ゲマトリア所属生徒『西条レイナ』   作:ガガミラノ

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……だが手は動く

 

 

 

 あたしには姉がいる。

 トシは一つ上の謙虚で慎重なヤツ。

 よく一人で本を読んでいたり、あたしの為に風邪薬を盗んできたり。

 そのくせ不器用で、よく転んだり弾丸を落っことしたりする。

 あたしとは反対の白髪であたしの事を大切に思ってくれている、そんなあたしもお姉ちゃんの事を大切に思っている。

 

 お姉ちゃんの特徴と言えば、やはり髪飾りの黒いリボンと紅い目だろう。

 髪飾りとして着けている黒いリボンはお姉ちゃんのお気に入りで肌身離さず着けている。

 

 

 アリウスでの生活から三年。

 あたし達は当時の人生で至福の時を過ごしていた。

 

 ……苦難はあったが。

 

 

「げほっ、げほっ……あー、この病弱体質さえなかったらなー」

 

「仕方ないじゃない、そういう体質なんだから」

 

 

 あたしは昔から病弱だった。

 よく風邪をひき、よく熱に魘された。

 黒服達でもよく分からないらしい。

 

 段々と病弱体質は酷くなって、病は長引くようになっていっている。

 

 少し怖い。

 

 

「…………もしもあたしが病弱じゃなかったら、どうなってたと思う?」

 

「私の手に負えないほど元気でやんちゃだった」

 

「あはは、そうかも」

 

 

 笑い声と咳。

 

 

 ━━━━━

 

 

 あたしの姉はトシを重ねるにつれて『お姉ちゃん』らしくなっていった。

 

 

「レイナ!そっちはどうだった?」

 

 

 お姉ちゃんの声だけが廃墟に響く。

 硝煙とカビ、ホコリが混ざったような臭いが鼻を埋め尽くすが、あたしにはもうその臭いは日常と化していた。

 

 

「終わり、二年前と比べて随分人が減ったね」

 

「そりゃ三年も救援無しに反乱を続けられるほど精強じゃないでしょ」

 

 

 アリウスの反乱組織は段々と規模が小さくなり、最近ではもう数人規模の反乱……いや、反乱と呼べない程の規模になっていた。

 もしも反乱が無くなったらあたし達もついに暇人(ニート)かー、と思っていたがそれはそれでスバルやマイア達と遊んだり芸術に打ち込めるから良いのかな。

 

 

「そういえば貴方が書いてた我流戦闘教本、マダムが持ってったわよ」

 

「はァ!?」

 

 

 なんという事だ!あたしの芸術とも言える技術が盗まれた!?

 冗談も程々にして欲しい、いくら衣食住を提供しているからといってプライベートに干渉はないで欲しいものだ!

 

 

「私が書いたものだと思って絶賛してた、良かったわね」

 

「アイツきらーい!勝手に持っていくとかありえないでしょ!」

 

「まあ、そういう人だから……でも実際アリウスの生徒達はすぐに貴方の教本の知識を吸収して応用してたのよね」

 

「アレ、まだ途中だったのに……!」

 

「本当に戦いは強いんだからこのままアリウスで戦闘教官でもしたらどう?」

 

虚無主義(ニヒリズム)と心中したくないもん」

 

「同感、レイナは簡単に物事を諦めちゃダメだよ」

 

 

 アリウスは段々とベアトリーチェの教えに染まっていった。

 

 

 

『Vanitas Vanitatum Et Omnia Vanitas』

 

 

 この言葉はアリウスを象徴する言葉となり、やがてアリウスは『虚無主義』を象徴する学園になってしまった。

 

 因みにあたしはポルタパシスにある本をよく読んでいたから、つい『Et』を付けない方を読んでしまう癖がある……まあ、たかが『Et』が抜けたくらいで誰も文句は言わないのだが。

 

 

「そういえばお姉ちゃんの友達……えっと、茶髪の人」

 

「ミサキの事?」

 

「そうそう、あの子クマが好きなの?」

 

「本人は隠したがってるけど、そうみたい」

 

 

 お姉ちゃんの友達は確か五人いる。

 少しだけ顔を合わせたくらいで、話もした事ないけど皆良い子らしい。

 

 その中でも『ミサキ』という子はクマが好きらしく、よく一人でボロボロの人形クマを持って抱き締めていたりするのを見る。

 

 

「これ落としてたよ?すごくボロボロだったから裁縫して直しておいたけど……怒られるかな?」

 

「器用ねえ……多分すごく喜ぶと思う、でも私が本人に直接渡すと恥ずかしくなって逃げそうね」

 

 

 一昨日だったか、彼女が空き地でこの人形を落としたのを見た。

 あまりにもボロボロだったので勝手に直してしまった、怒られないといいのだが。

 

 

「じゃああたしが適当に渡しとくよ、多分それなら問題ないでしょ」

 

「…………あ、マダムには秘密にしておいてあげてね」

 

「そりゃあ、まあ当然でしょ……」

 

 

 

 

 ━━━━━

 

 

 

 あたしの姉には口癖がある。

 

『諦めないで』とか『投げ出すな』とか。

 とにかく諦める事を嫌っていた。

 どうしてそんな口癖があるの?と聞くと姉はこう答えた。

 

 

 

「貴方が諦めると私はどうすればいいか分からなくなるから」

 

 

 

 姉はそんな口癖があるから、アリウスの考えをあまり好んでいなかった。

 

『虚しい、全てはただ虚しいだけ』

 

 内心、姉はこの考えを心底嫌っているだろう。

 あたしも同感だ、全てを諦めた先にあるものは敗北だけだ。

 

 全てが虚しいのなら、あたしは何の為にここにいるのか。

 

 

 運命か、それとも時代の流れとでも言うのか?

 

 

 

 

 

 

 ある日の事だった。

 

 

 あたしはベアトリーチェに呼ばれて『謁見の間』にやって来た。

 

 因みに嫌いだからわざと遅れた。

 

 

 

 

 

「ごめんごめん、遅れた」

 

「時間くらい守りなさい、当然の常識ですよ」

 

「はあ、肝に銘じておきます」

 

 

 吐きそうになるため息を抑えて、姉の隣に並ぶ。

 

 

「こら、レイナ!」

 

 

 あたしは聞こえない振りをして ベアトリーチェからも姉からも目を逸らす。

 ベアトリーチェは少し咳払いをして、言った。

 

 

「まあ、いいでしょう……今日は貴方達が待ち望んだ日です」

 

 

 そんなベアトリーチェの言葉にあたしは歓喜した。

 

 

「ついにアトリエに戻れるの!?」

 

 

 アトリエといえば、三年前にあたしが数ヶ月だけいた場所だ。

 ただひたすらに芸術に打ち込み、好きなようにモノを描けた時。

 

 スバルやマイア達がいる今も楽しいが、それでも芸術はあたしにとって大切なモノだった。

 

 

 ……しかし、ベアトリーチェの答えは少し違った。

 

 

「ええ、選択次第では戻れます」

 

 

 マダムが言った言葉は『選択』だった。

 

 

「……選択?」

 

 

 背後から冷たい、不気味な気配と声。

 

 

「ええ、至極簡単な問題です」

 

「うわあ!黒服いたの!?」

 

「クックック……今日は貴方達にとって大切な日ですから当然です」

 

「だからその大切な日って何なの?」

 

 

 何か嫌な予感がする。

 お姉ちゃんは言う。

 

 

「待って……そうなるとマエストロやゴルゴンダ達もいるんですよね?」

 

「そういうこった!」

 

「久しぶりですね、ユナ、レイナ」

 

 

 続いてゴルゴンダとデカルコマニーも現れた。

 

 

「……」

 

 

 そして、木の軋む音が聞こえる。

 マエストロは何故か気まずそうに、沈黙していた。

 

 

「また何かの試験ですか」

 

 

 お姉ちゃんは何かを察したように言う……少し顔が青ざめているような気がする。

 

 

「そうです、貴方達の運命を揺るがす試験と言えるでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイナ、ユナ」

 

 

 

 

 

 

貴方達にとっての崇高とは何ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェの声が響く。

 

 

 ……崇高?

 

 

 崇高……気高くて……何か凄いモノ?

 

 

「どういう事ですか」

 

 

 お姉ちゃんの疑問や困惑の混ざった声。

 ゴルゴンダとデカルコマニーは少し唸りつつ、マダムに言った。

 

 

「マダム、少し端折り過ぎでは?」

 

「そうでしょうか?これくらい理解出来なければ崇高には辿り着けないと思いますが」

 

「え、えっと……」

 

「ふむ、普段のように噛み砕いで伝えましょうか」

 

 

 黒服が意味を話そうとした時、マエストロがそれを止めて代わりに話し始めた。

 

 

「其方達にとって、最も大切なものは何だ?」

 

 

 その言葉を聞くと、彼らの真意の一部が分かったような気がした。

 

 

「力か、金か、それとも命か、何でもいい、自分にとって欠かせないものを教えてくれ」

 

 

 あたし達は少し戸惑いつつも、少し思考した。

 

 これが『試練』だというのなら、彼らを納得させなければならない。

 生半可な答えはダメだ。

 

 

「…………あたしは……」

 

 

 だが、あたしの答えは決まっている───

 

 

「私にとって、欠かせないもの……」

 

「お姉ちゃん……?」

 

 

 しかし私が言葉を話す前に、お姉ちゃんは呟いた。

 

 

「はい、あります、私の一番大切なもの」

 

「いつも気にかけていて、私の命よりも大切なものが、一つだけ」

 

 

 恐ろしささえ感じる、お姉ちゃんの決心した表情。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の大切なもの、それは───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いた時。

 

 ベアトリーチェは少し怪訝な顔をして。

 

 黒服は納得の表情をして。

 

 ゴルゴンダとデカルコマニーは笑い。

 

 マエストロは沈黙していた。

 

 そしてあたしは───

 

 

 

 

 ……あたしは……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━

 

 

 

「貴方らしくありませんね、マエストロ」

 

「長い間、一つの芸術品を手にかけていると情が移るものだ」




━━━西条レイナ
黒髪の少女。
病弱気味で、よく風邪をひいたり熱に魘されたりする。
しかしそんな事を気にする事ないぞ、という程にヤンチャでよく姉を困らせている。
戦いの強さも強く趣味で戦闘教本を作るほどには戦いを好んでいる……というより、動き回る事を好む。
マエストロと出会ってから芸術を愛するようになり、絵などの美術作品を作るようになった。


一人称はあたし。








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ユナのif外伝いる?

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