時代に逆らってナギサと先生をバチらせるのはちょっと心が痛みます
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ヒナが言っていた「レイナに気をつけて」という言葉は未だに私の心のモヤとして残っている。
今の彼女はまるで私の事を助けてくれたヒーローそのもので、間違いなく信頼出来る生徒だったからだ。
「……なに?ジロジロ見て」
''レイナは優しいね''
「…………ふーーーん、そう……」
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先生は私の望む言葉を言ってくれる。
私の事を大切に想ってくれる。
だから、だから━━━
「絶対、私の事を離さないでね?」
今はその感覚に酔いしれてやろう。
アクセルを思い切り回す。
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「し、試験会場はここ……?」
「そうみたいですね……お疲れ様です……」
「二人とも無事みたいですね♡」
「2時45分、何とか開始時間前に着いたか……流石に疲れた」
試験会場に辿り着いた四人は息を切らしながら落ち合った。
しかし、ある二人が来ていない事に気づいたコハルは周りをキョロキョロと見回した。
「あれ、先生達は!?」
そう叫ぶと同時に、アズサが何かを察した顔で呟いた。
「……来る」
その時、バイクが勢いよくコハルの前に止まった。
「わぁっ!?」
「うん、間に合ったみたいね」
''よ、良かった……''
バイクに乗っていたのは、平然とした顔のレイナとレイナの運転に腰を抜かした先生だった。
「……あれ?美食研究会は?」
「なんか車が川にダイブしてた」
「……」
呆れた顔でレイナは何も言わず、溜息を吐く。
「それより試験の場所ってここよね?」
「はい、この建物で間違いなさそうです」
(爆発なんか起こったら一撃で倒壊しそうねぇ……)
薄暗くてボロボロで、硝煙と青臭いカビの匂いがする場所は、間違いなく指定された試験会場だった。
「どうしてこんなところで……試験用紙とかどうなるんでしょうか、誰かいるんですかね……?」
「いや、誰もいなさそうだ、でも何かしらの手段はあるはず」
「……これね」
レイナが榴弾砲の砲弾を見つけ、皆に見せる。
「爆薬と雷管が取り除かれた榴弾砲弾、型番からティーパーティーの物ね、そして中身に……試験用紙」
「こっちは通信機か」
「恐らく試験説明用の物ね」
そのまま砲弾を解体すると、一枚の紙と通信機が中に入っていた。
通信機の電源を入れると、一人の生徒がビジョンに映し出される。
『これを見ているという事は、無事に到着されたようですね』
「な、ナギサ様!?」
''ナギサ……!''
「桐藤ナギサ……」
現れたのはティーパーティーの現ホスト、桐藤ナギサだった。
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最近、紅茶が苦手になった気がする。
トリニティはお嬢様学校だ。
どこもかしこも「ごきげんよう」と、他者の心を試すかの如く仮面を被って嘲笑い、そしてその仮面には必ずセットで紅茶がある。
そして最近、私もその仮面を被る羽目になった。
ティーパーティーと先生の会合だとか、聖園ミカに呼び出されてお茶会をする事になった時とか。
私はああいう空間は好きではない、堅苦しいのは嫌いだ。
結局聖園ミカとの会合の時は仮面を途中で外してしまったし、どうも私は感情的になる節がある。
そうか、だからマダムは紅茶を飲む癖をつけさせたのかもしれない。
一杯飲んで落ち着く、そんな習慣を付けさせる為に。
ティーパーティーの空気とかそういうのはあんまり好きじゃない。
特に桐藤ナギサは。
蒸し暑さにうんざりしつつ、欠伸をする。
今、補修授業部は廃墟の中で律儀に試験を受けている。
試験?……部外者の私に試験用紙を用意されているはずが無いでしょうに。
「……眠い……」
廃墟の壁を背に、座り込んで私は考えた。
いつのまにか、私は先生と共にキヴォトスを駆け回っているのが日常になってしまった。
書類仕事を手伝って、コーヒーを注いで、たまに治安維持の為に戦って、ゲーム開発部と一緒にゲームをしたり、補修授業部に勉強を教えたり……
私の中では、今までに感じた事の無い感情が渦巻いている。
でも、私の本分は違う。
私の本分は、来る色彩の侵略に備える事。
崇高を現実に引き寄せる事。
だからいつしかこの日常は失われる。
どうすればこの日常を続けられるだろうか?
どうすれば先生を傍に置ける?
どうすれば……
その時、地面が揺れた。
爆風が髪を揺らし、黒い爆煙が舞い、火薬の臭いが漂い、耳を劈く炸裂音が鳴り響く。
眠気に襲われていた意識は火薬の臭いで叩き起こされ、周りを見渡した。
皆が試験を受けていた廃墟は炎と土煙を出しながら崩れかけており、何者かによって試験会場が爆破された事は明白だった。
「嘘……っ!?」
普段の私なら、爆発が起こる前に察知出来たはずだ。
私の悪い癖だ。
眠気と考え事をする時は周りをシャットアウトする癖のせいで、それらを察知出来なかった。
補修授業部は━━━いや、それより……
それよりマズイのは、先生だ。
「先生!!」
廃墟の瓦礫を押し退けて、土煙が舞う廃墟の中に入る。
「う、うう……」
「阿慈谷さん、大丈夫!?」
「大丈夫です……」
廃墟の中は酷い有様で、炎や煙のせいで辺りがよく見えなかった。
入口近くの床に倒れている阿慈谷ヒフミの手を引っ張りながら、私は叫んだ。
「先生は!?」
''何とか大丈夫だよ……''
「なんでこの爆発でっ……!無事なのよ……!」
四つん這いになりながら這っている煤まみれの先生を見つけて、私は
何故この爆発で無事だったのか、という思考は後に回そう。
今はこの倒壊寸前の建物から脱出するのが先だ。
「試験用紙が……っ!跡形もなく吹っ飛ばされた……!」
「なるほどなるほど、ここまでやるという事ですね……!面白くなってきたではありませんか、うふふっ♡」
「このままここにいるのは危険だ、離れるぞ」
残る三人も無事な様子で、溜息を吐く。
「無事で良かった」
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爆発の規模は中規模、廃墟の建物が一発で倒壊しなかったのは文字通り
しかし、あの時桐藤ナギサが含みのある言い方をしていたが……まさかこういう事だったとは。
聖園ミカといい、桐藤ナギサといい、どうしてこうもティーパーティーは陰謀が好きなのか。
因みに試験については全員不合格だった、何がなんでも退学にさせたいのだろう。
帰りは最悪の空気になりながら、皆ベッドですぐに眠った。
私も爆発が起こる前まで眠かったし、さっさと眠ろうと思った。
だがあの時の先生が何故無事だったか、それが気になって眠れない。
そりゃあヘイローを持つ人間なら私も気にならない。
ヘイローを持つ人間はあらゆる銃火器を食らっても「痛い!」で済む。
爆弾、打撃、毒ガスなど……攻撃に対する耐性は異常とも言えるほどの硬さだ。
でも先生は違う。
彼はキヴォトスの外から来た人間だ、銃弾は致命傷、爆発をまともに食らえば即死。
脆い。
だが、彼はあの爆発を生き残った。
運が良かった、と言われればそれまでだが……
だが、「運が良かった」で済ませるなら私はゲマトリアに入ってはいない。
「運が良かった」のなら理由があるはずだ。
そもそも何故あの一度目の爆発で廃墟が倒壊しなかった?
私の見立てだと、一度目の爆発で建物は崩れるはずだった。
でも、そうはならなかった。
陰謀論じみているかもしれないが、こうも考えられるだろう。
先生が因果を曲げて、建物を崩れさせなかったら?
……何の根拠も無い、ただの推測に過ぎない━━━いや、推測ですらない。
だが、私はこれを思いついた時思った。
彼ならやりかねない、と。
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楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事は出来るのか。
これは一種のパラドックスと言えるだろう。
楽園、エデン。
楽園から出ていく事があるのならそれは楽園ではない。
ではどうすれば証明出来るのか?
箱の中の猫が生きているか死んでいるかは、開けるまでは分からないように。
全能の神が、自分では持てない程の大きさの石を作れるのかどうか分からないように。
この古則も、一種のパラドックスなのだ。
だが、一つだけ……一つだけ証明する方法がある。
箱を開けば分かるように。
自分が全能の神なれば分かるように。
自分自身がエデンに辿り着けば良い。
『楽園に辿り着きし者』になれば、この真実は証明出来る。
違うか?黒服。
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二次試験の翌日。
補修授業部の生徒達は皆知恵を絞って、どうすれば退学にならずに済むか考えている。
だが、どれだけ知恵を振り絞っても……一週間以内に3倍以上の範囲で90点以上を取るなんて不可能だ。
何がなんでも退学にさせて、トリニティの裏切り者を排除させるつもりなのだろう。
「レイナさん!」
「ん、どうしたの、阿慈谷さん」
廊下の窓辺で黄昏ている私を見て、阿慈谷ヒフミが私に声をかけた。
「その、今日は休む事になりまして……」
「……そうね、今はそれが一番だと思う」
一週間で範囲の3倍の90点以上を取れ、と言われても出来ないだろう。
でも取れなければ退学になる。
政治とは醜いものだ。
「あの!レイナさんなら……こういう時、どうしますか?」
「私?」
阿慈谷ヒフミが頷く。
私はうんうん唸りながら考えて……答えた。
「……そう、ね……」
「私一人だけなら、諦める」
「あ、諦めちゃうんですか……?」
「私一人なら、ね」
「……ここにいる皆と一緒なら、なんとか頑張ってみようかな……って思うかも」
「……!」
「だから、最後まで……」
『諦めないで』
その言葉が言えない。
喉奥に引っかかる。
どうしてだろうか、何故か言ってはいけない気がする。
…………そもそもだ。
そもそも、私は━━━
「……大丈夫ですか?」
「えっ?」
「すごく顔色が悪いですよ……?」
心配そうな顔をする阿慈谷ヒフミの顔を見て、私はハッとした。
首筋が冷たくなるような、嫌な感覚。
なんとかそれを押し込んで、私は空元気を出した。
「最近、色々あったから少し疲れてるのかも」
「一応ハナコさんや先生に……」
「大丈夫、気にしないで」
ニコリと笑う私と、心配そうに見つめる阿慈谷ヒフミ。
窓の外の夕焼けを見て私は呟いた。
「……一週間後、ね」
「そうですね……」
来週、結果が良くても悪くても全てが決まる。
この生活とおサラバできる。
なのに、何故だか冷や汗が止まらなかった。
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あれから、皆は血の滲む努力を重ねた。
夜遅くまで勉強し、模試を繰り返し、90点を取れるように頑張って……
そして、三次試験前日━━━
「ついに、明日ですね……」
「う、うん……」
少し不安そうな顔をしたヒフミは、モモフレンズの枕を抱き締めながらそう呟く。
「今のところは試験範囲も3倍のままで90点が合格ライン、場所はトリニティ第19分館の第32教室、そこまで遠くはない場所ですし午前9時という所も変わっていません」
「……昨日から本館が不自然に静かな事以外、何もおかしくないな」
以前の試験会場がゲヘナだった事を考えると、随分と良心的と言えるだろう。
……今のナギサなら、試験開始直前に場所を変えたりしてもおかしくはないかもしれないが……
とりあえず、今は彼女達を信じよう。
今の補習授業部なら、きっと合格出来るはずだ。
「あれ?そういえばレイナさんは?」
「そういえばお風呂をあがった時から見かけていないな」
''レイナなら郊外の方に用事があるって言って出て行ったけど……''
「……郊外に?」
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色々あった。
そう、本当に……色々、あった。
アリウスで生活していた時とは全く違う生き方で、友達と勉強をしたりプール掃除をしたり……洗いっこはアリウスでもよくあったっけ。
最後の学力試験は明日だ。
……だが、その前に……
私は、やるべき事をしなければならない。
「……」
深夜の二時、音を立てずに起き上がってドアノブにゆっくり手をかける。
廊下に出て、周りを見渡す。
何もいないし、監視カメラも無い。
そのまま小走りで玄関口へ向かい、外へ出た時━━━
「こんばんは」
「……っ!?」
彼女はそこにいた。
コハル「れ、レイナさんの服……」
レイナ「ん」
コハル「その……寒くないの?」
レイナ「あんまり」
コハル「だって戦う時も肩出しワンピースを着てるわよね?冬の時とか風邪引きそうだけど……」
レイナ「その為にこのスーツジャケットがあるのよ」
コハル「……しけぇッ!」
レイナ「ええっ」
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