ワカクサ本島の原住民   作:メタモン推しの人

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ニンダイ思わず二度見したよ
私にはタイムリー過ぎた


一糸も纏わぬ元社会人

 

 空が夕焼けに染まっていた。

 見上げて、もうそんな時間なんだなって何とはなしに思う。遅れて今日1日の出来事がフラッシュバックした。これからこの世界で生きていくのだと、頭では理解していたくせに、ようやく認識が追いついてきた感覚だ。

 

「よし、こんなもんか」

「メタァ」

 

 川辺から手頃な石を運び、重石としてグリーンカーテンを固定する。入り口以外が風で靡かないかを触って確認し、納得いく出来に仕上がった。

 

 入り口は暖簾のように潜って入る仕組みだ。試しに「大将、やってる?」ってな具合でテントに入る。薄暗いが、それなりのスペースがあって落ち着く。良い。凄く良い。

 

「あとは、どうしようか」

 

 葉っぱのマットに寝っ転がって、仰向けに呟く。やらなければいけないことは数あれど、今日中にというほど緊急性があるものはない。

 これから夜になっていくこともあり、長い時間を必要とする作業もできないだろう。となると、必然できることも限られてくる。

 

「メチャァ」

 

 隣では俺と同じようにメタモンが横になっていた。寝返りを打ち、全身で床の柔らかな葉の感触を楽しんでいるらしい。その表情は大変満足気であった。

 

「……ちょっと、臭うか?」

 

 メタモンが、ではない。

 汗でベタつく肌。嗅げば明確に臭う脇。気づけていないだけで、周囲に放つ俺の体臭は汗くさいのかもしれない。メタモンから抗議を受けたワケではないが、こうも近くにいられると『臭いと思われたら嫌だな』と俺が気にしてしまう。

 それに服、特に下着類を洗わずに着続けるのも不潔だろう。洗濯するべきだ。

 

 けれど。

 

「メタ?」

 

 全裸になるのは、覚悟がいる。

 替えの衣類がない以上、乾くまではモロダシの生活をしなければならない。メタモンにどう見られようとだ。

 思春期十代なんて歳ではないのだから、狼狽えたら負けだ。勝負だと思えば良い。己との勝負。羞恥に打ち勝ち、清潔を保って健康でいること。元社会人として、これができない方が恥ずかしいと自分に言い聞かせる。

 

 そう思えば全裸でいることの何がいけないのか。

 なに、ここは日本ではないし、メタモンは人間ではないのだ。公然わいせつ罪だって成立しないし、性の認識も違うはず。見た目が人間の少女に見えようと、メタモンは何も変わらず接してくれるはずだ。

 

 一度決めたら決意が揺らぐ前に動くのみ。冷静になるな。最初の一歩が肝要だ。やれんのか俺? やれないのか俺? やってやろうじゃねえかよこのやろう!

 

「さーて、と。ちょーっくら、水浴びでもしますかね」

「メタメタ?」

「あぁ、メタモンは是非ここでゆっくりしていてくれ。すぐに戻ってくるからさ。川で汗を落としてくるだけだ」

 

 立ち上がればメタモンもつられて上半身を起こす。それをやんわりと控えてもらい、俺はテントを出た。

 

「クワ……」

「ニャオニャオ」

「クワッ!」

 

 外に出るとご近所さんのクワッスと目があった。雑多な枝木を運搬中だったようで、両羽いっぱいに抱えて足を止めていた。

 が、すぐにその後頭部をニャオハが叩き、クワッスとの視線が途切れる。あの2匹は仲が良いのか悪いのか。いや、あんな扱いでも一緒にいるくらいだし、気の置けない仲なのだろう。

 

 あのニャオハがいる以上、クワッスも再び襲ってくるようなことはしないはずだ。俺たちは──正確にはメタモンが、だが──クワッスの手綱を握るニャオハから“ここで生きる許可”を得たのだから。

 

 また、俺はその取り決め内容を未だメタモンから説明されていない。そうしないということは、話すほどの内容がない可能性が高い。メタモン視点、縄張りでのタブーがあるのであれば、行動を共にする俺にも共有しない理由がないからだ。

 

 つまり、メタモンとニャオハのやり取りは『ここ貸して』『いいよ』程度の内容だったのではないかと予想する。そうなると、配慮をもってお互いの邪魔をしなければ問題は起こらないはずだ。

 

 過度な警戒はしないでおく。気にしすぎると却って不快にさせるかもしれないし、ご近所さんとしていつか仲良くなりたいからな。

 

 さて、そんなクワッスとニャオハの2匹は川辺の小さなテントに入っていった。今ならば川での水浴びも邪魔にはなるまい。

 俺も俺の用事を済ませるべく、さっさと川に近づくことにする。

 

 一応周囲の確認をして、野生のポケモンがいたりしないかを警戒する。一見問題なさそうだが、素人目のザル警戒なので急いでしまおう。

 

 寝間着を脱ぎ、下着を脱ぎ、格好は完全フルオープン。脱いだ衣類を石の上に置いて、川に入る。水難事故は怖いので、膝下も浸からない浅瀬にしゃがみ、水をすくって頭にかけた。

 

「つめてぇ」

 

 シャンプーがないから頭髪が綺麗になった気がしない。手ですくえる水量もシャワーに比べたら微々たるもので、洗うだけでももどかしい。

 頭が終われば上から下へ。鎖骨や腕回り、脇下に水をかけて擦る。が、どうもさっぱりしない。泡を使えないという意味でもそうだったが、お湯じゃないからか洗った気がしない。

 

 本当にこれでは文字通り、水を浴びているだけだ。これでも汗は落ちているだろうが、我慢するしかないか。石鹸ってどうやって作るんだろうな。文明が恋しいよ。

 

 次から次へ、全身洗い終わったら置いていた衣類を取りに戻る。それをひとつずつ裏返して手揉み洗いで綺麗にする。

 これで綺麗になっているのか。肉眼じゃあ分からないが、洗剤がないのだからできることはこれくらいのもの。

 

「うぅ、さぶ」

 

 当然の話だが、全身びしょ濡れ状態だ。仕方なく洗った服を絞ってタオル代わりに使う。大雑把に身体の水分を拭って、服を洗い直して、また絞る。

 

 そこまでしても拭いきれなかった水滴が風と共に体温を奪っていった。ひとまず冬季に今と同じような水浴びをやったら死ぬ。それだけは分かった。

 

「しばらくは風邪のときみたく、タオルで身体を拭うだけって方面で考えるかぁ」

 

 全身洗うだけでもかなりの体力を持っていかれた。毎日の終わりにコレをやるのは無理だ。流石にハードルが高い。

 洗った服をタオルとして代用するにしても、そんな頻繁に使えば穴が空きそうだ。専用の布を作るべきか、新しい衣類を作るべきか。どちらも難しい話だ。

 

 湿った衣類を小脇に抱えて、俺はメタモンが待つテントへ戻ることにした。

 

 帰り際、クワッスたちのテントに目をやれば、チラリとこちらを覗くクワッスを見つけた。

 何となく手を振れば、ヤツは静かに視線を下げていく。やがて丸出しの俺を見て、あろうことか、不敵な笑みを浮かべてまたテントへ戻っていきやがった。

 

「はぁー!? なんだアイツ」

 

 もしかしなくても、鼻で笑ったか?

 いやいや、気にしすぎるのは良くない。俺は大人だ。こがものやりやがったお茶目な一面も甘んじて呑み下す器がある。

 喧嘩を売られたようなものだが、ここは寛大な心で見逃して度量の大きさを見せつけるべきだ。事実、小さくないしな。平均サイズよりちょっと上まである。もちろん、度量の話だ。

 

 それはそれとして、ご近所さんと仲良くなれるか怪しくなってきた。

 




・メタモン
実は水浴び中の主人公をテントから覗いていたりする。警戒しているくせに、まったく視線に気づいていない姿を見て、心に可愛いと心配を同居させていた。
主人公の体臭は気にしていない。他のポケモンに縄張りを主張するためにも、いっぱいテントに染み込ませてほしいとすら思っている。
日本語理解しているくらいだから人間の性知識もしっかり覚えたんだよなあ。

・ニャオハ
秘密基地改築中!
度々サボるクワッスには肉球パンチをお見舞いする。
夜になる前には群れに帰る予定。

・クワッス
あまりに滑稽な姿だったので笑った。他意はない。
その後ニャオハにしばかれた。休憩早すぎとのこと。
帰る時間はニャオハと同じ。でも帰る方向はニャオハと違う。それがちょっとさみしいらしい。
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