ゲマトリア所属生徒『西条レイナ』   作:ガガミラノ

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巨匠の友人は変人ばかりだ

 

 

 

 アトリエでの生活から一ヶ月。

 私達は人形……もとい『マエストロ(巨匠)』の下で美術、勉学について学んでいた。

 

 そして(ユナ)があまり最初は積極的では無かったが絵を描くにつれて段々と芸術について楽しみ始めた頃の話。

 

 

「お姉ちゃん、次は何作ってるの?」

 

「マエストロの書斎から借りた本の中に、面白そうな物があってそれを描いてる」

 

「……なんか不気味、バケモンじゃん」

 

「色とりどりで描いてて楽しい」

 

 

 本を見ながら描くものの名前は知らない。

 様々な色があり、そしてその中心部には黒い光のような何かが。

 

 そんな絵は何処か私の芸術心をくすぐり、こうして筆を滑らせていた。

 

 

「貴方は何を描いてるの?」

 

「あたしはカラス」

 

「また?もの好きね」

 

「可愛いもん」

 

 

 妹と私の芸術性は真反対だ。

 私は色とりどりで、豊かな色合いの芸術を。

 妹は単調且つ白黒で、細かい線のある芸術を。

 

 しかしお互い決して否定したりはしない。

 そういう環境下で育っているから。

 

 

「マエストロは?」

 

「またお友達の所じゃない?」

 

「最近そればっかりだね」

 

 

 マエストロはたまにいなくなる。

 本人曰く『友人の元で話し合いをしている』と言っているが……少し怪しい。

 一ヶ月経ったとはいえ、彼は普通とは違う何かだ。

 妹に危害を加えさせないように見張らなければ。

 

 

「戻った」

 

「おかえり、マエストロ」

 

 

 因みに言うと、私達とマエストロはかなりフランクな仲にまで進んだ……進んでしまったと言った方が良いか。

 私達はマエストロと気楽に呼び、マエストロもまたレイナ、ユナと気楽に呼ぶ。

 

 

「今日は私の友人を連れてきた」

 

「友人?」

 

「……」

 

 

『友人』という言葉に警戒した私はマエストロを睨んだ。

 

 

「安心しろ、其方達に何かをしたりする訳では無い」

 

「はぁ」

 

 

 私は半信半疑でその言葉を飲み込む。

 妹の方はというと、少しワクワクしていた。

 

 その時、マエストロの背後にある扉が開いた。

 

 

「あら、本当に生徒を引き連れているのですね」

 

「其方も同じような事をしているだろう?」

 

「私は違います、彼女達を支配している」

 

「ふむ、そうだったな」

 

 

 現れたのは赤い肌の女性だった。

 恐らくマエストロと同じ『大人』なのだろう。

 しかしなんと言っても彼女から放たれる威圧感は凄まじい、警戒していた私だけではなくワクワクしていた妹まで少し怯えている。

 

 

「…………えっと、はじめまして……西条レイナです」

 

「……西条ユナです」

 

「御機嫌よう、マエストロ(巨匠)の後継者達、私はベアトリーチェと申します……マエストロと同じ志を持つ者です」

 

「こ、後継者……?」

 

「なんですか、それ、知らないんですけど」

 

 

 私はマエストロの方を再び睨む。

 マエストロはカラン、と音を立てて話した。

 

 

「……私の身体は見ての通り脆い、あまりにも脆すぎる……だが私の芸術は途絶えてはならない、決してそれ故に其方達にそれを受け継いで欲しい」

 

「私達が、マエストロの後継者に?」

 

「嫌なら構わない、そういう『契約』は交わしていなかったからな」

 

 

 正直、まだ芸術に触れて一ヶ月目。

 絵だって下手くそだし、まだ分からない事が多い。

 それでも私達が芸術に段々とのめり込んでいるのも事実だ。

 

 ……だから、否定はしない。

 

 

「私は、まだ分からない」

 

 

 時間だ、時間が欲しい

 マエストロが朽ちるその時まで、私の答えは出ないだろう。

 

 しかし妹のレイナは違った。

 

 

「あたしはなりたい、マエストロの芸術を途絶えさせたらキヴォトスの損だよ」

 

 

 妹は昔から短絡的な所があった。

 しかし、どんな時でも必ず自分の後悔しない選択を選んでいる……と言っている。

 私的にはもう少し考えて欲しいものだが。

 

 

「ああ、答えは今すぐじゃなくて良い、しかし……本当に私の身体は脆い」

 

 

 メキ、と音が鳴るその姿はまるで何度と殴られた木偶の坊のようで。

 

 

「いい加減新たなボディに変えたらどうですか?」

 

「あまり矢継ぎ早のように替えるのも良くないからな」

 

 

 どうやらマエストロは何度かボディを替えているらしい。

 出来ればずっとそうしていて欲しいものだが……

 

 

「そういえばスーツの男はまだか?」

 

「ええ、あの男は最近アビドスという辺鄙な場所の研究に躍起みたいですよ」

 

「そういうこったぁ!」

 

「うわっ!びっくりした」

 

 

 突如、部屋に一人の男が現れた。

 首が無い代わりに背を向けた男の絵画を持つ男……

 

 やはりマエストロの友人達は普通じゃないみたいだ。

 

 

「失礼、デカルコマニーが驚かせてしまったようですね」

 

「絵画が喋ってる……」

 

 

『そういうこった!』とは違う声が聞こえる。

 音の源は絵画かららしい、どうやら一人のようで二人いた……ああ、ややこしいなあ。

 

 

「背を向けた状態での挨拶となる御無礼、どうかお許しくださいませ、わたくしにはこれ以外の方法が無いもので……」

 

「そういうこった!」

 

「そういうこった、しか言えないの?」

 

「そういうこった!」

 

「……不思議ね」

 

 

 妹の方はもう身体の方と打ち解けている。

 なんという……いや、そういえばあの子は動物と仲良く出来る特技があったのだったか、それと……いや、一応人なのだから動物扱いは……

 

 

「わたくしはゴルゴンダと申します、どうか宜しくお願い致します」

 

「そういうこった!」

 

「因みに私の身体を代行してくれているのはデカルコマニーです」

 

「まあそういうこった!」

 

 

(……怪しい!)

 

 

 思考を巡らせる暇もなく、ただただ怪しさだけが私の心を募らせていく。

 

 

 

 ━━━━━

 

 

 

 友人達はマエストロの芸術作品について様々な意見を述べた。

 ベアトリーチェは基本的に苦言や否定的な意見を発し、デカルコマニー達は褒め讃えていた。

 

 

 そしてもう一人、最後の友人が現れる……

 

 

「すみません、少々野暮用がありまして遅れてしまいました」

 

「時間厳守は大人として当然の行いでは?」

 

「ええ、以後このような事を無いように致しますのでどうかご容赦を」

 

「まあマダム、そう怒らず」

 

「……」

 

 

 最後に現れた『友人』は今まで出会ってきた中で比較的人間らしいビジュアルだった。

 ……いや、それでも普通とは程遠かったが。

 

 黒いスーツの男は私達に視線を合わせた。

 

 

「……なるほど、彼女たちが……」

 

 

 男は興味深い、と言った素振りを見せると男はマエストロの方を振り向いた。

 

 

「貴方が生徒を引き連れているというのは以前から聞いていましたがまさかこんな幼い少女達だとは」

 

 

 その声は失望などではなく驚愕からだった。

 男は私達の事を軽蔑などしておらず、ただただ『子供を連れているのか?』という驚愕だけだった。

 

 

「彼女達は私に様々なインスピレーションを与えてくれる、今の私のアトリエには欠かせない存在だ」

 

「貴方がそこまで言うとは、珍しいですね」

 

「きっと其方達もすぐに理解するだろう、彼女達の発想は我々の研究に役立ってくれるはず」

 

 

 マエストロは私達の事を庇うかのように、肯定する。

 彼がここまで私達の事を庇ってくれたりするとは思わなかった、意外だ。

 

 

「えっと……西条ユナです」

 

「西条レイナです」

 

 

 お辞儀をすると、男は私達子供相手でも丁寧な振る舞いをしてみせた。

 

 

「はじめまして、私は……ああ、失礼、私はまだマエストロやベアトリーチェのような名前を付けていないのでした」

 

 

 ……と思ったが彼には『名前』が無いらしい。

 やはり私達とは根本的に『何か』が違うのだろう。

 

 あまり刺激するのは良くない、何をされるか分かったもんじゃ───

 

 

「黒服」

 

「……?今、なんと?」

 

「黒服、スーツ着てて全体的に黒いから黒服」

 

 

 しかし妹はそんな私の警戒とは裏腹に、その男を挑発するような呼び方をした。

 

 

「レイナ!」

 

 

 すぐさま妹の口を手で覆い、それ以上男を刺激させないようにした。

 

 

「ほう、黒服……なるほど……」

 

「ごめんなさい、妹が失礼な事を……」

 

 

 すぐに謝罪をするも、彼は笑っていた。

 

 

「いえいえ、マエストロが言っていた『インスピレーションを与えてくれる』というのはあながち間違いでは無さそうですね」

 

「えっと、どういう……?」

 

 

 困惑した私が妹の口を覆っていた手を緩めると『黒服』はレイナに目線を合わせた。

 

 

「黒服という呼び名……ええ、名前は重要です」

 

 

 黒服は目を光らせては独り言をボソボソと呟き、そして宣言した。

 

 

「今日から私は『黒服』と名乗りましょう……今後ともよろしくお願いいたします」

 

「気に入ってくれて良かった」

 

 

 妹は笑い。

 

 

「……よ、よろしくお願いいたします……?」

 

 

 私は困惑していた。

 

 

 ━━━━━

 

 

 

 黒服は私達の事をかなり気に入ったらしい。

 よく自身の研究所に招待しては私達に勉学を教えてくれた。

 マエストロも以前から勉学を教えてくれたが、黒服はもっと深く、そして丁寧に教えてくれた。

 

 ベアトリーチェに関しては、アレからアトリエには一度しか来なかった。

 

 しかし、黒服の研究所ではよく出会う事になり、その度に黒服やマエストロに苦言や皮肉を述べた……が二人は私達の事をかなり気に入ってるらしく、その度にマエストロと黒服はベアトリーチェに対し注意した。

 

 結果、マエストロと黒服をこれ以上怒らせるのは得策では無いと判断したベアトリーチェは私達に対しても優しくなっていった(恐らく腹の中は真っ黒だろうが)

 

 

 そうしてさらに一ヶ月が経った頃の話だ。

 

 

 

「自然が多いね」

 

「ねー」

 

 

 私達はベアトリーチェ……いや、マダムの支配するアリウス自治区で過ごす事になった。

 

 マエストロのアトリエは暫く出入り出来なくなり(マエストロ曰く『危険な実験』をするらしい)マダムからの提案で私達はこのアリウスにやってきた。

 

 

 それと、理由はもう一つ……

 

 

 

「そっちの方は終わった?」

 

「うん、終わった」

 

 

 マダムから直々に頼まれた仕事。

 それはアリウス自治区の反乱分子を殲滅するという仕事だった。

 

 

「全員引き渡したから今日は終わりだね」

 

 

 アリウスの反乱分子自体はそれほど強くなかった。

 というのもアリウスは直近まで内戦が起きていたらしく、まともな装備や弾薬の貯蓄などが無かったのだ。

 アリウス内戦を戦った歴戦の生徒達は既にマダムの配下に、残った反乱分子は意志のみでマダムに刃向かっている。

 加えて食料自給なども壊滅状態、最早アリウス自治区はマダム無くして『自治区』と呼べない状態だった。

 

 だから私達でも勝てた。

 まだ高校生ですらない、私達でも。

 

 最初は何とか抗おうとして、私達を倒そうとするけど……段々と怯えて、最後は『助けて』と命乞いをした。

 そんな彼らを私達は気絶させて、マダムの配下の生徒に引き渡す。

 

 

「…………でもなんか、良くないことしてるような……」

 

 

 そんな事を続けていると、人の心や心の余裕が無くなる。

 その結果、平気で人を傷つけて、軽率に戦って、そうして勝って何になるというのか。

 

 私には分からない。

 

 

「次からはお姉ちゃんが一人でやるよ」

 

「ダメ、お姉ちゃん前よりマシになったけどエイム下手くそじゃん」

 

「きっと上手くなるから、大丈夫、お姉ちゃん頑張るから」

 

 

 私は一種の焦りを感じていた。

 妹はどんどんとこの環境に順応していっている。

 このままだと、私の考えていた事が本当の事になる。

 

 それだけはイヤだ。

 

 

「お姉ちゃん、あたしってそんなに頼りない?」

 

「違う、こんな事をずっと続けてるといつか簡単に人を傷つける人間になっちゃう」

 

「お姉ちゃんはそんな人間になっていいの?」

 

「私の事はどうでもいいの、今は───「あたしだけ明るいところにいても嬉しくないって、前も言ったよね?」

 

 

 妹は私の顔を逸らさず真っ直ぐ見ていた。

 

 その青い・目は、揺るぎない意志の象徴だった。

 

 

 私はこの目をさっき見たばかりだ(反乱分子と同じ目だ)

 

 

「………………」

 

「お姉ちゃんはなんでも一人で抱え込もうとする、悪いクセだよそれ」

 

「……そう、だよね」

 

 

 ああ、神よ。

 私の事はどうなってもいいので、妹だけは……

 

 

 妹だけは、優しい子に育ててあげてください。




━━━西条ユナ
彼女は様々な呼ばれ方をする。
マエストロの後継者、色彩感覚の天才、そしてお姉ちゃん。
彼女は優しい人間だ、博愛や自由を愛し、そして誰よりも妹の事を愛している。
しかし、その博愛や自由を愛する心は妹の為なら捨てる事を厭わないだろう。

彼女の好物はブドウとミカンだ、週に一度は必ず食べる。
彼女の苦手な食べ物はトーストと牛乳だ、いつ如何なる時でも彼女はそれを口にしない。


彼女の着けている黒いリボンは今も尚、生きている。

ユナのif外伝いる?

  • いぃらないですねぇ……
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