チェスの王者   作:困るンノス

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チェスの世界決勝とか見てるとあまりのストレスに腕震えたり駒落としたりしてるんだよね。

この世界のチェスは全然そんな事ないです。
待ち時間はあるけど基本ゆっくり指せます。




セカイ×ト×シンショウ

 

 

 

 全国大会を制したその翌日、少年のチェスの腕前は大陸中に知れ渡った。

 新聞の見出しには「十五歳の無敗王者」と刻まれ、街角の子供たちは「チャンピオンごっこ」と称してチェスを指した。だが、それはあくまで一つの国の話に過ぎない。世界は広い。各大陸にはそれぞれの代表が存在し、知略を磨き続ける者たちがいた。

 

 

 

少年が青年になった頃、とある招待状が届いた。

 

 招待状は黄金の封蝋で届いた。送り主は「世界チェス連盟」。そこにはこう記されていた。

 ――“貴殿の実力を世界へ示す資格を認める。来月、首都カルドリアにて開催される世界大会への参加を要請する。”

 

 世界大会。

 それは単なる娯楽ではなく、各国の威信と政治的な駆け引きが絡む巨大な舞台だった。勝者の名は大陸を支配する権力者の耳にも届き、時には戦争すら回避する。盤上の勝利は、実際の国運を左右するのだ。

 

 

──────────────────────────────────────────

 

巨都カルドリア

 

 青年が足を踏み入れたカルドリアは、前世の大都市すら凌ぐ規模の超巨大都市だった。石造りの街並みの中央に、黒曜石のように輝く巨大ドームがそびえている。そこで世界大会は開幕する。

 

 初日、会場を見渡した瞬間、青年は息を呑んだ。

 対戦者たちの中には常人離れした眼差しを持つ者が多い。ある者は片目を包帯で覆い、もう一方の瞳からは圧迫感のある殺気を放っている。ある者は念で駒を操り、手を触れずとも盤上に置いた。

 

 ――念能力者たち。

 

 この世界では知能戦ですら、念を使う者が少なくなかった。対局中、オーラを放つことで威圧し、相手の集中力を削ぐ。あるいは微細な動きを捉えて先読みする。

 

 青年には念がない。

 だが、彼は迷わなかった。

 「盤上にあるのは、白と黒だけだ」

 

 

 

 

 世界大会は総当たり戦形式で進められた。各大陸からの代表は三十二名。勝ち星を重ねた上位八名が決勝トーナメントへ進む。

 

 青年の初戦の相手は南方諸島の代表、シグマ。念を用い、相手の指先の動きを増幅して感じ取る能力者だった。通常なら次の一手を悟られてしまい、策は破綻する。

 

 しかし、青年は平然とポーンを進めた。彼の思考は速すぎて、意図が読まれた瞬間にはもう次の布石が張られている。シグマは次第に追い詰められ、終盤には王を孤立させられて投了した。

 

 二戦目、三戦目……どの対戦相手も念を駆使した。

 ある者は青年を威圧し続け、ある者は盤上の駒を操作して不正を試みた。だが審判は厳格であり、青年は動じない。

 ――駒が動くなら、その結果も読むだけだ。

 

 八戦全勝。予選ラウンドを終えた時、観客は確信した。

 「念を持たぬ少年が、世界を制するかもしれない」と。

 

 

---

 

決勝トーナメント

 

 決勝に進んだ八名は、いずれも各国の英雄に等しい存在だった。

 

 準々決勝、青年は西方砂漠の策士バルザックと相対する。彼は心理戦に長け、わざと駒を落としたり独り言を呟いて相手を乱す。しかし青年は盤だけを見据え、まるで雑音を意識しない。四十手目、ナイトが深く切り込んだ瞬間、バルザックは崩れ落ちた。

 

 準決勝。相手は極東の女帝アケミ。彼女は念で極限の集中状態へと思考を沈め、青年を最も苦戦させた。だが青年はそんなアケミを相手にしたことで更なる進化を遂げ、やがて非念能力者であるにもかかわらず、その集中力を凌駕した。女帝が指した一手を即座に切り返し、逆に観客を沸かせた。アケミの顔はどこか清々しく、対局後には握手を求め、あろうことが「我が国へ来ないか?」と招待してきた。もちろん断ったが。

 

 

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 そして――決勝。

 

 

 

青年の前に立つのは、世界王者ウォルベ。

自身が[絶]状態になった時間数オーラを無制限に増やせるが、増えた分のオーラは「集中力」と「妄想力」にしか適用できないという制約と誓約によって驚異的な集中力と妄想力を武器に戦う。

 

 

 だが、青年の瞳は揺らがない。

 ――未来を読むかのような冷徹な光。

 

 初手から両者の手は早かった。ウォルベは序盤から青年の戦術を崩しにかかり、中央を掌握する。だが青年はわずか数手で逆襲し、あっさりと局面をひっくり返した。

 

 会場に響く解説者の声。

「信じられない……!あのウォルベが押されている!」

 

 ウォルベはなおも念を強め、記憶の引き出しを更に漁る。普通の人間なら頭痛で駒を触ることすら困難なほどの副作用。だがウォルベは平然と指した。

今の彼にとって、盤上以外の世界は存在しない。

 

 中盤。互いの駒が激しくぶつかり合い、ウォルベの鼻血により盤は血のように赤黒い戦場と化した。ウォルベの指し手は鋭く、王者の誇りを示す。だが青年は一切の隙を見せず、冷酷なまでに駒を切り捨て、最終局面を組み立てていった。

 

 そして122手目。

 青年のクイーンが王の逃げ道を塞ぎ、ナイトが最後の一歩を遮断した。

 

「――チェックメイト」

 

 その声は静かで、だが会場全体に響き渡った。

 

 ウォルベはしばらく盤を見つめていたが、やがて駒を倒した。

「……負けた。未来を読むかのような、その圧倒的なまでの集中力。試合が終わるまで、君は自分の口を閉じる事さえ忘れていた。

………完敗だよ。青年。

───だが、思っていたよりいいものでは無いぞ。

 

 

圧倒的な実力差と言うのは。」

 

 

 歓声が爆発した。

 観客の叫び、足踏み、割れるような拍手。

 その中心に、十五歳の少年が立っていた。

 

──────新たなる「盤上の王」の誕生である。

 

 青年は念を持たず、ただチェスという一点に魂を捧げて、世界の頂点に立った。

 

 人々は彼を讃えた。

 「常勝無敗の王」

 「盤上の天才」

 「未来を見通す者」

 

 だが青年は静かに盤を見つめる。

─終わったのか?

─もう俺より強いチェスプレイヤーは居ないのか?

 

 

────これが頂上の景色なのか?

 

 

 ――そう、彼は知らない。

 

 この先、盤上を超えた「王」との邂逅が待つことを。

 蟻の王、メルエム。

 その名が、彼の運命を再び揺るがすのだ。

 

 

 

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