ワカクサ本島の原住民 作:メタモン推しの人
「そのぉ、ですね? 俺にも羞恥心というものはありましてぇ」
「メタァ」
薄暗いテントの中、俺はどうするべきかを考える。
勇気をもって、何食わぬ顔で「ただいま~」と帰ってきたまでは良かったのだ。メタモンは寝っ転がることをやめていて、内股で座ったまま「メタ~」と律儀に挨拶を返してくれた。それは嬉しかった。
流れでなんとかなると思った俺は、抱えていた衣類を──干す場所もないので──テントの隅に一旦置く。そうして水浴びをする前に寝ていた場所で腰を下ろした。
座って、楽な姿勢をとり、息を吐く。そうして情緒を整えたところで、テントに帰ってから今まで気のせいと流していた事実に目を向ける。
どうにもメタモンが俺の下腹部をじっと見ているのだ。
最初はね、格好が気になったのかなって片付けたよ。でも次第に目線が低いなぁ、おかしいなぁ、と思い始めた。最後には座って目線を合わせるも、メタモンは下を向いたまま。俺が座ると同時に一部を追尾していた。
種族が違うからね。興味津々になっちゃうのは仕方ない。けれど俺は少し真面目な話をしたいので、メタモンに意識を切り替えてもらう。
「メタモンさんや」
「メタ……メタ?」
「そんな気になるか」
話しかけても生返事だったため、おもむろにメタモンの目線の先を手で遮る。そうすることでようやく視線が交わった。
とはいえ、俺も会話中ずっと手で隠すのは嫌だ。なので一時的な措置として床の葉っぱをとって被せる。まさか人生で葉っぱ隊の格好になるとは思わなんだが、全裸よりマシになったはずだ。
「寝る前に、明日の方針を話します」
「モン……」
なんだその残念そうな顔は。話自体は聞いてくれているようなので続けるけれども。
「まず、何度も言うようだけど食材集めだ。ここを中心にこれから活動する以上、近くで安定的に食糧を確保できる場所がほしい。これはキーのみみたいな群生地を見つけるのが理想だな。あの場所以外で」
キーのみは確保しようと思えば届く距離に群生地がある。しかし、ここからまた採りに行くとしたらキテルグマの縄張りを横切るのがネックだ。欲を言えば他のモノを探したいところ。
またこれは今すぐの話ではないが、長期的に考えるのなら畑を作ってしまいたい。胃袋への安定供給手段は多いに越したことはないからな。
「メタ」
「ん? なんだメタモン」
そんなこんな話していると、メタモンがなぜか上半身をひねって背後を見た。いや、動きからして背後にあるものを取ろうとしたのだろう。次いで再びコチラを向いたとき、メタモンは手にしたソレを俺に差し出してきた。
素直に受け取ると片手にどっしりとした重さが乗る。それは薄いピンク色で、緩やかにカーブした何かだった。先端にかけて細くなり、先端は色が変化している。
その見た目にはなんとなく覚えがあった。
「わかった、マゴのみだ」
ポケスリだとエスパータイプのポケモンが集めてくるきのみだった。うろ覚えだが曲がっているほど甘いのだったか。
きのみと言われるとやや大きいような気もするが、確かこんな見た目だったはずである。
「メータ」
「あれ? 違うの?」
マゴのみではないらしい。首を振って否定された。
手に持つソレを見る。そもそも、メタモンはコレをどこで拾ってきたのか。
今日のほとんどをメタモンと共に過ごした。無論、俺はこんなものを見た覚えはない。別行動をしたのは俺が水浴びをしたほんの僅かの時間だけ。これがその辺にあったのか?
困惑しているとメタモンが後ろ向きに座り直して、背中側を俺に見せてきた。
「メタメタ」
そしてそのまま床に手をつき、メタモンはやや腰を持ち上げた。座っていたから背中が俺に向いていたのだ。そんなことをすれば、別の部位が強調される。
「メ、メタモン? いったい何……を……」
メタモンの臀部、より細かくいうのなら尾てい骨辺りから俺が持っているモノと同じソレが生えてきた。
部分的なへんしん。それに思い至れば、俺がメタモンから渡されたモノの正体にも辿り着く。
「ヤドンのしっぽ」
「メタ!」
ポケスリユーザーとしては『おいしいしっぽ』の表すのが適切だろうか。抜けてもすぐ生え変わるというフレーバーテキストがあった“食材”だ。
困惑があった。それでも知識として、メタモンはコレを集めてくる食材タイプのポケモンだったな、なんて頭の冷静な部分は思い返す。
しかし。
「食えと?」
「メチャ!」
「いやぁきっついわ」
「メタァ!?」
ご本人様を前に、その一部を食べるとか何プレイだよ。可愛すぎて食べちゃいたいと聞くが、それは比喩表現であって物理行為の願望ではない。
そもそもポケモンを、その一部だろうと食べるというのには抵抗感がある。もちろん、この世界では当たり前の文化なのかもしれない。ガケガニのハサミとか、人に食べられているポケモンがいることは知っている。
ただそれはそれとして、俺が食べるかどうかは別の話だ。
中国では犬を食べると昔に聞いた。日本ではペットや家族の一員という側面がある一方で、別の土地では食用文化の枠組みにある。
肉は肉なのだ。適切に処理をすれば、食用に適するのかもしれない。文化として根付くほどの“味”なのかもしれない。
じゃあ俺も好奇心で犬を食べるかといえば、それは違うだろう。余程の命の危機に瀕しなければ食べたりはしない。
ポケモンも同じだ。宗教的な禁忌でもなければ法律に縛られているわけでもない。純粋に今までの人生で培われてきた倫理的な部分が抵抗感を訴えかけてきている。
「でも」
腹が空いている。ぐうの音も出ないほど、腹の虫がぐうぐう鳴いている。そんな俺をメタモンは心配そうに見ていた。
「メタァ?」
「……ありがたくいただくよ」
今は非常時だ。つまらない躊躇をして餓死しましたでは笑い話にもならない。そも、これはメタモンの善意だ。受け取らない選択肢など俺にはない。
「メチャァ!」
食べる決意をしたことで、メタモンは笑顔を見せてくれた。まるでピーマンを食べる子供を見た母親のようである。
なるほどね。母性溢れるママ系メタモンか。いいじゃん。
「メタ?」
「いや、これはしっぽとは関係なくて」
今日三度目の自戒をメタモンに不思議がられる。そんな姿も可愛いね。
きっと栄養が足りなくて頭が鈍っているのだろう。今日四度目の自戒をしなくても良いように、いい加減、俺はおいしいしっぽを食べることにした。
まず食べやすそうな白い先端からかじる。
柔らかくて簡単に歯が通った。舌に乗せると脂身のような甘さがある。けれど油のようなしつこさはない不思議な味だ。
「……うまい」
今更ながら生で食べて良かったのだろうかと後悔がある。けれどもそれを塗り替えるだけの旨味も確かにあった。
「胃腸を信じるか」
嚥下して、逡巡した後、二口目を頬張る。
胃に染みていく感覚がある。贅沢の味がした。
ふとメタモンを見れば、食事をしている俺を微笑ましく観察しているようだった。そんなメタモンは何も食べていなくて、なんだか罪悪感を抱いてしまう。
「なぁ、メタモン」
「メチャ?」
「良ければ一緒に食わないか?」
元がメタモンの一部なので食べるかどうか分からなかった。でもこのしっぽは俺だけだとやや大きすぎる。明日に持ち越すくらいなら、俺はメタモンと一緒に食べたかった。
「メタメタ」
するとメタモンは寄ってきて、差し出した俺の手を支えた。急なことに狼狽える俺だったが、メタモンは気にした様子もなく、そのままそれに顔を近づけていく。
ゆっくり口を付けて、かじる。その一連の動作がしっぽを通して俺の手に伝わる。支えてくれるメタモンの手の感触が、食事中とは思えない情緒にさせた。少女の見た目とエサやりをするような絵面が合わさって、俺に非現実的な背徳感を覚えさせる。
そっと顔が離れたとき、しっぽには小さな楕円ができていた。そこだけ削れていて、残る歯形が如実に口の大きさを想像させて生々しかった。
「モン」
メタモンは何度か咀嚼して、最後にコクりと喉を鳴らす。このしっぽはメタモンからしてもおいしいらしく、表情は柔らかく緩んでいた。
「なるほど」
「モン?」
ほんの少し、僅かながらではあるが、自制に自制を重ねて思う。葉っぱ一枚で足りるか不安になってきたぜ。
・メタモン
巣(寝れる場所)も作ったし、主人公が身を清めに行ったし、人間の習性からして完全にそういう展開だと思っていた。違って残念だった。
主人公がメタモンのしっぽを食べる様子を見て、己の一部が主人公の身体の一部になっていく事実に得も言われぬ感情を覚えた。オノマトペでいうとゾクゾクしたらしい。キミ、才能あるよ。
・おいしいしっぽ
「うまくて えいようまんてん」だとか。
メタモン的においしいしっぽの自切は完全自己循環しようとエネルギー消費しかしないので普段はやらない。たまに余裕があるとき嗜好品として食べるくらい。今日はキーのみを2個食べたので主人公にあげた。
・ニャオハ
秘密基地内部を補強した。
近々2階を作る予定。
・クワッス
ニャオハ監督の指示で資材運び。脚力にものを言わせて駆け回る。疲れるけれどなんだかんだ楽しい。
・キテルグマ
キーのみを堪能して今日は縄張りに帰っていった。