竜王のワンピース 作:野生の生蛇
ジェイミーがラードゥンを取り込んだのは、国防の為だ。
近年、海が荒れに荒れている。
ロックス海賊団の台頭にロジャー海賊団。世界は荒れに荒れている。
だからこそ、ノーブル国としては戦力が欲しかった。
如何に
更には女ヶ島も近い。治安があれるには仕方が無かった。
だからこそ、未知未明であっても戦力が必要だった。他の国に劣らず、海賊たちに討ち勝てる戦力が。
だが、相手が本物の竜とは思っても居なかった。
「おし、野郎ども! 次はあの島を襲うぞ!」
南の海の上で。とある海賊団が話し合いをしていた。
船長の懸賞金が一億ベリーを超えている、大物海賊団だ。
船もまた相応に大きく、ガレオン船。船員も百名を優に超えている。
そんな海賊団は、ノーブル国を襲わんと画策していた。
島が見える範囲で宣言し、さぁ襲うぞと息巻いた瞬間──彼らの目の前に信じられないモノが現れた。
「りゅ、竜?!」
海賊の一人がそう叫んだ。
彼らの目の前に現れたのは全長百七十メートル。漆黒の鱗に覆われた、十の首を持つ竜。
竜種の王。竜王ラードゥンが現れた!
「ふむ。この島を襲うと息巻いているのが聞こえてな。今ならばまだ引き返せるぞ」
ラードゥンの一番右の首が船に向かって話しかける。
だが海賊団の船長ははっ! と鼻で笑い、ラードゥンに叫ぶ。
「なんの悪魔の実を食ったか知らねぇが、この俺様を一人で倒せると思うんじゃねぇぜ! 野郎ども! こんな蜥蜴野郎に恐れることはねぇ! ぶっ殺してやれ!」
船長の言葉に「うぉぉぉおおお!」と船員の海賊たちが雄たけびを上げる。
「ふむ。そうか、死ね」
ラードゥンはそう言うと口を開き、火属性のブレスを放つ。
獄炎。数値にして五千度を越える炎によって、墨一つ、塵一つ残らず船と海賊は焼き尽くされた。
■
「今日も海賊を退治してくれたんだな」
騎士、ノルドがラードゥンに話しかけた。
ラードゥンが居るのは前と同じ、砂浜に近い森だ。一時的にだがこの地が竜王の住いとなっている。
「ああ。今回も雑魚だった」
ラードゥンは口を開き、代表者として一番右の首が会話する。
他の首は国王が用意した食事を食べるのに夢中になっている。
「君にとっては一億の首であっても雑魚か。いやほんと、君がいてくれて心強いよ」
ラードゥンが来てから二ヵ月。ノーブル国は平和だった。
竜の感知能力は鋭い。聴覚、視覚共に優れている。
その力をもってすれば、海賊旗を掲げた船を見つけるなど朝飯までだ。首も十あるのであらゆる方向から見る事が出来る。
正に最強の国防と言えるだろう。
ラードゥンとしても、平和に暮らしていた。
美味い食事に楽な仕事。適当な騎士に頼めば文字を教えてくれるし、本の読み上げだってしてくれる。
最高に楽な人生であった。
何故か、竜王の体になってから倫理観とかの一部はどっかに逝ったせいで、人を殺したり食い殺す事に抵抗が無くなっている。
このままいけば、原作のようになってしまうのだろうか、なんて思うが心配するだけ無駄だと思っている。
「このまま何事も無ければいいんだがな」
■
──あんなこと言わなければよかった。後になって騎士ノルドは後悔した。
この世界には、世界貴族という者がいる。
天竜人とも呼ばれる彼らは、この世界の創造主の末裔とされている。
正確には今の世界を形作った世界政府を作った二十人の王の末裔たちだ。
彼らはとんでもない権力と軍事力を持っている。
サイファーポールと呼ばれる諜報・武力組織に純粋たる軍力である海軍。
支配下の百七十を超える国々からは天上金と呼ばれる金を徴収し、資金力とする。
そんな彼らが、たまたま──本当に偶然。ノーブル国に訪れていた。
訪れた理由は単純だ。船の物資補給の為だけに寄っている。
だが、船に乗っていた天竜人の一人が、こんなことを呟いた。
「島の外から見えた、あの蜥蜴が欲しい」
──つまりは竜ラードゥンを欲しているのだ。
ラードゥンは巨体だ。百七十メートルもある。それに海に近い位置に陣取っている。外からの敵に直ぐに気づけるように。
だからこそ、天竜人の目にもとどまったのだ。
そんな天竜人は自身の護衛であるCPとこの国の騎士、そして国王を連れて竜王が居る森にまで来ていた。
「わちきにここまで歩かせるなんて、必ず手に入れてやるえ~」
天竜人が歩く後ろを、国王ジェイミーと騎士ノルドは歩いて行く。
どうか気を変えて帰ってくれないだろうかと祈り続けるが、無意味な行為である。
ラードゥンに天竜人に着いては教えていない。世界政府に着いては教えたが、まだ教えてない事だらけだ。
国を守りながら文字やら文学やら常識を教えているので時間が足りないのである。そもラードゥンが来てから二ヵ月しかたっていないのだ。
そうして歩いていると、ラードゥンの元に辿り着いた。
眠っているのか、ラードゥンは横になっている。
「見つけたえ~わちきのモノだえ~」
天竜人は馬鹿みたいに喜んでいる。
その声にラードゥンも顔を上げ、首を下げる。
体を横にしていても首が長いため、首を下げないと相手と真面に会話出来ないのである。
「なんだ、お前は」
ラードゥンは開口一番初めて目にする奇妙な天竜人に問いかける。
天竜人は下界に降りる際、頭をシャボンで覆い、白い服を着てくる。その姿はラードゥンの感性からすれば変であった。
「喋ったえ~! こりゃ貴重だえ! このサイズにあう首輪も用意しなければならないえ!」
きゃきゃと喜ぶ天竜人──ミルバカ聖にラードゥンは無い眉を潜める。
まるで自分を飼うかのように言う者に、気分を悪くする。
「おいジェイミー。こいつは何だ?」
ラードゥンのその問いかけに、ジェイミーは口を開けない。
下手な事を言えば、自身とこの国が標的になってしまうがために、会話できないのだ。
「こいつとは何だえ! 飼い主様の事をよく知らせてやらないといけないえ! ペットをしつけるのも飼い主の役目だえ!」
「ペットだと? まさか貴様、我らを飼うつもりか?」
ラードゥンは怒気を込めてそう言い放つ。
その姿にCPと騎士、国王はほんの少しの恐怖を抱くが、とうの天竜人は何も感じていない。
「そうだえ! わちきが飼い主になってやるえ! 有難く思うんだえ!」
「殺すぞ」「食い殺してやろうか」「嬲り殺しにしてくれる」
ラードゥンの幾つかの首が口を開き、殺意を口にする。
流石にその言葉に、ミルバカ聖も頭にくる。
「なんだえ! わちきがせっかくペットにしてやろうというのに!」
意を決したように国王ジェイミーも口を開く。
「ラードゥン殿! しばし落ち着いてください!」
だがその言葉に余り意味は無く、ラードゥンの怒りは消えない。
「まるで我らを獣畜生かのように言う者相手にどう落ち着けというのか。何でこんな者を我らの前に連れて来た?」
その言葉にジェイミーも口が詰まる。
ジェイミーとしてもラードゥンと合わせる気はなかった。だが天竜人を止める術など有る訳がない。
「もうお前はわちきのペット確定だえ! 大人しく従うがいいえ!」
その言葉に、温厚であるはずのラードゥンもぶちっとキレた。
前足、腕を持って天竜人を踏み潰さんと動かす。
レベル千、超越者の頂に到達した者の動きだ。常人が視認出来る速度ではなく、そしてCPであっても見切れぬ動きだ。
結果、天竜人ミルバカ聖は見るも無残なシミとなった。
全員、一拍遅れてから驚愕し──CPの一人が叫んだ。
「天竜人殺しだぁぁぁ!」
わぁぁぁ! と周囲の者達が叫ぶ中、ラードゥンは鼻を鳴らす。
「天竜人? 竜ではないだろう。ただの人だ、これは」
同じ竜であるならば、この程度の弱者であるはずがないと断言する。
「よくもミルバカ聖を!」
CPと天竜人が連れて来た騎士団員が武器を手に取る。
CPは月歩という空を跳ぶ技術を持って竜王の首に迫る。
だがそれよりもラードゥンが動く方が早い。
その十の首と腕を持って、瞬く間に殺し尽くした。
竜王ラードゥンはレベル千。当然、移動速度も馬鹿げた速度だ。
コンマ一秒で千の手を打てるならば、それは時間を停止したにも等しい刹那に動けるという事。
ただの人間では、竜王の時間軸に合わせられない。
「……で、なんだったんだ、こいつら」
瞬く間に殺し尽くしたラードゥンはジェイミーに問いかける。
たっぷりと時間をかけてから、ジェイミーは口を開いた。
「…………天竜人、世界貴族と言われる世界にとっても重要な貴族だ。神の如き存在であり、絶大な権力を持つ。まぁ、逆らえば命はない存在であり、何者であっても従うしかない存在だ」
「……つまり?」
「それに逆らった君は、世界から狙われる存在になるだろう」
成るほど、とラードゥンはいわれた言葉を反芻する。
どうやら自分はとんでもない事をしでかしたらしい、と。
「どうやら我らはこの地に居られぬようだな。ここに居れば追撃の部隊が来る。そうだろう?」
「ああ。その通りだ。短い間だったが、楽しかったよ、ラードゥン」
「我らもだ。ではな、ジェイミー。もう会う事はないだろう」
ラードゥンは空へと羽ばたき、島の上空へと飛ぶ。
そして一番豪華な、見た事の無い船を見つけるとあれが政府の船だろうとあたりを付ける。
そしてそれは正解であり、船には政府の人間が乗っている。
その船近くまでラードゥンは空から降りると、大声を上げる。
「聞け、人間共! 天竜人は我が殺した!」「憎ければ我に挑め!」「我は逃げはせぬ!」「人間共、我の名を思い知れ!」「我こそは竜王ラードゥン!」「世界の敵である!」
くわーはっはは! と叫ぶとラードゥンは空の彼方へと飛んでいった。
ラードゥンの一人称は基本我らですが最後は我らにすると国も含まれそうだったんで我だけにしました