TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『TSさせられてエイリアン生まされたけど子供は可愛い』

 

 地球全土への停戦命令。

 

 それを送り終えて、私はゆっくりと目を開いた。

 

 コントロールされていただけの個体は、全て停止した。自我を持ち自律行動していた大型固体たちも、私が彼らの支配権を得たと知ると、完全な無抵抗で意識を手放した。その意識は私の中に回収され、今は穏やかに眠っている。

 

 それによって、全てのディスペアの戦闘行動は中断された。

 

「終わった、の……?」

 

『ああ……そのようだ』

 

 ケガをした葵ちゃんとマスターが、よろよろと立ち上がる。他にも、息のある兵士達が、肩を貸し合って部屋の中央に集まってくる。

 

 その数は10人にも届かない。ディスペアとの激闘で、多くの兵士が命を落とした。宇宙人とはいえ、彼らは地球の為に奮戦してくれた。

 

 私は彼らの冥福を祈り、手を合わせた。

 

『通信妨害も解除されている。君も確認してみるといい』

 

「う、うん……。もしもし、少将。こちら、葵です。あ、通じる? よかった。それで……その……」

 

 葵ちゃんが耳に手を当てて、どこか……多分、少将と会話している。少しずつ声が明るくなっていくそれを聞きながら、私は部屋の中央を見上げた。

 

 中央コンピューターは完全に機能を停止している。どうやらもともとガタが来ていたところで、最後のぶつかり合いの余波がトドメになったようだ。

 

 うーん。ちょっと困ったな、これは。

 

 まあ、仕方ないか。

 

「葛葉ちゃんっ! 全世界で……戦闘終結したって! 貴方のおかげよっ!」

 

「わぶっ」

 

「ありがとう、ありがとう……っ! これでやっと、地球に平和が戻ってくる……っ!」

 

 飛び込むように抱き着いてくる葵ちゃんを受け止める。ちょ、ま、重いって! 装備つけたままは重い! 潰れる!!

 

『こらこら。クイーンがそのままだと潰れるぞ』

 

「あっ、ご、ごめん、大丈夫!?」

 

 ひょい、とマスターが葵ちゃんの背中を摘まんで遠ざけてくれる。

 

 た、助かった。ここまできて最後が味方で圧死とか笑えんぞ。まじで。

 

『クルルルルゥ』

 

「アステリオスー。見てないで助けろよ、全く」

 

 ひょこひょこやってきて忍び笑いを漏らす我が子に、ぷぅ、と頬を膨らませる。それを見て、アステリオスはさらに小さく笑った。

 

 その様子を見て、兵士の誰かがぶっ、と噴き出す。

 

 表情を隠したヘルメットの兵士達の間に、静かに笑いが伝播する。くすくす笑う連中に、私は腕をぶんぶん振り上げた!

 

「なんだよ! 何がおかしいんだよー!!」

 

『はははは、まあ勘弁してやれ。戦いの後は気が緩む、ちょっとした事がおかしくてしょうがないものさ。許してやってくれ』

 

 マスターにとりなされて、しぶしぶ腕を降ろす。

 

 なんだよ、気が付いたらなんかコイツが一番常識人みたいなポジションじゃん、宇宙人のくせに。

 

『何はともあれ、これで一件落着だ。とはいえ、いつまでもこんな所にはおれん。ディスペアが消えた今、いつ崩壊するか分からんからな。大体、お前達、我々と人類は一応まだ戦争中だという事を忘れてないか? 事が落ち着いたなら、さっさと正式な停戦条約を結ばんとな。こんな地獄みたいな星、さっさとオサラバしたい所だ』

 

「誰のせいで地獄になったと思ってるのよ?」

 

『あの三馬鹿のせいだろう?』

 

 はたから見るとギリギリの会話だが、葵ちゃんもマスターも雰囲気は至って穏やかだ。ともに死線を潜り抜けた戦友という意識が、両者の距離を近づけたのだろう。

 

 ……あの三馬鹿勢力もこういう、まともな連中だったらよかったのになあ。馬鹿は最後まで救いようのない馬鹿だったが。

 

 残念ながら、立場的に人類とは仲良く出来ないらしいけど、マスターの事はもう、私も嫌いにはなれそうになかった。

 

 ああ。

 

 だからこそ。

 

 ……寂しいな。私はもう、あの輪の中に入れない。

 

「…………」

 

「まあいいわ、さっさと帰ってひたすら寝るわよ。んで、起きたら祝賀会! もうとにかく、飲んで食べて大騒ぎするわよ! アステリオスちゃんもたらふく食べさせてあげるわ!」

 

『クルルルゥ!!』

 

 わいわいがやがや、皆で仲良く部屋の出口に向かう。見れば、足止め組も生き残っているようで、手を振りながら何人かがシャフト内を走ってくる。

 

 犠牲者は多い。帰ってこない人の事を思い返し、涙する日もあるのだろう。

 

 でも人はきっと、その傷を受け入れて先に進める。

 

 そのはずだと、私は信じる。

 

 だから……。

 

「? どうしたの、葛葉ちゃん。貴方もさっさと帰りましょうよ」

 

「……ゴメン。葵ちゃん」

 

「え?」

 

 

 

「私は、この場に残る」

 

 

 

 私の言葉に、笑顔で振り返った葵ちゃんが固まる。

 

 その傍らで、マスターがじっと私を見つめて、小さく『そうか』とだけ呟いた。

 

 成程。あんたらは、宇宙からこの星を見ていたのだものな。

 

 気がつきもするか。

 

「葵ちゃん。……地球は、もう駄目だ。このままだと、数年も持たない」

 

「……え?」

 

「ディスペアは、人類だけでなく、この惑星上の全ての生命体を攻撃対象にしていた。野生動物も、草木も、魚も、プランクトンさえも。その全てを殺して、バイオマスとして吸収し、あの大軍団を作り上げたんだ。それが、どういう意味か、わかるだろう?」

 

 地球環境は、地表に生息する生き物によって維持されている。微生物が有機物を分解し、そうして作られた栄養を元に植物等が成長し、それを動物が食べる。あるいは植物が二酸化炭素から酸素を作り、動物が酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す。

 

 そういった、無数の生物の関わり合いで奇跡的に誕生したのが、命の星、地球だ。

 

 だが、その惑星を覆う生物の関係は、ディスペアによって徹底的に破壊されてしまった。

 

 彼らに侵略された土地には草木一つ残らず。海の生き物は根こそぎ食い尽くされ、生態系は完全に崩壊している。

 

 ディスペアのコントロール権を得た私だからこそ、断言する。

 

 地球は、もうおしまいだ。

 

『そうか……そこまで、環境破壊が……』

 

「そ、そんな、それじゃ、それじゃ勝っても何の意味も……!」

 

「大丈夫。無意味にはならない。無意味なんかには、私がさせない」

 

 私は胸元を開き、胸の間に融合した結晶を見せつけた。葵ちゃんが息を呑み、マスターが興味深そうに見つめてくる。

 

『それは……?』

 

「私が、あの黒い炎から奪い返したディスペアの中枢だ。今からこれと、この船を覆い尽くすバイオプラントと融合して、私自身が環境維持装置になる。生態系が破壊されたなら、新しい生態系を作り出すだけだ。材料は、それこそたくさんあるしな」

 

「まって、まって。……その場合、葛葉ちゃんはどうなるの?」

 

 すがるような葵ちゃんの視線。

 

 私は、それに小さく首を横に振った。

 

「その一部として、一緒になるだろう。……人間の形は、維持できないと思う」

 

「駄目よ!」

 

 引き返してきた葵ちゃんが、すがるように私の両肩を掴む。その手は、小さく震えていた。

 

「駄目よ、そんなの! やっと平和になるのに……貴方がもう誰からも姿を隠さずに、自由に好きなように生きられるようになったのよ! もう、貴方の事を追い回す奴はいない、子供たちを恐れる人もいない! アステリオスだって、どうするのよ! あの子を一人にしないんじゃなかったの!?」

 

『クルルル……』

 

 涙声で追及する葵ちゃんの言葉に、アステリオスが複雑そうに唸る。

 

 私は、それに返せる言葉を持ち合わせていない。

 

「……ごめん」

 

「ごめんって……!」

 

 なおも言い募る葵ちゃん。そんな彼女と私の間に、そっと差し込まれる腕があった。

 

 アステリオス。

 

 愛する我が子は目を潤ませて、それでもそっと、首を横に振った。

 

『クルルゥ』

 

「だって……! だって、やっと戦いが終わるのよ!? 貴方だって、もう、争う事なく……お母さんと一緒に暮らせるのよ! 暖かい場所で、美味しいご飯を食べて……っ! やっと、やっと、平和が戻ってくるのに……っ!!」

 

 最後の方はもう言葉にもならず、葵ちゃんはアステリオスの籠手に顔を埋めて咽び泣いた。

 

 それに、私はかける言葉が見つからなかった。

 

「ごめん、アステリオス……。それでも、それでも私は……この星に生きる子供たちを、見捨てられない……」

 

『クルルウゥ』

 

 アステリオスは悲しそうな目で、それでも小さく頷いた。床に泣き崩れてしまった葵ちゃんの頭を軽く撫でて、それから私をそっと片腕で抱きしめてくれる。私も、両腕で精いっぱい、その体を抱き返す。

 

 ごめん。

 

 本当に、ごめん。

 

『クルルゥ……』

 

『……本当に、今じゃないと駄目なのか? チルドレンの寿命は一月ほどだと聞いた。その子供を見送ってからでも、遅くはないんじゃないか?』

 

 意外な事に、この愁嘆場を気遣うような言葉を発したのはマスターだ。

 

 彼は片膝をついて私と視線の高さを合わせながら、気まずげに、しかし穏やかに私を諭そうとしてくる。

 

 ……ああ。

 

 人類のファーストコンタクトの相手が、お前らだけだったらよかったのになあ。お仕事って辛いね。

 

「駄目だ。システムの再構成には、今世界中に散らばっているディスペア個体を運用する必要がある。でも大半の個体は自我の無い生態ドローンみたいな状態だから、コントロール停止しているこの状態は死んでいるも同然。このまま数時間もたったら腐って死んでしまう。そうなってからでは全部手遅れだ。かといって1か月もの間あれらの個体を活動させたら今度こそ地球は干上がるし、何より人間の器を保ったまま、あれらに生体活動を維持させる事はできない。今、ここでやるしかないんだ」

 

『……そうか。残念だ』

 

 ヘルメットを傾け、俯くように黙り込むマスター。数十秒の沈黙の後、彼はアーマーを鳴らして立ち上がった。

 

『撤収する! 入口で防衛にあたっていた生き残りを連れて、この船を離れる。……それでいいな、クイーン』

 

「ああ。ありがとう。……できるだけ、死者の骸もつれていってやってくれ、分別する自信が無い」

 

『了解した。……ただ、我々の亡骸は、ここに置いていく。少しでも有効活用してやってくれ。我らには、死者を弔う事は許されていないのでな。……この星に溶けていく事を、許してやってほしい』

 

 その言葉を最後に、マスター達はガチャガチャと出入口に向かった。生き残った数名の兵士達が、それぞれ私に一瞥をくれてよろよろと歩き去っていく。

 

 そのうちの一人が、泣き崩れる葵ちゃんの傍らに膝をつき、困ったようにその肩に手を置いた。

 

 その手を、びしゃり、と払い、葵ちゃんは自力で立ち上がる。

 

「一人で立てるわ。……葛葉ちゃん、私、納得してないから。納得してないけど……もう、それしか、ないのよね」

 

「ごめん。……アステリオスを、頼む」

 

「いいわよ。引き受けてあげる。でも、この子は今日から立花アステリオスなんだからね。もう、返してって言われても聞かないんだから。ふんだ。……元気でね」

 

 無き腫らした目で、それでも葵ちゃんは健気に、気高く背筋を伸ばして背を見せた。

 

 彼女も部屋を去り、後には私と、アステリオスだけが残される。

 

 皆、気を使ってくれたのだろう。

 

 私は再度、愛しい子との抱擁を交わす。

 

「……アステリオス、元気でね。ちゃんとご飯は食べて、人間達とは仲良くするのよ。それから、それから……」

 

『クルルウゥ』

 

「……それから、これだけは、覚えておいて。ママは、ずっと貴方の事を見ているわ。触れる事は出来なくとも、きっと傍にいる。それだけは忘れないで……」

 

 互いに目を見合わせ、最後の抱擁を解く。

 

 小さく唸り、アステリオスはそっと、私に背を向ける。

 

 そして何度も何度も振り返りながら、躊躇いつつも、この部屋の出口まで歩いていく。

 

 そこで足を止め、少し震えて……我が子は、一目散に走っていった。

 

 一度も、振り返る事はなく。

 

「……さようなら、私の愛しいアステリオス。どうか、その行く先に、幸運がありますように……」

 

 離れていくその姿に祈りを捧げる。

 

 ……名残惜しむのはここまでだ。

 

 もはや一刻の猶予もない。

 

 私は、胸の結晶に手を当て、小さく念じた。

 

「……さ、始めようか。貴方と私の新生を、この星の再誕を。……全ての命に、祝福を」

 

 応じるように、とくん、と結晶が熱を放った。

 

 私は小さく微笑み、脳波動を放つべく、精神を集中させる。

 

 目を閉じれば広がる暗闇が、今は青く輝いている。私自身が発光しているのだから当然だけど、なんだか不思議だ。

 

 そして、私の意識は、輝く光に溶けていく……。

 

 

 

 気が付けば、私は真っ暗な闇の中で一人、裸のまま佇んでいた。

 

 冷たい、寒い。寂しい。

 

 思わず身を震わせるような闇の中、目の前に浮かぶ青い星。

 

 その星は、酷く、そう、とても酷く傷ついていた。

 

 血を流して、でも誰にも慰めてもらえなくて、永遠の孤独に震える青い星。

 

「大丈夫だよ」

 

 それに私は手を伸ばす。

 

 星を胸に抱き、両手を回して抱きしめる。冷たいそれが、少しでも私の熱で温まる様に。

 

「大丈夫。大丈夫。私達が、ずっとそばにいるよ……」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 その様子を、人類軍も、宇宙人達も、十分に距離を取った安全地帯から呆然と見つめた。

 

 大地を、空を埋め尽くすディスペア個体が一か所に集まり、互いに融合して、巨大な何かに変化していく。

 

 それは、巨大な樹のようなものだった。

 

 深紅に染まっていたはずの肉塊は白く変じ、白樺のようなつるつるとした樹皮の枝が、天高くどこまでも伸びていく。やがてそれらは大気圏を越えて成層圏の上にまで広がり、そこで白銀の葉を広げた。

 

 それが、地球の各大陸に数本ずつ。宇宙に葉を広げて、枯れ果てた大地に優しく影を落とす。

 

 そして一際大きいのは、南アメリカ大陸から生える巨木。宇宙人の船を取り込んで天高くそびえるその樹は優しい波動を放ち、争いと殺戮に荒れ果てた人々の心を穏やかに癒した。

 

 それらの影響か、宇宙人の工場によって汚染された大地は急速に浄化され、黒く濁った海面は元の透き通るような青を取り戻す。掘り返された大地には銀色に輝く草木が生い茂り、不安定だった気候は落ち着きを取り戻し始める。ディスペア活動開始後急激に低下していた酸素濃度も安定域に戻り、地球環境の死滅はここに回避された。

 

 生き残った人々はその恵みに感謝し、一際大きな樹を『マザーツリー』と呼んで尊び、ゆっくりと、平和な営みを取り戻していった。

 

 

 

 

 

 そして、半年の月日が流れた。

 

 

 

◆◆

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