私には妹がいる。
トシは一つ下のやんちゃでお転婆気質な子。
よく一人で走り回ったり、私の為に本を盗んできたり。
そのくせ病弱気質で、よく風邪や流行り病にうなされている。
私とは反対の黒髪で私の事をすごく大切に思ってくれている、そんな私も妹の事を大切に思っている。
『工場』の事件から六ヶ月。
私達は苦悩の日々を送っていた。
「お姉ちゃん、はい」
「また盗んできたの?」
「仕方ないでしょ、お金なんか持ってないんだから」
そう悪態をつきながら妹は笑った。
ブラックマーケットのある路地裏で私達は過ごしている。
小学生くらいの年頃の私達では働いたりしてお金を稼ぐことは出来なくて、出来ることは……
「次はどこ強盗する?」
強盗、窃盗、万引き。
あらゆる犯罪行為で私達は生き長らえる事が出来ていた。
本当は絶対にやってはダメだ。
妹にはこんな事に手を染めて欲しくなかった。
汚れるのは私だけで良かったのに。
「あたしはあそこがいいな、参道にあるあの大きな銀行」
「…………次からは私が一人でやるから」
「お姉ちゃん銃撃つの下手くそじゃん」
「でも」
「それに、私だけ明るいところにいても嬉しくない」
「……ごめん」
「お姉ちゃんは優しいけど不器用だからね」
私はあまり器用な方ではない。
銃の狙いは下手くそで、糸を編んだりする事も出来なくて、折り紙も出来ない。
一方妹の方はは器用で、スリや銃撃など何でも出来た。
何もかも真反対なのに、私達は共にこの『現実』から生き残っていた。
「そういえば明日は美術館の方だっけ」
「うん、そうだね」
「いつかあの美術館に行きたいね」
「……無理だよ、お金も無いし」
「諦めちゃダメだよ、いつか連れて行ってあげるから」
『諦めないで』
口癖のそれは、妹に口酸っぱく言っている。
諦めたら何も出来なくなる、少なくとも諦めるより前に進む方がまだマシだろう。
「またそんな事言って」
妹がそう言って、懐から何か取り出して書き始める。
「……何してるの?」
「日記、って言うらしい、毎日の出来事書いてるの」
━━━━━
次の日。
いつものように私達は物を奪って、美術館の前でパンを分け合って食べていた時のことだった。
「今日は風が強いね」
突風が吹き荒れる中、私達はブラックマーケットの近くにある美術館で暇を潰していた。
妹は絵画や芸術に興味があるようで、行きたい行きたいと言っている。
しかし、私達にそんな余裕は無い。
眠れば明日の現実がやってくる。
私達は現実に立ち向かって、未来を迎え撃つ。
それがやっとなのだ。
助けは無い。
「お姉ちゃん見てみて、カラス」
「こら、また病気になるよ」
「良いもん」
私が未来に憂いていると、妹は呑気にカラスと遊んでいる。
「私にその特技があったら、サーカスでお金稼ぎが出来るのに」
「無理だよ、お姉ちゃんがゾウから落っこちて大怪我するのが目に見えてる」
「ぐぬぬ」
妹がカラスを羽ばたかせると、カラスの羽が一枚落ちる。
「じゃあ行こうか、お姉ちゃ───」
その時、妹の背後にいつの間にか『人形』が現れた。
「ここに子供が来るのは珍しい」
「っ!?」
「っ……!」
私と妹はすぐにその人形に銃口を向ける。
私達は『現実』に解き放たれてから半年が経ったが、コイツは異常だ。
「敵意を向けたつもりはなかったのだが」
「敵意を向けたら撃ち抜く」
「おやおや、恐ろしい」
銃口を向けられているというのに、人形は飄々としている。
「美術館には入らないのか?」
「そんなお金無いもの、私達は浮浪者よ」
「ふむ」
人形がカタカタと音を鳴らしながら、私達に一歩。
「近づかないで!!」
「勘違いするな」
人形は手のひらを私達に向ける。
手のひらには、硬貨が数枚。
「行ってきたまえ」
「…………どういうつもり?」
現実で私達は幾度と無く騙された。
だからそれを警戒するのは当然であり、そして私達は軽はずみに信用をしなかった。
「芸術は誰にでも手を差し伸べられるべきだ……但し、戻ってきて何の絵画が一番良かったか感想が欲しい」
見るからに胡散臭い。
何か裏があるに違いない。
「そんな誘いに乗るわけ───「お姉ちゃん」
断ろうとした時、妹は私を止めた。
「あたし、行きたい」
妹は目を輝かせて、私を見上げる。
「ダメ、何度も騙されてきたでしょ」
「でもこんな機会二度と無い」
「…………」
確かに、言われてみればそうだ。
もうこんな機会来ないのかもしれない、明日も生きている可能性は分からない。
「感想さえくれれば、見返りを求めないと約束しよう」
「っ……」
こうなれば答えは決まってしまった。
私は慎重にその男の手のひらに手を近づけて、硬貨を取った。
人形は硬貨を受け取った事を確認すると、ベンチに座り一言。
「其方達の良い経験となる事を祈っている」
━━━━━
「お姉ちゃん、見てアレ───」
妹が指を指したのは、白い彫刻。
……
「貴方にはまだ早いわよ」
「ふがふがふが」
妹の目を手で覆いながら、私は少し安堵した。
何とか美術館に入り、私達は少し寒い美術館内を歩き回る事が許された。
あの人形は私達を追いかけもせず、ただただお金を渡しただけだ。
「私には芸術とか絵画は分からないわね」
ただ色のついた四角や三角の単純な絵や、真反対に細部まで描き込まれた絵……色々な絵がある。
しかし、どれも私にはピンと来ない。
「あたしも意味は分からないけど、熱意や愛は伝わるなあ」
「熱意や愛?」
「どんな絵画や彫刻にもその作品に込めた情熱や愛がある、あたしにはそれが伝わってくる」
私には理解出来ない。
この細部まで凝った絵はともかく、この四角や三角だけの絵も情熱があるのだろうか?
きっと妹は芸術肌なのだろう。
「素敵なんだよ、どれも」
「貴方が良いのなら、私はそれで良いけど……」
「あっ、あっちはステンドグラスだって」
妹が指した先は「ステンドグラス」と書かれた看板。
「すてん……?」
「ステンドグラス、知らないの?ガラスに色とかついてて、色んな柄を楽しむの」
「それも絵本から?」
「いや、たまたまブラックマーケットにステンドグラスのお店があったから知ってたの」
となるとブラックマーケットの粗悪な物より素晴らしい作品が見られるのだろう。
妹が良いのなら、それで良い。
「はあ、これは……」
「素敵でしょう?」
ステンドグラスのコーナーに着くと、色とりどりな絵柄のガラスがある。
人を描いたステンドグラス、物を描いたステンドグラス、何を描いてるのか分からないステンドグラス……
「お姉ちゃんには分からないかも」
「そう?損してるねお姉ちゃん」
「うるさい」
しかし、このステンドグラスが光を通したらまた変わるのだろうか。
……少し想像出来ない、見た事無いし……
「お客様、そろそろ閉館時間です」
「もう!?時間が経つのは早いねー」
「そうね」
妹が笑う姿が今の私にとってのかけがえのない生き甲斐だろう。
これが無くなるくらいなら、私は何の為に生きる事が出来ようか。
ふと、脳裏にあの人形が思い浮かぶ。
確か、感想を言いに行くのが約束。
昼に出会っても不気味だったあの人形……日が落ちている今出会うともっと不気味なのだろうか。
幽霊嫌いの妹が卒倒しないといいのだが。
━━━━━
「随分と入り浸ったようだな」
人形はまだベンチに座っていた。
その姿は少し不気味で、しかも街灯に照らされているせいで不気味さが増している。
「良い作品はあったか?」
少しおどろおどろしい雰囲気が場の空気を染めた。
私は少し震えた、やっぱり見に行くんじゃなかった……と。
でも、答える事が約束。
声を振り絞って、答えようとした時。
「私は───「その座り方、『
妹は震えていなかった。
それどころか、真っ直ぐとした目を向けて真っ向から人形に話しかけた。
「ふむ、収穫はあったと」
人形はカタカタと音を立てる。
私は妹の手を強く握った。
「あの作品はあたしも見ました、なんというか……すごく……」
しかし、妹は言葉が上手く出なかった。
そりゃそうだ、私達は絵本以外に知識を得る機会が無かったのだから。
「今の其方では作品の良さが語れないか」
「……ごめんなさい」
「それが一番良かった作品か?」
「いいえ、違います」
「では、どの作品だ?」
「あの作品の中にはありません」
人形は妹の答えを聞くと、カタカタとまた音を立てた。
「……其方はどうだ?」
「あ、あたしは……よく分かりませんでした」
妹は怖じける事なく答えたのだ。
私も答えなければ、姉としての資格は無い。
「…………なるほと、それが其方達の答えか」
カタカタと音を立てて、人形は考える。
妹はただ手を強く握り締めた。
私も握り返した。
「ふむ、そう来るか……」
「では、私達はこれで───「あそこにある博物館の作品は全て贋作だ」
その場を去ろうとして背中を向けた時、人形は語る。
「がんさく……?」
「他者によって描かれた偽物を贋作と言う、あそこの博物館の絵や彫刻は全て偽物だ」
そんな言葉を聞いた時、私は彼が求めた感想の意味を察した。
「私達を試したんですか?」
「いや、ただ其方達はどう観るか気になっただけだ」
勝手にお金を渡して、勝手に感想を求めて、やる事が私達を試したとは……少し勝手すぎやしないだろうか?
「……約束は果たしました、私達はこれで」
「待て」
「なんですか!?もう良いでしょう!?」
多少の怒りを感じつつ私達が去ろうとした時、また人形は私達を止めた。
「良ければ、私のアトリエに招待しよう」
人形は聞き慣れない言葉を発した。
「アトリエ?」
妹がそう聞き返すと、人形は答えた。
「芸術を描く場所だ、絵画、彫刻……ありとあらゆる私の芸術作品が生み出されている」
なるほど、この人形は
しかしこの人形はどこからどう見ても怪しい。
アトリエに連れ込まれて、また閉じ込められるような事があれば私は妹の為に
それだけは、ダメだ。
……でも、妹は違う。
「……あたしは興味ある」
真っ直ぐと暗闇でも分かるほど澄んだ目で、人形を見つめていた。
「何言ってるの!?そんなの危ないに決まってる!」
「でも、今のままだったらまた素敵な芸術に触れる機会が無くなる……本物の芸術だって見られてない!」
人形は私達の口論を聞き、立ち上がった。
「ふむ……では、其方達に一切の危害を加えない事を約束しよう」
「そんな言葉だけの約束、信じられるわけ……!」
「違う、これは『契約』だ」
「其方達は私のアトリエで芸術を磨く代わりに私は其方達に芸術を教え、そして一切危害を加えない」
「…………」
「契約を厳守するのが
妹の芸術に対する熱意はこの人形から出会う前から知っていた。
私は妹の為なら命だって投げ出せる……その覚悟で炎を散らしたのだ。
だから、私は妹の為にも………………
「お姉ちゃん、あたしは行きたい……お姉ちゃんはどうする?」
「私……は……」
掠れた声で答えを示した。
人形はカタカタと音を鳴らし、妹も決心した顔をする。
「ふむ……では、着いてくると良い」
人形は私達に背中を向け、歩き出そうとした時。
「……いや、その前に聞き忘れていたな」
「其方達の名はなんと言う?」
私は少しの沈黙の後、答えた。
「……西条
妹もハッキリとした声で答えた。
「西条
人形「因みにあの絵画のタイトルは『おうざ』ではなく『ぎょくざ』だ」
感想とかくれるとクソ嬉しい!!
ユナのif外伝いる?
-
いぃらないですねぇ……
-
欲しい