それがキヴォトスの将来になる為と強く信じて。
西条レイナ
回顧録
物心がついた頃には私はある孤児院にいた。
その孤児院は酷い場所で成長して考えてみれば金持ちが税対策の為に作ったんだろうな、と思うくらい酷くて杜撰な場所だ。
でも抜け出すヤツがいるといけないからそういう所だけ厳しい。
何がヒドイって周りとの関わりを持つ機会が滅多に無かったのだ。
基本的に監獄から抜け出す事は許されていない、外に出る事も無い。
外に触れる機会があるのは鉄格子の外にあった『外』と一ヶ月に一度支給される『絵本』だけ。
今の私を作り上げたのはこの絵本によるものが大きいだろう。
……とは言っても、何の絵本を読んでいたかは思い出せないしこの絵本自体も所々破れていたりと酷いものだったが。
まあ、前述した通り刑務所や矯正局のような場所で私は幼少期を過ごしたと認識してもらっておこうか。
私はそんな場所にいた、およそ六年間。
成長して絵本ではなくもっと高度な本が支給されるようになって私はこの孤児院に名前をつけた。
『工場』
ありきたりというか、平凡な名前だと思っただろう?
これでも当時の私は知恵を絞ったんだ、何せ本物の工場すら私にとっては遠いものだったから……
とにかく私はこの『工場』でただただ時間を消費していた、いつか抜け出そうとは思ったけど……私にはそれをする為の知恵も知識も力も無かった。
しかしいつしか転機は訪れるものだ。
突如施設が炎上……火災が起きたのだ!
火災の原因は今でも分からない、杜撰な管理体制のせいか、それとも暴動が起きたのか。
工場は六階建て(だったような気がする)私は二階にいたから比較的簡単に脱出出来た。
結果孤児院はそのまま潰れた、何人か負傷者もいたらしい。
私は少しだけ服が焦げただけで済んだ。
こうして私は『工場』から抜け出した。
しかし……ここからは困難の連続だった。
七歳の身寄りのない少女に『現実』はあまりにも大き過ぎたのだ。
絵本の世界のように空想に溢れているわけでもなく、ただ利益と夢がぐちゃぐちゃに中途半端に混ぜられた空間……それが現実。
私は困惑した、どうやって生きていけばいいのか、どうすれば希望を見出だせるのか……
私は困惑した、何をもって未来を生き抜けばいいのか、どうすればこの苦難を乗り越えればいいのか……
私は困惑した、この時の私を思い出す度に心の中に空いた隙間があって……何か違和感を感じたから。
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私は生きる為に何でもした。
脅して、傷つけて、奪って……今思えば野蛮でしかない。
でもそれしか無かった、現実は空想とは真反対で何かを得る為には他人から奪うしかないから。
そうした生活は半年間続いた。
惨めでどうしようもないほど絶望しかない。
…………ある日、私は美術館の前にいた。
特に理由も無かった、確かその時はカラスと戯れていた。
幼い頃の私は何故か動物と仲良く出来る……属性のようなものがあった。
まあ動物は子供の純白さを見抜くらしいから、そういうものなのだろう。
そうして私がカラスと戯れていた時、背後から木が軋む音がしたのを覚えている。
不自然に思った私が振り向くとそこにはスーツを着たデッサン人形のような『何か』がいた。
「ここに子供が来るのは珍しい」
そんなセリフを吐いて、私をただ見つめていた。
驚かなかった。
当時の私は押し寄せて来る『現実』にまだ不慣れで、これもまた『現実』の一種なのだろうと思った。
「美術館には入らないのか?」
首を横に振ってお金が無いことを伝えるとデッサン人形は提案した。
「ふむ……では、この硬貨を其方に与えよう」
手のひらに数枚の硬貨。
「行ってきて、何の絵画が一番良かったか感想が欲しい」
デッサン人形はそう言ってベンチに腰掛けた。
その瞳(瞳は無かったが)は期待とも言える眼差しを向けていたような気がする。
デッサン人形のおかげで私は美術館に生まれて初めて入って、色々な物を見た。
よく分からないもの、直感的に綺麗なものだと分かるもの、不愉快に感じるもの、最早芸術作品と言っていいのか分からないもの。
新鮮で心を奪われた、冷たいばかりだった『現実』が少し暖かくなった気がして仕方ない。
美術館に私は閉館時間になるまでいて、そして私がデッサン人形のいるベンチに戻ってきた時彼はまだいた。
「随分と長く入り浸ったな、答えは出たのか?」
私は少しの間をあけて、答えがまだ見つからない、と伝えるとデッサン人形はカタカタと笑う。
「なるほど、其方は私が思っていたよりも感性が深いらしい」
デッサン人形の表情は動かなかったが喜んでいたのだ。
「其方の名前を聞きたい、其方なら良い作品になってくれるだろう」
私は自分の名前だけ知っていた。
何故かは分からないが、知っていたのだ。
「では、レイナ」
「このまま今の暮らしを続けるか……それとも、私と共に来るか?」
デッサン人形が私の目を見つめて問う。
答えは明白だ。
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そういった経緯から私はほんの一、二ヶ月の間、デッサン人形……もとい『
美術や芸術に関する事は勿論、基礎的な言語学や数学知識についても教えてもらった。
マエストロは私と関わるにつれて私の事を気に入っていくようになったらしく、まるで私は絵本に出てくる『お姫様』になったようだった。
そして一、二ヶ月経った頃、マエストロのアトリエで色々な人が出入りするようになった。
黒いスーツを着た者、トレンチコートを着た肖像画を持つ者、赤い肌をした女。(この女は一度しか来なかった)
黒いスーツを着た者と肖像画はマエストロの芸術作品を褒め讃え、トレンチコートを着た者は『そういうこった!』とわけのわからない事を言い、女は少し歯切りの悪そうな感想を言った。
そのうちの黒いスーツを着た者……『黒服』は私にも関心を示した。
「マエストロ、貴方が生徒を引き連れているというのは以前から聞いていましたが……まさかこんな幼い少女だとは」
「いや、彼女は私に様々なインスピレーションを与えてくれる、今の私のアトリエには欠かせない存在だ」
黒服は私と交流を重ねて、やがて黒服も私に色々な事を教えてくれるようになった。
後に黒服に何故私に物事を教えてくれるようになったか聞くと『貴方は甘え上手だった』と答えた。
もう一人、トレンチコートを着た者と肖像画……ゴルゴンダとデカルコマニーはあまり私と交流をしなかったが、私に多少の好意的な対応をしていた。
しかし当時の私には彼らの話(話していたのは肖像画だけだったが)は高度過ぎてよく分からなかった……というのが実情だ。
最後にもう一人、赤い肌をした女。
ベアトリーチェと名乗るその女は私に対して敵対的な対応をした。
「あのような幼い少女がこのアトリエにいるのは芸術に対する冒涜では?」
しかしそのような敵対的な対応はマエストロの怒りを買い、マダムは段々と私に対して温和的な対応をしていった。
そしてその結果、私はアトリエに次いである場所で暮らす事になった。
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アリウス自治区という地域は都会の騒音やアトリエの窮屈な空間とは全く違った場所だった。
いや、ある意味都会とは似ていただろう、あそこは暗いしよく分からない何かがいたから。
さて、マエストロのアトリエからベアトリーチェの支配するアリウスにやって来たのは二つの理由があった。
一つはマエストロのアトリエが暫く出入り出来なくなった事。
もう一つは黒服やベアトリーチェが私の『戦う為の技能』を見出そうとしたから。
しかしマエストロは私を自身の後継者か、またはそれ以上の
(呑気である)
当時の私はマエストロや黒服達が何かしらのグループを形成しているという事は幼い私でもなんとなく分かっていた。
しかしなんと言ってもアリウスは自然が多い土地で、マダムの過酷な統治下にあったから静かだった!
心の赴くままに歩き、見て、そして現実によって荒んだ心を癒した。
一つの目的である『戦う為の技能を見出す』はいとも容易く達成された。
というのも私には天性の戦う才能があったのだ。
アリウスで行われる略奪行為や火事場泥棒をする愚かな犯罪者を殲滅し、マダムに対して敵対的な行動を取ろうとする者を容赦なく打ち倒していく。
おかげでアリウスはマダムに従順な連中で染め上げられ、マダムの支配は盤石となった。
七歳の幼女に支えられるマダムの支配と聞くと、今思っても少し失笑してしまう。
それと、この時からだろうか、初めて友人が出来たのは。
スバルとマイアという友人が私にはいた。
彼女達と出会ったのは秋の季節の事だった。
旧アリウスの庭園で紅葉をスケッチしていた私はハーモニカの音が聞こえた。
「っ……すみません、もう二度と弾かないので……どうか許してください」
ハーモニカを弾く少女……悌スバルを見つけた私は涙目で嘆願した。
しかし私はマダムの事があまり好きではなかった為、スバル達の事を秘密にした。
何より、彼女の音色は素晴らしかったのだ。
そうして私はスバルと仲良くなった。
スバルは……いや、当時のアリウスでは内戦直後の混乱の中の為、あまり他者との交流が盛んではなかった。
というのも明日食べる物すら満足に得られない状況の学園で、友人や他者との交流をする余裕は無かったのだ。
そして一人、立木マイア。
彼女は私より一つ年下の幼い少女で、よく私やスバルを頼っていた。
マイアと出会ったのも確か私と同じような理由だった。
スバルが弾いていたハーモニカに釣られてやって来て、仲良くなった。
マイアは少し気弱な少女で、少し引っ込み思案なところがあった。
だがそこをカバーするかの如く、スバルの年長者としての才能が光った。
そんな生活は三年続いた。
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ある日、私はマダムに呼び出された。
謁見の間(アリウスの生徒間ではそのように呼ばれていた)には呼び出したマダムだけではなく黒服やマエストロがいた。
「レイナ───」
「貴方にとって、崇高とは何ですか?」
そう問われた。
ワケが分からなかった。
でも混乱と同時に私は察した。
「私にとっての崇高はこのキヴォトスです」
その言葉を聞くと、彼らは皆納得の表情を浮かべた。
そして私は彼らにアリウスを離れる事、そして私をゲマトリアのメンバーとして招待する事を伝えられた。
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アリウスを離れて三日ほど経った頃、黒服の研究所で私はある実験を行われる事となった。
十歳の時の事だった。
『恐怖』を自分の神秘に適応させる実験。
神秘とはその生徒のエネルギーのようなもので、これがなければヘイローは割れて死んでしまうらしい。
というか、神秘はヘイローそのものなのだそうだ、ヘイローが割れた時それは死を意味すると言うがそういうカラクリがある……らしい。
一方恐怖は負のエネルギーで、このエネルギーを持つヘイロー……生徒はいないらしい。
らしいらしい、と何度も言ってるのはまだ神秘や恐怖に関する事は私達でもよく分かっていないから、今回の実験はそれを解明する為の実験。
実験は長期に及んだ。
黒服の実験器具で私は自分のヘイロー(黒服達は見えるらしい)に恐怖を埋め込み、やがて神秘と恐怖の両方を持つ二面的な存在に昇華させる。
そういった実験が行われる。
痛みは意外にもあまり無かった。
黒服は述べた。
「代償はありますが、貴方には無い」
この言葉の意味はよく分かっていない。
そういえばこの恐怖の素はどこから手に入ったのだろうか?
後に分かった事だが、神秘や恐怖は無から生み出す訳ではなくちゃんとした素材が必要らしい。
この素材については私は教わっていないが、意外と簡単に手に入ったりするのだろうか。
そして二年後。
ようやくここで皆の知る西条レイナが生まれた……というワケである。
恐怖の適応を成し遂げた私はゲマトリアの面々から絶賛された。
この時にそれぞれプレゼントとして黒服からは黒いスーツ、マエストロからは靴を、ベアトリーチェからは灰色のドレスを、ゴルゴンダとデカルコマニーからは武器を。
それぞれ今も使っている、私にとっての欠かせないものだ。
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さて、そんなこんなで今の私がいるワケだ。
齢16にして回顧録を書いてしまったが、まあ何か筆を走らせたかったのだ……
ああ!そうだ!
あと一つ、忘れていたことがあった!
アキラだ!
…………まあ、彼女は確か今指名手配犯で矯正局にいるのだったか。
彼が脱獄した後、また再びこの回顧録の続きを書くことになるかもしれない。
そういえばこの回顧録を書く上で私の古い日記を参照しようと思ったのだが、何故か9歳から古いのが見つからなかった。
まあ7歳の頃の日記なんて、字が汚くて読めたものじゃないだろうし良いだろう。
では、一度私は筆を置こうと思う。
……やはり、過去の事を思い出すと心が少し空虚になるような、心の隙間があるような……
因みに近況を話しておくと、近いうちに廃墟で名も無き神々の王女を探しに行くつもりだ。
黒服からの提案で再び調査に行くことになった。
……とはいっても、あのキーをどうにかしなければ入れないというのに、無駄なことを。
ユナのif外伝いる?
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いぃらないですねぇ……
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欲しい