聖園ミカにTS転生した 作:魔女じゃんね☆
ジャブジャブヘルメット団のリーダーである河駒風ラブは元はトリニティに通っていた元お嬢様である。とあるいざこざのせいで退学となり、ブラックマーケットをぶらぶらとしているうちにヘルメット団のリーダーをやることとなっていたがラブは現在の生活をそれなりに楽しんでいた。
トリニティにいた頃では考えられない程生活水準は下がり、常に金策に追われる日々を送っているがトリニティでよくあるような陰湿な嫌がらせやいじめはないために精神的には気楽であった。
そんなラブをヘルメット団の団員たちは慕っており、どんな苦境にもついてくる良い子達であった。
「あれ? ラブちゃんじゃん。久しぶり★」
「……ッス」
この日、ラブはブラックマーケットでとある女性と再会していた。別に目の前の女性に因縁があるわけではない。間接的には退学の要因となったかもしれないがそれくらいであった。
しかし、ラブは知っている。目の前の女性、聖園ミカの恐ろしさを。自らが所属していたパテル分派を一掃し、自分色に染め上げた恐怖の天使という事に。そして、そんなミカの日課は不良狩りであることも。
「り、リーダー! こいつ聖園ミカっスよ! やばいですよ! 逃げましょう!」
「リーダーを守れ!」
固まって動けないラブを庇うように手下の団員たちが間に入るように立ちふさがった。ラブは団員たちの愛らしい行動にうれしさを感じつつ本人も無謀と理解しながら愛銃を構えた。
普段はこん棒代わりに使用するなど雑な扱いをしている自らのショットガンだがそれでも頼もしい相棒と愛着を持っていた。しかし、相手がかの聖園ミカであるならばあまりにも頼りないと感じてしまう。
というよりもラブ自身聖園ミカと相対する現状で抵抗する気力は失われていた。銃を持つ手は震え、カタカタと音がなっている。
「リーダー!?」
「ヤバいっすよ! リーダーがバイブレーションのように震え始めたっす!」
……訂正。震えているのは手だけではなく全身だったようだ。
「そんなに震えなくてもいいよー★ 私とラブちゃんの仲だからね。今日は何もしないよ」
「……ッス」
「(リーダーが「ッス」しか言えなくなってる!)」
「(リーダー! 顔が真っ青に……!)」
気分は処刑台を目前にした死刑囚のようだった。そんなラブの心情等知らないと言わんばかりにミカは肩を組んで親しげに話しかける。
「ずっと前に退学したって聞いたけどまさかヘルメット団にいるとは思わなかったよ。言ってくれれば私が何とでもしたのに」
「……ッス」
「元気にしてるの? ラブちゃん結構生真面目だから損な役回りばかりしてない? 何かあれば力になるよ?」
「……ッス」
「アハハ★ ラブちゃんさっきからおもしろーい★」
逃げ場をなくしたラブの瞳からはドンドンと生気がなくなっていく。その様子から親しげに話しかけてくる聖園ミカとは決して良い関係ではなかったことが窺える。少なくとも彼女は聖園ミカに対して恐怖を抱いてしまう位置にいたことは明白だった。
「ねぇねぇ。暇?」
「……ッス」
「それじゃぁ久しぶりの再会を祝って近くのカフェに行こうよ! そこの不良達もどう? 来るでしょ?」
ぐるりとラブの手下の団員たちに顔を向けて確認を取るミカ。しかし、言葉こそ確認しているが彼女を前に拒否の言葉など出せるはずがなかった。例えその先が地獄だとしても彼女は首を縦に振る事以外に許されてはいないのだ。
「良かった! んじゃぁみんなの分は私が奢ってあげるよ★ こう見えてもトリニティのお嬢様だからね」
果たしてミカの事をお嬢様だと思うものがどれほどいるだろうか。最早手遅れな幼馴染以外で認識している人はいないかもしれない。たった1人が幼馴染ならばミカは逆に喜びそうではあったが。
「んー! やっぱりここのパフェはおいしー!」
「……ッス」
「そ、ソウデスネ」
「トテモオイシイデス」
ブラックマーケットの一角で運営しているカフェ。こだわり抜いたコーヒーや多種多様なデザートを提供するこの店を偶然見つけて以来ミカは常連となっていた。トリニティを除けば"何故か"入店を拒否される事が増えてきたミカにとってトリニティ外でここまでの味を出せるこの店はなくてはならない存在だった。
一度ゲヘナ生がやってきた時には平穏を壊されたくないと即座に半殺しにしてゲヘナまで投げ返したほどだ。緘黙な店主もあまりの出来事に目を見開いて驚いていたが相手が悪名高い美食家を名乗るテロリスト共だったのでそこまで気にしてはいない。ブラックマーケットで店をやるならこの程度では驚いてはいられない。
ちなみに、ミカが常連ということで不良や脛に傷を持つ輩は一切近づかなくなって収入は激減し、とあるファウストさんなどの善良な生徒が訪れることで何とか経営が成り立っている状態だった。この店は絶対の安全と引き換えに収入を失ったのである。
そんな店のことなど知るはずもないミカはパフェを食べてはうれしそうに笑みを浮かべているがその対面に座るラブと団員たちは味など分からないほどに緊張していた。
何しろ目の前にいるのは自分たちのような不良を問答無用で襲撃し、病院送りにする悪鬼なのである。ラブという同郷の知り合いがいなければ今頃は小洒落たカフェではなく純白の病室にいただろう。
そんなやつとのカフェ等美味しいどころか味さえわからなくて当然である。結果、彼女たちの前にあるプリンやシュークリームは殆ど手が付けられていなかった。
「ん? どうしたの?美味しくない?」
「ヒェッ。美味しいです! めちゃくちゃ美味しいです!」
「美味しすぎて涙が出てきます!」
端から見れば哀れに思えてくるほど団員たちは必死になってデザートに食いついていく。別にミカはおいしくないからといって何かをするわけではない。彼女とてここのケーキよりも幼馴染の手作りデザートの方が美味しいと思うのだ。彼女の手料理を馬鹿にしなければまずいと言ったところで何かをする気はなかった。幼馴染の手料理を馬鹿にした場合は命を覚悟する必要があるが。
「そう言えば普段は何してるの? きちんとご飯食べられてる?」
「え? えーと……」
「企業とかから依頼受けたり……」
「廃棄弁当目当てにコンビニごう……お願いしたり……」
「ありゃ? あまりご飯食べられてないの?」
流石のミカもそのへんの事情には詳しくはない。詳しくなくとも良いのだから。
「企業って意外とケチなので……」
「依頼額の半分くれればいい方なんて日も……」
「タダ働きの日も……」
彼女達は学園都市キヴォトスにおいて最底辺の存在と言ってもいい。身分も保証されず、社会からドロップアウトした彼女たちに世間は厳しかった。
だが、世の中は悪だけではないのだ。(破壊の)女神とて存在するのだ。
「ちょうど良かった! 実はね、知り合いの子が人手が欲しいって言ってたんだ! トリニティの子たちを渡すなんて嫌だったしその点貴方達なら問題なさそうだし!」
「あ、アハハ……」
ラブの手下とは言え不良が嫌いなことに変わりはないようだ。それを再認識させられた団員たちは苦笑いを浮かべるしかない。
「やることは給食づくり! 全然人がいないからハードだけど賄とかは出してもらえるだろうしきちんと働けば給金も出すって言ってたよ」
「給食?」
「料理したことない……」
「どうしよう……」
そもそも、提案しているのがミカの時点でお察しだが断れるはずがない。そしてどんな地獄に叩き落とされるのかさえも。しかし、断ればそれ以上の地獄が待っているだろう。それも嫌だった。
「ラブちゃんはどう? ずっと黙っているけどやってみる?」
「……ッス」
「(リーダー!?)」
「(まだ回復してなかった!)」
団員たちでは決められないと思ったのかミカがラブに尋ねるが短い言葉しか出さないがこの状況でそれは肯定するのと同義であった。
「良かった〜。何でか知らないけど誰も受けてくれなくて困ってたんだよねぇ。ラブちゃんありがとう!」
ミカは嬉しそうにラブに抱きついた。決して力を込めて絞め落とそうとしているわけではないのだがそれによってラブの顔は土気色にまでなってしまっていた。
「それじゃ早速明日からよろしくね! 場所はゲヘナね! 伝えておくから遅れずに明日の八時には学食まで行ってね!」
「えっ!? 明日!? それも八時!?」
「早すぎだし受けるなんて一言も……!」
慌てた団員たちが声を上げるもその声はミカには届かない。伝票を持ってレジへと向かっていくミカの後ろ姿を見ながら団員たちは急遽決まった働き口に対して何も言えないまま受けることしか出来ないのであった。
「……はっ!? 私は何を!?」
「リーダー! 回復するのが遅いですよ!」
因みにラブが正気を取り戻したのは日が暮れてからだいぶ経った頃だった。
次回はもう一人のゲヘナ良い子担当の職場改善を実施します