ワカクサ本島の原住民   作:メタモン推しの人

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ここをキャンプ地とする

 

 俺は今、人生最大の危機に直面しているのかもしれない。

 

 なぜこんなことになってしまったのか。いくら自戒したってもう遅いのだ。

 今となってはただひたすらに、この場をどう乗り切るべきかを考えなければならない。でなければ引き返すことすら不可能になってしまう。大切なものが壊れて戻らなくなる。もう、とっくに手遅れなのかもしれないが。

 

 それでもなお、思考は原因に回帰する。

 

「どうしてこうなったんだろうな」

「メタ?」

 

 

 遡ること数時間前。

 いざバトルとなった寸前で、肝心のバトルを仕掛けてきたクワッスがニャオハに拘束され、なんとも言い難い空気になった。

 

 クワッスを止めただけあって、ニャオハ自身はコチラに敵意があるワケではないらしい。そのまま悠然と俺たちに近づいて話し掛けてきた。

 

「ニャオ?」

 

 しかし、こういった場面で俺は弱い。武力という意味でもそうだったが、交渉の立場としても弱い。

 どうもポケモン同士は鳴き声で会話ができている節がある。しかし俺が使う日本語は、俺の記憶を覗いたメタモン以外に通じた試しがない。

 

 ポケモンは不思議な生き物です。とそう言われてしまえば閉口しかできないけれど、とことん己の無力を感じて嫌になる。今のところ全部メタモンにおんぶに抱っこだ。

 

 だからこんな場面でもメタモンは率先してニャオハと向き合ってくれた。

 

「ニャオニャァ」

「メタメタ」

 

 メタモンはニャオハに対して少女形態をとり、何かの会話をしている。俺とクワッスは蚊帳の外だ。

 というか、クワッスがいつの間にか抵抗を止めていた。全身をツルでグルグル巻きにされ、そもそも身動きができない状態にされている。中の様子は伺えないが、飛び出た足だけが力なく垂れ下がっていた。死んでないよな?

 

 そんな一抹の不安を余所に、いつしかメタモンたちの会話は区切りがついたみたいだ。

 

 ぐったりしたクワッス──恐らく気絶している──をテントに放り込んだニャオハは、俺たちに一瞥をくれると林の中へ消えてしまった。

 

「結局なんだったんだ?」

「メチャ」

 

 置いてけぼりの俺の手をメタモンが引く。見ればその蒼い瞳が何かを言いたがっているようだった。

 

「モン」

「あっちに行くのか?」

 

 視線が合ったメタモンは、優しく俺の手を引っ張ると誘導するように歩き出す。けれど目的地はここからそれほど離れてなくて、すぐそこの木陰で止まった。

 

 何がしたいのか分からないが、何かしたいのは分かる。もしやニャオハとの会話で何かあったのかと推察する俺を置いて、メタモンは俺から手を離し、へんしんを始めた。

 

「メタ!」

「おぉん、ニャオハね。なんでニャオハ?」

 

 メタモンの意図が読めないから何とも言えない声が出る。そんな俺を前に、メタモンは『まぁ見ときなさい』と言わんばかりの顔で、くさタイプだろう技を地面へ使った。

 

 メタモンを中心に葉が舞う。まるで木枯らしのように吹きすさび、無数の木の葉が飛んでは回り、やがて一ヶ所に纏まるように落ちていく。広く均等で隙間ないそれは緑の葉っぱでできた敷物みたいだった。

 

 次にメタモンはツルを頭上へ伸ばした。俺の背よりもいくらか高い位置で、木々の枝葉を縫うようにツルを絡めていく。それを器用なほど網目状に編んでいき、地面と平行の面を展開させた。

 

「もしかして、床と天井か?」

「モン!」

 

 モンじゃないが?

 編み終わったからって身体から伸びているツルを噛みちぎってるけど痛くないのそれ? 裁縫用の糸じゃなくて身体の一部でしょ。そう、痛くないんだ。ならいいけど。

 

 終いには天井の端から再びツルを伸ばし、グリーンカーテンの壁まで完成する始末。どこからどう見ても立派なテントです。本当にありがとうございました。

 

「なるほどな。今日はここで一夜を過ごそうってことか」

「メータ」

 

 首を振られた。違うらしい。わりと自信のある推察だったのだが、メタモンは違う意見だったようだ。

 

「じゃあここで寝ないのか? 凄く良いテントに見えたんだけど」

「メタメタ」

 

 これも違うらしい。少女形態に戻ったメタモンが、先ほどと同じように首を振った。

 

 ここで寝るけど、ここで一夜を過ごさない。現状分かったことを要約するとコレになるわけだが、何なんだこの謎々は。ウミガメのスープじゃん。

 

「……その、一応言うけど俺はそういう意味で『一夜を過ごす』って言ったワケじゃないからな?」

「メ!? メタメタメタ!」

 

 すんごい首肯している。それは理解している、というか変に勘違いしていないという反応だった。なるほど、日本語の表現による違いではないと。

 それはそれとして恥ずかしそうにされると俺も恥ずかしくなるから止めてね? 言い出しっぺは俺だけど、羞恥の顔とかドンピシャで刺さるから、メタモンのことまともに直視できなくなる。

 

「えー、じゃあ、ナンダロナー」

「……メタメター」

 

 ほらな、変な空気になった。チクショウめ、意識してんじゃないよ俺。話の軌道を戻せ。会話のハンドルを握れ。インド人を右に。あーらよっと。

 

「ここでー、眠るぅまでは……あってる?」

「メタ」

 

 深く頷かれた。

 

「今日、ここで、眠る」

「メタ」

 

 また頷かれた。

 じゃあ最初に否定されたのは何だったんだ。そう思ったが、何となくニュアンスの違いだということは理解できる。

 

「今日はここで眠る?」

「メータ」

 

 首を振られた。

 今の質問で何となくメタモンの言いたいことが見えた気がする。

 

「今日()()ここで眠る、か?」

「メタ!」

 

 正解らしい。俺を指差し、メタモンは笑って何度も頷いた。

 

 確かに生きていく上で、雨風をしのぎ、安心して眠ることのできる場所は必要だ。だがこうも早くにそれが得られるとは思っていなかった。

 メタモンは石にへんしんできるのだし、俺もしばらくは野宿しようと思っていたのだ。精神がすり減るかもしれないが、仕方ないとさえ思っていたのに。

 それをお前は、いったいどこまで献身的なんだ。いい加減惚れるぞ。

 

「しかしなんでここに……あぁいや、ニャオハとの会話はそういうことか」

「メタァ」

 

 これからどこに移動しようと誰かの縄張りにぶつかる可能性は否めない。それは事実としてキテルグマがそうだったし、クワッスたちだってそうだ。

 そんな自然環境で腰を落ち着かせる場所を得ようとするのなら、元々いたポケモンを追い出すか、交渉して間借りさせてもらうくらいだろう。

 

 そして、メタモンはニャオハからこの場を使う許可を獲得したわけだ。何を条件にされたのか、はたまたニャオハの善意によるものかはさておき、メタモンがそれを否定する様子はない。

 

 当のニャオハがどこかに行ってしまったので、今すぐ何かを要求されることはないだろうが、今後はクワッスたちとのご近所付き合いも考えなくてはならないはずだ。

 

 食材探し。

 お隣さんとのコミュニケーション。

 あとは靴や道具類の作成などなど。

 

 まだまだ問題は山積みだが、居を得た今、心は軽い。腹は減ったし、喉は渇いているけれど、活力をもって前を向けている。

 

 それもこれもメタモンのおかげだ。

 

「本当に、ありがとうなメタモン」

「メチャァ!」

 

 日が仄かに暮れかけている。まだまだ明るい日差しがゆっくりと傾きながら、メタモンの笑顔を美しく彩っていた。

 

 今日何度目かの笑顔に、つい見惚れてしまった。

 困っている俺に食を与え、居を与え、戦って守ってくれるメタモンだ。しかも可愛いときた。今さら自身に言い訳をするつもりはない。

 けれどだからといってコレを態々メタモンに伝える理由もない。ポケモンじゃない俺がメタモンにアレコレ告白しても困らせてしまうだけだろう。

 

 だから俺は顔を逸らしてしまった。見つめられて熱を持つ顔を見せられなかったし、これ以上視線を合わせたら気持ちが口から出てしまう。俺はメタモンを困らせたいわけではないのだ。

 

 だから友とか相棒の距離感が一番互いのためになる。改めて俺はそう信じることにした。

 

 しかし、先のこととは分からぬものだ。まさか早々にこの決意が危うくなる未来が訪れようなどとは、このときの俺は露ほども思わなかったのだから。




・メタモン
人間はか弱い(ポケモン比)生き物だから全然養うつもりでいる。住む場所も与えてくれるダメ男製造機。
ニャオハとの交渉はスムーズに進んだ。夕方になりかけていたので、進まなかったら脅してた。

・ニャオハ
秘密基地を守る抑止力が欲しかった。メタモン側の要求が丁度良かったので、秘密基地の邪魔にならない程度に距離を空けるならと了承した。了承しなかった未来は知らぬが仏。
秘密基地は未だ改築の余地ありと、その向上心はシビルドン登りであり、材料を探すため林に入った。

・クワッス
死んではいない。
いつも先導するようでいてニャオハの尻に敷かれている。
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