俗物的な出会いから始まる純情な恋   作:LiLiL

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2-1:僕の日常

新学期が始まって数日、クラスでは徐々にグループが出来ていっているようだ。僕?もちろん教室の隅っこで、静かにしている。典型的な陰キャ。それが僕のクラスでの評価だろう。最初こそ話しかけてくる奴はいた。最も、僕ではなく、僕の親友……氷室凪を目当てにして、だが。そんな凪はというと、まぁ、普通に他の奴とも喋ったりはする。だが、昼食を食べたり、帰ったりするのはいつも僕と一緒だ。

そんなこんなで今日も、凪と帰り道を歩いていた。

 

「はぁ……なかなか授業も難しくなってきたなぁ」

 

ため息をつきながら、凪がそう零す。

だが、こんなことを言っといるが、こいつの成績はかなり良い。スケートで忙しいだろうに大したものだ。

 

「心配するほどお前は成績は悪くないだろ?今まで通りにやっていたら大丈夫だろ」

 

「まぁ、そうなんだけどな」

 

凪は肩をすくめて笑う。その余裕ある態度に、僕もつられて笑ってしまう。

 

「そういう奏は新学期始まってどうなんだ?」

 

「別に……最低限勉強はしている。」

 

そう、僕は家で、音楽ばっかり作っているわけではない。音楽でいつ立ち行かなくなるか分からない。今のうちに、勉強をして将来、いつでも安定した職業に就けるようにしとかなければいけない。だから、そこそこの進学校にも進学したし、大学にも行くつもりだ。

 

「いや……別に勉強面のことを聞いたつもりはなかったんだが。新しいクラスが始まってどうかってことだよ。クラスの雰囲気とか、興味のある人とかいないのか?」

 

「答えのわかりきったことを聞くなよ。今までとおんなじ。一年間誰とも極力、関わらずに学校生活を送るよ」

 

「相変わらず、枯れた青春だな。だけど、人に興味がないと言っときながら、俺とはずっと友達でいてくれるじゃないか?」

 

「……それは……腐れ縁というか、音楽を極めるにしても、金を稼ぐにしても、こういう気軽に話せる相手は必要だろ」

 

「でも、その役目は俺じゃなくても良いだろ。他の奴らと話してみたら案外、楽しいかもしれないぞ?」

 

 「僕にとって、親友は凪一人だけでいいんだよ。お前以外としゃべっててもつまんない」

 

少し恥ずかしがりながらそう言う。

 

「なんだ、告白か?だけど残念だったな。オレには玲というこの世で一番可愛い彼女がいるんだ。お前のことは好きだが、他の奴らをさがしてくれ」

 

凪が嬉しそうに笑いながらそう言う。

 

「茶化すな。親友だって言ってんだろうが。お前のそれは恋愛じゃなくて親愛だろうが」

 

「それにしても、本当にいないのか?天宮さんとか気にならないのか?」

 

「……どうして天宮さんなんだ?」

 

「いや、クラスで一番目立っているだろ?学校でも、学校一の美少女と言われてるくらいだぞ」

 

「前も言っただろ。興味ない。……ただ、彼女人付き合いが良くて、楽しそうに話しているように見えるけど、なんか楽しい以外の気持ちを持って、話をしているように見える。何を考えているかは、少し興味があるかもしれない」

 

クラスで見る、彼女は笑顔の裏に何か隠している気がする。別に黒い感じの感情ではないと思うが、何となく自分とシンパシーを感じている。

 

「ふーん……そうか。ところでこの前言っていた依頼はどうなったんだ。」

 

凪の言葉に、僕の意識は一気に現実へ引き戻される。

 

「あぁ、もう色々と固まってきたし、お前に言ってもいいだろう。」

 

「誰からの依頼なんだ?」

 

「Vtuber『皇城渚』からの依頼だよ」

 

「皇城渚」その名前を出した瞬間、凪は驚いたように、めを大きくする。

 

「それは……随分とビッグネームからの依頼だな。奏が稼げると言っただけはあるな。流石上澄みの上澄み、太っ腹だ」

 

凪が感心したようにそう言う。

 

「それで、肝心の曲はどうなんだ?」

 

「それがな……あんまり順調じゃなくてな。僕はきちんと相手の誠意に見合った曲を提供したい。だけど、なかなか皇城渚の凛々しい、力強い声にあったメロディーを考えられなくてな」

 

誠意()か……それにしても珍しいな奏がそこまで悩むのは」

 

「金稼ぎのためとはいえ、僕は自分の曲に誇りを持っている。それに、半端な妥協は僕自身のブランドを下げることにもなる」

 

これは僕の信条だ。やるならきちんとやる。金が目的でも、曲の質は絶対に妥協しない。

 

「相変わらずで安心したよ。……っとそろそろ家だな、じゃあな奏、気を付けて帰れよ」

 

「気をつけるも何も、僕の家はお前の隣だろ」

 

そうこいつの家は僕の家のすぐ横だ。だから、子供の頃から毎日のように凪と会っている。

 

「ただいま〜」

 

凪に若干に呆れながら、玄関の扉を開ける。最も家から返事は返ってこない。親はどちらも忙しく、滅多に家に帰ってくることはないのだ。だが、その分稼いではいるようで、僕がこんな風に活動できているのは間違いなく両親のおかげだ。

 

靴を脱ぎ、鞄を置いて、冷蔵庫から最近お気に入りのお菓子と飲み物を取って作業部屋へと向かう。

 

机に持ってきたお菓子と飲み物を置き、パソコンを起動させている間に考えるのは、依頼のこと。

 

「さて……どうしたものか。こんなに考えても、思いつかないのは始めてだな。」

 

「皇城渚」彼女に、彼女のための曲を作る。Vtuberという世界のトップに立つ者らしくその実力は凄まじく、今まで提供してきたアーティストの中でも間違いなく一番だろう。だからこそ難しい、たとえどんな曲でも、彼女は素晴らしいものに仕上げるだろうが、それではだめなのだ。「皇城渚が歌ってくれている曲」ではだめなのだ。彼女と対等な曲でなければ……

 

パソコンが起動し、音楽ソフトを立ち上げる。作りかけのファイルを選択し、開けるもそこから手は動かない。

何かが決定的に足りない。そんな気がする。

悩みに悩んでいたその時、一件のメッセージが届いたという通知がくる。送り主の皇城渚という名前を見て、少し驚愕する。

 

「曲作り、順調でしょうか?もしよかったら一回会って、今回の曲について話合えないでしょうか?」

 

まるでこちらを見透かしたようなメッセージ。胸がドキンと跳ねるが、相手もやはり曲のことが気になるのだろうと自分を納得させて、返信する。

 

「是非、お願いします。こちらも、曲作りで少し悩んでいることがあるので、会って方向性などを話し合いたいです。」

 

「わかりました。ところで場所はどのあたりが都合が良いでしょう?一応、私は一緒に送った地図の範囲に住んでいます」

 

メッセージとともに送られてきた、地図の写真。それを見て驚愕する。

 

「近っ……」

 

めっちゃ近所だった。まさか家の近所に住んでいるとは……動揺しながら、返信する。

 

「偶然なことに、自分もその辺に住んでいるので、駅の近くのカフェなどどうでしょうか」

 

「了解です。日程ですが、来週の日曜日の10時でどうでしょうか」

 

スマホを取り出して、予定を確認する。幸いにも予定は何もないようだ。

 

「わかりました。一緒に良い曲を作りましょう」

 

曲を提供するにあたって、依頼主と会って曲を作ることはたまにある。皇城渚が近くに住んでいることは驚いたが、気持ちを切り替えて曲作りに戻る。

最高の楽曲を目指して。

 

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