時は流れて放課後。
オルコットとの試合が決まった後も織斑が出席簿で殴られたり、織斑が上級生に絡まれたりと、まあ色々あった。
さらに出席簿によって相当数の脳細胞が死滅した頭で補習を受けるというのだからご苦労なこった。
俺はと言うと山田先生から鍵を受け取り、一足先に寮へと戻った。
本来なら一週間程は自宅からの通学の予定が、何やら高校生にははかり知れぬ事情により、急遽寮生活へと変更になった。織斑は女子と相部屋で、俺は特例で一人部屋らしい。
俺の顔なんて出回ってないから、あんまり関係ないとは思うが。
カードキーを通して部屋に入ると、高級ホテルを思わせる内装が目に付いた。ベッドや机などの必要最低限のものしか置かれていないにも関わらず、殺風景と言った印象はなく、壁紙の色と相まって落ち着いた格調高い雰囲気を作り出している。寮と言うからもっと生活感溢れるアパート的なものを想像していたので、いい意味で予想を裏切られることになった。
明らかに高校生が生活するレベルの空間ではない。
やはり、そこにはIS学園という施設の特異性が如実に現れていると言っていい。各国から代表候補生や留学生を預かる以上、それ相応の設備を整えなければ、どこからクレームが入るかわからない。
その是非に関わらず、言い合いになれば
が大きくて、
学生寮一つにこの気合いの入れようだ。面倒な社会になったもんだ。
さて、手早く荷解きを済まして、予習でもしますかね。
翌朝。ぐっすり眠れたので、目覚めが随分いい。
寝具も上等な物を揃えたのだろう。枕一つとっても、以前使っていた物より遥かに品質がいい。もっとも、これら全てが税金と補助金で賄われていると考えると手放しで喜べない。これから毎晩、国民の血税の上で眠るわけだ。
手早く洗面を済まし、身支度を整える。一人部屋だと、自分のペースで生活できるからいい。織斑は暫く女子との共同生活に身を投じなければいけないのか。御愁傷様です。
髪型をいつものオールバックに整え部屋を出る。この髪型が目付きの悪さに拍車をかけていると言われたが、トレードマークみたいなものだから大目に見てほしい。そんでもって、俺が来たからって道を譲らないでほしい。俺はモーセか。いい加減慣れたけど。
優しい人達が道を譲りまくってくれたので、すんなりと食堂に到着。既に多くの生徒で賑わっていた。
IS学園の食堂は、世界各国から来た生徒達の食文化に対応すべく、朝食はビュッフェスタイルが採られている。それも高級ホテルの朝飯かと言わんばかりの豊富な料理が並べられており、それを自由に食すことができるわけだ。
そんなわけで俺はクロワッサン、サラダ、ハムエッグをチョイス。コーヒーをトレーに乗せ、適当に食う場所を探す。できれば端がいいんだけど。
「おーい、旭!」
「ん?ああ、織斑か。おはよーさん」
「おう。朝飯これからなら、一緒に食おうぜ」
「いいぞ、どこで食う?」
「あそこなんてどうだ?」
そう言って織斑が指差したのは、円形の食堂のほぼ中央のテーブル。
明らかに二人で使うには広すぎる気もするが、まあいいか。
「いいんじゃないか」
「OK行こうぜ」
「にしてもIS学園ってスゴいよな、朝からこんな美味いもん食えるんだから」
「たしかに」
相槌を打ちつつクロワッサンを口に運ぶ。サックリとした食感に、口に広がるバターの香り。美味い。血税ご飯美味い。
IS学園の朝食のクオリティに感動している織斑は、焼き鮭とご飯味に噌汁というThe日本食といった感じのチョイス。
お互い、食事中は喋らないタイプなのか、会話はない。
「織斑君達、一緒に食べていい?」
すると、横合いから女子生徒の声が。どうやら織斑と御近づきになりたいらしい。となれば俺は邪魔だな。
「俺はいいよ。旭は?」
「俺は食い終わったから先行ってる」
「え、ちょ、おい」
驚いた表情を浮かべる織斑と、嬉しそうにハイタッチしあう女子達。
そんな楽しそうな光景から視線を切り、食堂を後にした。
「今日は各種兵装の特徴と立ち回りについて説明する。とその前に織斑」
「は、ハイ!」
「お前の専用機だが、準備に時間がかかる。来週の試合には間に合うだろうからそのつもりでいろ」
「せ、専用機?」
織斑先生の発言に教室中がざわめき出す。
「この時期に専用機ってスゴくない?!」
「やっぱり千冬様の弟だからなのかな」
「いいな~、私も専用機欲しい」
しかし当の本人だけが、疑問符を浮かべて首を傾げている。おそらく、ISについての予備知識がないから、ことの重大さに気がつかないのだろう。
「なあ旭、専用機ってそんなにスゴいのか?」
「そりゃスゲェだろ。ISのコアの数はわかるか?」
「えっと、確か467個だっけ」
「全人口を6億人、その半数を女性と仮定する。467個のコアを3億人で取り合うと、単純計算で専用機を持てる確率は64万分の1だ」
「64万人に1個って、めちゃくちゃスゴいじゃないか!?」
「そうだ、スゲェんだ」
これは全てのコアが専用機開発に使われることが前提の計算だ。実際は軍や企業に一定数分配されているので、競争力は更に高くなると考えていい。
「じゃあ旭も専用機貰えるのか?」
「いや、多分貰えない」
「なんで?」
「俺はイケメンじゃないし、俺の姉が世界最強でもないからだ」
相変わらず疑問符を浮かべる織斑を尻目に、授業は再開され、時間は滔々と流れていった。
「専用機が貰えず残念でしたわね」
放課後、荷物をまとめて帰り支度を進めていると、オルコットが誰かと話しているのが聞こえた。
「同じ学年にも関わらず、持つ者と持たざる者が別れてしまうというのは、些か残酷だとは思いません?」
まあ一年で専用機を持っているのなんて、代表候補生か、企業のテストパイロットくらいなもんだしな。訓練機の貸し出しも予約でいっぱいだから、差は広まる一方だ。そう考えると、オルコットの言い分はもっともだな。誰に話しているのか知らないけど。
「このまま戦えば私が勝利するのは自明の理。これまでの無礼を謝罪すれば手加減してあげてもよくってよ?……………………って聞いてますの?!!北条旭!貴方に言っていますのよ!」
「ん?俺?」
いやー、びっくりした。いきなり大声出すなよ。
「男と言うだけでも低俗だというのに、まともにコミュニケーションも取れないなんて。本当に呆れましたわ」
「いや、話しかけられてるとは思わなかったんでな」
「私と貴方しかこの空間にはいないのですよ?!他に誰に話しかけると言うのですか!」
「英国人ってのは猿とお話しする程動物好きなのか?それとも猿くらいしか友達がいねえの?」
「なっ?!」
「もういいか?山田先生のとこに行きたいから、楽しいふれあい動物園はまた今度にしてくれ」
こんだけ言えば、突っ掛かって来ることもないだろう。さて、山田先生はどこかなと。職員室か?取り敢えず行ってみるか。
「貴方は、このセシリア・オルコットと『ブルー・ティアーズ』が必ず倒します!精々覚悟しておきなさい!!」
オルコットのK.O予告を聞き流し、職員室へと足を運んだ。
「そこをなんとか」
「で、出来ませんよぉ…………」
山田先生と問答することかれこれ5分。質問が質問なだけに流石にガードが硬いな。ここは攻め方を変えるか。
「頼れるのが山田先生しかいないんですよ。他のクラスの先生には頼み辛いし、織斑先生が質問に答えてくれるとも思えません。山田先生だけが頼みなんです」
「ほ、本当ですか?!私、頼りになりますか?!」
「そりゃあ、もう」
「し、仕方ありませんね」
よし、釣れた。
この二日間の授業でわかったが、山田先生は生徒から友達のように扱われている。成人女性にしては低い身長と、年齢不相応の童顔。丁寧な口調も相まって他の生徒から
なので、自尊心をくすぐれば行けると思ったが上手くいった。
「ここからは私の独り言です。なので、それが誰かに聞かれていたとしても、それは仕方がないですね」
一度言ってみたかったんですよね、こういうの、と山田先生は悪戯っぽく笑う。
「ありがとうございました、山田先生」
「さて何のことですか?」
「いえ、何でもありません。あと試合の日に、早めにアリーナ開けることってできますか?」
「できますけど、何かするんですか?」
「受験勉強で体が鈍ってるんで、少しウォーミングアップをしようかと」
「それなら全然構いませんよ。話は通しておきますから」
「ありがとうございます」
一礼して職員室を後にする。
答えは得た。後は実行に移すだけ。
次回、戦闘シーンに入ると思います。