな刃が迫り出してくる。

 

 私は、あの大きな子の冥福を祈って手を合わせた。

 

「南無南無」

 

『クルルゥァーーー!』

 

 巨大な戦斧と化した両腕を、青白い輝きと共に振り落とすアステリオス。

 

 その一撃、たった一撃で、巨大な怪物の首が落とされた。瀑布のように青黒い血を吹き出しながら、根本から叩き落された怪物の首が海に落ちる。

 

 それでも怪物は絶命していない。

 

 首を落とされながらも、忽ちその断面から無数の触手が噴き出す。脊椎の断面に眼球が生じ、怪物は欠損したそのままに生命活動を維持しようと蠢いている。

 

 その底なしの生命力は、しかし、アステリオスからすればちゃちなものだ。

 

 合体戦斧が降りぬかれる度に、巨大な怪物の体が切り裂かれていく。数度振り回した後には、怪物の体はいくつかに切り分けられた巨大な肉塊と化して、どぼん、どぼん、と海に沈んでいく。体から切り離された巨大な脚が柱のように海に落ちて水柱をたて、それらもまた大荒波に呑まれていく。

 

 ……おやすみ、名前も与えられなかった哀れな赤子。

 

 数分もしない内に巨大怪物は解体され、唖然とする人間達の前に、戻ってきたアステリオスが軽い足音と共に空母の甲板上に着地した。

 

「…………」

 

「…………」

 

『…………。成程。成程。……成程? うむ』

 

 うちの子達の大暴れを始めてみるアメリカ軍人たちがぽかーんと硬直している。マスターは何度も何度も頷いているが、現実をイマイチ咀嚼できていない感じが凄い。

 

 それはともかく、助かった。流石アステリオスだ。

 

 ねえみてたー? みたいな感じで手を振る我が子にぱちぱち拍手を返していると、私を抱きかかえたままの葵ちゃんがゲンナリと尋ねてきた。

 

「ねえ、葛葉ちゃん」

 

「ん?」

 

「……これと同じ事が出来る子、何人ぐらいいる?」

 

 変な事を聞くなあ、葵ちゃん。

 

 えーっと、あのデカイ子を倒せる子となると……。

 

「プルートゥでしょ、ガルドでしょ、ブレイドもほぼ確実だし……ラウラも燃料があれば楽勝、プテラは……ポッド産み付けたらいけるか。あ、キティも案外いけるかな、底なしの大食らいだったし。あとは……」

 

「いや、いい。聞いた私が馬鹿だったわ……」

 

 何故か頭を抱える葵ちゃん。

 

 変なの。うちの子、ある段階から基本的に戦闘力、という意味では頭打ちなのよね。あんなデカいだけの的、どうにかできない方がおかしいよ。どっちかというと、オリジナルの神獣兵みたいな、デカさをある程度に抑えつつ、体格を生かした高機動戦闘に持ち込んでくるのが一番厄介だ。デカイ、早い、強い、だからね。

 

 あとはそれが戦略範囲に拡大できるかどうかって話になってくる訳で。

 

 結局戦闘に強いだけだと宇宙人に逃げられるから、別口の強さがいるのよねー。

 

 今回もそう。

 

 あのデカブツを倒しただけでは問題は解決しない。

 

「さて、と」

 

 私は空を見上げ、未だ渦を巻く空の虚無を見上げる。

 

 ここからは、私の仕事かな。

 

 

 

 

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