竜王のワンピース   作:野生の生蛇

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第6話

 

「まずは宴だ! 今宵の勝利を祝おう!」

 

 ラードゥンを代表して一番右の首が喋った。

 ラードゥンたちがいるのはスルハ帝国の首都、国名と同じ都市スルハだ。

 瓦礫の山となった帝国が誇る居城の前で竜王軍は宴を開いていた。

 食料品も料理人も竜王の力で従えさせた者達が用意したものだ。

 

「では、乾杯!」

 

「「「乾杯!!!」」」

 

 竜王の宣言と共に、宴が始まった。

 

 

 ■

 

 マリンフォード。

 偉大なる航路(グランドライン)前半、通称楽園にある海軍本部がある島だ。

 日本で言う和風の城に近い外見を持つ城の一室で二人の男が話し合っていた。

 

「スルハ帝国がラードゥンに攻め滅ぼされたってよ」

 

 そう声を発するのは黒髪の男だ。

 筋骨隆々の大男である。名をモンキー・D・ガープ。海軍本部の中将である。

 

「あの国には強力な騎士団が居た筈だが、それらも滅ぼされたのか?」

 

 そう返すのはこれまた偉丈夫だ。

 三メートル近い巨体を持つ大男だ。黒髪黒目にアフロヘアーの男である。名はセンゴク。

 

「ああ。"魔竜"にやられたらしい」

 

 ガープが茶をすすりながら言う。

 

「"魔竜"か……確か五千万の賞金首だな。だが罪状は天竜人殺しだけのはず……戦闘力もあったというのか?」

 

 ふむ。とセンゴクが疑問を抱く。

 

「そこまではわからんが、数日で南の海(サウスブルー)から新世界まで移動しているのを見るに何か種があるのは確かだな」

「ロックスやロジャーの件があるというのにこれ以上の厄介事は勘弁してほしいが……誰が対処に向かう?」

「近場に居たゼファーが向かうそうだ。まぁ、上からもせっつかれてるっぽいしな」

 

 だが、黒腕が向かうならば問題ないだろう──二人はそう思った。

 

「しかし、天竜人がONLY ALIVE(生け捕りのみ)にしたのはどういうことだ?」

「なんでも、この竜擬きをペットにしたいんだとか。金持ちの考える事はわからんな」

「……こやつもまた、天竜人の被害者という訳か。ままならんのぉ」

 

 

 ■

 

 スルハ帝国の皇城はラードゥンの手によって粉々に破壊された。

 その為に再建が必要であり、新しい城を作る為に国から職人と人手を集めていた。

 建設の為の詰所にラードゥンは擬人化した状態で来ていた。

 

「やっぱ風呂だな。泳げるぐらいに広い風呂は欲しい」

 

 ラードゥンは日本の銭湯を思いながら言う。

 ラードゥン自身銭湯は苦手だ。というのも赤の他人に裸を見せるのも見るのも嫌なのである。

 だがそれはそれとしてデカい風呂は好きという難儀な性格である。

 その為自分が入るようのデカい風呂が欲しいという欲求を職人に着きつける。

 

 職人は大人しく受け入れ、設計図を考える。

 

「他に欲しい物は?」

 

 職人たちも内心では従いたくないが、圧倒的な力を前に従うしかないと諦めている。

 

「そうだな。他には──」

 

 十の人格で相談しながら欲しい物を上げていっていると乱暴に詰所のドアが開けられた。

 

「何事だ!」

 

 人の話を中断させるな、という怒りを滲ませラードゥンが入って来た者を睨む。

 入って来たのは海賊団の一員だ。

 

「すみません、竜王様! 海軍の軍艦が来てます!」

「海軍の軍艦? もう聞きつけて来たか」

 

 以外にも耳が早いな、とラードゥンはニヤリと笑みを浮かべる。

 ここらで一度自身の力を示すのも必要だとラードゥンは考えていた。故敵の来訪は歓迎する事だ。

 

「敵は誰かわかるか?」

「それが、海軍大将です! 黒腕のゼファーが乗ってます!」

「知らん奴だな。まぁ大将ならば骨はあるだろう。すぐ向かう!」

 

 ラードゥンはそう言うと外に出て竜の姿に戻り港まで飛んでいった。

 

 

 ■

 

 

 竜の姿に戻り十の首で海を見つめる。

 港は広大だ。船が余裕で三十隻は止められるだけの広さを持つ。

 ここもまたラードゥンが破壊したために復旧作業が必要になっているが、復旧の人員は今は避難させていた。

 これからくる海軍大将との戦闘になる為だ。故一般人はこの場にはおらず、居るのはラードゥンただ一人。

 

「あれが海軍か」「海軍の軍艦を見るのは初めてだな」

 

 そうして暫く待っていると海の向こう側から海軍の軍艦がやって来る。

 青を基準とした色で構成されている軍艦だ。帆にはM文字を図案化したカモメのマークが描かれている。

 

「む」

 

 そうして眺めていると船から一人の大男が飛び出して来た。

 かなりの速度での跳躍だ。ラードゥンの体でなければ視認するのは難しいだろう。

 着地、あるいは着弾。男はラードゥンの前に降り立った。

 衝撃によってクレーターが生じ、蜘蛛の巣上に地面がへこむ。

 

「人間一人が、我らに挑もうというのか」

 

 くつくつとラードゥンは笑う。

 どうやら余程の力自慢か大馬鹿者らしい。相手の実力も把握できずに挑んでくるとは。ラードゥンは嘲笑う。

 

「お前が魔竜ラードゥンか」

 

 男──海軍大将黒腕のゼファーはラードゥンを前に臆する事なく問いかけた。

 紫色の髪に青い瞳の大男だ。背中には海軍の将官の証である正義が書かれたコートを羽織っている。

 

「魔竜? なんだ、その二つ名は」

 

 ラードゥンは聞いたことのない名に困惑する。

 

「知らんのか? 天竜人殺しの魔竜としてお前は有名だぞ」

「ふん。あんな竜擬き殺しで有名になるとはな」「たかが人間だろうあんなものは」

 

(他の首も喋るのか)

 

 ゼファーは他の首も喋り始めた事に驚愕し、内心舌打ちをする。

 十の首を一つの人格が操作しているのではなく、十の首が十の思考で動いているとなると厄介だ。単純に十対一になるからだ。

 

「まぁいい。降伏する気は無いか? 今なら穏便にインペルダウンに入るだけですむぞ」

 

 インペルダウンというのは世界政府保有のこの世界最大級の大監獄だ。

 歴史上誰一人として脱獄を許していない海中牢獄である。

 天竜人がラードゥンを望んでいる以上入る可能性は低いが、今なら無理矢理にぶち込む事も不可能ではないとゼファーは判断する。

 

「くだらんな。獄中に等誰が入るモノか」

 

 分かり切った返答にゼファーは「そうか」と短く返し、拳を握り構えを取る。

 

「では、力づくで監獄にぶち込むとしよう!」

「やってみろ、人間!」

 

 ラードゥンから見て右端の首が口を開き火属性のブレスを放つ。

 見聞色の覇気でそれを見ていたゼファーは空中に飛ぶ事で回避する。

 空に逃げたゼファーにラードゥンの他の首が襲い掛かるがゼファーは空中を蹴って移動する技術、六式の一つ月歩(げっぽ)で空を駆けることで避ける。

 ゼファーは右から七番目の首の真上から拳を握り、殴る。

 

 鈍い音が響き、ラードゥンの七番目の頭が揺れる。そして鱗も破壊される。だが、その程度だ。骨には罅一つ入らない。

 

「よくもやってくれたな!」

 

 八番目の首が怒りに震え、火属性のブレスを放つ。

 それもまたゼファーは月歩で華麗に回避する。

 

「ちっ!」

 

 ならばとラードゥンはその爪で襲い掛かるがこれもまた全て回避される。

 紙一重での回避だ。

 

(──あり得ん。何故回避される?)

 

 ラードゥンの速度は速い。

 時速に換算すればマッハ二十万以上ある。だというのに回避されるのはどういうことだとラードゥンは訝しむ。

 

 だが原理としては単純だ。これもまた覇気という力によって成立している。

 見聞色の覇気は極めれば光速で動く相手の動きを見切り回避、防御が可能となる。ならば光速には満たないラードゥンの動きを避けるのは容易い事だ。

 海軍大将ともなれば見聞色の覇気の練度は相応に高いのである。

 

 だからといって、余裕がある訳ではない。

 

(こいつ、強い!)

 

 ゼファーは内心で舌打ちをする。想定以上に強すぎる、と。

 ラードゥンの攻撃は一撃一撃が即死級の業だ。例え武装色で防御したとしても致命傷を負うだろう。

 ブレスに至ってはまず死ぬ。火属性のブレスなんかは焼け死ぬだろう。五千度の炎に耐えれる物質はまずない。

 いや、武装色で全身を防御すれば数秒は耐えれるだろうが、それだけだ。

 

 ラードゥンは首と手足を縦横無尽に動かし食い殺そうと、握り殺さんと動くが攻撃が届かない。

 それどころか腕や首に反撃の拳を喰らい、ダメージを追うばかりだ。

 

「ええい、煩わしい!」

 

 ラードゥンは翼をはためかせ、空へと一旦飛ぶ。

 飛翔の羽ばたきによって暴風が生まれ、ゼファーは身動きが取れなくなる。

 その隙をついてラードゥンは空に飛び、空からブレスを放つ。

 七属性全てのブレスだ。木属性による雷のブレス。月属性のブレスに水属性の氷のブレスと多種多様なブレスがゼファーに襲い掛かる。

 だがゼファーも風が止み動けるようになった途端月歩と六式の一つ(そる)を用いて回避し、空へと飛んだラードゥンへ追撃すべく空を蹴って跳ぶ。

 

「空中戦か!」「ならばこちらに分があるぞ!」

 

 ラードゥンはブレスを放ち続け包囲するようにブレスを放つ。

 だがゼファーはブレスに囲まれる前に月歩と剃を用いて回避する。

 例えラードゥンの速度が圧倒的に速いとしても、見聞色による先読みが出来れば回避はそう難しくない。

 

 ラードゥンの真ん中の首まで接近したゼファーは腕を武装色で硬化し顔面を強く殴る。

 殴られたことでラードゥンの鱗が破壊され、少なくないダメージを受ける。

 

「人間風情が!」

 

 だがすかさず他の首が捕食に動く。しかしゼファーはそれを予見しており更に襲い掛かって来た首も殴り飛ばす。

 ラードゥンにダメージが入るが、持ち前の再生能力でそのダメージはすぐさま治ってしまう。

 

「ちっ!」

 

 ラードゥンは体全体を使ってタックルをぶちかます。

 百七十メートルの巨体による突撃だ。如何に見聞色で先読み出来るとしても百七十メートルの巨体からそう簡単には逃れられない。

 ゼファーは地面に打ち付けられる。

 

「カハッ!」

 

 そしてすぐさまラードゥンは落下し追撃する。

 足によるスタンピングを放とうとするもゼファーは剃で回避する。

 

「ちょこままかと!」

 

 面倒な敵だ、とラードゥンは舌打ちする。

 ラードゥンが本気になれば殺せない敵ではない。だが、本気を出せば実質的な負けになる。

 ラードゥンの本気の力とはすなわち全てを破壊する破滅の力だ。ラードゥンの力ならばこの島事消し飛ばす事は容易である。

 だが、そうすると自らの勢力を作り上げたいラードゥンにとってはまたゼロからのやり直しになる。それは面倒なので御免被る。

 故、本気を出せない。

 

「いい加減に死ね!」「戦いも飽きて来たぞ!」

 

 ラードゥンは己の爪と首を持ってゼファーに襲い掛かる。

 

 ゼファーは襲いかかる爪を殴って飛ばし、首を剃と月歩で除け、ブレスも避けていく。

 それだけで周囲は甚大な被害を受ける。港町は元の面影が無い程に破壊される。

 

(──ー駄目だなこりゃ、勝てない)

 

 そうして暫く戦ってるうちゼファーは己が勝てない事を悟る。

 理由は単純で、相手が消耗していないからだ。

 

 この世界の一定以上の実力者、強者というものは覇気を使う。

 そして覇気とは消耗するモノだ。武装色だろうが見聞色だろうが覇王色でだって変わらない。

 消耗し、疲労する物。それが覇気だ。そして覇気があってこそ人類は強大な力を行使できる。

 ゼファーがラードゥンと戦えているのも覇気があってこそだ。覇気が無ければとっくに食われている。

 

 だからこそ、覇気なんて一切使わないで戦えるラードゥンは人知を超えている。

 

 確かにラードゥンだって体力、スタミナはある。ブレスでSPを消費する。

 だがそれは遠い未来での話であり、消耗戦になった場合先に倒れるのは必ずゼファーの方だ。

 体力はラードゥンの方が圧倒的に上である。

 

 それを見聞色で悟ったゼファーはラードゥン相手に勝つには短期決戦しかないと悟る。

 ラードゥンを倒すにはバスターコール分の戦力に加え大将二名以上が必要だろう。いや、それでも勝てるかわからない。

 今だってラードゥンがゼファーを殺せてないのは己の体を使いこなせていないのと、島への被害が出るのを嫌っているからだ。でなければゼファーだって既にやられている。

 

 ゼファーはラードゥンから一旦距離を取り、息を吐く。

 

「……ここは一旦引くとしよう」

 

「それを許すとでも?」「怖気づいたか?」「いやまて。逃がすのもありだぞ」

 

 ラードゥンの右から六番目の首が逃走を許そうと口を開く。

 

「どういうつもりだ。六番目」「何。海軍大将を撃退した存在として我らは名を上げる事が出来るだろう」「殺した方がいいのでは」「この男がどうやって来たかは知らんが、ただ殺しただけでは誰が殺したかの話になるだろう? この世界は海に囲まれている。海難事故で亡くなったという事になっても困る」

「なるほど。それで一旦は逃がすという事か」

 

 これがゼファーが大軍を率いてきていたのならば別だが、一隻でしか来ていない。だからこそ逃がそう、という訳だ。

 

「いいだろう人間。今回は見逃そう」「そして伝えよ。我らの力を強大さを!」

 

「ああ。そうさせてもらうとしよう」

 

 ゼファーはそう言い残すと剃と月歩を併用し、まだ港には付いていない軍艦に跳んで戻っていった。

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