「黒服」
「おや、マエストロ……」
暗い闇の中。
一人の黒い服を着た怪人と、木の人形は合間見る。
「何故レイナをシャーレの先生の元に送った?」
「と、言いますと」
木の人形は黒い怪人の目の前まで距離を詰めて、静かな怒りを顕にした。
「レイナは我々の研究、芸術……それらを理解出来る唯一の生徒だった」
「ええ、神秘の研究は彼女の助力が無くしては成し得ないでしょう」
「究極の神秘を凡夫にするつもりなのか?」
口調こそ落ち着き払っているが、木の人形は確かに怒っていた。
長年の研究の成果、知識をある少女に継承させていた木の人形はその継承させた知識を凡庸にさせる事を許さない。
だから木の人形は黒い怪人に怒りを向けていた。
「私の芸術が気に入らなかったのか?」
その言葉には「お前は私の芸術を否定するのか」という意味を含めていた。
しかし、そんな明らかに怒りを示していた木の人形を見て黒い怪人は冷静に、丁寧に述べた。
「いいえ、寧ろ逆かと」
「逆?」
「経験ですよ、レイナは崇高に最も近い者……学問、力、芸術……あらゆる分野において我々と肩を並べていると言ってもいいでしょう」
「しかし彼女は若い……あまりにも若すぎる、それ故に経験が足りない」
「だからシャーレの先生の元に送り込んだのか?」
「それもありますが、もう一つ……」
「彼女には、非情になって貰いたいのです」
「来るべき、黙示録の為にも……」
「云わば
「彼女は今、失っていた人間性を取り戻しつつあります、過去の出来事から立ち直る為には飴が必要ですからね」
一枚の紙を机の上に置く。
ある少女のデータ書類だ。
「その為のアクションとして、シャーレの先生に協力して貰いました」
「何故人間性の破壊する必要が?」
その言葉を聞いて困惑した木の人形の様子を見て、黒い怪人は笑った。
「マエストロ」
「ゲマトリアのメンバーの条件は、崇高を追い求める事です」
「崇高は人間性のある人間には理解出来ない、だからこそ……」
「彼女には、全てを失ってもらう必要があるのですよ」
「全て……そう、繋がりを」
━━━━━
発砲音、爆発音、閃光、爆煙。
体育館は瞬く間に戦場と化した。
アリウスの生徒達とサオリは絶え間無く私達に攻撃を仕掛けて、ミカがその援護をする。
「あははっ!この物量だと天下のシャーレも流石に不利なんじゃないかな?」
「うう……ちょっと不利じゃない……?」
「いくら先生の指揮があるとは言えど、この物量では……」
確かに、不利だった。
このままだとジリ貧。
正義実現委員会も来ない、援護の望みは薄い……
だがここで諦めてしまえば、キヴォトスは大混乱に陥る。
それだけは回避しなければならない。
「レイナちゃんもいないですしこのままだと本当に負けて━━━」
「ああ、お前達は負ける」
サオリの冷たい一言が空気を凍りつかせる。
「……サオリ、レイナは何処だ」
サオリは嘲笑う訳でも無く、怒る訳でも無く、淡々と述べた。
「ああ、あの八咫烏か……私を巻き込んで自爆した、今頃中庭で眠っているはずだ」
「っ……!」
「嘘、自爆っ……!?」
その言葉に私は我を忘れて、サオリを襲おうとした……が、何とか堪えて深呼吸をする。
「はぁ……はぁ……っ……!」
「……いい加減悟れ、この世界は無意味だという事を」
「
違う。
サオリも忘れられていない。
私も、サオリも、ミサキも、ヒヨリも、姫も……
あの思い出は忘れられないはずだ。
だって━━━
「だって……サオリはあの子に強くて優しいって言われたから、リーダーになったから」
「……なんだと?」
「あの子を忘れられなかったから、ここに来た……あの子と一番仲良くしていた私のヘイローを壊して、自分の心を殺す為に」
「黙れッ!!!!」
ドガンッ!
その時、ミカの背後にある壁が壊され、土煙が舞う。
「もー、なにー!?体育館の修繕費もタダじゃないんだよー!」
その時、何者かが土煙を払い……その姿が現れた。
「大丈夫、貴方が払う必要は無いから」
「貴方にはこれから牢獄に入ってもらうもの」
そして、その者は……傷だらけのレイナだった。
''レイナ!''
「れ、レイナちゃん!?すごい血まみれじゃん!?」
「八咫烏……!」
サオリは強い殺気を放ちながらレイナを睨みつける。
どうやらあの傷は二人の戦いによるものだったらしい。
「血の気が引いてるわよ、そんなに私が目覚めたのがありえない事かしら?」
「それに、私カラスは嫌いなの……西条レイナって呼んでもらえる?」
「……何度でも痛めつけてやる」
ケラケラと笑うレイナと、レイナを睨むサオリ。
そんな二人の睨み合いに一石を投じたのは、ハナコだった。
「レイナちゃん、傷が……!」
心配そうに包帯を持ってくるハナコをレイナは止めた。
「治療してる場合じゃないでしょう?今は目の前の連中をどうにかするのが先」
「でも、そんな傷で戦ったら……」
「戦える……いや、戦わせて」
「……」
狂気とも言えるその微笑みに、先生は彼女を止める術は無いと察してレイナに一言かけた。
''レイナ、本当に大丈夫なんだね?''
「ええ、大丈夫……信じて」
『信じて』……その言葉は今まで謀略、策略、陰謀に揉まれた先生や私達を納得させるには十分過ぎた言葉だった。
''無理は禁物だからね''
「……そうですよ、絶対に皆無事で終わらせて……ナギサ様を、トリニティを守るんです!」
「……ふふ、そうね」
レイナのその微笑みは、純粋な眼だった。
「さあ、反撃開始よ」
━━━━━
私はこの数ヶ月の間に随分人間らしくなったと思う。
これも黒服の考えのうちだろうか、それとも……
でも、戦いへの渇望は未だ潤わない。
そして私の瞳に映るのは、作られた憎悪から復讐を求める者。
そして目の前にはケラケラと笑いながらアリウスの援護をする聖園ミカがいる。
やはり彼女が黒幕だったようだ。
「やっほ!レイナちゃん!」
天真爛漫そうに見えるその瞳には、確かな狂気を含んでいた。
昔の私のように……
「チェスで勝てないからって、暴力に出る事は無いのに」
けらけらと、彼女のように揶揄って笑うと彼女も笑った。
「もー!違うよ!……うん、さっきも言ったけど、私はただゲヘナをこの世から消したいだけなの」
恐ろしい目だ。
天真爛漫そうに振舞っているが、その心は真っ黒な憎しみ。
こういうのが一番厄介なのよ。
「私は政治の事なんか一ミリも興味無いからどうでも良いのだけれど……でも、先生がそれを許さないのなら私も許さない」
……この言い方じゃ、まるで私が先生に付き従っているみたいじゃないか?
まあ、事実だから仕方ないけど。
「あーあ、怪我人を痛めつけたくないんだけどな━━━」
…………睨み合い。
戦場である体育館が一瞬だけ静かになった。
一秒、いや五秒か?
時間はともかく一触即発だ、誰かが動けば途端に炎が舞う。
聖園ミカと私、二人の距離であるこの5mの間合いを制したのは……
「ッ!」
最初に動いたのは聖園ミカだった。
「やっぱりまず傷ついた奴を倒すのが先だよねっ☆」
「何!?」
私の懐にとんでもない速度で入り込んだッ!?
もう既に私の懐に入り込んでいる!
しかも、気絶させる為に銃では無く拳で━━━
「えいっ☆」
「っ!?」
何とか自前の反射神経で私の顔面が奴の拳を一寸避ける。
顔にぶわあ、と突風が巻き起こり……冷や汗が流れた。
すんでのところで避けたから問題は無かった……が。
(こんな満身創痍の時にあんなの食らったら間違いなくノックアウト……!)
「まだまだいっくよぉ〜!」
「わわっ、ちょ━━━」
次の拳が来るッ……!
「えい!」
右フック!
「やぁ!」
ジャブ!
「ッ……ちぃ!」
何とか数々の棍棒のような打撃を避けた私はカウンターの如く、聖園ミカの脇腹に強烈なタイキックをぶつけた。
しかし、ズタボロの私のキックがフィジカルお化けに通じるはずも無く……
「やっぱり怪我してるとあんまり強くないよね〜」
当然、ダメ……!
ニコニコと笑うその顔には
聖園ミカの言動はふざけているように見えるが、その力はふざけているどころか殺意さえ感じる力。
(この至近距離で
屈辱だ。
だが、同時にチャンスがあるとするなら至近距離以外に無いだろう。
次のカウンターで決めなければ、私の体力が持たない!
しかし、その時だった。
「レイナちゃんっ!」
聞き馴染みのある、安心感のある声が聞こえた。
それと同時に、銃弾が飛ぶ音。
「阿慈谷ヒフミ!」
「っ……いったいなあ……」
「ご、ごめんなさいミカ様っ……!」
その時、一瞬の隙が見えた。
阿慈谷ヒフミが聖園ミカを撃った事により、聖園ミカは阿慈谷ヒフミの方へ一瞬目移り。
しかし阿慈谷ヒフミはそのままアリウス生徒の対処に追われて逃げた……
そう、戦いに慣れていないお嬢様だからこその隙。
その隙は許さない。
片手に魔改造されたコルトパイソン*1。
もう片手にはデザートイーグル。
そして、両手に持った拳銃を聖園ミカの腹に押し当てた!
「っ!?」
「油断大敵……っ!」
私は力の限り、銃を連射をする!
何度も撃ち続けて……弾は空になる。
それでも私は撃つのをやめず、かち、かち、かち、と三回鳴らせた……が、四回目は鳴らなかった。
ある意味狂信的に、私は信じた。
これで眠ってくれる。
頼む、倒れてくれ。
必死の連射に、息を切らした私は……奴の顔を見上げた。
「いったいって、もうッ!」
見上げた結果……聖園ミカの睨む顔が。
同時に左脚に彼女による銃撃を食らう。
「ぐっ……!?」
メキメキと骨が崩れる音。
骨が筋肉を裂く音。
血がぶわりと溢れる音。
''レイナ!!''
「いっっ……」
立ち上がれない。
足がぐちゃぐちゃに折れた、動けない。
立ち上がれない、立ち上がれない……
「もう終わり?」
「……」
跪く。
息を吸って、吐いてを繰り返して血に赤色を取り戻そうとする。
でも、流れるのは黒色の血。
意識が薄くなっていく。
「それもそうだよね!そんな傷だらけなのに私に勝てるわけないもんね!」
「……」
けらけらと笑う音が聞こえる。
その時、跪く私の傍に聖園ミカも屈む。
「……前から思ってたけど、このリボン……何処にも売ってなくてさ」
「まあその辺に売ってある物でも作れそうなんだけどさ……やっぱりこの質感が良いじゃんね?」
「……何を……」
「このリボン、貰ってもいいかな」
「…………」
私の髪飾りに、手を伸ばされた。
リボン。
リボン……リボン……
「……リボン」
「そっ!」
「……」
それは、私の大切なモノ。
命より、何よりも大切なモノ。
それが、このままだと奪われる。
よく考えてみれば、私は何故ここまで打ちのめされているのだ。
聖園ミカに対して至近距離を挑んだから?違う。
錠前サオリと自爆したから?違う。
単独行動をしたから?違う。
白洲アズサがアリウスの裏切り者だったから?違う。
私が弱いから?………………
違う。
そんなハズない。
答えは、分からないけど━━━━
「……触るな……!」
伸ばされた手を、掴む。
「へえ?まだ戦えるの?」
「あたしの、大切なモノに……」
「触るなッッッッ!!!!」
心の底から、憎悪と力が湧いてくる。
Q.先生の指揮は?
A.モブアリウス生徒側を対処してます、レイナVSミカはアビドス3章のヒナvsホシノみたいなアレだと思って頂ければ……
あと、描写的にノイズになるかなー、と思って書いてないです、ゴメンネ
Q.アズサVSサオリは?
A.2000文字くらい書きましたが、エデン条約3章で書く事が無くなりそうだったのでカットしました
高評価と!!感想お願いしますぅ!!!!