「……遅かったわね」
少しだけ消毒液の香りがするプール近くの廊下で出待ちをしていると、日差しのせいか汗をかいた先生が現れる。
''レイナ!?どうしてここに……''
「貴方が何処にもいないから探していたの」
''ごめんね、ちょっと用事があって''
申し訳なさそうにする彼に何故か私は優越感を感じ、ふふんと笑う。
「さ、教室に帰りましょう」
''そうだね''
そのまま前の私を歩く、彼の背中は……
(隙だらけ)
━━━━━
教室に戻るとなんだか少しだけ教室が活気に溢れていた、何か良い事でもあったのだろうかお思い、周りを見渡すと……
「第二次模擬試験の結果が出たのね」
黒板に貼られていたのは第二次模擬試験の結果。
阿慈谷ヒフミが私に気づき、小走りで話しかけてきた。
「あ!レイナさん!」
「ごめん、ちょっと先生を探すのに手間取って」
「いえいえ、それで第二次模擬試験をやった結果……」
ハナコ:8点
アズサ:58点
コハル:49点
ヒフミ:64点
「うん、貴方の作戦の成果が確実に現れていると思う」
(浦和ハナコについては置いておいて、この短期間で、しかもこれほど点数を上げられるのは間違いなく努力の賜物ね)
「えへへ……レイナさんが手伝ってくれたおかげです!ありがとうございます!」
にこにこと微笑む彼女に私も喜びつつあると、何かに気づいた阿慈谷ヒフミは気まずそうに私に問う。
「そういえばレイナさん……その、昨日の夜は何処に行ってたんですか?」
そんな彼女に、私は変わらずにこにこと微笑んで言った。
「んー、秘密」
「貴方だって秘密にしておきたい事があるでしょう?」
「…………えっと、なんの事ですかね?」
「ふふっ」
かからないカマをかけたつもりだが、どうやら何か彼女にも秘密があるようだ。
……マジで犯罪組織と絡みがあるの?
ピンポーン。
と、談笑をしているとチャイムが聞こえる。
「し、失礼いたします……!」
「あら、この声は……」
「……今日も平和と安寧が貴方と共にありますように……」
(……シスターフッド?)
玄関に向かうと、修道服を着た礼儀正しそうな生徒がそこにいた。
━━━━━
「どうして、シスターフッドの方がここに……?」
応接室にて、そのシスターを迎えるとシスターは丁寧に経緯を説明した。
「こちらに補習授業部の方々がいらっしゃると聞いて、ハナコさんがここにいらっしゃるとは存じておりませんでしたが……」
浦和ハナコの事を知っているという事は何かしらの面識があるのだろうか。
浦和ハナコはにこり、と曇り無く……それでいてどこか裏のある笑顔で一言。
「……私も、成績が良くないので」
「そう……でしたか」
シスターは気まずそうに納得すると、下江コハルが不思議そうな顔で浦和ハナコに聞いた。
「ハナコ、知り合いなの?」
「少しだけご縁があって、と言いますか……マリーちゃんは私を訪ねて……といった訳では無さそうですね、どういった用事で?」
「はい、本日は白洲アズサさんを訪ねてこちらに参りました、伺ったところここにいらっしゃると聞きまして」
「私?」
「実はアズサさんが助けてくださった方から、感謝を伝えたいとの事でして、こうして代わりに……」
「クラスメイトからいじめを受けていた方がいらっしゃいまして、その日も校舎の裏手に呼び出されたのだと聞きました」
まあ、社会というグループに属しているのならよくある事だろう。
弱者がより弱い弱者をいたぶり、自分を強者だと錯覚させる現象の一つ、実に間抜けで無駄な事だ。
「……まあ、聞かない話ではありませんね、あまり表には出てきにくいですが」
「トリニティのような派閥争いが激しい学園だと顕著みたいね」
「私達もその方から相談を受けてようやく知ったのですが……呼び出された日に偶然通り過ぎたアズサさんが、彼女を助けてくださったとの事で」
「そういえばそんな事もあったな、ただ数に物を言わせて弱い対象を虐げる行為が目障りだっただけだ」
「そしてアズサさんに怒られた方が正義実現委員会と連絡を取られ、どこで情報が歪曲されたかは分かりませんが、正義実現委員会とアズサさんとの間で戦闘に発展してしまったとか……」
と、なんと補習授業部の部員を集めていた時のあの事件の真相がここで明かされる事になった。
「……そうか」
「別に特別感謝される事じゃない、結局私も捕まった訳だし……あの事態は気の毒だけどいつまでも虐げられてるだけじゃダメ」
「それが例え、虚しい事であっても、抵抗し続ける事を止めるべきじゃない」
(……へえ?)
面白い事を言うものだ。
未来に絶望し、虚無に縋った者が「抵抗を諦めるな」なんてセリフを言うとは、思いもしなかった。
……明日は鉛弾でも落ちてくるかな?
「……そうかもしれませんね、その方にも伝えておきます」
「では皆さん、お邪魔いたしました」
''気を付けてね''
てくてく、と学園に戻るシスターを窓から見て……私は欠伸をした。
(…………信心深い、ってのは辛いものね)
━━━━━
田舎の夏の夜というのは涼しいもので、心地の良い風がぴゅうぴゅうと窓から入っては、日差しで熱が籠った肉体を冷やす。
窓の月明かりを見て、息を吸う。
(…………)
何故先生は私をエデン条約の問題に関わらせなかったのか。
先生は私の味方なのか?
先生は、こんな私に味方してくれるのか?
(先生なら、きっと━━━)
ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ。
どうしても先生の言葉が聞きたい。
今、先生に答えを聞きたい。
先生の声が聞きたい。
(…………)
ドアを開ける。
━━━━━
「━━━うふふ、嬉しいです♡深夜の密室に、三人で秘密の遊び……ドキドキが止まりません♡」
「その言い方は……ちょっと……」
夜のヒフミとの密会がハナコにバレ、事情を説明して解散しようか、という時の事だった。
''それじゃあ、そろそろ寝ようか''
そう言って、場を開こうとした時ヒフミが引き止めた。
「……あ、待ってください、そういえばレイナさんについて一つ気になる事が……」
「レイナさんが、ですか?」
「はい、どうやら今朝から上の空みたいで……もしかしたら、この件について何か知ってしまったのかも━━━」
その時、ゆっくりと扉が開く音が聞こえる。
扉を開けた主は……話題にあがっていたレイナだった。
「…………先生」
「……えっ!?レイナさんっ!?」
''れ、レイナ……?''
彼女の異様な雰囲気を察し、少し動揺する。
どこか恐ろしくて、寂しげで、儚い雰囲気。
……初めて会った時に似たような印象だ。
「ねえ、先生」
「聞きたい事があるの、どうしても今聞かないとダメなの」
そう言いながら段々と私に近づき、目の前までレイナは歩み寄った。
''……どうしたの?''
「先生は、私の味方?」
「先生、最近私は色んな事を感じるようになった」
「怖がったり、笑ったり、楽しくなったりするようになった」
少し震えた声で、レイナは語る。
「…………ねえ、先生……先生は私の味方でいてくれる?」
''勿論、私はずっとレイナの味方だよ''
「……ほんと?」
''本当''
にこりと笑うとレイナの恐ろしげな雰囲気は一気に解かれ、レイナもニコニコと笑う。
「…………そっかぁ……そうよね……うん、満足した」
''もしかして、今朝の会話聞こえてた?''
今朝のミカとの会話……迎えに来たレイナに、聞かれていたのかもしれない。
そう聞くと、レイナは苦笑した。
「うん、全部聞こえてた」
''……ごめんね、レイナをこんな事に巻き込んで''
「そんな事より、私を頼ってくれなかったのが苛立ったわ」
''ほんとにごめんね……''
私の謝罪にレイナもそれ以上は追求しない選択をしたらしく、つーん、とした態度を見せていた。
「やっぱりレイナさんにもバレていたみたいですね……」
「そりゃあ私の諜報能力はキヴォトスでもピカイチよ、舐めてもらっちゃ困る」
「レイナさんって先生と会う前は何をしていたんですか?」
ハナコがそう、レイナに問うとレイナはあっかんべーをしながら笑った。
「
「含みのある言い方ですね……」
悪い事がどれ程の事なのか気になるが、とりあえずそれ以上追求するのはやめておこう……
「そういえばレイナさん……結局昨日の夜、何処へ出かけてたんですか?」
「昨日の夜……?」
ハナコが不思議そうな顔をしていると、ヒフミが説明した。
「レイナさん、昨日の夜にどこかへ出かけてて、そのままずっと帰ってこなくって……」
「……えっと……」
レイナは目を逸らしつつ、苦笑いをして言う。
「…………スイーツを、食べに……」
「スイーツをですか!?」
…………夜中にスイーツ!?
「何のスイーツを食べたんですか?」
「ちょ、チョコマカロン……」
ハナコの質問に答えるレイナは顔を紅くしつつ答えた。
一方ハナコは真剣そうな表情で、一言。
「罪ですね、夜中のマカロンは……」
「うるさいうるさいっ、食べたかったんだから仕方ないでしょ!」
レイナが恥ずかしさのあまり、逆上する。
私はそんなレイナの頭をぽんぽんと撫でつつ、皆を諭す。
''今度、皆で行こうね''
「っ……そう、ね……」
レイナは、どこかぎこちなさそうだった。
Q.マリーの爆破イベントは……?
A.レイナが以前犠牲になった為アズサが反省して爆発物を置かなくなりました。
Q.レイナはなんでこんなに動揺してるの?
A.本来多感な時期+色々初めての体験のせいで情緒不安定です、生ぬるい目で見てあげてね
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