ワカクサ本島の原住民   作:メタモン推しの人

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考えているようでリスクを見逃した
なら、報いは逃れられないよね


好きにさせた代償

 

 side:青のメタモン

 

 自分以外の何者にも頼らず生きてきたメタモンにとって、初めて誰かと共に生きる難しさは語るべくもない。

 

 かつては独りであり、孤高であった。不満も懸念も欲望も、何もかもを自己完結させて、すべての問題を自身のみでサイクルさせていた。

 

 島の何もかもを知り尽くしたつもりでいて、困ることなんて今後しばらく訪れるとすら思っていなかった。

 

「……水だぁ」

 

 己の生活に己以外の生活が交じる。

 

 何もかもを自己完結させてきて、何もかもを知り尽くしたつもりのメタモンは、今の生活の主導権を彼に渡すことにした。

 

 早い話、好きにさせていたのだ。

 

 子供を見守る親のように、自主性を重んじることにした。だって、メタモンには寄り添う方法が分からなかったから。

 

 独りで生きてきた。

 独りで解決した。

 独りですべてを終わらせていた。

 

 それで何も問題なく今まで暮らしてきたメタモンには、独りじゃない生き方など考慮したことすらなかった。

 

 強さ弱さだけでは測れない初めての悩み。

 結局、その解答としてメタモンは彼の生活サイクルに合わせることを選んだ。

 

 やろうと思えばこの島で蓄積してきた経験をもって先導し、誘導し、付き従わせることもできただろう。きっとそれは酷く簡単で、抜本的に彼の生活を今よりも豊かにしたはずだ。

 しかし、そこに彼の意思は介在しない。連れ回すだけの人形に成り下がり、生命である必要性が失われる。それはメタモンの望むところではない。

 

 今まですべてを自己完結させてきたからこそ、誰かと生きる行動の区別がつかず、度合いが分からない。どこまでが施しで、どこからが協力で、どこまでしたら強制なのか。何をされたら嫌で、何をされたら嬉しいのか。端的に、物差しがなかった。

 

 だから主導権を渡した。

 必要最低限、きのみの場所をひとつ教えて、巣を用意した。それ以外は頼られるまで力を貸すことなく、見守って、音をあげたら助けてあげよう。

 

 根底にあるのはそんな考えだ。ヒトはメタモンよりも弱いから。だから助けて“あげる”のだと。傲慢に、上から見下ろすように、無自覚だろうと考える。

 

 事実、何も間違ってはいない。ヒトはメタモンより、どころか往々にしてほとんどのポケモンより弱い。虚弱で脆弱。メタモンが守ってやらなければ、この2日で幾度死んでいたかも分からない。明確に助けてもらう側の生き物だ。

 

 彼からすれば探索で、メタモンからしたら探索ごっこ。命懸けのサバイバルも、単なる生活の一部でしかない。真剣度合いは雲泥の差があった。

 

 たぶん、それでもよかったのだ。それだけで自分は孤独から解放されて、風が吹くだけでも心が踊る。風景としてしか見ていなかった環境が、彼と生きる世界になる。

 

 味わったことのない経験に、メタモンは満足してしまった。これがこの先も都合よく続くのだと信じて、致命的なほど心を満たしてしまった。

 

「ニャオ?」

 

 ──何、このニオイ?

 

 水を飲み終えた彼は容器を洗いに川へ。自分は念入りな火の始末。役割分担は一緒に生きている感じがして楽しい。

 

 そんなときだ。メタモンの側に寄ってきて鳴く声がした。クワッスではない方。緑の愛くるしい顔をしかめている猫、ニャオハが近づいていた。

 

 ──ごめんね、さっきまで火を使ってたんだ。

 

 ──そう、火事は御免だからね?

 

 ──わかってる。ほら、もう消えてるから安心して。

 

 小さな灰山すら崩して火種が燻っていないかも確認した。火事の元はどこにもない。ニャオハは『それなら良いケド』と鼻を鳴らす。

 

 そこに彼が帰ってきた。

 

「ん? ニャオハが来てたのか。えっと、おはよう?」

 

 ──あぁヘンなヤツ2号もいたの。いい天気ね。あなたの頭の中と同じくらいかしら? 光合成が捗るわ。

 

 クワッスもクワッスなら、ニャオハもニャオハ。なるほど似た者同士らしい。口の喧しさはニャオハに軍配が上がるようだが。

 

「うん? まぁ、確かに今日は良い日だな。俺には少し、暑いくらいだけど」

 

 生憎と彼には伝わらなかった。伝わったところで険悪になるわけでもないが、遠回しな皮肉は意味がないようだ。

 

 だが、そんな会話がメタモンには面白くなかった。

 無意味に彼が貶められたから憤慨した──わけではない。彼に伝わっていない以上、それは言っていないも同じだ。彼が気にしないのなら、メタモンが怒る道理もない。

 

 これはクワッスのときもそうだった。今の彼はポケモンと会話できつつある。素晴らしいことだ。祝福すべき偉業だ。できなかったことができるようになった。褒めてあげよう。喜んであげるべきだ。

 けれど、ソレは昨日まで自分だけの特権だったはずだ。失った──どころか、奪われた気さえした。

 

 誰に?

 誰でもない。

 強いるのなら、自分以外のすべてに。

 

 これは被害妄想で、独占欲の暴走だ。メタモンもそれは分かっていて、だから強く思ってしまう。

 

 ずっと一緒にいたい。もっと自分を見てほしい。今より多く頼ってほしい。誰にも、誰からも、メタモン以外に奪われないでいてほしい。

 

 そう、そんな独善的な想い。

 かつては抱くことすらなかった感情の芽吹き。一緒に生きると宣いながら、奥底には独りよがりの欲望が巣食っている。

 

 ──……あぁ、分かったわ。何がクサイのか。

 

「臭い? そっか、焼け跡が──」

 

 だから、だろうか。メタモンが生き方を変えたから。変えたくせに何ひとつ心を替えていなかったから。どっちつかずの態度で、さも共生しているように振る舞っていたから。

 

 ──アナタ、風邪臭いのよ。近寄らないで、伝染(うつ)るじゃない。

 

 だから、罰が用意されていたんだ。

 

 ──は?

 

「えーと、臭うから近寄らないでってコトかな? そんなに臭う? って、メタモン?」

 

 彼の額に手を当てた。

 熱い。熱かった。熱くて、手に返ってきた温度が、彼が危険な状態だと言外に知らせていた。

 

 ──なんで!?

 

 駄目だ。ダメ。だめだめだめッ。こんなことあってはならない。あってはならなかった。

 いつなんで何が理由でどうしてこんなことになった。とにかく休ませて安静にさせて熱を下げないといけない。体力を維持させないと死んでしまう。死んでしまったら、死んでしまうと、また、独りだ。

 

「えーっと、どうしたんだ、急に?」

 

 こんな、こんな熱があるのに、なんで平気そうな顔をしているんだと目を合わせる。頬は赤みが差していて、息が浅い。反応も今朝起きたときから比べてぼうっとしていた。

 

 違う。違った。平気そうに見えただけだ。メタモンに見惚れたから頬が朱に染まったワケではなかった。暇だから呆けていたわけではなかった。全部、ぜんぶ、異常の表れだったじゃないか。

 

「?」

 

 どう見ても本人に自覚がない。もしかしたらまだ初期症状なのかもしれない。これからもっと酷くなっていくかもしれない。ここからどんどん悪化して、最悪の場合──。

 

 ゾッとした。そんな未来は受け入れられない。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ、と心が拒絶するままに彼の腕を引っ張る。

 

 ──こっち来てッ。

 

「おわッ!?」

 

 テントに連れ込んで、無理矢理押し倒す。ほの暗いテントの中で、彼に覆い被さるように倒した。じっとりと彼の汗が首筋を伝った。

 

「な、何を、されますのん?」

 

 明らかに動揺した様子で、目を逸らされる。けれど今はそれに一々構ってあげられる余裕がメタモンにはなかった。

 

 ──そこで寝てて! 絶対に、動いちゃダメだからッ。

 

「は、はぁ……寝ていろ、と?」

 

 テントを出て、駆ける。へんしんがグズグズに崩れて、ヒトの形を保てない。でもそれで良かった。今の状況で走る足が2本だけなのは、もどかしくなるくらいに()()

 

 ヒトは風邪になったとき、果物やオカユというもの、そしてクスリを食べるらしい。これは初めて出逢ったときに覗いた知識だ。

 今の彼には何かを食べさせなければならない。食べないとヒトは免疫力が落ちて、なんてことはない風邪でもこじらせる。この島にはクスリやオカユなんかなくて、今は免疫力だけが頼りで、だから果物を食べさせなければいけない。

 

 果物。つまるところ、今の彼にはきのみが必要なのだ。

 

 ──遅い。遅い遅い遅い!

 

 駆ける。駆ける。駆けて、もっと、もっと早く進めと抉るように地面を蹴った。脚が崩れてはへんしんを繰り返し、新しい脚で地面を蹴る。

 

 昨日、彼と一緒に眺めていた景色を置き去りにした。一緒に歩いた道のりを独りで逆走し、あれだけ時間をかけた距離をものの数分で踏破した。

 

 煌びやかな湖面が写る。あれだけ気に入っていた景色に帰ってきた。でも隣に彼はいなくて、それが独りぼっちになる末路を想起させて嫌だった。独りの過去には帰りたくなくて、焦りはより加速する。

 

 ──キーのみ! キーのみは!?

 

 テントを作った場所から一番近いきのみはここだ。彼に教えた場所だ。そこには他のポケモンたちがいて、あのキテルグマの姿もあった。

 

 ──片割れはどうされた?

 

 バリボリと咀嚼音を立てながら、キテルグマが問うてくる。その言葉に驚き、焦る気持ちに歯止めが掛かった。

 

 他のポケモン達は今の自分の姿に怯えている。当然だ。どのポケモンとも似て非なる怪物。速さだけを求めた極論。それが今の姿なのだから。

 だからキテルグマに正体を見切られ、あまつさえなんてことはないように話し掛けられた。冷静さを取り戻すには充分な衝撃だ。

 

 ──なんで分かるの。

 

 ──問いに問いか。自明の理……は納得せんだろうな。ニオイが変わらぬ。それだけだ。して、もう一方は?

 

 堅苦しく簡潔な物言いをする個体だ。悠長な語り口でありながら必要最低限しか言葉にしない。だからだろうか。急いでいる身なのに聞いてしまうし、話してしまう。

 

 ──熱を出したんだ。だから食べ物が必要で帰ってきたの。

 

 ──なんと。なら、コレも持ってゆくと良い。

 

 丸太のような手から差し出されたのは、小脇に置かれていた立派なトウモロコシだった。

 緑の房に覆われて、髭を垂らし、黄色い粒が顔を覗かせている。彼が食べたらソレだけでお腹いっぱいになるような大きさのもの。それが、いくつある?

 

 ──なんで。

 

 ──礼だ。飽きを遠ざけたソナタ達に何か返さねばと。つまらんものだが受け取ってほしい。

 

 これほどあれば、きっと数日は持ちこたえられる。キーのみとトウモロコシ。山のように抱えて、落とさないように抱き締めた。

 

 ──ありがと。それと、昨日はごめんなさい。

 

 ──良い。こうして今がある以上、些事なのでな。

 

 変わらぬ表情でキテルグマはまたひとつキーのみを噛み砕く。そんな様子に別れを告げて、メタモンはこの場を後にした。

 

 今はただ、彼のもとへ帰るのだと。




・主人公の風邪(細菌感染)
昨日の川で水浴びをした結果、足の細かな傷や肛門から体内に乗り込んだ細菌たちが暴れ散らかしている。塩素入れたプールじゃないからね。仕方ないね。
現在37℃前半くらい。日差しのせいで熱いと思ってる。判断能力鈍ってるよお前。
なお、おいしいしっぽを食べていなければこの程度では済んでいなかった。不幸中の幸い。よかったな。でもここからもっと酷くなるぞ(宣告)

・メタモン
悪いのはすべて迂闊な主人公なのだが、それはそれとしてなあなあにしていた『一緒に生きること』がメタモンの中で疑問提起された。
今後、もしかしたら今より積極的な一面が表れるかもしれない。

・ニャオハ
ニャオハが指摘しなければ主人公が朦朧とするまで発覚することもなかった。まごうことなき救世主。
口は悪いし、性格もちょっと悪い。でも良い子。
『身体が弱っているときは何か食べないと治らないわ』と御見舞いの品を考えている。超良い子。でも口が悪い。

・キテルグマ
ただの強者。
ワカクサコーンはノーマルポケモンに配る予定だったが、丁度良かったのでメタモンにあげた。美味しいものは分かち合うべき。物理的に倒せない“飽き”が最大の敵だと思っている。つよい。
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