ゲマトリア所属生徒『西条レイナ』   作:ガガミラノ

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誰の味方

 

 

 

「…………」

 

 

独房で目覚めて、欠けた鏡を見る。

 

 

黒い髪、薄汚れていて少し破れたドレス、髪飾りも何も無い姿、変わらない紅色の目。

 

 

『食事だ』

 

 

何も悪い事はしていないのに。

 

なのに、私はこんな牢獄にいる。

 

 

そして出された食事は、トーストとミルクのみ。

 

 

これを、六年間。

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「……」

 

 

目が覚めると、そこは落ち着いた木の匂いがする部屋。

 

 

 

たまに見る悪夢。

 

 

 

その夢は私の過去を映し出す。

トラウマか、それともPTSDか、罪悪か。

 

だから私は眠りたくないが為に、五日起きても問題ないような身体にした。

 

 

 

先生

 

貴方が私の力になってくれるというなら

 

この夢を、悪夢を、洗い流してくれないかしら。

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「…………おはよ」

 

 

目を擦りながら、私は教室に集まっていた浦和ハナコと阿慈谷ヒフミの方へ歩む。

 

 

「れ、レイナさん!?」

 

「?……ヒフミちゃん、レイナさんに何か変な所でもありました?」

 

 

幽霊を見るような目で私の事を見ている阿慈谷ヒフミに、浦和ハナコは首を傾げた。

 

 

「えっ?えっと、いや、なんでもないです!おはようございます!」

 

 

そういえば昨日の夜に私がいない事に気づいていたんだったか、まあわざわざその事を話すつもりもないらしいしスルーで良いだろう。

 

因みに白洲アズサと下江コハルはいない、また洗いっこしてるのだろうか。

 

 

「おはようございます、レイナさん、あまり眠れなかったんですか?」

 

「ちょっと目覚めが悪くて……あれ、朝ごはんなんだっけ……」

 

「今朝は()()()()()()()()とベーコンですよ」

 

 

トーストとミルクならいらないな、絶対に食べたくない。

 

 

「私、いらない……」

 

 

苦い顔をしながら欠伸をすると、阿慈谷ヒフミは驚いた顔をしていた。

 

 

「いらないんですか?」

 

「トーストとミルクきらい……」

 

「あら、好き嫌いはいけませんよ?」

 

 

うふふ、と子供をあやす様に笑うがそうじゃない、好き嫌いとか、そういうレベルを遥かに超越した問題なのだ。

 

 

「好き嫌いとかじゃなくて、遺伝子レベルできらい……」

 

「そういえばトーストとミルクが嫌いな方って珍しいですよね、どうして嫌いなんですか?」

 

「昔、うんざりするほど食べて、それからトラウマなのよ」

 

 

しかも今朝、夢で出てきたばかりだ、勘弁して欲しい。

 

ため息を吐きながら席に座り、肘をつくと阿慈谷ヒフミが辺りを見渡す。

 

 

「あれ?そういえば今朝から先生を見てませんね」

 

「どうせ寝坊してるんじゃないの、あの人朝弱いし」

 

「そう思って先生の部屋に伺ったんですがいなくて……」

 

 

シャーレで生活していた時、彼は朝に弱かった。

 

私がゆっさゆっさと眠っている彼を起こそうとしても『もう五分』『もう一時間』と項垂れるので、先生が起きた時に渡すコーヒーを()()にしたら起きるようになった記憶がある。

 

しかし部屋にいないのなら寝坊では無さそうだ。

 

 

「…………ちょっと探してくる」

 

 

少し心配だ。

 

 

 

━━━━━

 

 

 

さて、こんな時の為に私は彼に盗聴器を取り付けたのだ、えらいぞわたし、さすがだわたし。

 

 

(反応ナシ、か)

 

 

盗聴器から音がしない、もしや何かの拍子に落ちただろうか、困ったなあ……

 

困ったなー、と適当にぐるぐるとチャンネルを変えていると、音がする盗聴器が一つだけあった。

 

 

(このチャンネルは……)

 

 

確かこのチャンネルはプール掃除の時に落とした盗聴器だ、何処に落としたか全く分からなかったから諦めていたが……

 

 

『ところで合宿の方はどう?皆で楽しい事をしてない?水着でプールパーティーとか!』

 

''……''

 

 

(……聖園ミカ?パテルの代表がプール付近にいるのか?)

 

 

聞こえるのは先生と聖園ミカの声だった。

この際、何故彼女がここにいるのかは置いておいて、私は耳を澄まして音に集中した。

 

 

『……そこまで警戒されるのは心外だなー、私こう見えてと繊細なんだよ?先生もあんまり長い前置きは好きじゃないみたいだし、本題に入るとしよっか』

 

『あ!因みに私がここにいる事について、ナギちゃんは知らないよ?見ての通り私の単独行動!』

 

 

(前置き長いな……)

 

 

しかし、何故彼女がこんな辺境に?トリニティの裏切り者に関する事だろうか。

 

 

『さて、先生……ナギちゃんから取引とか提案されなかった?』

 

''取引?''

 

『例えば『トリニティの裏切り者』を探して欲しいとか』

 

''……''

 

『ふう、やっぱり、ナギちゃんったら予想通りなんだから……何か詳しい情報とかはナシ?ただ探してって言われただけ?』

 

 

まくし立てて質問攻めをする聖園ミカに、先生は一刀両断するように一言。

 

 

''……その提案は、断ったよ''

 

 

……断った?

 

何故だ?何故……何故そんな無意味な事を?

断って何になる、桐藤ナギサから反感を買うだけではないのか』

 

 

『え?なんで?どうして?』

 

 

聖園ミカも素っ頓狂な声をあげて問うと、先生はいつもとは違って、真面目なトーンで答える。

 

 

''それは、私の役目とは違うかなって''

 

 

…………なるほど、黒服が見込んだ理由が少しだけ分かった気がする。

 

この人間はただの軽い人間じゃない、『先生』という肩書きを全うしようと、それなりの信念がある。

マエストロも好きそうなんじゃないだろうか?まだ会った事は無いらしいが。

 

 

『……そっかそっかぁ……確かに先生はシャーレだもんね、トリニティとは関係ないもんね』

 

『確か……レイナちゃんだっけ?あの子もシャーレの所属だったよね、先生はこの事伝えてないの?』

 

 

伝えてないけど知ってまーす、私悪い子だもんねー。

 

 

''レイナは関係ないかな''

 

『伝えてないんだ!?あの子すごく優秀そうだったよ?挨拶も立ち振る舞いも全部完璧!絶対先生の役に立つと思うけどなー』

 

『もしもレイナちゃんがトリニティに入学する、ってなったら絶対パテル分派に誘うくらいにはすごく上品だったよ?』

 

 

 

''あの子をトリニティの問題に巻き込ませたくないかな、って''

 

 

 

…………使える物は使えるうちに使っておくべき、って後で言っておこう。

 

 

『あ、それじゃーさ、先生は誰の味方なの?トリニティの味方じゃないんだとしたら、ゲヘナの味方?連邦生徒会?それとも、誰の味方でもないとか?』

 

 

 

 

''私は、生徒達の味方だよ''

 

 

 

 

そう先生が言うと、やかましかった聖園ミカの声はピタリと止み、沈黙した。

 

しばらくして、聖園ミカが話し始める。

 

 

『……あ、あー……それは予想外だったなー……っていう事は……その、先生は私の味方であるって考えても良いかな?私もこの立場があるとはいえ生徒なんだけど……』

 

''勿論、ミカの味方でもあるよ''

 

『…………わーお……』

 

 

私も、少し意外だ。

 

生徒達という事は、私も含めるのだろうか?私も先生の生徒なのだろうか?

私の味方になってくれるのだろうか?

 

一緒に、歩めるのだろうか?

 

ダメだ、頭がそれでいっぱいになる……忘れないと……

 

 

『……さらっと、凄いこと言うねえ……ちょっと、純粋に嬉しいかも、えへへ……』

 

 

(私だって、先生の目の前で……)

 

(……目の前で……)

 

 

……ダメだ、また良くない方向に思考が進んでいる。

一旦……忘れよう……隙があったらそればかりになってしまう。

 

 

『……それじゃ、私から先生に取引を提案させてもらおうかな』

 

''取引?''

 

『補習授業部の中にいる『裏切り者』が誰か、教えてあげる』

 

 

…………ん?

 

えっ?

知ってんの!?

 

これは予想外だ、まさか聖園ミカがその事についてもう探っていたとは思っていなかった。

 

ただのおてんば娘だと思えば、多少は情報戦が出来るみたいだ、流石パテル分派の代表だ。

 

 

『……ま、実際のところ少し複雑で大きい問題もあるんだけど……このまま先生が振り回されてる姿を見てるってのも、ちょっと申し訳ないなって』

 

 

振り回されてると言われてるものの、よく補習授業部や私に悟られないよう取り繕ったものだ。

案外楽しんでいたのだろうか?……まあ、彼はただ自分の信念の通りに動いただけだろうが。

 

 

『それに先生を補習授業部の担任として招待したのは私だからね、この事は知ってた?』

 

''ミカが……?''

 

『……ま、私の方にも色々あってさ、ナギちゃんにも反対されてたし……』

 

『トリニティでもゲヘナでもない、第三の立場が欲しかったの』

 

 

…………なるほど、これでやっと分かった。

 

聖園ミカはアリウスと何か関係を持っている。

 

そこから裏切り者の情報を知り、先生に伝えたのだろうか。

まあ、調印式の為のアリウスの作戦かもしれないが……

 

 

『……あ、裏切り者のお話だったね』

 

『トリニティの裏切り者、それはね……』

 

『白洲アズサ』

 

 

これも知っていた……というか、ほぼ確定していた情報だ。

あの古代語の使いようといい、Vanitas Vanitatumを知っている事といい、色々とアリウスに関連する要素が多すぎるからな。

 

 

 

 

聖園ミカは白洲アズサの出自に関して軽く話した後、先生が一つ聞いた。

 

 

''この事を私に教える理由は何?''

 

『……ま、あれこれ誤魔化しても仕方ないし端的に言おっか』

 

 

 

『あの子を、守って欲しいの』

 

 

 

━━━━━

 

 

 

その後、聖園ミカはアリウス分校について先生にいくつかの説明をした。

 

アリウスはトリニティの力自慢のターゲットにされた事、今はキヴォトスの何処かに潜んでいる事。

途中で言っていたエデン条約の調印式で果たされる『ETO』は武力同盟……と言っていたがアレは嘘だろう。

ゲヘナとトリニティは腐っても敵対関係にある、今はそんな事をする余裕も無ければ金も時間も、何もかも足りないはずだ。

 

次に話したのは、サントゥス分派のリーダーである『百合園セイア』の事。

百合園セイアは本来入院していた……という情報を聞いたが、それは偽りだったようだ。

 

 

百合園セイアは、ヘイローを破壊された。

 

 

恐らく、というか十中八九アリウスによるテロだろう、まったくこれだからテロリズムというのは嫌いなんだ。

 

 

そして白洲アズサを転校させたのは聖園ミカという事。

 

これは意外な事に、聖園ミカがアリウスとの和解を目的に転校させたようだ。

……まあ、アリウスは和解するつもりは微塵も無いようだが。

 

次に話したのは補習授業部のメンバーの理由。

 

浦和ハナコは元々トリニティ随一の天才だったが……突如落第寸前の状態にまで落ちぶれた。

既にトリニティのいくつかの秘密を得ていたようで、桐藤ナギサのターゲットにされたようだ。

 

下江コハルは統制下に無い正義実現委員会の人質として、備えとして。

 

阿慈谷ヒフミはブラックマーケットなどの怪しい所に行っていたり犯罪組織と絡みがあったみたいだが……まあ、これは何かの間違いだろう。

 

……間違いだよね?

 

 

 

 

という事で、落とした盗聴器からまさかの情報を手に入れられたが……

 

 

(別に、アリウスに協力しろとかって言われてないし、私が知ってもね……)

 

 

こんな情報より、例のカードの情報が欲しかった。

 

 

盗聴器をキャリーケースにしまい、先生を迎えに行こうとすると部屋の中の鏡に私が映る。

 

 

白い髪、綺麗な灰色のドレス、黒いリボン、紅色の目。

 

 

 

 

(私は変わった)

 

 

 

吐息を吐きながら、その場を後にした。






ミカ「先生!今度レイナちゃんにあのリボンのどこで売ってるか聞いてくれるかな?」
''レイナのリボン?''
ミカ「そうそう!あの頭に着けてる黒いリボン!中々見つかんなくてさ、似たようなのはあるけどレイナちゃんの着けてるやつはどこにも無いんだよねー」
''今度聞いてみるね''
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