ワカクサ本島の原住民 作:メタモン推しの人
「ピっいなんかわ わ」
「蛇に睨まれた蛙って、こんな気分なのかな」
「メメタァ」
「……うん、それは違う蛙だな」
こんなときに分かりづらい小ボケをかますんじゃないよ。緊張感が霧散するだろう。
「いや、今はそっちの方がいいか。良い感じに肩の力が抜けた。ありがとなメタモン。心配してくれたのか?」
「メチャ」
「そっか」
やっぱりお前は最高だな。出逢えてよかった。
「一応訊くけど、
「メタァ!」
凄い信頼できる笑顔を返された。これは信じなければ
一番は戦うことなく、穏便な方向へ事態を持っていくことだけれど。
「──!」
「来るぞ、メタモン」
「メタメタ!」
直立不動だったキテルグマが、急にコチラへと走り出した。キテルグマの視線は俺たちに固定され、明確に狙いを定められている。
重量感のある足音が圧迫の波として押し寄せてくる。俺たちとキテルグマの間にあった距離は、巨体が駆ける度にみるみると狭まっていく。
やがて丸太のような腕を振り上げたキテルグマが、勢いそのまま俺たちに暴力を振り下ろさんとして──。
「メタモン!」
「メチャァ!」
光がメタモンを包む。
キテルグマはその輝きに怯む様子すらない。
落とされる腕は止まらない。
「──?」
しかし、地面すら抉りかねないソレは俺にまで届くことはなかった。
「モン!」
衝撃で生まれた風が頬を撫でる。
キテルグマの腕の下で、メタモンは平然と鳴いてみせた。素人目ですら直撃すればただではすまないと理解できるアレを、メタモンは受け止めきったのだ。
どうやってかって?
答えは簡単、メタモンが
「……うわ」
「モン!?」
「あぁごめん。つい、ね。エグいことするなって」
俺はてっきりキテルグマにへんしんしてミラーバトルになるものだとばかり思っていた。だからこんな思わぬ変化球のやり方にドン引きしてしまっただけだ。
そういえばキミ、地面の落書きからラルトスにへんしんしていたものね。俺の知識だって覗いたんだ。そりゃあそうなるか。
ポケモンにはタイプ相性というものがある。
例に挙げればキテルグマ。こいつはノーマルタイプとかくとうタイプの複合型だ。そしてそのどちらのタイプ技も、フワライドのゴーストタイプには効果がない。
加えて、フワライドはひこうタイプも複合している。ひこうタイプの技はかくとうタイプの弱点のひとつだ。
つまるところ、今のメタモンはキテルグマの弱点を容赦なく突けるのに対し、キテルグマはほとんどの攻撃がメタモンには通用しない。
メタを張った無法が今ここに完成した。
「──! ──!」
「モンモン」
キテルグマはその後も幾度となくフワライドのメタモンを殴るが、メタモンはどこ吹く風と涼しい顔。どころか隙を見ては鋭い風──恐らくはエアカッター──を放って的確にダメージを与えていく。
ほぼ一方的な展開だった。勝負は見えたようにすら写った。
それでもなお、キテルグマは退かなかった。諦めてはいなかったのだ。
「──!」
今まで巨大な槌のように振り下ろしていたキテルグマの腕が、突発的に
「メタモン、避けろっ!」
「メチャ!」
俺の言葉にメタモンはへんしんを解いて、背の低い青色メタモンの姿に戻った。その真上を
そうだよな。普通、効果がないと分かれば効く技使うよな。
タイプで優位をとったって何も油断できない。アレが『シャドークロー』なのか、『ぶんまわす』なのか、俺には分からない。けれど、どちらにしてもフワライドには効果抜群の弱点だ。あのままメタモンが直撃を受けていたらと思うとゾッとする。
「メタァ!」
矢継ぎ早に、懐に潜り込めたメタモンがキテルグマにへんしんして、その勢いのまま見事なアッパーカットを食らわせる。
一歩、二歩、キテルグマは後ろに下がった。メタモンに打たれた頭は上空を仰いだままで、俺たちからはその表情が伺えない。
片や何度も弱点を突かれたキテルグマ。片やキテルグマにへんしんした無傷のメタモン。
この調子で油断なく勝負を続けられるのなら、こちらの勝てる確率は高い。それはキテルグマだって理解しているだろうに、未だこの場から退いてくれない。
何がキテルグマをそうさせているのか。何か退けない理由があるのだろうか。
「……ぁ」
ふと思ってしまった。
いやまさかと考えて、よしんばそうであるのなら確かにキテルグマは退けないし、俺たちを追い出したいだろう。
「もしかしてここ、キテルグマの縄張りだったりする?」
「メタ?」
「──」
俺の言葉にメタモンも動きが止まる。
キテルグマはずんぐりと上げていた顔を戻し、俺を見つめた。言葉が通じているかは怪しいが、その目は何かを訴えかけているようで、俺はなんだか居たたまれなくなった。
メタモンはまだへんしんを解かず、警戒を続けてくれているようだが、それも最低限のものでしかない。最早この場には先ほどまで争っていたような緊張感はなくなり、せせらぎだけが響く静寂となった。
「その、もしそうだったらごめんな? 故意にこの場を荒らそうとか、奪うつもりはないから! すぐ移動するから」
言って、俺は懐からキーのみを取り出す。これは俺の分の昼飯だが、道理は通すべきだろう。
「コレ、お詫びになるかは分からないけど、受け取ってくれ。甘くてうまいぞ」
俺が差し出せば、キテルグマはゆっくりと近づいてくる。傍らでメタモンが控えてくれているから平然を装えてはいるが、マジ怖い。
巨体の圧迫感が目の前まで迫る。身長差から見下ろされ、俺は視線を合わせるために見上げるしかない。そんなキテルグマはキーのみと俺とを交互に見て、そっとそれを受け取った。
キテルグマは手にとったキーのみをじっと観察したり、匂いを嗅いだりしてから、ひょいとその大きな口に放り込んでしまった。
まさか丸ごといくとは思わず、俺は唖然としてしまう。そんな様子を気にすることもなく、キテルグマは口を動かす。
せせらぎだけだったこの場に、柔らかなキーのみを食べているとは思えない咀嚼音が混ざる。種ごといったものな。おまえ、それでいいのか。
「──!」
心なしか、目が輝いていた。それでいいんだ。美味しいんだ。じゃあいいよ。それがキテルグマの正解だ。
一通りキーのみを咀嚼したキテルグマは、一息にそれを嚥下した。どこか満足気な雰囲気すらあった。
そうして俺に片手を差し出してくる。どう見てもおかわりを要求する催促だった。
「いや、もう無いんだ。悪いな」
「──?」
ダメだ。言葉が通じていない。
さてどうやって伝えるか。下手をすると出し惜しみしていると受け取られ、逆上されるかもしれない。
困ってしまったと悩んでいると、隣のメタモンがキテルグマの前に出る。
「メタ、メタメタ!」
「──」
「メタメタ、モンモン」
「──!」
交渉なのか。説得なのか。俺には分からなかったが、メタモンはキテルグマと話している最中、湖畔側の、俺たちが来た道を指していた。
するとキテルグマもそちらを向く。最後にメタモンへ向かってブンブンと頷くように頭を振ってから、ヤツはバトル中でも見なかったスピードで駆け出していった。
「なんだったんだ」
「モーン」
「……もしかしてキーのみがあった場所を教えたとか?」
「モンモン」
そうらしい。少女形態にへんしんしたメタモンが得意気に笑っていた。そうか。メタモンのおかげでひとまず危機は去ったらしい。
「じゃあメタモン、アイツが帰ってくる前にさっさと移動するぞ!」
「メタァ!」
ここがキテルグマの縄張りだというのなら、長居をするのは悪手も悪手。元よりキテルグマが現れなければ移動しようとしていたところなのだ。留まる意味はない。
ただ、昼食用のキーのみを失ったのが痛い。早いところ食べ物を探さなければ動けなくなって餓死する。メタモンと生きると決めたのに、早々そんな結末受け入れられるわけがない。
「まずは炭水化物、これを探さないとだ」
河原に野生の稲とか、都合よく生えていたりしないだろうか。その辺りを意識して、俺はメタモンと一緒に歩みを進めた。
・無法メタモン
主人公の記憶を見る以前から同じようなバトルスタイルだった。なんなら今回主人公からの知識がなくともまったく同じことをやっていた。なんだコイツ。
・キテルグマ
キーのみがキテルグマの味覚にクリティカルヒット。これで食べ飽きていたワカクサコーンとはおさらばだぜェ! と縄張りのことも忘れて走り出した。キーのみ群生地にいたノーマルポケモンたちは泣いていい。
・ノーマルポケモンの憩いの場
突如キテルグマが現れてパニック! かと思いきや、キテルグマは大人しく座って食べるし、奪ったり暴れたりしないので皆慣れた。つよい。
・カラマネロ
最近のネタに乗りたかっただけで前書きに乗せられて無茶振りされた哀れなやつ。こういうのは鮮度が命。でも台詞の元ネタはタコ。それはそれとして、いかピー美味しい。