ワカクサ本島の原住民 作:メタモン推しの人
「地球タウンに~、さよならバイバーイ♪ 俺は
「メタチュウ~」
その合いの手は原曲知ってなきゃできないだろ。いや記憶覗かれたんだったわ。にしたってメタチュウはない。アイデンティティは大事だぞ? メタモンであることを誇りにしていけ。
さて、あれからどれほど時間が経ったのだろうか。某メタモン風の女の子形態にへんしんしたコイツは、そのまま俺の手を取ってどこかへと案内を始めた。言葉が分からないからどこに向かっているのかすら定かではない。
つまり、今の俺はメタモンに手を引かれてついていくだけの存在となったわけだ。迷子の子供かな? 世界規模の迷子だったわ。
ともかく、あれだけ侵入を躊躇していた林の中をメタモンと一緒にスイスイと歩いている。
獣道といえばいいのか。藪に突っ込むようなことはなく、舗装こそされていないものの歩きやすい道を通る。
俺に靴を履いたまま寝る習慣があればより歩きやすかったのだろうが、そんなタラレバを考えても仕方ない。今できることは足下を注意することだけ。小枝を踏んで怪我なんかしたら最悪だ。消毒もできない今、破傷風が身近に迫った感覚がする。切実に靴がほしい。
「メタメタ」
「おぉ、こりゃなかなか壮観で」
そんなこんな考えながら歌って歩いていれば、やがて開けたところに出た。自然とメタモンの歩みも緩やかになる。どうやらこの辺りが連れてきたかった目的地らしい。
まるでエンジェルラダーのように木漏れ日が差す幻想的な空間だった。周囲の木々にはピンク色のきのみが成っていて、様々なポケモンが集っては食事をしていた。
この光景を切り取って額縁に飾れば、それだけで立派な風景画の完成だ。俺はそれだけ目の前の光景に心打たれていた。
細かく観察するとニャースやイーブイなど一目見て“そうだ”と分かるビジュアルのポケモンたちが確認できた。
そんな集団の中にメタモンは俺を引き連れる。
当然注目を集めるが、相互不干渉とでも言えば良いのか。こちらから不必要なアクションを起こさない限りは、受け入れてくれるようであった。
そのまま俺は誰もいない木陰に連れられて、メタモンにそこへ座るよう促された。ポケモンたちの衆目には慣れないが、俺はメタモンのいう通りに木へ背を預けて座る。
「メタメタ!」
すると次にメタモンは俺の頭上、木に成っている2つのきのみをジャンプしてもぎ取り、片方を手渡してきた。受け取れば手にずっしりとした重みを感じる。
「……キーのみか」
「メタァ」
その見た目には見覚えがあった。
ポケモンスリープではノーマルポケモンが集めてくるきのみに設定されていたはずだ。
改めて周囲を見る。
注意深く見てみれば、どれもこれも木に成っているのはキーのみだった。どうやらここはキーのみの群生地らしい。ともするとノーマルタイプの憩いの場になっているのかもしれない。
俺の隣に座り、シャクシャクとキーのみにかじりついているメタモンだってノーマルタイプだ。恐らくだが、ここはメタモンが知っている食事処で、俺と一緒に朝食を食べようと案内してくれたのだろう。
それが凄く嬉しくて、まだ1口も食べていないというのに空腹に染みた。
「メタ?」
「いや、なんでもないよ」
ちくしょう、それはそれとして小首を傾げるな。不覚にもときめいてしまうだろうが。コイツはメタモンだと定期的に自戒しなければ異性として見てしまいそうになる。だって今のメタモンは可愛いが過ぎる。やめてくれ。
「いただきます」
意識を切り替えて俺もメタモンや他のポケモンたちに倣い、そのままキーのみにかぶりつく。
皮に歯を立てたとき、やや硬さを感じた。そしてそれを突き破った後、熟した果肉が果汁と一緒に口の中に広がっていく。ほんのりとした甘味としっとりとした舌触り。それでいて瑞々しい歯応えもある。なんか既視感。
「柿だこれ」
色こそ違うが、味はまんま熟れた柿だ。うまい。栄養価の高そうな味がする。
「メチャぁ」
俺が味に口元を綻ばせていると、それを見たメタモンがにへらと笑った。
だからそれ止めろって、一々可愛いんだよ。少女形態であることを自覚しろ。こちとら人生最大の危機を救われたようなものなんだ。メタモンだと理解していても吊り橋効果で堕ちそうになるんだよ。分かってやってるなら悪魔だぞお前、小悪魔系メタモンか? いいじゃん。
「よくねぇって! 妙だな、キーのみはこんらん状態を解くきのみでは?」
いや客観視できてるから冷静なのか。わからん、こんがらがってきた。
ひとまずキーのみは完食した。残ったのはヘタと種だけ。可食部らしきところは欠片も残さず平らげた。水分補給としても丁度よかったと思う。軽めの朝食としてそれなりに腹も膨れたし。
「しっかし、どーするべきかなあ」
一息ついて、ぼんやりと周囲を眺める。
もしかしたら俺がポケモンの世界に来たわけではなくて、その逆、メタモンが地球に来た可能性だってあっただろうに。こんな景色を見せられてしまえば最早疑いようがない。
「ポケモンの世界……はもう受け入れるとして、どこ地方だよここ。文明のブの字も感じないし」
自然溢れる豊かな土地。今や俺もその自然の一部に仲間入りだ。字面だけなら何とも素晴らしく聞こえるが、そんなの最低限の生活環境を整えられたらの話だ。
衣食住が何も安定していない。毎食キーのみとか栄養バランスが絶対壊れる。病気になったって薬もない。衣類は今着ている1着のみ。住居だって無いのだから今の状況が冬季まで続くなんて考えたくもない。
「文明を探すか。もしくは拠点作って開拓するか」
「メタ?」
正直モンスターボールが欲しい。このメタモンを名実ともに俺のポケモンにしたい。まかり間違って俺以外の誰かに捕獲されるなんて考えたくもない。脳が壊れる。
……いやだからコイツはメタモンで、異性として見るのは仲間としてもダメだろ。危ないところだった。でもあれだ。仲間としての独占欲みたいなものだから。セーフセーフ。
さて、そういう意味でも文明を探すべきなのだが、一朝一夕で見つかるなんて楽観視は危険だろう。下手をすればここが前人未踏の秘境の奥地だったりするかもしれない。
「なんとかして生活基盤を安定させないとな」
文明捜索は拠点を各地に点々と設置し、最悪年単位はかかる前提で計画するべきだろう。そうして拠点を中心に探索範囲を広げていけば、いずれは人が住む町なり見つかるはずだ。
命を大事に、堅実なプランで生きていく。問題は生活できる環境を作れるかどうかだが、まぁ、なんとかなるだろう。独りなら無理だったかもしれないが、今の俺には頼れる相棒がいるのだから。
「これからよろしくな、メタモン」
「モン? メチャァ!」
・小話
少女形態だとメタモン状態より口が小さくなるため、普段より時間をかけてキーのみを食べている。
そんな不便を許容してまで少女形態を維持しているのは、ひとえに主人公へのパートナーアピール。尤も当の本人がそういう方面を意識から外そうとしているので気づいていない。