洗濯が終わり、いつものドレスに戻る。
とりあえずその日は休息をとる事にし、私は欠伸をしながら自室で休んでいた。
さて、マダムの言っていたカードについて何か情報を得たい……が、こんな田舎でカードを使う場面なんてそうそう無い。
何か良い方法が━━━「レイナ!」
「わっひゃい!?」
デジャヴ。
何故トリニティの人間はいつも扉をノックせず扉を開け、叫ぶんだ!?
「あ……ごめん」
「何!?私に対するドッキリ大会でもしてるの!?」
「ドッキリ……がどうかはよく分からないが、合宿所を皆で抜け出す事になった、レイナも来る?」
「合宿所を抜け出す?」
合宿所を抜け出す……なんて、トリニティの本校にバレたらすごく怒られるんじゃないのだろうか、特に桐藤ナギサ辺りに。
「ハナコの提案でこっそり外に出て散歩をするらしい」
「抜け出す……って、先生はどうするのよ」
「先生もノリノリだった」
「…………あのバカ……」
一番止めなきゃいけない大人がノリノリになってどうするのよ!!
……だが、良いだろう。
もしかしたらカードの情報が得られる………可能性が……多少は……まあ、少なからずあるだろうし。
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「うふふ……♡」
「あはは……き、来ちゃいましたね……」
夜中にも関わらず、商店街はそれなりに繁盛しているようで街頭や店の灯りがついている。
「なるほど、深夜の街はこんな感じなのか……思ったより活気がある」
「そういえばレイナさん、以前深夜にチョコマカロンを食べていたそうですね?」
「え?……ああ、そうだけど……」
実は私、この件に関しては嘘をついていないのである。
アリウスの反乱分子を殲滅した後、私はこの近くにあるスイーツ屋にまで立ち寄り、限定パフェを食べに来た。
……が、限定パフェは来た時には売り切れており、泣く泣くチョコマカロンに変更したのだ。
「良ければそのチョコマカロンを食べに行ったお店を教えて頂いてもいいですか?」
「この先の右にあるけど……」
私達がスイーツの話に花を咲かせていた一方、下江コハルは外に出ていた事を憂いていた。
「うう……こんな所見られたら絶対ハスミ先輩に見られたら怒られる……!」
ハスミ先輩……恐らく下江コハルの上司だろう。
確か正義実現委員会の副委員長で、名前は羽川ハスミ。
そういえば下江コハルは正義実現委員会の人質として補習授業部に加入させていたんだったか。
「あら、ハスミさんは後輩達に優しい方だと聞いていましたが……」
「勿論優しいわよ!文武両道で品もあって凄い先輩なんだから!……でも、怒る時はホントに怖くて……」
''そういえば前に本気で怒るとすごかったって……''
「うん、前に一回あって、私もその場にいたんだけど……」
……
下江コハルの話を聞くと…………実に
もしかしてゲヘナとトリニティの確執の理由って、案外どうでも良い事だったりするのかもしれない。
「……」
「……」
「……」
''……''
(……なんて反応すれば良いの……?)
くだらないが、決してバカに出来ない内容のため皆黙ってしまった。
呆れているというか、困惑が勝っていたのだ。
「それ以来ハスミ先輩ご飯も食べないから心配で……」
「…………まあ、心配ね……」
「でもハスミ先輩は色んな意味で強いから大丈夫!あれからずっと、約束を守って頑張ってるし……!」
うーん……羽川ハスミ、とりあえず後輩にはもっと威厳を見せた方が……いや、下江コハルの様子を見るにちゃんと見せてるのかな……
と、駄べりながら歩いていると目的地のスイーツ屋にたどり着く。
「あ、もしかしてここのスイーツ屋?」
「そうそう、私の行きつけのスイーツ屋、ついでだし食べていこうかしら」
太らないかの心配は無用だ、私は太らない体質だからな。
「確か今、限定パフェを販売しているそうですよね」
「そうそう、前来た時は無かったから、今日こそは食べたいものね……」
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「いらっしゃいませ、6名様でしょうか?ご注文をどうぞ」
店員が丁寧にお辞儀をする。
店の雰囲気は以前来た時と変わらず、高級感漂う雰囲気の良い場所だった。
「えっと……限定パフェってまだある?」
狙いはもちろん限定パフェ。
夜中にとはいえ、今日こそは買えるだろう。
「申し訳ございません、限定パフェは先程別のお客様が三つ購入されたのが最後で……」
そうか……三つ……
…………三つ!?!?
「……三つって、アレ結構ボリュームあるわよね?」
驚愕しながら阿慈谷ヒフミの方を向くと、阿慈谷ヒフミも驚いた表情をしていた。
「はい、でっかいフルーツが山盛りで……」
と、説明していた途中━━━背後から先生を呼ぶ声が聞こえる
「……せ、先生?」
''ハスミ!?''
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「は、ハスミ先輩!?」
…………先生を呼んだのは、正義実現委員会の制服を着た生徒……羽川ハスミだった。
そして、テーブルには平らげられた限定パフェの跡。
「あ、ああああああ……!」
「ぱ、パフェ……限定パフェ……」
「み、皆さん……」
「ハスミさん、奇遇ですね♡ダイエット中だと伺いましたが?」
「こ、これはですね……その……」
顔が真っ青になりつつ、なんとか言い繕おうとする羽川ハスミ……より、私は平らげられたパフェの方に目線が行った。
「心中お察しいたします、真夜中に襲ってきた悪しき欲望に導かれ、ここまで来たんですよね?そうして欲望のままめちゃくちゃにしてしまった後、取り返しのつかなくなった頃には乱れて……」
限定パフェ。
今日が最終日、もう手に入らない。
「…………」
「レイナさんが絶句してる……」
''夜中ってお腹が空くよね''
と、慌てていた様子の羽川ハスミも先生の言葉でようやく落ち着きを取り戻したようで……
「先生……その、自分の事を棚上げするようですが、皆さんは合宿中の外出が禁じられていたはずでは……いえ、ここはお互いに見なかった事にするとしましょうか」
懸命だろう……でもパフェ三つはダメだと思う、ホントに。
「は、ハスミ先輩……」
ショックを受けたような顔で、彼女の名前を呟く下江コハル。
「コハル、お勉強は頑張っていますか?」
「あ、えっと、それはその……」
上司のあられもない姿を見てショックを受けていた下江コハルは言葉を上手く紡げなかった。
''コハルは最近、成績がすごく上がってるよね''
「は、はい!そうです!コハルちゃんはこのままいけば全然合格出来るぐらい、頑張っていて……」
(パフェ……)
「なるほど、そうでしたか……それは何よりです、やっぱり、コハルはやれば出来るじゃないですか」
「えへへっ……は、ハスミ先輩の期待を裏切りたくないですから」
「引き続き応援していますよ、コハル、一緒に任務を遂行出来る日を心待ちにしていますから」
「はい、頑張ります……!」
(……限定パフェ……)
''レイナ、目線が……''
私は涙目になりつつ、限定パフェがもう存在しない事を憂いる事しか出来なかった。
「そういえば先生の隣にいるその方はどなたですか?補習授業部の方では無さそうですが……」
「……」
''レイナ、聞かれてるよ''
「……パフェ………………はっ!」
先生から呼ばれてようやく正気を取り戻す。
「こほん……えっと、西条レイナ……です、シャーレに所属して……ます」
「シャーレに……?連邦生徒会の方ですか?」
「いいえ、まあ、その辺りの事情は置いておいて……」
その時、テーブルの上にあった羽川ハスミのスマホがバイブで揺れる。
「……?こんな時間に連絡?」
羽川ハスミはスマホを手に取り、耳に当てた。
「はい、イチカ、どうかしましたか?」
「……問題?詳しく聞かせていただけますか?」
━━━━━
「……美食研究会?」
羽川ハスミは確かにそう呟いた。
美食研究会。
ゲヘナのテロリスト。
神出鬼没、食があるのから何処にでも現れる。
そこにあるのは学園間を超えた食に対するこだわり。
キヴォトスではかなり悪名高い部活動だ。
正直関わりたくない。
そして、羽川ハスミがスマホを切った所で……外から爆発音が聞こえた。
「近いな」
「1km以内ってとこね」
恐らく、羽川ハスミが言っていた美食研究会が暴れているのだろう。
「……皆さん、突然の事ですみませんが皆さんの力が必要です、お願いできますでしょうか?」
「エデン条約を目前にトリニティとゲヘナの衝突と捉えられてしまうと、状況が不利になる事は想像に難くありません」
「つまり、シャーレと補習授業部で解決する構図が政治的に望ましいって事ね」
「はい、お願い出来ないでしょうか……?」
政治というのは常に面倒なものだ、武力にものを言わせれば良いのではないのか?
まあ、そういう部分を解消するべくシャーレが生まれたのかもしれないが。
''任せて''
先生はサムズアップをして、自信満々で言う。
「ありがとうございます、私も先生達のサポートをさせて頂きますので宜しくお願いします」
''よし、それじゃあ補習授業部一同出発''
と、先生が宣言したところで下江コハルはたじたじになりつつ状況を飲み込もうとしていた。
「あ、わ、私達も……?先生と、ハスミ先輩と一緒に?」
「……いつかこうして肩を並べる日が来ると思っていましたが……想像より早かったですね、コハル」
羽川ハスミが下江コハルに優しく語りかけると、下江コハルはぱぁ、と明るい表情になって言った。
「は、はい!頑張ります!」
「……パフェ……」
因みに私はパフェがもう無い事を未だに悲観していた。
''それじゃ、安全第一で行くよ!''
━━━━━
「前方30m先に敵部隊」
屈みつつ、小走りで目標の敵部隊の近くにまで近づく。
何やら大きな金色の……マグロ?を抱えているようで……
「間違い無くゲヘナの美食研究会です、先生、指揮をお願いします」
通信機越しに、先生が指揮を始めた。
''アズサとレイナが先鋒で、コハルは二人の援護をしつつグレネードで敵の殲滅をお願い''
''ハナコは回復に専念、ヒフミはデコイで敵の撹乱、ハスミは狙撃でサポートを''
「了解」
実に名采配で、的確な指示と言えるだろう。
この分野において先生に勝るものはゲマトリアを含め、誰もいないかもしれない。
(……そういえば先生の指揮下に入るのは久しぶりね、しかも先鋒の戦闘だと初めて……かしら)
と、ぼーっとしていると白洲アズサが私の隣に立ち、声をかけた。
「行くぞ、レイナ」
「ええ、任せて」
━━━━━
「うーん……やはり段々と囲まれているみたいですね?」
トリニティの正義実現委員会の先鋒部隊を撤退に追い込み、マグロを持って脱出を謀ろうとしていた美食研究会は走りながら自分達の状況を理解し始めた。
「……あら?」
すると、アカリは急に立ち止まる。
「アカリ、どうかしたの?」
「…………前からまたトリニティの方が来たようですね」
「えー!?またー!?」
イズミの悲痛な叫びを聞き、ハルナはため息を吐きながら状況を憂いた。
「仕方ありません、突破しましょ━━━」
「うわーっ!?!?」
と、ハルナが話していた途中……弾丸がジュンコの顔を掠めた。
「狙撃!?奥の方から……!」
「……どうやら今度来た方はかなりの手馴れのようですね」
ハルナが真剣な表情で銃を前方に向ける。
その目線の先には、二人の生徒。
「…………銀髪と赤い髪のは私が、貴方は残りの二人をお願い」
「マグロはどうする?」
「マグロは……ああ、ダメだ、もう食べる寸前にまで調理されてる」
「なら容赦は必要ないな」
二人は目の前に立ち塞がり、銃口を向けた。
「……あら?失礼ですが、右の可愛らしいリボンを付けた方はトリニティの方じゃなさそうですね」
「えーっと……シャーレです、正義実現委員会から依頼されてテロリストの鎮圧をしに来ました」
「シャーレ!?しかもテロリストって言われてるよ!?」
「あら、失敬ですね、テロリストではなく美食研究会ですよ?」
にこ、と愛想良くハルナが笑うとレイナは呆れた顔で答える。
「他学園にまで来て施設を襲う事をテロって言うのよ」
「空崎ヒナと同じ事言ってるし!」
痺れを切らしそうな白洲アズサがトリガーに指をかけながら、小声でレイナに聞いた。
「……レイナ、撃っていい?」
「まだ待って」
しかしレイナは白洲アズサを止めて、会話に勤しむ。
「……それに、こんな時間にマグロなんか食べると太っちゃうわよ?」
「その点は問題ありません、美食研究会にはアカリさんがいますので」
「大した信頼ね」
「そこのシャーレの生徒さんも、良かったら一緒に食べますか?」
「うーん、今日のところは遠慮しておくわ」
けらけらと笑うレイナを見て、白洲アズサは再び声をかけた。
「レイナ」
「まだ」
しかし、レイナはまだ止める。
「そうですか、残念です……では、やりましょうか?」
銃を構え、やり合う姿勢を見せた美食研究会。
「そうね」
と、レイナが話した瞬間━━━
「ふんぎゃ!?」
と、再び狙撃がジュンコを襲う。
「今!!」
「待ってた」
それと同時に、二人は畳み掛けるように美食研究会に向かって距離を詰め始めた。
VS.美食研究会
マグロ!マグロ!マグロ!
パフェ!パフェ!パフェ!
食の恨みは恐ろしいものだ。
だがまともな人間なら、明日、明後日、明明後日には恨みを忘れているだろう……敵が美食研究会じゃない限り。
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