竜王のワンピース 作:野生の生蛇
「あんた誰?」
男は真っ暗な空間で女に問いかけた。
男は一般人である。元ニートで現清掃員をしている珍しくもない経歴の持ち主である。
身長は平均程度の百七十センチ。体重は六十五キロ。
顔は不細工とは言えないしイケメンとも言えない微妙な顔。
そんな男は、これまで見た事の無い美人を前に委縮していた。
男の前に居るのは、圧倒的な美女だ。
その美だけで食っていけるであろう容姿をしている。
身長は男よりも高い百七十五センチ。
腰まで届く金の髪に赤い瞳。胸は大きく腰は細く尻は大きい。
古代ギリシャのような白い服を纏った姿は、神聖さを感じざる負えない。
そんな女が口を開いた。
「あなたは死にました」
「は?」
唐突な死亡宣言に男は間抜けな声を漏らした。何を言っているのだろう、この女は。
「そしてあなたは転生します。あなたに拒否権はありません」
「待ってくれ、質問をしていいか?」
男は混乱しながらもどうにか現状を把握しようと問いかける。
だが女は気にすることなく言葉を紡ぐ。
「転生先はあなたがこれまで見て来た作品の中からランダム。転生する姿は死ぬ前に見ていた作品のキャラからランダムとします。尚転生先の記憶は消えます。では、第二の人生を楽しんでください。何をしてもあなたは自由です」
「いやちょっとまって」
「では良き人生を」
女がそう言うと、男の意識は闇に沈んだ。
■
「……何が起こったんだ?」
男は再び意識を取り戻すと同時に、男は周囲を確認する。
見れば、男が居るのは砂浜だ。何処か見知らぬ青い海広がる世界。
「うぅむ。わからん」「ここは島か?」
そして、声が複数聞こえる。
なんだ、と男は首を横に向ければ──同じ顔が幾つもあった。
「は?」「ひ?」「ふ?」
「「「……なんじゃあこりゃ?!」」」
男──竜王ラードゥンとなった者は驚愕の声を上げた。
竜王ラードゥン。
野生のラスボスが現れた! に登場するキャラクター。
かつて異世界ミズガルズにおいて世界の四分の一を支配していた竜王。
全ての竜の頂点に立つ存在。
百七十メートルの巨大な存在であり、首が十に別れている存在。
漆黒の鱗に覆われた体を持つ竜であり、体重は十八万トン。
ミズガルズにおける七属性全てを持ち、各種属性のブレスを放つことが出来る。
作中でも上から数えた方が早い程度には強い存在である。
男はそれになっていた。
「マジ意味わからん」「どういう事?」「ていうか俺らはなんだ?」
ラードゥンとなった男は混乱する。
首──頭が十あるという事は脳髄も十あるという事であり、つまり人格が十あるという事だ。
「まぁいいか」
だが男は楽観的だった。有り体に言えば馬鹿だった。
故、自分が十に増えていてもまぁいいかですませてしまった。
取り合えず飛んでみよう、等と思い男──ラードゥンは空に飛びあがる。
羽ばたき、砂が吹き飛ぶ。空の上へと飛び、滞空する。
「おお……」
産まれて初めての生身での空。それに感動する。
そして、自身が居た場所を把握する。
ラードゥンが居たのは島だ。四方を海に囲まれた絶海の孤島である。
島には砂浜と森ぐらいしかない、小さな島である。
「どうせならラードゥンロールをするとして、まずはこの世界が何なのかを知らなくてはな」
ラードゥンにとって大事なのはそれだ。
戦闘力的には不安は殆どない。何せ竜王の体なのだ。
雑に使っても並大抵の奴には勝てる自信がある。
何せ本気になれば星の三割を消し飛ばせる怪物である。これで勝てない相手等インフレ極まって惑星破壊がデフォルトになった作品ぐらいだろう。
そのレベルだと死にたくないとか悔しいとか以前に勝負にならないのでクソも無いのである。
だからこそこの世界の情報だ。剣と魔法の世界なのか、和風ファンタジーなのか。現代日本なのか。それが重要だ。
現状のラードゥンにとって必須なのはある程度の安全な暮らしだ。世界征服などの原作ラードゥンの支配欲は今のところは無い。
「無限の彼方にさぁ行くぞ!」
そうしてラードゥンは空の彼方へと羽ばたいて行った。
王国制の、言ってしまえばよくある国。
そこに、竜王ラードゥンはたどり着いた。
結果起こるのは──パニックである。
苦の人々は泣きわめき、我先にと逃げ出さんとする。
「うわぁぁぁ!」
「化け物だぁぁぁあ!」
「おかーさん! 助けてぇぇ!!」
人々は逃げまどい、国を守るはずの騎士たちすら百七十メートルという圧倒的巨体を前に武器を投げ捨てて逃げ出す始末。
「えぇ……」
その光景を見たラードゥンは混乱し、暫くしてから「そりゃこんな怪物が国に来たら混乱するか」と納得した。
だがこれでは困る。自分は情報が欲しいのだ。
であれば、少々乱暴だがこうするしかあるまい、とラードゥンは口を開いた。
「逃げるな! 逃げるな人間共! 逃げたら殺すぞ!」
ラードゥンの一番右の首が口を開き、ブレスを溜める。
そして解放。火属性のブレスが島から少し離れた海に着弾し、巨大な火柱を立てる。
その熱は島にまで届き、住民たちを恐れの退かせる。
逃げるな、という言葉に住民たちは身動きできなくなった。逃げ出せば先の炎が自分たちに襲い掛かるかもしれない。そう思って硬直するしかない。
動きが止まった事を確認したラードゥンは溜息を吐き、これで話が出来ると安堵した。
因みに人間共と言っているのはラードゥンロールプレイ兼こんな見た目化け物が人間に媚びた言動するのはあかんやろという考えからだ。
「人間の中から代表者を一人連れてこい。そいつと話したい事がある」
その言葉に国の住人は混乱する。代表者と言われても、誰が出ればいいのか、と。
だが、混乱する人ごみの中から豪華な服を着た者が出てくる。
「ふむ?」
見れば、その人間の周囲には武器を投げ捨てていない騎士数人がおり、「お待ちを!」「どうかお考え直しを!」と喚いている。
どうやら結構な上位者らしい、とラードゥンはあたりをつける。
「竜よ。我が国に何の用なのか!」
男──国王らしき男は街の中でラードゥンに向かって叫んだ。
「我らは幾つか聞きたいことがあってこの地に来た。正直に答えるならば、危害を加えることはない」
その言葉に国王はピクリと眉を動かす。
「ならば、問いかけてみせよ、全てに答えよう!」
「うむ。まず聞きたい事だが……ここは何処だ?」
そして、竜王と国王の会話が始まった。
──会話から二十分。ラードゥンは混乱の最中にあった。
(
ラードゥンの頭はあまりよくない。よくない頭でラードゥンは考える。
どうやらこの世界は海洋世界らしく、幾つもの島があり、その島一つ一つに国があるらしい。
そしてそう言った島の国々を支配する存在が世界政府。世界の統治機構であり、海軍という最高位の戦力を保持している。
「ふむ。知りたいことは知れた。感謝するぞ、人間」
ラードゥンは国王──名をジェイミー・ノーブルに感謝を告げる。
ではこれで、とラードゥンが飛び立とうとした時、ジェイミーは待ったをかける。
「竜よ。話がある。そちらにとっても、理と成る話が」
その言葉に、ラードゥンは十の顔を見合わせた。
■
ラードゥンは空の上から自身が来た島、ノーブル国を見下ろす。
竜王との取引内容はこうだ。
ジェイミーが治める国家、ノーブルの戦力となり、手足として動く事。
その代わり、竜王が欲するモノを与えるというものだ。
取引をした国王ジェイミーはとんでもない馬鹿か、自信家のどちらかである。竜の王を従えようというのだから。
だが、ラードゥンにとっては渡りに船だった。自身の居住地と食料が得られるのだ。
その代わりに戦闘、労働をしろという程度、苦でもない。無論度が過ぎれば反逆する気満々だが。
だが竜王の体有って出来る事。ラードゥンは自身の転生先に感謝した。
「ふむ。周囲の地形を見たら帰るとしようか」
そうして暫く飛行した後、ラードゥンは島へと戻った。
降り立つ場所は島の外周、砂浜に近い森の中だ。
森の中には国王と護衛の騎士が一人既に居り、降りてくるラードゥンの衝撃に何とか耐えている。
「どうだった、ラードゥン殿」
既に自己紹介は交わしている。
「うむ。この程度のサイズの島ならば、敵が幾ら来ようが我らのブレスで殲滅できよう」
「それは頼もしい限りだ」
「……陛下。本当にこの者は強いのでしょうか?」
ポツリ、と護衛の騎士が呟く。
「なんだ。我らの力を疑うか……まぁ無理もない」
ラードゥンはその巨体と羽ばたきこそ見せたが、戦闘力に関しては見せてない。
そも百七十メートルの巨体の戦闘などすれば馬鹿でも周囲がぶっ壊れると分かる為、国王側も実力を見せろとは言わなかっただけだが。
だが、何事にも共通するように巨体とはそれだけで強い。極端な話、ラードゥンがその巨体で歩くだけで国を滅ぼせるのだ。
「であれば、試しにその剣で我らに斬りかかってみるが良い」
ラードゥンはそう言うと自身の右手を差し出す。
右手もまた漆黒の鱗に覆われ、鋭い爪が付いた凶悪な腕だ。モノを普通につかむのに苦労しそうな手である。
ラードゥンの行動にジェイミーと騎士は硬直する。一般的な考えていきなり自分に斬りかかってこいと言う人間は変態か狂人の二択である。
「どうした?」「怖じ気ついたか?」
ラードゥンはくつくつと笑いながら、騎士に問いかける。
煽られた騎士は怒り顔で抜刀する。
「……その悪魔の実の力、試させてもらうぞ」
「悪魔の実?」「よくわからんが、かかってこい」
「せやぁぁぁ!」
騎士は雄たけびと共にラードゥンの右手に斬りかかる。
剣と鱗が衝突し──剣がぽきっと折れた。
折れた剣が大地に刺さり、騎士は目を丸くする。
だが数秒後、ふぅ──と息を吐き、折れた剣を納刀する。
「どうやら、その体の強靭さは本物らしいですね」
「であろう? 例え戦車の一撃を喰らっても傷一つ負わんわ」「こちらだと大砲か? まぁ並大抵の事ではダメージは受けん」
「ラードゥン殿。すまない。それでだが、そろそろ人型に戻って貰えないだろうか?」
ジェイミーはラードゥンにそう願う。
「? 人型に戻る? 我らは竜。人の姿になる能力は持たんが」「いや、努力すれば出来るかもしれんが、今のところは無理だな」
ラードゥンが知る限り、一応ミズガルズ世界において魔物は人型になる事が出来る。
だがそれはテイマーにテイムされてからの事であり、独学で擬人化のスキルを覚えられるかは不明だ。
原作では獅子王レオンがルファスにストライダー等のスキルを教えられていたが、その方法はよくわかっていない。
「わかっていないのか? その姿は悪魔の実という、食べれば様々な能力を得られる実によるモノだと思われる。ラードゥン殿が食べたのは、恐らくは
「そんなわけわからん実を食った覚えはないぞ。我らは生れついてからこの姿だが」
その言葉にジェイミーと騎士は目を丸くする。悪魔の実に寄らない異形の姿に混乱するしかない。
「……試しに、海水に入って貰ってもいいか? それで真実がわかる」
「まぁ、その程度なら構わんが」
ラードゥンとジェイミーと騎士は森を出て、砂浜へと出る。
竜王は巨体故一歩が大きく先に着き、先に海水に入っておく。
遅れてきたジェイミーと騎士は海水に浸かるラードゥンの姿を見て驚愕する。
「馬鹿な……悪魔の実ではないのか」
悪魔の実の能力者は例外なく海に嫌われ、海──というよりは水に一定以上浸かると身体能力が落ち、力が抜ける。
だがラードゥンにその様子はない。普通に腕をバシャバシャ動かしているし、頭を浸からせたりして遊んでいる。
これは思ったよりもヤバいモノを取り込んだかもしれない。ジェイミーは冷や汗を流した。
Q.ラードゥンどんくらい強いの?
A.原作キャラの中でタイマンだと勝てる相手いません