竜王のワンピース 作:野生の生蛇
南の海の名も無き島。その海底近くには海王類が住まう。
その海中にラードゥンは居た。
ラードゥンは水中であっても活動できる。数時間は無呼吸での行動が可能だ。
更には持ち前の鱗の防御力も合わせれば深海でだって活動可能だ。やろうと思えば深海一万メートルでだって動くことが出来る。
(いたいた)
十の首で見据えるのは全長三十メートル程の海王類。
ラードゥンの昼飯と成る事が決まった海王類にラードゥンは襲い掛かり、三つの首で噛みつき、海王類の喉を食いちぎる事で絶命させ、腕を使って持ち上げて海上へ浮上する。
空を飛んで島に着地し、火属性のブレスを使って適度に焼く。威力の調整をミスって焦がさないように用注意。
そうして簡易的な調理を終えると食事だ。十の首で貪り喰らう。
そうして食事を終えた後、ラードゥンは空を見上げた。
「……いい加減スキル覚えてぇ!」
ラードゥンが今欲しているのは擬人化のスキルだ。
ラードゥンが活動するにはどうしても巨体が問題となる。
下手な町や国に行けばその場で即討伐戦の開始である。更には天竜人を殺したことも相まって殺しにかかる者は多いだろう。
だからこそ擬人化のスキルは必須だ。人の姿になれば出来る事も多くなる。
だが、スキルの習得方法がわからない。
「ええい!」
苛つきと共にラードゥンは空に向かって月属性のブレスを放つ。
空の彼方まで飛び、この星の重力圏を無視して宇宙の彼方へ消えた。
「そもそもマナすらわか──ん?」
ふと。ブレスの後に妙な物があるとラードゥンは感じ取った。
何とか操作出来ないか、と腕を使ったり首を振ったりすると──マナの操作感覚を掴んだ。
「なるほどな。我らのブレスにはマナが含まれているか……いや。考えれば当然の事だが」
マナとは、魔力の元、世界に満ちる超常の欠片である。
ミズガルズ世界においてマナは女神アロヴィナスの力の欠片だ。この力を持って人々は魔法という超常を行使し、動植物が取り込めば魔物という上位種族へと変異した。
かくゆうラードゥンもマナによって変異した存在だ。元となったのは恐竜である。
そしてブレスにマナが含まれているという事は、自身にはマナを生成する能力があるのではと意識を集中する。
すると──自身の胸からマナが溢れているのが感じ取れた。
これは原作ラードゥンには無い能力だとラードゥンは判断する。
恐らくはラードゥンの能力を異世界で再現するために付けられた機構であるという推測だ。
ならばこれを使ってスキルや魔法を使えないか。ラードゥンは思案する。
そうして試行錯誤する事数時間。遂に感覚を掴む。
「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
全部の首が叫び──突如閃光が起こる。
余りにも眩しい光だ。常人ならば視認するだけで失明するだろう。事実周囲に居た動物は失明した。
そして光が収まった後、そこに居たのは全裸の美女だった。
身長は二百二十センチと長身。歳は二十代程。
腰まで靡く漆黒の髪に紅蓮の瞳。
胸はスイカやメロンのように巨大だが、垂れていなく、つんと張っている。
腰は細く、尻は大きい。
肌には傷やシミ、できもの一つ無い綺麗な肌。
特徴的なのは圧倒的な美女。その姿だけで一生食っていけるだろう。
「クワハハハハハハ! やはり人間──竜はやってみれば出来るモノだな!」
こうして竜王ラードゥンは擬人化のスキルを手に入れた。
十の人格は消えた訳ではなく、頭の中でわいわい騒いでいる。
叫ぶ事で胸がたぷんと揺れる。
「ん?」
ラードゥンは下を向いて、視界の半分が胸によって防がれている事に気づく。
なんだこれ、と胸を揉み、「んっ」と少し喘いだ。
「……女になってる?!」
自身が女になった。その事実に驚愕し思考が止まる。
だが体は動き、胸を揉むのを辞めない。
そして無意識的に女性器に手が伸びかけ、それは流石に不味いと辞めた。
「……女になったなら女風呂覗き放題では?!」
そしてくだらない事に気づき狂喜乱舞する。男の象徴との永遠のお別れをしたが、大して気にもしていない。
まぁこれで外で活動できるようになったしええやろ、とラードゥンは竜の姿に戻り、空の彼方へと飛んでいった。
■
名の通り金が大量にある島である。
南の海でも有数の島の巨大差と地理の関係上交易に都合のいい島である。
その島の上空にラードゥンは居た。
島の住人の中でも視力と勘のいいものならば気づける程度の上空に滞空し、ラードゥンは島を見下ろす。
「丁度いい島だな」
これからの活動拠点にするには丁度いいと、ラードゥンは笑う。
上空で擬人化のスキルを行使し、島に向かって落下する。
擬人化状態では竜としての能力である飛行能力が行使出来ない。故落下する。ついでだが更にブレスにも制限がかかる。
数秒後。島の砂浜にラードゥンは着弾した。
轟音と共に砂塵が舞い、クレーターを残す。
「なんだ?!」
「何事だ?!」
突然の出来事に偶々砂浜に来ていた海賊団がなんだなんだと騒ぎ出す。
そうして砂塵が晴れた後に現れた者に、彼らは鼻の下を伸ばした。
現れたのは全裸の美女。欲情するのも無理ない事。
だが何人かの頭が回る者は落下してきたというのに無傷である事に疑問を抱き、そもそも何故落下してきたのだという疑問を抱き警戒する。
「ふむ……まずは服が居るな」
ラードゥンは自身の体を見下ろしてそう呟く。
全裸で街中に行けばすぐさま憲兵に捕まる。美女であっても全裸であればわいせつ物陳列罪に該当する。
体で篭絡するというのも手だが、ラードゥンとしては下手な人間に貞操を明け渡す気はなかった。
という事で、ラードゥンは近くにいる海賊船に目を向ける。この世界の海賊は分かりやすくジョリー・ロジャーを掲げている。
(あそこには服がありそうだな)
強奪でもするか、とラードゥンは考える。
どうせ相手は海賊。殺されても文句の言えない連中である。であれば、服を奪うぐらいいいだろう。
ついでに金も奪えば活動資金になる。
そう考えたラードゥンは船の上に飛び乗った。
「うお!」
「すっごい揺れだ!」
揺れというのは船への衝撃ではなく、ラードゥンの胸の揺れである。
ブラジャーもつけてない状態で激しく動けばそれは当然大きく揺れる。
「おい、海賊共。金と服を寄越せ」
ラードゥンは不敵な笑みを浮かべながら海賊に向かって話しかける。
その言葉に海賊たちは笑う。この女は何を言っているのだ、と。
だが一人、まったく笑っていない者が居た。この海賊団の船長である。
「……いいだろう。好きなだけ持っていけ」
「船長?!」「何言ってんすか!」等と海賊たちは騒ぎ出すが、船長は冷や汗が止まらなかった。
この世界には、覇気と呼ばれる力がある。
物理的な強化を可能とする武装色。感知系の見聞色。王者にのみ許された覇気である覇王色。
そのうちの二つ、武装色と見聞色の覇気を船長は使える。
その見聞色の覇気をもってすれば分かる。目の前の女の力が。
(底知れないとかじゃねぇ。無限だ。あり得ねぇ。なんだこの怪物……!)
船長は恐怖するしかない。目の前の怪物に。
これまで戦ってきた敵の何十倍、下手したら何百倍──それ以上に強い存在。
「ふむ。物分かりがいい者は嫌いじゃない。持ってきて貰おうか」
ラードゥンは相手がよくわからないが従ってくれるという事で受け入れた。
そうして暫くすると海賊の下っ端が服と金を持ってくる。
一応女モノの服だ。
「流石にそのサイズの胸に会う下着は無いが、それ以外はあった」
「ふむ。一応感謝しよう」
さて、とラードゥンはその場で着用を始める。
突然の逆ストリップショーに海賊たちは興奮する。というかラードゥンが来た瞬間から興奮しっぱなしである。
数分で着替えを終えるとラードゥンは自身の姿を見てみる。
「……へそが見えているな」
今のラードゥンは茶色い服を着ている。
ラードゥンの身長には微妙にあっておらず、大きな胸と身長によってへその上までしか隠れておらず、胸元も露出している。
黒いズボンに黒い靴を履いた姿はまるで読者モデルかグラビアアイドルの様である。
「金は……まぁこんくらいあれば困らんか」
渡された財布を見ると中には五百万ベリー入っている。
これならば数日は遊んで暮らせるだろう。慎ましく使えば一年は持つかもしれない。
「ではな、海賊共。服と金の礼に貴様らは今後見逃してやろう」
「ああ、そうしてくれるとありがたい」
ラードゥンは来た時と同じように跳んで船を去った。
カネバッカ島の四つある街の一つ。海岸の街で。
白を基準とした建築が成されている街だ。主に石性の家が多い。
その街を、ラードゥンは歩く。
そして当然、注目される。
へそ丸出しという強気なファッションにそれに似合う美貌。
周囲の注目を集めない訳がない。
ラードゥンは適当な飯屋で昼飯を済ませた後、この後どうするかとカフェで一息つく。
(どうするか)(しばらくは賞金稼ぎとして活動すべきでは)(合法的に金を得る手段だしな)(飽きたらまた別の事をすればいい)(擬人化のスキルも手に入って手加減出来る事だしな)
十の人格で相談を済ませ、今後の方針を決める。
やる事は決まった、と支払いを済ませ、ラードゥンは飛び去った。