「……もっと高く、届きたい」
夜の自室。
煌びやかな照明は落とされ、モニターだけが淡く輝いていた。
マイクスタンドの前に座り、私は小さく息を吐く。
私の名前は『天宮透子』。春から高校二年生になる十六歳。
自分で言うのもなんだが、学校では明るく、華やかで、誰とでも仲良くなれる。
男女問わず友達は多く、学年でも「スクールカーストの頂点」なんて囁かれる存在だ。
けれど、それはあくまで“表の顔”に過ぎない。
名声
裏の私は――『皇城渚』。
VTuberとしてデビューして半年、登録者数は五十万人を超えた。
透明感ある声と、ざっくばらんなトークで人気を集め、「次世代の歌姫」と呼ばれている。
配信をすれば同接は常に数万人。アップロードした歌動画はあっという間に百万再生を突破。
ファンからは「天女」「癒やし」と持ち上げられ、企業案件も増えてきた。
だが、私は満足していない。
確かに今の私は、誰かから見れば「成功者」かもしれない。
けれど私が求めるのは――もっと上だ。
万人に知られ、誰もがその名を口にする存在。
そう、私の正体は承認欲求の塊なのだ。
「……このままじゃ、まだ足りない」
歌ってみた動画で注目を浴びた。だが、それだけでは長くは続かない。
借り物の曲ではなく、自分だけのオリジナル曲を手に入れなければ。
それが、次のステージへ進むための絶対条件だ。
私はスマホを手に取り、SNSの依頼フォームを開く。
そこにはいくつもの作曲家の名前が並んでいた。
無数の候補から、私はひとつの名前を見つける。
『KANADE』
――ネットを席巻する若き天才作曲家。
ボカロ曲は毎回数百万再生。提供した楽曲は、歌い手の代表曲となり、時にオリコンチャートをも揺るがす。
音楽関係者の間でも「今もっとも注目すべき作曲家」と噂される存在だ。
私は、初めて彼の曲を聴いた時のことを思い出した。
夜、眠れないときに何気なく再生したボーカロイド曲。
美しい旋律に、まるで世界が一瞬で塗り替えられたような衝撃を受けた。
あのときの感覚を、今も忘れられない。
「この人なら……よりファンがつくかもしれない」
心臓が高鳴る。
彼の力を借りれば、私は次の段階へ進める。
“皇城渚”を、ただの人気VTuberから本物のアーティストへ――。
ただ……彼はなかなか難しい人物だと聞く。噂では結構な数の依頼を断っているだとか……
私は少し考えて、メッセージを打ち込んだ。
『曲はそちらにお任せします。依頼料についてはできる限り、あなたの言い値で対応します。
ただし、最高の楽曲をください』
送信。
深呼吸をひとつ。
この依頼が通れば、私の未来は大きく変わるだろう。
名声を求める私にとって、そのためにいくらかかっても構わない。幸い、収入は結構ある。
モニターの光に照らされた自分の顔を見つめる。
そこには、学校で見せる“完璧な笑顔”とは違う、飢えた野心が浮かんでいた。
「私は、絶対に上に行く」
そして――その瞬間、画面に返信が届いた。
『最高の楽曲を作ることを約束しましょう』
私は、唇を噛みしめる。
胸の奥から熱が広がり、全身が震える。
ついに、夢へと繋がる扉が開いたのだ。
「これで……私は、もっと遠くへ行ける」
誰にも言えないもう一人の私、皇城渚。
その名を、本物のスターへと押し上げるために――。
「私の……名声のために!!!」