ゲマトリア所属生徒『西条レイナ』   作:ガガミラノ

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【前日譚外伝】雷帝の遺産?
遺産戦争


 

 

 

 前にも言ったが、私ではどうやっても勝てない二人だけがいる。

 

 一人は小鳥遊ホシノ。

 

 フィジカル、テクニック、戦略、ありとあらゆる面で私を上回っている生徒の一人だ。

 頭も切れるし、戦いで慌てたり些細なミスをする事が全く無い。

 

 故に隙がない。

 だから勝てない。

 …………しかし実を言うと今回の要点は小鳥遊ホシノではなく、もう一人にある。

 

 

 

 

 

 

 

 ─────雷帝。

 

 

 暴君、策略家、発明家、政治家。

 忘れもしない二年前、キヴォトスを混乱に陥らせた人物。

 

 小鳥遊ホシノが武力で勝てない人物なら、ヤツはそれ以外の部分で勝てないと言うべきだろう。

 とは言っても、私は彼女と喋った事がある訳でもなければ何かの因縁がある訳でもない。

 ただ一目見た時、そしてその力を行使した時……私はヤツに勝つ事を諦めた。

 

 

 しかし、ゲヘナで恐怖政治を敷いたヤツは今はゲヘナを卒業してキヴォトスを去っている。

 だが何よりも問題になったのは彼女の『遺産』だ。

 彼女が発明した遺産は今もキヴォトス各地に遺されており、どれも危険な代物で悪用すればキヴォトスという世界に致命傷を与えかねない。

 

 だから私はすごく暇な時に雷帝の遺産回収の旅に出ている、暇つぶしに。

 

 

 

 

 先生と出会う少し前の話。

 桜咲くのはまだ遠い季節の頃だったか、私はゲヘナの近くにある小さな学園に訪れていた。

 

 

「なんだ、嬢ちゃん、ここは嬢ちゃんみたいなキレイな奴が来るとこじゃあねえぞ?」

 

 

 裏路地にありがちなブラックマーケット予備軍とも言えないような寂れた場所。

 犬のおじさんに声をかけると軽くあしらわれそうになる。

 

 無論、こういう時は『これ』が一番なのだが。

 

 

「この写真の場所、分かる?」

 

 

 札を二、三枚渡し、写真を見せるとおじさんは深く考えて写真を見つめる。

 

 

「…………郊外だな……ってか、この建物一年前に取り壊されたもんじゃあねえか」

 

「この建物があった座標は分かる?」

 

「座標までは分からねえな…………あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「嬢ちゃん?」

 

 

 

 

 

 ━━━━━

 

 

 

 雷帝の遺産を狙う勢力は主に三つ。

 

 

 まずは当然、私。

 因みに私が雷帝の遺産を狙っているのは黒服達の命令などではなく、単なる暇潰しだ。

 黒服達は自分の作品に興味はあるが、他人……しかも卒業したとはいえ私以外の生徒の作品に興味を抱く事はまず無いし、私も遺産を使って何かしようとかそういうのは考えていない。

 

 次にゲヘナの風紀委員と万魔殿。

 とは言っても全面的に遺産を狙っているという訳でもなく、見つかり次第遺産を破壊……といった感じで後手に回る事が多い。

 しかもそれを指揮しているのは三年生の古株、現在では雷帝の情報が出回らない辺り情報統制でもしているのだろうか。

 その代わりもしも見つかった事が判明したら空崎ヒナと………………えーっと、万魔殿の議長が飛んでやって来る。

 最も厄介且つ、躱しやすい相手だ。

 

 最後に、嵐。

 雷帝派の勢力らしく、雷帝がいなくなった今でも暗躍している地下組織。

 規模やメンバー、目的まで一切不明。

 目立った行動も一切ナシ、何なら今は自然消滅や分裂している可能性まである。

 

 

 

「……へっくしゅ」

 

 

 北風が吹き、服の裾がなびくと同時にクシャミをする。

 写真にある場所は未だ分からず、遺産の手がかりもゼロ。

 

 路地を出歩くのは私とこの学園に通う生徒だけだった、日陰が少し多いがただの田舎町といった印象以外なく、不良生徒すらいない田舎に雷帝の遺産があるのかという疑問が浮かぶ。

 

 

「ねえ、この前の水門が故障した事件あったじゃん」

 

「あー、アレね」

 

 

 小鳥のさえずりが聞こえる路地では三大学園とは全く違う、銃声すら聞こえない静かな空間が広がっていた。

 

 

(…………こんな田舎にあるのか?)

 

 

 因みに私が今までに回収した遺産の数は三つあるがどれも使った事はない、手に入れたら適当に倉庫にポイ。

 

 何せ一発撃つだけで周囲2kmが焼け野原になる爆弾やガスマスクを無効化する為の酸性剤、あとは…………まあ、最後の一つについては機会があれば記そう、あんまりいい思い出じゃないし。

 

 

「止まれ、ここから先は立ち入り禁止だ!」

 

 

 風紀委員会のかしこまった服を着た生徒が先に進もうとする私を止めた。

 

 

「どうして?」

 

「ゲヘナ風紀委員会とネーデ秩序維持委員会との共同捜査だ、とは言ってもほとんどゲヘナ単独の捜査だがな」

 

 

 なるほど、ゲヘナが一枚噛んでいたか。

 となると写真にある場所はここから近いはずだ。

 

 

「ねえ、アレ慈愛の怪盗じゃない?」

 

「なにっ───「当身」

 

 

 床に倒れる音。

 なんとも単純なヤツだ。

 

 

 

 ━━━━━

 

 

 

 

 

 午後4時 ネーデ立憲学園 郊外

 ゲヘナ風紀委員会 兵器捜査本部

 

 

 

 

 

「見つかったか?」

 

「いえ、手がかりすら見つからないです」

 

「間違いなくあの建物があった場所にあるはずなんだがな……」

 

「そもそも私達何を探してるんですか?」

 

「バカ、温泉開発部が開発した貫通爆弾だよ!」

 

「あそこにそんなもの開発する資金とか技術、ありましたっけ?」

 

「あるんじゃないか?掘った温泉結構儲けてるらしいし」

 

 

(公的には温泉開発部の爆弾捜査ということになっているのか)

 

 

 一、二年生に雷帝に関する情報統制を敷くゲヘナだが、年がら年中人手不足。

 雷帝の遺産を確保する為には嘘でも言わないと人手が足りないのだろうか……まったく、回りくどい連中だ。

 

 

「あんた、向こうの方の連中に進捗を聞いてくれないか?」

 

「……分かりました」

 

 

 もっとも、私も同じようなものだが。

 少し前にしばいた風紀委員の服を奪って変装し、ゲヘナ風紀委員会からの情報を得る。

 

 

 ……しかし、私に帽子は似合わないな。

 邪魔だしさっさと場所を特定して脱ぎたい。

 

 

「チナツ、委員長は?」

 

「行く途中で美食研究会と遭遇したようで、少し遅れるそうです」

 

(ゲッ、空崎ヒナも来るの……?)

 

 

 情報を探ろうとうろちょろしていると、そんな話し声が聞こえる。

 

 風紀委員長と会うのはマズイ、非常にマズイ。

 何がマズイって恐らく私の変装を一発で看破してくる事だ。

 私の身分的にも、これからの行動的にも絶対に出会いたくない……

 

 

 そんな時、肩を叩かれた。

 

 

「貴方」

 

 

 振り向くとメガネを掛けた風紀委員の生徒がそこにいた。

 恐らく末端の生徒だろう…………いや、違うな。

 

 

「少しこっちに来てください」

 

「いえ、持ち場を離れる訳にはいかないので」

 

 

 帽子を深く被って目線を合わせないようにする。

 意図を探られるな、感情と心を知られるな。

 

 

「ここの持ち場は私のはずですが」

 

 

 目線を下に逸らした瞬間、私の疑惑は確信に変わる。

 

 

「…………ネクタイが無い」

 

「?」

 

「風紀委員会のネクタイが無い」

 

「……それが?」

 

 

 帽子を上げて、目の前にいる()()()()()と目を合わせた。

 

 

「ゲヘナ風紀委員は規則に厳しい、自分の身なりについては特に」

 

「……」

 

「ネクタイは何処にいったのかしら」

 

 

 どうやら()()()のようだ。

 ボロを出したのはお互い様……と言うべきか。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 重い睨み合いが続く。

 もしもここがゲヘナ風紀委員会の根城で無かったら実力で黙らせていたところだったが、そうといかない。

 

 数秒経った頃、もう一人、()()()風紀委員が睨み合いの間に挟まる。

 

 

「おい、何してるんだ?」

 

「いえ、少し話してただけです」

 

 

 メガネを掛けた生徒がそう言うと、風紀委員はため息を吐いた。

 

 

「はぁ、次はこっちの班が兵器の捜索をするんだから気を引き締めておけよ」

 

 

 私は警戒を解いて、そのままメガネの生徒を通り過ぎようとした時に小さな声で呟いた。

 

 

「深入りしない方がいい」

 

 

 メガネの生徒は震える事もなく、振り向く事もなくすれ違い様に真っ直ぐ歩く。

 

 





(……風紀委員長の隣にいるあの横乳も同業者かしら)







早くほんへを進めろって?
いやまあそれは本当にその通りで……
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